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【インタビュー】ケンウッド最新カーナビ「彩速ナビ MDV-Z701」シリーズ

開発者に聞く彩速ナビの実力──「最先端だからやさしくなれる」

実売好調な彩速ナビの最新モデル

「彩速ナビ MDV-Z701」シリーズ。横幅180mmの「MDV-Z701」(左)とワイド200mmの「MDV-Z701W」(右)の2タイプがある。Z701Wは大型化されたスイッチとノブ式のボリュームつまみが装備される

 2014年1月よりケンウッド「彩速ナビ」の新型カーナビ「MDV-Z701」シリーズの発売が開始された。「彩速ナビ」はJVCとケンウッドの経営統合により両者の技術を融合して2011年に登場した高性能・高機能なAVナビゲーションシステムで、今回のリリースで4世代目となる。彩速ナビは従来のナビとはひと味異なる快適な操作性と先進的な機能でヒット商品となり、同社の市場シェアは拡大、市販ナビ市場での存在感は今まで以上に高まりつつある。

「彩速ナビ」は毎年新しい機能を積極的に搭載する進化スピードが注目だ。採用される新機軸は業界初の画期的なものが多く、先進的なハイエンドナビとしての多くのユーザーの支持を集めている。2014年のモデルではスマートフォンのコンテンツをワイヤレスで共有する「Wi-Fi DMS」や同社のカタログなどでの扱いは大きくないが「高音質・高機能なBluetooth」がAVナビの機能として目新しい。

 一方で開発スタート時には、他社が積極的に搭載していながら採用を見送った機能もある。「渋滞回避」と「音声入力」だ。しかし2013年モデル(MDV-Z701シリーズ)でリアルタイムプローブデータを使用する「渋滞回避」機能を搭載し、MDV-Z701シリーズからは音声入力に対応。ハイエンドナビとして全方位的に対応力を高めている。

 最近は、ナビはスマートフォンで充分と考えるドライバーが増え、AVナビゲーションの市場環境は厳しい状況にある。新機能に目が行きがちではあるが、原点である「位置精度」あるいは「ルート探索」といったカーナビの骨格部分がどのように作り込まれているか、その重要性は高まっているであろう。また渋滞回避や音声入力などの新機能をどのように消化しているかも興味を引かれる。

 本インタビューはJVCケンウッドのカーナビゲーション開発拠点である八王子事業所を訪ね、第一線で開発を担当している カーOEM事業部マルチメディアコア開発部 部長 土方勲氏、 カー市販事業部 商品開発統括部 国内商品技術部 ソフトウェア設計グループ長 田中正志氏、 商品企画を担当されているカー市販事業部 商品戦略統括部 第一商品企画部シニアスペシャリスト 渋谷 英治氏に彩速ナビの開発の現状をお聞きした。

左から、JVCケンウッド カーOEM事業部マルチメディアコア開発部 部長 土方勲氏、カー市販事業部 商品開発統括部 国内商品技術部 ソフトウェア設計グループ長 田中正志氏、カー市販事業部 商品戦略統括部 第一商品企画部シニアスペシャリスト 渋谷英治氏

スマートフォンとは異なるAVナビの測位アプローチ

 なんと言ってもカーナビゲーションシステムにとっては「位置精度」が生命線であることは間違いない。最近はスマートフォンの測位レベルも充分に高く実用に不便を感じることがないレベルになっている。だからこそ手間、時間とコストを払って設置する据え置き型のAVナビはスマートフォンやポータブルナビを超えるアドバンテージが求められる。2014年の彩速ナビでは新たに「準天頂衛星みちびき」に対応し、3Dジャイロが「高測3Dジャイロ2」にアップデートされた点が目新しい。

 「最近はスマートフォンの測位精度も高まってきましたが、クルマの場合は止まってどちらの方向か考える、ということはできないので、位置が狂うということはとても危ないことです」(土方氏)。クルマに固定されるAVナビでは衛星を使用する「GPS航法」のほかに自前のセンサーで移動方向を知る「自律航法」を組み合わせた「ハイブリッド方式」が使用されている。土方氏は、「AVナビでは実際には車速パルスとジャイロによる自律航法で走っている比率が多く、GPSはその基準位置を決めることに用いています」という。

