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パーツからクルマの現在と将来が見える自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2014」
“油圧による駆動システム”や“48Vハイブリッドシステム”などの次世代技術を紹介
(2014/5/22 10:03)
神奈川県横浜市にあるパシフィコ横浜で、5月23日まで自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2014」が開催されている。この「人とくるまのテクノロジー展」は自動車関連業者向けの展示会なので、主役となるのは最新のパーツや技術である。それだけにモーターショーのような派手さはないが、会場で展示されているのは市販されている最新モデルに採用されていたり、これから登場するであろうクルマのために開発されているものなので、見応えは十分にある。
そもそもクルマというものは「パーツの集合体」なので、そのクルマの本当の姿を知りたいのならパーツごとに見ていくことも重要なポイント。とくに最近のエコカーになると、車両価格が安いクルマでもかなり高度な技術が盛り込まれていたりする。そして往々にしてそういった細かい部分はカタログに載ることはないので、一般的に知られることがないというケースがほとんどだ。しかし、そういう隠れた部分を知ることで、スペックや車格といった部分以外からもクルマを見ることができるようになるだろう。
そんな会場で気になった展示物をいくつか紹介していこう。まずは三菱重工業が展示していた「油圧デジタルハイブリッド技術」。これは新機構のデジタル油圧ポンプ式の無段階変速機である。エンジンで油圧ポンプを駆動し、ポンプから生まれた高い油圧で駆動輪に装着された油圧デジタルホイールモーターを回すもので、油圧を可変することによって走行状態に応じたギヤ設定を行うイメージ。これによって常に効率のよいエンジン回転数に設定しながら走行することが可能となる。また、減速時は油圧デジタルホイールモーターからエネルギー回生を行い(減速時に油圧を作り出す)、それを油圧アキュームレーターに蓄え、それを加速時のエネルギーとして使用することで、加速時のエンジン出力を抑えることができる。この技術に使われている油圧ポンプは、三菱重工が製造している風力発電機から流用した技術ということだ。
エンジンは熱を動力に変換する機関なので、熱を力に変換するために「最適な温度」というものが存在するわけだが、そのためはエンジン冷却水の水温管理がカギになる。そこで世界的なパーツサプライヤーであるヴァレオが展示していたのが「THEMISバルブ」。これは従来のサーモスタットの代わりに装着するクーラント流量制御バルブで、エンジン、ヒーター、ラジエターと3系統に分けた通路を持っている。そして3系統に流れるクーラントの量を各所に付けたセンサーからの信号に基づいて最適な温度になるようにコントロール。こうして効率のよい温度を保つことにより、燃料の消費量を軽減したり、排出ガスに含まれる汚染物質を減らすことが可能になる。
ほかにもヴァレオのブースではまだまだ興味深いパーツが展示されていた。まずは「水冷式コンデンサー」。従来、エアコンのコンデンサーは空冷式だったが、水冷式にすることで取り付けスペースの成約がなくなる。そして熱交換率も安定するのでコンプレッサーに掛かる負担が軽減でき、同時にエンジンの負担も減ってくれる。この水冷式コンデンサーは主にハイブリッドカー用として作られていて、冷却水はモーター用の冷却水から取る方式だ。
次は「ロングトラベル型デュアルマスフライホイール」。エコカーに限らず現代のエンジンはクルマの重量を抑えるために軽量化が図られているが、軽量なエンジンはブロックの肉厚の問題などで振動とノイズを発生しやすい傾向にある。これはとくにハイブリッドカーでは問題となる部分で、無音で振動しないモーター駆動状態からエンジンに切り替わったときに、急激に音と振動が発生してしまうのは絶対に避けたいところ。そこでそれを打ち消すために作られたのが、2種類のダンパーを組み込んだこのフライホイール。軽量エンジンが出す周波数を打ち消す働きを持っており、スムーズな走行環境を作ることが可能になる。
こちらは東芝が出展していた「車載用CMOSイメージセンサー」で、カメラ映像を元にした検知システムの精度をさらに向上させることを目的に開発されたもの。例えばトンネルを走行中に、直前は暗いのでカメラはそこの露出を優先する。するとトンネル出口の明るい部分は映像が白飛びしてしまい、そこに何があるか識別できない状況になることもあるが、このセンサーはそんな複雑な光の条件でもしっかりと映像を映すことが可能。それでいてセンサーサイズは小型化されている。このCMOSセンサーがあれば、自動ブレーキの性能を安定して発揮させることが可能になるのだ。
自動ブレーキ、自動運転などの先進技術はセンサー類の進化によって可能になってきているが、それらを使いこなすためには膨大なデータ量をセンサーからECUに送り、そこから各制御パートまで信号を送らなければならない。すると、現在クルマのネットワークで使われているCAN通信では通信速度と容量が不足してしまう。そこで次の車載ネットワーク技術として開発されているのが、通信量を増やした「CAN FD」。そしてさらに多くのデータを高速で通信できる「Ethernet(イーサネット)」を使った通信技術だ。
EthernetはPCなどではすでにおなじみだが、一般的に使われているEthernetはノイズに弱いという面がある。一方で、各種電装品の集合体であるクルマはノイズだらけという環境だ。そこで車載用としてノイズにも強いEthernetが開発されてきている。というように、いろいろな制御を自動で行うためには、センサーやカメラの技術だけでなく、データ通信の面でも強化が必要なのだ。
また、ボッシュが展示していたのは「48Vハイブリッドシステム」。このシステムの特徴は、従来からあるクルマにアドオンで装着が可能なハイブリッドシステムであるというところ。イメージとしてはボルトオンターボのようなものだ。48Vという設定についてはこれもアドオンを前提にしたもので、法令では60Vを超える電池を積む場合、感電を防ぐための厳密な遮蔽が必要になり、それをあとから追加することは困難。そこでその遮蔽対策が不要であり、なおかつ効率のよいところとして48Vのバッテリーが採用された。プリウスなどの本格的なハイブリッドカーと比べれば圧倒的に電力不足なのでモーターの出力は20PS程度だが、これだけあれば発進加速や通常走行は普通にこなすことができる。