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メルセデス・ベンツ、岩手県陸前高田市で「スマートEVサミット2014」開催

東松島市、釜石市がスマートEVとともに復興に取り組んだ経験を意見交換

岩手県陸前高田市のひまわりハウスで「スマートEVサミット2014in陸前高田」が開催された
2014年3月18日開催

 3月18日、東日本大震災で被災した宮城県東松島市、岩手県釜石市に震災復興支援の一環として、メルセデス・ベンツ日本が2013年4月より1年間無償貸与していた「スマート電気自動車(スマートEV)」について、同社が両市の復興計画担当者を招き活用実績の意見交換を行うシンポジウムを岩手県陸前高田市で開催した。

 両市は復興計画において「スマート・コミュニティ」の構想を掲げ、国が選定する「環境未来都市」に選ばれた街だ。その第一歩として、電気自動車を導入したいとの意向に賛同したメルセデス・ベンツ日本が各1台の貸与を行い、貸し出されたスマートEVは復興計画を進めるべく、さまざまな業務に使われた(東松島市への車両貸与については同市から一般社団法人東松島みらいとし機構[HOPE]に転貸)。シンポジウムは釜石市より2名、東松島市より3名、そしてメルセデス・ベンツ日本のスタッフにより行われた。

2台のスマートEVと東松島市、釜石市の復興計画担当者が陸前高田市でご対面となった
東松島市の復興計画担当者
釜石市の復興計画担当者
東松島市のスマートEVには市のシンボルマークならびにHOPE(東松島みらいとし機構)のロゴがデザインされていた。HOPEとは各種行政機関と民間企業や市民、研究機関を結ぶ復興事業の中間支援組織だ
釜石市のスマートEVには同市のイメージキャラクター”かまリン”が描かれた。2台のナンバープレートはともに「25-25」、つまり「復興-復興」だ

スマートEVを実際に使ってみた両市の印象

 シンポジウムではスマートEVを使ってみた感想などが語られたので、その内容を抜粋して以下に記したい(質問者はメルセデス・ベンツ日本)。

 会場では東松島市、釜石市、メルセデス・ベンツ日本の代表者によって率直かつ積極的なディスカッションが行われたのだが、電気自動車の普及において3者が同じ方向を向いていたのは驚きだった。長期的視点においてもスマートEVの有用性が確認できたのは、被災地のみならずメルセデス・ベンツ日本にとっても大きな収穫だったに違いない。

東松島市復興政策部復興政策課 主査 尾形和弥氏
東松島みらいとし機構(HOPE)高橋史仁氏
東松島みらいとし機構(HOPE)渥美裕介氏
釜石市復興推進本部リーディング事業推進室 主任 佐々木護氏
釜石市復興推進本部リーディング事業推進室 主事 笹岡佳代さん
メルセデス・ベンツ日本 技術コンプライアンス部 コンセプト製品課 村上茂泰氏

──市民の方の反応はどうでしたか?

東松島市:とにかく目立ちます。環境未来都市を標榜している東松島市/HOPEがエネルギーに関する事業を展開していることを伝えるのに非常に効果があったと思います。

釜石市:色々なイベントに出向き普及啓発活動をしましたが、とにかく目に付きます。環境未来都市とかスマート・コミュニティとか市が行っている新しい取り組みを市民に意識してもらうのに非常に役立ったと思います。

──寒冷地における電気自動車の問題点をお教えください

両市:特に感じませんでした。

釜石市:エアコンの暖房を使うと確かに航続距離が短くなるのですが、(電力消費が少ない)シートヒーターが非常に快適なのでそちらを使うことによって無理することなくエアコンの使用を抑えられましたので、結果的には特に問題はありませんでした。

──航続距離、充電する場所に関しては?

東松島市:県庁のある仙台への往復が可能な航続距離なのでその辺は問題ありませんでした。ただしカーシェアリング等の利用を視野に入れると、もう少し充電場所が必要になるかもしれません。

釜石市:釜石市からは盛岡などの大都市が遠いのでそこへの移動は適しませんが、地域の巡回や庁舎間を行き来する需要があるので、そういった使い方に非常に適しています。また充電に関しても昼走って夜充電するサイクルは、市役所の業務サイクルを考えると適していると思います。

──ランニングコストはいかがでしたか?