土方勲氏。 彩速ナビ全般の開発を指揮している

 実際の走行には安定性の高い「自律航法」が主に用いられ、GPSデータは自律航法に基準点を与え、走行するにつれて刻々累積する誤差を修正するために使用される。GPSをメインで使用するスマートフォンやPND(Portable Navigation Device)とは仕組みが異なっている。

「クルマは短時間の移動距離が大きいのでわずかなズレでも道路を間違えたり、場所の検出が遅れたりすることで曲がるのが間に合わないなどの問題が起きます。精度はよくなったとはいえGPSだけだと『遅れ』の問題に関しては対応が厳しい。車速、ジャイロのセンサーの情報をきちんと活用して常に正確な位置を出すことが重要です」(土方氏)。

3Dジャイロシステムのアップデート

 位置精度の向上にはセンサー情報の活用が重要である、との指摘であるが、最新のナビでは左右の進行方向だけでなく前後の加速を検知する「加速度センサー(Gセンサー)」を組み合わせることで高さの変化を知るようになっている。3Dジャイロと呼ばれる仕組みだ。

 車速パルスが一定、つまり定速走行をしているにもかかわらずセンサーが後ろに引かれる加速Gを検知する時は坂を上っている、ということが分かる。この刻々変化する加減速Gをリアルタイムで演算しながら蓄積(積分)することで高度を割り出すのが3Dジャイロの原理だ。ここで重要なのは高度何m、という絶対的な高さを検知するのではなく、出発点からどれくらい上っているか下りているか、の変化量を見ている点だ。そして演算結果を位置精度向上に反映させるためには道路データに傾きデータが埋め込まれている必要がある。「彩速ナビ」では地図データの整備に注力し業界最多レベル、140万個所の道路傾斜データを埋め込んでいるという。

 ところで、2014年のモデルでは3Dジャイロシステムが「高測3Dジャイロ2」にアップデートされた。具体的にどのような変化があったのだろうか。

「位置精度の向上は、結局は日々のこつこつとした努力の積み重ねが基本です。デバイスの選択、チューニング、それを動かすソフトウェアを日々走り込んで改良する。こういった作業です。今年はGPSに加え、準天頂衛星にも対応するなど衛星測位もよくなった。位置精度については専門チームを作って1年間データを取り、Gセンサーのアルゴリズムを改良した。ここにきてデバイスの使いこなしもよくなった。特に高さ方向の精度が向上してクルマの動きを正確につかむようになった。これからも努力を続けていきます」(土方氏)という。

ホーム画面の下部のウィジェットにはクルマの傾きを示すインジケータがあり、3Dジャイロの働きの一部を知ることができる

準天頂衛星みちびき対応の意味

 2014年モデルの新機能として準天頂衛星「みちびき」への対応がある。「みちびき」はアメリカが運用しているGPSシステムを相互補完するために日本が独自に打ち上げた測位衛星。2010年の打ち上げ成功時にはニュースでずいぶん話題となった。常に日本の真上の「天頂」に位置することで建物や樹木など障害物の影響を受けにくい捕捉が可能で、GPS受信の精度を大幅に向上させることが期待されている。

 すでにPNDではみちびきに対応しているモデルがあるがAVナビでの採用例は多くない。このタイミングで導入した意図は何か、また具体的にどのようなメリットがあるのだろうか。

 土方氏によると「準天頂衛星はまだ1機しか稼働していません。効果が発揮できる時間も1日のうちで限られています。いつでも効果があるわけではありません。しかし時間が限られていても衛星が見えれば効果はある。衛星を速く捕捉できるので結果として位置精度は正確になります」。

