ニュース

トヨタ、現行ハイブリッド車の燃費10%改善を実現する新素材SiC高効率パワー半導体開発

Siパワー半導体からSiCパワー半導体にするだけで5%の燃費改善

SiCパワー半導体
2014年5月20日発表

 トヨタ自動車は5月20日、デンソー、豊田中央研究所と共同で新素材SiC(Silicon Carbide)による高効率パワー半導体を開発したと発表した。明日5月21日からパシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開幕する「人とクルマのテクノロジー展」に出展する。

左がSiパワー半導体、右がSiCパワー半導体
SiCパワー半導体を使うことで、PCUは手前のように小型化できる

 発表同日、同社は第3電子開発部 担当部長 濱田公守氏らによる説明会を開催。濱田氏は、「ハイブリッド技術は、EV、PHV、FCVにつながるコア技術と位置づけている」と述べ、ハイブリッド車の効率を高めることが、すべての次世代車の効率を上げていくことにつながるとした。

トヨタ自動車 第3電子開発部 担当部長 濱田公守氏

 現在、ハイブリッド車の電力損失の20%程度をPCU(Power Control Unit)内にあるパワー半導体が占めており、パワー半導体の素材としてはSi(Silicon)が使われている。トヨタはこれまでSiパワー半導体での効率改善を実施。初代プリウスから3代目プリウスまでで損失を1/4に低減している。

 SiCパワー半導体は、この損失の飛躍的改善を目指すもので、すでに実際のクルマに搭載した状態で5%のJC08モード燃費改善を確認。将来的には10%の燃費改善を目指すとしている。

 SiCパワー半導体がSiパワー半導体に比べて優れている点は、電流のON/OFFを行う際のテール電流の少なさ。Siパワー半導体では電流OFF時に1/100万秒程度無駄な電流、つまりテール電流が発生してしまうが、SiCパワー半導体ではそれがほとんどなく、損失が1/10ほどに減るという。そのため、電流のON/OFF制御を高速化することができ、高周波でのコントロールが可能になる。

 ハイブリッド車ではコンデンサやコイルが多数積まれており、それはPCU体積の40%を占めている。このコンデンサやコイルは一時的に電気をためておくもので、その大きさは電気をためる量にある程度比例する。高周波にすることで電気をためる量を減らすことができ、その結果、コンデンサやコイルを小型化してPCUの体積を将来的に1/5程度にするという。大きなバケツで水をくみ出すのではなく、小さなバケツで複数回に分けて水をくみ出すイメージだ。

 トヨタは現在、広瀬工場でSiパワー半導体を8インチのウエハーで自社生産。2013年12月にSiCパワー半導体開発用のクリーンルームを設置し、4インチウエハーでの試作を行っている。量産移行時のウエハーサイズは未定とのことだが、Siではウエハーを切り出す元になる単結晶体が数mの長さのものができているのに対し、SiCでは数cmにとどまっているという。いずれも従来のSiパワー半導体に比べて高価になることを示しており、今後の量産技術の確立がポイントになるだろう。

 コストを下げる方法として外販するなどの大量生産施策があるが、それについては「これまでのパワー半導体同様、外販を行うつもりはない。自社で製造・管理を行うことで、原価低減の知見を得られ、それは外販と同程度のコスト低減につながると思う」とのことだ。SiCにするだけで50%の損失低減を得られ、クルマとしても5%の燃費向上を実現するデバイスだけに、目標の10%低減も確実に視野に入っているのだろう。

高効率SiCパワー半導体の解説ムービー

(編集部:谷川 潔)