ニュース

パーツからクルマの現在と将来が見える自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2014」

“油圧による駆動システム”や“48Vハイブリッドシステム”などの次世代技術を紹介

2014年度は491社・1082小間が出展。さまざまなジャンルの最新技術が一挙に展示されている
2014年5月21日~23日開催

入場無料(登録制)

 神奈川県横浜市にあるパシフィコ横浜で、5月23日まで自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2014」が開催されている。この「人とくるまのテクノロジー展」は自動車関連業者向けの展示会なので、主役となるのは最新のパーツや技術である。それだけにモーターショーのような派手さはないが、会場で展示されているのは市販されている最新モデルに採用されていたり、これから登場するであろうクルマのために開発されているものなので、見応えは十分にある。

 そもそもクルマというものは「パーツの集合体」なので、そのクルマの本当の姿を知りたいのならパーツごとに見ていくことも重要なポイント。とくに最近のエコカーになると、車両価格が安いクルマでもかなり高度な技術が盛り込まれていたりする。そして往々にしてそういった細かい部分はカタログに載ることはないので、一般的に知られることがないというケースがほとんどだ。しかし、そういう隠れた部分を知ることで、スペックや車格といった部分以外からもクルマを見ることができるようになるだろう。

風力発電機から流用したという「デジタル油圧ポンプ式の無段階変速機」

 そんな会場で気になった展示物をいくつか紹介していこう。まずは三菱重工業が展示していた「油圧デジタルハイブリッド技術」。これは新機構のデジタル油圧ポンプ式の無段階変速機である。エンジンで油圧ポンプを駆動し、ポンプから生まれた高い油圧で駆動輪に装着された油圧デジタルホイールモーターを回すもので、油圧を可変することによって走行状態に応じたギヤ設定を行うイメージ。これによって常に効率のよいエンジン回転数に設定しながら走行することが可能となる。また、減速時は油圧デジタルホイールモーターからエネルギー回生を行い(減速時に油圧を作り出す)、それを油圧アキュームレーターに蓄え、それを加速時のエネルギーとして使用することで、加速時のエンジン出力を抑えることができる。この技術に使われている油圧ポンプは、三菱重工が製造している風力発電機から流用した技術ということだ。

 エンジンは熱を動力に変換する機関なので、熱を力に変換するために「最適な温度」というものが存在するわけだが、そのためはエンジン冷却水の水温管理がカギになる。そこで世界的なパーツサプライヤーであるヴァレオが展示していたのが「THEMISバルブ」。これは従来のサーモスタットの代わりに装着するクーラント流量制御バルブで、エンジン、ヒーター、ラジエターと3系統に分けた通路を持っている。そして3系統に流れるクーラントの量を各所に付けたセンサーからの信号に基づいて最適な温度になるようにコントロール。こうして効率のよい温度を保つことにより、燃料の消費量を軽減したり、排出ガスに含まれる汚染物質を減らすことが可能になる。

 ほかにもヴァレオのブースではまだまだ興味深いパーツが展示されていた。まずは「水冷式コンデンサー」。従来、エアコンのコンデンサーは空冷式だったが、水冷式にすることで取り付けスペースの成約がなくなる。そして熱交換率も安定するのでコンプレッサーに掛かる負担が軽減でき、同時にエンジンの負担も減ってくれる。この水冷式コンデンサーは主にハイブリッドカー用として作られていて、冷却水はモーター用の冷却水から取る方式だ。

 次は「ロングトラベル型デュアルマスフライホイール」。エコカーに限らず現代のエンジンはクルマの重量を抑えるために軽量化が図られているが、軽量なエンジンはブロックの肉厚の問題などで振動とノイズを発生しやすい傾向にある。これはとくにハイブリッドカーでは問題となる部分で、無音で振動しないモーター駆動状態からエンジンに切り替わったときに、急激に音と振動が発生してしまうのは絶対に避けたいところ。そこでそれを打ち消すために作られたのが、2種類のダンパーを組み込んだこのフライホイール。軽量エンジンが出す周波数を打ち消す働きを持っており、スムーズな走行環境を作ることが可能になる。

エンジン、ヒーター、ラジエターの3系統で個別に温度管理できるという「THEMISバルブ」
ハイブリッドカー用の「水冷式コンデンサー」。エンジンの負担が減れば、それだけ低燃費につながるはずだ
2種類のダンパーを組み込んで振動とノイズを打ち消す「ロングトラベル型デュアルマスフライホイール」

 こちらは東芝が出展していた「車載用CMOSイメージセンサー」で、カメラ映像を元にした検知システムの精度をさらに向上させることを目的に開発されたもの。例えばトンネルを走行中に、直前は暗いのでカメラはそこの露出を優先する。するとトンネル出口の明るい部分は映像が白飛びしてしまい、そこに何があるか識別できない状況になることもあるが、このセンサーはそんな複雑な光の条件でもしっかりと映像を映すことが可能。それでいてセンサーサイズは小型化されている。このCMOSセンサーがあれば、自動ブレーキの性能を安定して発揮させることが可能になるのだ。