 AVナビのハイブリッドシステムでは多くの場面では自律航法で走行しているが、素早く正確に衛星が補足できればそれだけ自律航法の補正が的確に行われることになり、全体としての精度は向上する。土方氏のいうとおり、現在準天頂衛星は「みちびき」1機のみで実証実験中。しかし将来は4機(準天頂衛星3機+静止衛星1機)体制で本格運用が計画されている。衛星が増えればそれだけ受信確率が向上し、GPS衛星で発生していた10m程度の誤差を数cmレベルまで向上させることが可能と言われている。今後衛星が増えれば何もしなくても使っているうちに精度が上がる“お楽しみ”が隠されているといえる。他社の採用が少ない中でも「少しでもユーザーメリットがあることは積極的に採用してきたい」という点を強調していた。このような考え方は彩速ナビシリーズの開発の基本的なスタンスになっているようだ。AVナビは一度購入すればそう頻繁に買い換えるものではない。準天頂衛星は将来的にはインフラとして定着することは間違いないので、先取りして搭載されることを歓迎したい。

困難が伴うルート探索アルゴリズムの開発

 位置精度と並んでカーナビユーザーの関心が高いのがナビゲーション機能、つまり適切なルートを引いて案内する機能だ。もともと「ナビゲーション」というコトバの由来は船の舵を操作して広い海や川を導くことで、正しいルート案内をしてこそカーナビの役割を果たす。

 1月初旬より全国主要都市で販売店向けに開催された新商品内覧会の場で渋谷氏は商品機能のプレゼンターを務めたが、ナビ機能を説明する前段階で「2014年モデルは昨年モデルよりナビゲーション性能を大幅にアップさせた。1年間かけて行ってきた改良を昨年のZ700シリーズユーザーにもファームウェアアップという形で提供して最終的には今年のモデルと同等のナビ性能になります」、と案内を行ったという。

渋谷英治氏。彩速ナビの商品企画を担当

 その言葉どおり2013年2月発売のZ700シリーズは2014年3月中旬までの約1年間で8回のファームウェアアップデートが実施され、その中にはルートの質の向上を含むアップデートが多く含まれている。このことからもルート探索性能を重視していて、その結果に自信を持っていることがうかがわれる。ルート探索の改良のポイントは「渋滞情報の積極的な活用」と「ユーザーの感覚を取り入れたアルゴリズムの変更」だそうだ。

 土方氏によると「昨年モデルからスマートループデータを取り扱えるようになった。それ以前は渋滞データは扱ってこなかったが、この1年である程度社内での学習も進み情報もたまってきた。従来はおとなしめだったものを、ここまで来たら渋滞データをより積極的に使う方向にアルゴリズムを変更しました」という。

 とはいえ渋滞回避のルートアルゴリズムの設計には困難が伴う。ちょっとくらい遠回りしても走り続けたいと思う人もいれば、多少渋滞列に並んでも近い方がよいという人もいる。ユーザーによって考え方はまちまちだ。土方氏によると、実際のデータでは並んだ方が早いケースが多いとのことだが、体感的には走っていた方が早いと感じるという人が多い。この辺を勘案してスムーズに走れる道があればなるべくそちらを走るように方針を変更したという。

 渋谷氏によると「渋滞予測という考えはトレンドになっているが、予測そのものに重きは置いていない。どちらかというと突発的な状況の変化にいかに早くそこを回避させるか、を意識している。ルートについてはことさら「彩速」という名前と関連づけて説明はしていないがストレスフリー、突然のアクシデントをいかに早く抜けられるかという点に考えて開発している」という。

ルートの評価は人によってまちまち

 土方氏は続けてこう言う。「私自身は普通の道を通れればよい。別にわざわざ狭いところを行ってくれなくてもよい。という感覚を持っています。しかし普通の人はどうなのだろう。当社の場合はストレスフリーという考えが根底にあり、まずは普通に運転をして普通に着く。もしかしたら最短ではないかもしれないけれど普通に到着する。というアルゴリズムを考えた。しかし世の中に出してみると少し遠回りではないか、というご意見もいただいた。それではどこを改良すればよいのか、ということに取り組んできました」。

 従来のルート探索アルゴリズムはなるべく早く広い道に出ようと考えていたが、それを少し抑え行きたい方向に行ける道があればそれも使うように考え方を変えてきたという。通りたいルートは人それぞれだけれど普通の人はここならば通ってもいい、という情報もだんだんたまってきた。改良して積極的なルートを引くように開発を進めたとのことだ。

