ニュース
自動車事故対策機構、ハイブリッドカーの衝突試験や救助訓練の様子を公開
ハイブリッドカーの事故通報では、正確な車種報告で救助がよりスムーズに
(2014/3/7 16:10)
NASVA(自動車事故対策機構)は2月20日、「ハイブリッド自動車衝突試験」などの様子を公開した。会場は茨城県つくば市の日本自動車研究所。
国土交通省とNASVAは、「自動車アセスメント(JNCAP)」として市販自動車の安全性能の評価試験を毎年実施し、その結果を発表。優秀な車両については「JNCAPファイブスター賞」として表彰を行っている。今回はその評価試験のうち、ハイブリッドカーの安全性についてテストした様子などを公開したもの。初めての試みとして、東京モーターショーでアンケートに回答した一般ユーザーも招待しての公開実験となった。
テストに使用された車両は本田技研工業の「アコード ハイブリッド LX」。ハイブリッドカーでは、走行用の大型バッテリが事故で破損した場合の漏電による感電の危険性など、従来のガソリン車に加えて検証の必要がある項目が追加される。ハイブリッドカーを販売する各自動車メーカーは厳重な感電対策を実施しているが、本テストはその効果を検証することが目的だ。
今回の評価試験は「オフセット前面衝突試験」と呼ばれるもので、車両の運転席側を中心に車幅の40%ほどを、国の衝突安全基準の約1割増しとなる64km/hで衝突させてその結果を調査する。運転席と後席に計測機器を搭載したダミー人形を座らせ、衝突時の影響をセンサーで計測すると同時に、感電保護性能についても検証する。運転席には男性、後部座席には女性のダミー人形が設置され、人形の頭部、頸部、胸部、腹部、下肢部に受けた衝撃や、室内の変形状態などを計測した。これによって乗員保護性能を5段階で評価するという。
自動車アセスメントで乗員保護性能試験として行われている車両試験は、上記のオフセット前面衝突試験の他に、55km/hで車両前面すべてを衝突させる「フルフラップ前面衝突試験」、重量950kgの台車を55㎞/hで試験車両の側面に衝突させる「側面衝突試験」がある。
感電保護性能の性能試験については2011年度から実施されており、電気自動車(EV)やハイブリッドカーなどを対象としている。作動電圧がAC30V及びDC60V未満の自動車は対象外となっている。評価は破損後の感電保護性能の確認(車内/車外)、充電式エネルギー貯蔵システム(RESS)の電解液漏れ及び固定状況、高電圧自動遮断装置の作動状況などを評価する。
車両はカタパルトで牽引されて64km/hまで加速したのち、コンクリート製のバリア前に設置された「デフォーマブル・バリアー」と呼ばれるアルミハニカム構造の障害物に衝突。その後、車両後部に搭載した計測機器からデータを収集した。
この衝突試験に加え、テストで使用した車両を有効利用する観点から、ハイブリッドカーの事故発生時を想定したレスキュー隊による被害者救出訓練も初めての試みとして実施された。実験が終わった破損車両を事故車に見立て、車内にダミー人形設置してそれを救出するという内容。訓練に参加したのはつくば市消防本部のレスキューチームだ。
救出訓練で使用された車両はトヨタ自動車の「クラウン アスリート S(ハイブリッド)」。ハイブリッドカーの事故では感電防止のため、各メーカーが車両ごとに対応マニュアルを作成しており、レスキュー隊員はそれらの手順を把握してから救出を行うという。そのため、ハイブリッドカーの事故を目撃して通報する場合、なるべく正確な車種を報告すると救助がよりスムーズになるそうだ。
訓練の状況は、2台の車両によって事故が発生。そのうち1台の車両に、運転席に男性1名、助手席に女性1名、後部座席のチャイルドシートに子供1名がいるという設定。男性は意識がある状態だが、女性は意識不明の重体という想定だ。
レスキュー隊員は絶縁用のスーツを全身にまとって現場に到着すると、まずは漏電の危険性がないかをチェックし、車両に絶縁シートをかぶせていく。レスキュー隊員は最初に運転席に行き、ハイブリッドシステムが停止状態であることを確認。エンジンが停止していてもハイブリッドシステムも止まっているとは限らないので、メーター内の「Ready」表示が消灯していることを必ず目視する。
クラウンのハイブリッドシステムを停止させる方法は3通りある。1つめは「Ready」表示が点灯している場合はパワースイッチを押してシステムを停止。スマートキーが近くにある場合は5m以上車両から離し、トランク内に設置されている補助バッテリーのマイナス端子を切り離して電気を遮断する方法。
2つめはパワースイッチが操作できない場合で、エンジンカバーを外し、エンジンルーム内にあるヒューズを抜いてからトランク内の補助バッテリーのマイナス端子を切り離す方法。
3つめは絶縁手袋を使用できる場合で、この場合はまずトランクを開け、トランク内の前方にあるサービスホールカバーを取り外してオレンジ色のサービスプラグを引き抜き、補助バッテリーのマイナス端子を切り離すという手順。
今回は3つめの手順で訓練が行われた。いずれの場合でも補助バッテリーを切り離してから90秒はエアバッグシステムが作動する可能性があり、感電の危険性もあるためすぐに作業はできないという。要救助者の人命優先はもちろんだが、救助に向かった人が現場で怪我をしては元も子もないのだ。ただ、それでも緊急を要する場合は時間を待たずに対応する必要もあり、すべては現場の判断に任されているという。
この安全確認が終わると、次に要救助者を車両から搬出する。後部座席は比較的損傷が少なく、子供はチャイルドシートごとすぐに救出されたが、前席側の損傷は酷く、ドアが開かない状態という想定。このため車両のドアヒンジを切り離して救出することになった。作業は要救助者を傷つけないように回転式のカッターなどは使わず、ハサミ状の油圧カッターで慎重にドアヒンジを切断。油圧スプレッダーと呼ばれる機械で慎重にドアをこじ開けながら行われた。
救助が終わるまでにかかった時間は約20分ほど。今回は便宜上、助手席のあとに運転席の乗員を救助したが、実際はどちらも同時進行で作業が行われる。それでも、実際の事故現場ではもっと時間がかかることも多いとのこと。ハイブリッドカーの事故件数自体がまだ少なく、2013年のつくば市におけるハイブリッドカーの事故件数は20件で、全体の1割未満。レスキュー隊側の経験もまだ少ないそうだ。なお、国土交通省によると、実際にハイブリッドカーのバッテリで感電したという事故例は今のところ報告されていないそうだ。