東松島市:あまりかかりませんでした。予算に制約のある中での業務では有効でした。(今まで使ってたガソリン車と比べ)約1/3程度です。

──ガソリン車より高い車両価格についてはどうお考えですか?

釜石市:たとえば釜石市の場合、非常時に蓄電池代わりに使うことを前提に導入すると適用される補助金の利用が可能性としてありますし、そうなればガソリン車よりイニシャルコストが抑えられる場合もあり得ます。かつ数年利用した場合のランニングコストまで試算すれば、市役所への電気自動車導入はタイミング的にもいいかもしれません。ただし県内の(内陸部にある)主要都市への距離が長いこともあり、すべての公用車を電気自動車に置き換えることはないと思います。

2つの被災地が描く目指すべきスマートシティとは

 両市ともに1年間日常的に使ってみて、スマートEVの実用性が見えてきたようだ。また、両市の復興計画担当者が語っていたスマートEVを使った日々の運転方法が、2つの市が目指すスマートシティをよく表していたのが印象的だ。

 両市の担当者は、電気自動車を運転する際にはガソリン車に乗っている時よりもエアコンのON/OFFやアクセル開度などに気を使うようになり、自動車におけるエネルギー消費への意識が高まったそうだ。もちろん既存の車より航続距離が短いという制約ゆえのリスク回避がスタートではあったそうだが、それは「我慢とは違うもの」とすべての担当者が口をそろえる。もちろん業務に限られた使用での話ではあるが、使い始めて1年にも満たない現在すでに習慣となっていて、何の違和感もなく日常業務をスマートEVで行っているという。

 「スマートシティ」「スマートグリッド」「スマートコミュニティ」などは、トレンドのようにさまざまな地域開発で語られる言葉だが、それは高度なテクノロジーによってのみ達成されるものではない。釜石市の佐々木氏の言葉を借りれば「それらの言葉は一見近未来的に感じるものの、実際にそれを達成したからといって日常生活が劇的に便利になるわけではなく、進学等で一度釜石を離れた若者が釜石に帰ってくる訳ではない」という。

 それでも街の復興に「環境未来都市」を掲げ、スマートシティに未来をかける両市の考えの根底には、“エネルギーを大事に使う”ことで子供達をはじめ市民には他地域よりも少々我慢が強いられることがあるかもしれないが、それがいかに世の中のためになることか理解してもらいながら、そこに誇りをもってもらいたい。理想を言えばそんな故郷のために頑張ってみようと思ってくれる人が出てくればうれしい。そんな街づくりの基本骨格にスマートシティ構想があるのだという。そしてエネルギー消費に対し、色々なことに気づかせてくれたのがスマートEVの運転だったというわけだ。

 ちなみに釜石市は石炭やごみ処理による火力発電、広域ウインドファームによる風力発電、揚水発電とさまざまな発電システムを市内に持ち、その発電量は同市のすべての電力をまかなえるそうだ。そんな釜石市でも、東日本大震災のときには避難所で電気のない生活を余儀なくされてしまったそうで、せめて緊急時にその一部を市内で使えたら、という思いがあったという。もちろん、そのようなインフラを持たない東松島市でもその苦しさは何ら変わらなかったであろう。

 次の世代にそのような思いをさせない街づくりこそが、両市が目指すスマートシティなのだ。電気自動車は万が一の際、蓄電池として避難所に明かりを灯し、ラジオの電源にもなる。たったそれだけで緊急時の不安は大きく改善されるという。

 メルセデス・ベンツ日本が復興のために用意した2台の小さなスマートEVは、東日本大震災をきっかけに方向変換しようとする2つの街の取り組みのシンボリックな存在になり、これからの自動車のあり方を示唆しているようで、筆者にとって非常に興味深いシンポジウムであった。

東松島市の尾形氏(写真左)、メルセデス・ベンツ日本の村上氏(写真中央)、釜石市の佐々木氏(写真右)が語り合った、これからの電気自動車のあり方についてのシンポジウムは非常に有意義な内容であった

(高橋 学)