「道路状況が違うので、全国で同じアルゴリズムは通用しません。お客様の意見も正反対といえるほど違います。そのような中で日本全国で通用するように開発をしていきます。これからも普通に動けばいい、安心して使えればよい、という感覚を大切にして、ルートに関しては「最短最短」と強調することはせずに、これに従っていけば安心して使えるという方向でよいのではないか、という方向で考えています」(土方氏)。これがベスト、と決めつけることをせずにユーザーの声を聞きながらストレスを感じない方向でまとめて行くスタンスが基本にあるようだ。

ファームアップによる機能向上

ファームウェアアップデートは、JVCケンウッドのWebサイトにある「サポート&サービス」メニューよりダウンロードし、SDカード経由で行う

 彩速ナビではこのように改良されたルート探索アルゴリズムなどはアップデートで提供していくという姿勢を取っている。渋谷氏によると、この方向性については開発初年度から議論があったという。「カーナビはどちらかというと家電商品に近いイメージがあり、情報機器で一般的なアップデートにはあまりなじまないという声も大きかった。自分でできない人はどうするのだ、と。一度買ったらそのまま。地図更新と最低限の性能改善だけ行えば良いという考え方です。しかしスマートフォンが市場で占有率をあげるなかで 機能拡張や要望の多い機能は随時取り入れていく、今売っているものも変えていくことを考えていこう、というふうに考えた。業界の中では早く舵を切ったと思います。性能改善だけでなく見える機能を取り込んでいくことでユーザーの喜びの声がかえってくる。これはケンウッドの姿勢として定着したと思います。アップデート、性能改善だけという回もあるが、これはもはやアップグレード相当だ、という回もある。ユーザーからの期待も感じています。開発パワーも限られている中とっても大変なのですが、これからも積極的に取り組んでいこうと考えています」。

 ファームウェアアップによる「予告なき機能拡充」にはさまざまな意見があり、否定的な意見も少なくない。最初から完成度を上げて発売すべきだ、とか取扱説明書やカタログと中身が合わなくなる変更は避けるべきだ、といった意見だ。しかし現実問題としてコストを払うことなく機能、性能が向上することは歓迎すべきことであろう。この方向性が堅持されることを望みたい。

新プラットフォームとデュアルコアCPU

開発を担当する田中正志氏

 ルート探索アルゴリズムが複雑になると演算にも時間がかかる。特に渋滞情報を勘案すると影響は大きい。彩速ナビは、2013年に内部アーキテクチャをARM+Linux OSに変更し、デュアルコアのCPUを採用した。古いOSだと動かしにくいデュアルコアCPUも、最新のプラットフォームのおかげで容易に採用できたという。現在市販カーナビでは彩速ナビが唯一デュアルコアCPUを採用している。

 実際の効果としては、「2つのコアうまく使ってストレスがないように動かしている。特にAVナビは『AV』の部分が重たいので仕事を分けることでナビゲーションの方の待ちの時間を作らない、ナビはつねに自分の好きなタイミングで動けるような環境を作り上げている」(土方氏)とのことだ。

 土方氏は続けて言う。「ずっと考えていたのは信号待ちで全部終わらせる、というコンセプト。検索〜探索〜確認まで一連の動作は信号待ちの間に完了させる。安心安全にも貢献する。リルートも速くなるように気をつけている。渋滞情報があってもリルートが遅ければ意味がありません」。

 最新プラットフォームと高性能なCPUはこの点への貢献は大きいと考えられる。もっとも最近のスマートフォンは急速にマルチコア化が進み、クアッドコア(4コア)はもちろんオクタコア(8コア)といったものまで出ているのでAVナビももっともっと進化しなくてはならない。もちろんCPUのコア数やクロックがすべてではないが、従来非力なCPUで、とかく操作スピードで我慢を強いられる場面の多かったAVカーナビの世界でも、今まで以上に快適な操作が可能となることを期待したい。