 自動ブレーキ、自動運転などの先進技術はセンサー類の進化によって可能になってきているが、それらを使いこなすためには膨大なデータ量をセンサーからECUに送り、そこから各制御パートまで信号を送らなければならない。すると、現在クルマのネットワークで使われているCAN通信では通信速度と容量が不足してしまう。そこで次の車載ネットワーク技術として開発されているのが、通信量を増やした「CAN FD」。そしてさらに多くのデータを高速で通信できる「Ethernet(イーサネット)」を使った通信技術だ。

 EthernetはPCなどではすでにおなじみだが、一般的に使われているEthernetはノイズに弱いという面がある。一方で、各種電装品の集合体であるクルマはノイズだらけという環境だ。そこで車載用としてノイズにも強いEthernetが開発されてきている。というように、いろいろな制御を自動で行うためには、センサーやカメラの技術だけでなく、データ通信の面でも強化が必要なのだ。

 また、ボッシュが展示していたのは「48Vハイブリッドシステム」。このシステムの特徴は、従来からあるクルマにアドオンで装着が可能なハイブリッドシステムであるというところ。イメージとしてはボルトオンターボのようなものだ。48Vという設定についてはこれもアドオンを前提にしたもので、法令では60Vを超える電池を積む場合、感電を防ぐための厳密な遮蔽が必要になり、それをあとから追加することは困難。そこでその遮蔽対策が不要であり、なおかつ効率のよいところとして48Vのバッテリーが採用された。プリウスなどの本格的なハイブリッドカーと比べれば圧倒的に電力不足なのでモーターの出力は20PS程度だが、これだけあれば発進加速や通常走行は普通にこなすことができる。

CAN通信の次の技術となる「CAN FD」や「Ethernet」
ハイブリッドシステムをアドオンするという発想の「48Vハイブリッドシステム」
岡山県のパーツサプライヤーが共同で制作しているコンバートEVシステム。インホイールモーターを採用しており、ストラット式サスペンションを採用しながらインホイールモーターになっているのはこのクルマだけの技術という説明
チューニングパーツメーカーとしておなじみのHKSが力を入れているのは、CNG/LPGのバイフューエル技術開発。現在は日産自動車のNV200のLPG仕様車の架装を担当している
こちらもボッシュ製パーツ。ブレーキング時の回生装置で、従来品は回生時にブレーキが強く効いていたが、こちらはフットブレーキでの車速コントロールがしやすいように、回生装置側での制動力を抑えめにしている
アイシンが出展していた商用車用の6速AT。北米向けで大型のピックアップトラックに合わせたもの。AT内部のパーツ配置を変更することで、本体を大型化することなくディスク容量を増やす構造になっている
こちらは同じアイシン製の6速MT。海外ではまだまだMTの需要が高く、VWのゴルフや日産のGT-RなどのトランスミッションもMTの発展型。それだけに、MTの技術開発は今後も続いていくという説明だった。これはスポーツドライブ派にはうれしい話しだ
カルソニックは現在、余熱として捨てている熱を取り込むことで、既存の構造で効率の向上を目指すシステムについて展示。すべてを新しくするのではなく、改良によってさらに煮詰めていく方向性は現実味があり、非常に興味深い
エコ化のキーとなる軽量化。そこで注目を集めているのがCFRP(炭素繊維強化プラスチック)。従来は大きな装置を用いたオートクレーブ式で生産されていたが、時間とコストが掛かるのが難点だった。しかし、最新技術では高熱を加える特殊なプレスで同等のものを作ることが可能になった。このコンセプトカーのボディーはすべてCFRP製
館外ピロティを使っての体験試乗会もあり、注目のスマートモビリティやレーザースキャナー搭載車などに試乗できる。かなりの人気なので試乗希望の場合は早めに行って順番待ちの予約を取ることを勧める
もちろん国内の各自動車メーカーもブースを出展。とくにホンダブースでは国内初展示となる次期NSXのパワートレーンを公開
トヨタは燃料電池車のFCVの構造を公開している。また、新型ヴォクシー ハイブリッドのカットモデルも展示
マツダはデミオEVのREレンジエクステンダーを展示。シングルローター式のロータリーエンジンの内部パーツも公開
日産は新型スカイラインのエンジン+モーターを展示。また、フリクションロス低減のためのシリンダー内コーティング技術も公開
スズキは新型スイフトに搭載している1.2リッターエンジンを展示。これはポート噴射のまま燃焼効率を追求した仕様で、霧化のよさを重視したツインインジェクター式
スバルは直噴仕様の水平対向1.6リッターターボエンジンを展示。BRZに搭載する自然吸気のFA20とは違い、噴射は気筒内のみとなる

(深田昌之)