渋滞情報を取得しよう

「光・電波ビーコンVICSユニット VF-M99」。価格は2万5000円(税別)

 彩速ナビのルート探索性能を最大限に引き出すには渋滞情報を取得するのが望ましい。渋滞情報を取得するもっとも簡単な方法は別売のVICSビーコン(光・電波ビーコンユニットVF-M99、2万5500円[税別])の導入だ。ビーコンを設置すれば確実に渋滞情報が取得可能だが、実際に道路上の赤外線ビーコンの下を通過するまでデータが取得できず、取得できる情報範囲も進行方向10数kmまでと限定的だ。FM-VICSでは比較的広域の渋滞情報が表示されるが渋滞回避ルート設定は行われない。

 彩速ナビはスマートフォンを使用した情報取得がきわめて容易であるので、積極的に活用したい。スマートフォンで通信が成立した時点でルート上の広範囲の渋滞情報を活用したルートが引けるようになる。

 スマートフォンによる渋滞情報の取得方法は2通りある。

 1つはiPhoneやAndroid端末を彩速ナビとBluetoothまたはケーブル(iPhoneのみ)で接続する方法で、あらかじめスマートフォンには専用アプリケーション「KENWOOD Drive Info.」(無料)をインストールしておく。アプリのダウンロードは無料だが実際に渋滞情報を取得するためにはアプリ内課金で料金を支払う必要がある。

期間 料金
10日間 200円
30日間 300円
90日間 700円
180日間 1200円

 これで「スマートループ渋滞情報」、「オンデマンドVICS」 「駐車場満空情報」ができるようになる。この方法は、「登録」「設定」といった面倒な作業なしにすぐに利用できる点がメリットだ。カーナビを取り付けたその帰り道ですぐに渋滞情報を利用できる利便性はほかのナビでは得られない。

KENWOOD Drive Info.(無料)をインストールし、アプリ内でチケットを購入することで渋滞情報が取得可能となる

 もう1つの方法は2014年モデルの新機能「Wi-Fi接続」を利用するものだ。この方法はあらかじめ「KENWOOD MapFan Club」に入会しておく必要がある。もともとこのサービスは月額300円(税別)を1年間以上継続して支払うことで最大5年間5回の地図更新が無料になるものだが、特典として上記の渋滞情報、駐車場情報が追加費用なしに使用できるようになる。

 クレジットカードによる月額支払が必要ではあるが地図更新の金額的メリットとあわせて利用価値はきわめて高いといえよう。先述のアプリ方式の場合は情報取得の際にその都度アプリを起動させる必要があるが、この方法だとスマートフォンのWi-FiをONにしておけば、初回にパスワードを入れたあとは特別に操作を意識することなく利用が可能で便利だ。

KENWOOD MapFan Clubに入会した上で彩速ナビのネットワーク設定メニューにID/パスワードを登録することでWi-Fiで快適に渋滞情報が取得できる

ワイヤレスで行こう

 さて、ここまで位置精度、ルート探索について聞いてきたが、2014年モデルは彩速ナビの特徴でもあるAVや通信機能にも注目点は多い。特に今年のモデルでは「ワイヤレス」機能の充実がめざましい。

 クルマの中でのデバイスの接続にはワイヤレスが便利。これはいうまでもないことだろう。渋谷氏は言う。「ワイヤレスというくくりでいうと、まずはBluetooth。なんといってもカンタンで使い勝手がよい。そして今回からは知識のあるユーザー向けにWi-Fiを用意。幅広く対応した。いろいろな使い方ができるのが2014年モデルの狙いです。音楽、映像を高品位に手軽に楽しむことができます」。

 一般的にBluetooth接続はポピュラーでカンタンだが「映像」の伝送ができない。また音声は独自のSBC方式で非可逆圧縮されるためケーブル接続に比べて音質面で不利だ。音質に不安があるという理由でBluetoothでの音楽再生を避けるユーザーも少なくないであろう。この点を解決する方法がWi-Fi接続だ。今回のケンウッド製品のWi-Fiでできることには大きくわけて2つの側面がある。

 1つはスマートフォンを通信手段としてインターネット経由で情報を取得する方法だ。先ほど説明したKENWOOD MapFan Club会員限定Wi-Fiサービスの利用はこのスタイルに該当する。もう1つは今回ケンウッドが業界に先駆けて提示するもので、スマートフォンの中に収録されている映像、音声ファイルといったコンテンツをワイヤレスで共有しようというマルチメディア的活用方法だ。

 すでに家庭の中ではブルーレイレコーダ、液晶テレビ、コンシューマゲーム機、PC、タブレットなどが自在につながるホームネットワークが実用化しているが、クルマには今までそのような仕組みがなかった。Z701シリーズではテザリング対応スマートフォンをルーターとして、ここにメディアサーバーアプリをインストールしたスマートフォンを接続することで、車内にあるスマートフォンの映像、音楽コンテンツを手軽に高品位で楽しめるものだ。アンドロイド携帯の場合は1台でルーター機能とサーバー機能を兼ねることができるのでたいへん利便性が高い。

 これは「コンテンツを共有する」という新しい世界を提案するもので、今後AVナビに広く採用されていくであろうと考えらレル機能だ。たとえばAndroidスマートフォンの中にあるMP3ファイルを再生したいと思ったときなどはこの方法は極めて快適で、Kenwood MapFan Clubに加入していれば無意識のうちに渋滞情報も取得可能でき、すぐれた利便性を実感することができる。

 しかし現状でこの機能は再生できるファイルフォーマットがかなり限定され、効果的に活用できる場面は少ない。またiPhoneなどiOSデバイスの場合はコンテンツを提供するデバイスとは別にWi-Fiアクセスポイント、テザリング対応スマートフォンなどルーター機能を持つデバイスが必要となり、残念ながら利便性に問題があると言わざるをえない。

 この機能の詳細についてはケンウッドの下記のサポートページに詳細が掲示されている。機器の接続情報やアップデート情報等も適宜ここで公開するとのことなので、この機能に興味・関心がある場合はチェックしてアウトラインを理解した上で活用を検討して頂きたいと思う。

●「Wi-Fi DMSサポート情報」
http://www2.jvckenwood.com/cs/car/navi/mdv_z701w_z701/pdf/WiFi_DMS_support.pdf

 現時点では快適に利用するにはまだ制約が大きいと言わざるを得ないが、新しい世界に一歩を踏み出した点は評価したい。今後早急により実用的なアップデートが行われることを期待する。

遅れがちでだった、AVナビのBluetooth対応も刷新

 クルマの中で手軽に音楽を楽しむ手段としてBluetoothはポピュラーな存在だ。スマートフォンをはじめiPod、ウォークマンなど多くのミュージックプレーヤーに広く搭載されており、最近はレンタカーのナビでもBluetooth付きのものが多く利用価値は高まっている。

 Bluetoothの機能、性能自体も進化を続けている。音質面ではiPhoneやAndroidスマートフォンでは「AAC」や「aptx」といった高音質の音声コーデックへの対応が行われている。操作面ではリモートコントロールのプロファイルであるAVRCPのバージョン1.4に対応することでプレーヤ上に表示されるリストを見て選曲できるようになる。このように現在ではケーブル接続に対する音質や機能に対するハンディは減少しており、ホームオーディオ機器ではこれらの最新規格への対応がかなり進んでいる。

 しかしカーAV機器は、これらの規格への対応が遅れていた。そのような中で今回彩速ナビでは業界で初めて高音質コーデック「apt-x」と「AAC」に対応(apt-xはType Zのみ)。ハンズフリー音声も高音質化されたのも目新しい。HFP(ハンズフリープロファイル)1.6ワイドバンドスピーチを採用することで、昔の電話風の帯域の狭い音からFMラジオなみの高音質で通話が可能となった。RCP(リモートコントロールプロファイル)も従来のバージョン1.3から1.4にアップデートされ、ジャンル、アーティスト、アルバム名といった楽曲ファイルのタグ情報をもとにリスト表示で容易に選曲ができるようになった。

AVRCP1.4に対応したデバイスとBluetooth接続すると画面左下に昨年モデルまではなかった「リスト」のボタンが出る。リスト画面ではジャンル、アーティスト、アルバム名といったカテゴリーメニューよりカンタンに選曲ができるようになる

 Bluetoothの音楽伝送プロファイル「A2DP」では音声はSBC(サブバンドコーデック)という効率を重視した非可逆圧縮で高い圧縮をされた上で伝送されるために音質面での不利があった。A2DPのオプションコーデックとして「AAC」が存在していたが従来は処理が重くあまり使われていなかった。しかし、iPhoneなどの最新のiOSデバイスではAACに対応するようになっている。AACで圧縮された音楽は多く、その場合は再圧縮なしに伝送されるために音質的には有利になる。最新のAndroidスマートフォンは、Bluetooth用の高音質コーデックaptxを採用するモデルも増えている。

 土方氏は言う。「今までBluetoothは多少音質が落ちても無線の便利さで使われてきた。音質が向上すればうれしい。なかなか対応機種が増えなかったが、最近では対応機種も増えてきて音もかなりよくなりました」。

 携帯側の対応により、フル活用できない場面もあるが、彩速ナビと最新の携帯の組み合わせであればカバンに入れたままケーブル接続と遜色のない音質レベルで自在に音楽を楽しめるようになったわけだ。「新しいものを取り込むのはタイミングが難しいです。Bluetoothはカーナビメーカーによって優先順位は高くないのではないかと思います。実際に導入してみて接続性の検証も一からやり直す必要があるなど、かける労力は大変なものでした。チップを載せ変えればよいという簡単なものではありません」と、渋谷氏はその苦労を語った。

操作方法として音声入力にも対応

 カーナビゲーションの操作方法として「音声入力」は以前より大きな期待を集め、さまざまなチャレンジが行われてきたが残念ながら「意のままに操る」レベルにはなかなか到達できず、市民権を得るには至らなかった。最近のAVナビでは低価格化の波が押し寄せ、音声入力を搭載するモデルも大変少なくなってしまった。

そのような状況下、スマートフォンの世界では2012年ころよりiPhone4の「Siri」や、NTTドコモの「ドコモしゃべってコンシェル」といったインターネットを利用したクラウド型の音声アシスタントシステムが注目を集めるようになり、その利便性が広く知られるようになった。従来のナビに搭載されていたハードウェア組み込みの音声認識システムに比べ、クラウド上に検索エンジンと辞書を置くこのタイプの音声認識は膨大で日々アップデートされる認識辞書と、最新、強力な認識エンジンを利用することで認識率も高く、スマートフォン時代にマッチしている。

Android携帯をBluetooth接続して音声入力アプリ「VOIPUT」を起動すると画面右側の「音声フリーワード」と「音声住所」のアイコンが有効になり、音声入力ができるようになる

 2014年の彩速ナビでは新たにクラウド型の音声入力機能を搭載している。現在はAndroidのみの対応となるが、音声認識アプリケーション「VOIPUT」(無料)をインストールしてナビ本体とBluetooth接続すると、ハンズフリー通話用に用意されたマイクロフォンを使用しての音声入力が可能となる。

 音声入力が使用できるシーンは「音声住所検索」「音声フリーワード検索」といった検索メニューと内蔵メモリーに収録した楽曲データーの曲名の入力、編集メニューだ。今回のシステムは音声の意味を解析する「音声認識」ではなくあくまでもキーボードに代わって入力の補助をする「音声入力」に限定されている。

 「すべて音声にする必要はないと考えています。タッチパネル、ハードキーそれぞれ便利な方法はある、たとえばボリュームアップ、など音声よりもボタンに手を伸ばして操作するほうがカンタンなはずです。今回は住所などの50音入力から解決していく。いきなり何でもできるようにはならいが、まず始めてみました。より使いやすい便利なものを模索しています」(渋谷氏)。

 実際に操作してみると、音声認識エンジン自体の認識率自体は高く、実用性は高いが100%ではない。あいまいなコトバを適当に解釈する機能は備わっていないので、あらかじめ住所を正しく発話できないと住所入力はうまくいかない。うろ覚えや言いよどみがあると残念ながらうまくいかない。まだまだ全幅の信頼を置ける水準には達していないが、うまく使いこなすことができれば便利に使えるであろう。より一層の実用性の向上と、iOSデバイスへの早期の対応を望みたい。

 なおiOSデバイスについては音声入力とは異なるが、iPhoneをBluetooth接続すると「Siri」の音声入力を彩速ナビのハンズフリーマイクから行うことが可能となる。できることはiPhoneの機能に限られ、彩速ナビの機能と連動するものはないが、iPhoneをカバンに入れたまま運転中にとっさにボイスメモを取ったり、アラーム、タイマーのセットをする、など使い方によっては便利に使うことができる。

下位モデル「TYPE-L」にも注目

 ところで3月より「彩速ナビ」シリーズを名乗り、基本構成や基本性能は同等ながら上級モデルとはまったく異なる斬新なユーザーインターフェースを持つ「TYPE-L」が順次発売開始される。インタビュー会場に発売前のモデルが用意されていたのでこちらも操作してみた。

今回大幅に刷新されて使い勝手がよくなったTYPE L「MDV-L401」

 TYPE-Lは基本部分はTYPE-Zと共有しながら、上級モデルとは別のアプローチ、別立てで相当の時間をかけて開発進行したものだそうだ。ターゲットはハイテク商品に慣れていない普通の人で、「詳しくない人でも取り付けたあと説明書を見なくても目的地を入れて乗って帰れる。今まで使ってきた別のナビからも違和感なくスムーズに使える」(渋谷氏)操作性を目指したという。

 実機を操作してみると極めて分かりやすく整理されたメニューと、ストレスのないスピード感に驚いた。言葉どおり機械が苦手な人でもかなりスムーズに目的地設定やAVソースの切り替え、設定ができることは間違いないであろう。今まで世にでたカーナビの中でもトップクラスの操作の分かりやすさだと思う。今までの「彩速ナビ」が採用してきたスマートフォンライクな「ホームメニュー」方式は、スマートフォンとの親和性が高く、膨大な機能のフロントエンドとしてそれ自体に多くの「入り口」が設けられていた。最初は戸惑う場面があるかもしれないが、「TYPE-L」のホーム画面は名前は同じだがニュアンスが異なり、シンプルな機能セレクト画面となっていて、フリックでもタッチでもどちらでも自然に対応できる点がよく練られていて好感が持てる。直感的に分かりやすく、カラーリングもよい。

 上位モデルに比べ、Bluetooth、3Dジャイロ、オーディオDSPなどが省略されているが、純正ナビには飽き足らず高性能で使いやすいナビを求めるユーザーには最適な選択となろう。

 ケンウッド「彩速ナビ」は、最新のプラットフォームに先進的な能を搭載するハイエンドナビという印象が強かった。2014年のモデルのキーワードにも「彩速・先進」とうたわれている。確かに今回のインタビューでは精度、ルートといった基本性能の拡充を図りながら新機構にチャレンジし、実力を高める開発姿勢を垣間見ることができた、

 しかし全体を通じて強く感じたのは、「ストレスフリー」「我慢のない商品を提供する」という点にこだわり、ユーザーの視点を強く意識した開発姿勢だ。積極的なファームウェアアップで過去のユーザーにも機能アップを提供するフレキシブルな姿勢にもそれが現れている。

 今まで高機能商品に対する感度の高い層が支えていた高性能ナビのユーザー像も変わりつつある。ハイテク商品に関心が無い層にも深い共感が得られる「ものづくり」が求められるのであろう。「AVナビ」は高品位な映像・音楽プレーヤーとしてスマートフォンやポータブルナビにない魅力があり、精度、ルートという基本性能のアドバンテージも大きい。「彩速ナビ」が今後ユーザーの視点に寄り添った優れた製品に成長することを期待している。

 インタビューの最後に土方氏はこう語った。「最先端だからやさしくなれるのです」。

(三宅 健 / Photo:安田 剛)