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MathWorks、自動車産業向けソリューションを説明する「MathWorks Automotive Conference 2014」開催

超小型EV「コムス」の“自律運転カー”に「MATLAB」「Simulink」を利用

早稲田大学 情報生産システム研究科 教授 大貝晴俊氏
2014年6月27日開催

 コンピュータを利用した数学的計算ソフトウェアを開発、販売しているソフトウェアベンダのMathWorksの日本法人であるMathWorks Japanは6月27日、都内で同社のソフトウェアソリューションを自動車メーカーのエンジニアなどに対して説明する「MathWorks Automotive Conference 2014」を開催した。

 MathWorksは、複雑な科学演算や数値演算などを利用したプログラミングを容易にするための開発ツール「MATLAB」、そのMATLABの機能を利用してモデリングやシミュレーションなどを可能にする「SIMULINK」などを顧客に販売しているが、近年は自動車産業でもADAS(エイダス、先進運転支援システム)などで画像処理を利用するプログラミングが一般的に利用されるようになってきたことから、MATLABやSIMULINKが利用される例が増えてきている。

 今回のイベントでは、そうしたMathWorksのソリューションを利用した事例などが紹介された。そのなかから、午前中に行われた早稲田大学 情報生産システム研究科 教授 大貝晴俊氏、本田技術研究所 四輪R&Dセンター 開発技術推進室 横山浩紀氏による講演を紹介していきたい。

MATLABとSimulinkを利用して「自律運転カー」を開発した早稲田大学

 早稲田大学 情報生産システム研究科 教授 大貝晴俊氏は、「COMSを使用したSimulinkベースの小型自動車の自動運転の実証実験について」というタイトルでMATLABやSIMULINKを利用した自動運転システムの開発についての講演を行った。早稲田大学と言えば東京都にあるキャンパスが最も有名だが、大貝氏が教鞭を執る情報生産システム研究科は福岡県北九州市の学研都市にキャンパスがある。モノづくりを担う技術者を育成する目的で設置された比較的新しいキャンパスとなっている。

 大貝氏によれば、北九州には自動車産業が集中していることもあり、早稲田大学と九州工業大学、北九州市立大学の3大学の大学院で連携した取り組みを実施。カーエレクトロニクスやロボット開発などの技術者を輩出するコース(連携大学院)を設置して、協同して研究やエンジニアの育成を行っているという。

 そうした取り組みの一環として「九州・ひびきの自律走行研究会」という研究会が行われており、人口の1/4が65歳以上の高齢者となりつつある北九州市の支援などを受けながら、自動車の自律走行が可能になるような研究が続けられているという。2010年に構想が開始されて2012年には研究がスタート。2013年には実際に自律走行の実証実験を始めるところまでこぎ着けたとのこと。

 当初はモデルカーを利用した隊列走行の実験などが行われ、その後、トヨタ車体が販売する超小型EV「コムス」を利用した実証実験まで進化させた。もちろん、いきなり公道を走らせることはできないので、まずは運転免許取得のために利用される自動車教習所のコースを使って実証実験を始めたそうだ。

3つの大学が協同してカーエレ、カーロボコースの連携大学院を設置
北九州には自動車産業が集中(年産150万台)
連携大学院は自動車産業に人材を輩出する教育の場となっている
「九州・ひびきの自律走行研究会」という研究会が設置されている
これまでの研究開発の内容
モデルカーを利用した実験などが行われた

 大貝氏によれば、コムスによる実証実験にはノートPCを中心としたシステムが用意されており、そこに各種センサー(3Dカメラ、GPS、車速センサー、車車間の走行情報を相互にやりとりするZigBeeモジュールなど)を接続。生成された情報をMathWorksのSimulinkを利用してモデル化し、MATLABの数値処理機能などを利用することで実現していったという。これまでにステレオカメラによる障害物や白線、道路幅の認識、超音波センサによる障害物認識、追い越し制御などを実現したということだった。

 なお、こうして作られたコムスの「自律運転カー」は、2013年11月に行われた「ITS世界会議東京2013」においてデモ走行が行われたと大貝氏は説明している。

コムスを利用した自律走行のシステム。ノートPCを利用している
各種センサーが搭載され、その処理をノートPC上のMATLAB/Simulinkが担当
システムの開発に利用された開発環境
ITS世界会議東京2013でデモ走行が行われた

「Simscape」を利用したプラントモデリングでシミュレーション精度をさらに高める

本田技術研究所 四輪R&Dセンター 開発技術推進室 横山浩紀氏

 本田技術研究所 四輪R&Dセンター 開発技術推進室 横山浩紀氏は「Simscapeを用いたプラントモデリング手法の紹介」と題した講演を行い、MathWorksの提供するプラントモデリングのソフトウェア「Simscape」を利用して、ブレーキのABSやESCといった機能を対象とするシミュレーション環境の構築に関して解説した。

 横山氏は、JMAAB(Japan MBD Automotive Advisory Board:日本の自動車業界のMATLAB製品ユーザーでモデルベース開発を推進させるためのユーザー会)というユーザー会が行ってきた、MATLABを利用したプラントモデリングの利用促進の取り組みを説明。とくにその分科会となる「PMWS4」において、MATLABベースでプラントモデリングのシミュレーションを作成できるSimscapeの活用をどのように行ってきたかについて解説した。

 その分科会では、ブレーキのABSとESC(横滑り防止装置)のモデルを作り、それを車両側のモデルに接続することで、減速時にABSが動作した影響がエンジンやトランスミッションなどのパワートレーンにどんな影響を与えるかをシミュレーションで再現できるということのほか、これを新たな開発に利用できるのではないかと考えて検討を始めたという。

 そして、Simscapeを利用して作成したABS&ESC対応ブレーキ回路のモデルを、同じくSimscapeで作成した車両側のモデルに接続してシミュレーションすることができたという。これらの動作を制御するソフトウェアがSimulinkになるのだが、同じMathWorksの製品なので親和性が高く、接続は容易であることも説明された。

 横山氏によれば「開発の初期段階でブレーキの影響を考慮したパワートレーンの設計をシミュレーションで表現できれば、ブレーキを設計する開発に役立てたり、ADASの開発に役立てたり、異なる部署やメーカー、サプライヤーを含めて仕様を決定するときに情報として役立てることができる」とのことで、Simscapeを利用することで、MATLAB/Simulinkを利用した自動車開発をさらに加速することができると指摘した。

JMAABでMATLABなどを利用したモデリングの研究が行われてきた
Simscapeを利用してモデリングを行うにあたり、ABS&ESCのブレーキ油圧モデルを実際に作成
Simscapeに用意されているライブラリを利用してモデルを作成していった
Simscapeを利用して作成したブレーキ油圧回路のモデルを、車両側のモデルに接続して動作をシミュレーションする
Simulinkで作成している制御系のデータとも接続が容易
ブレーキシステムと車体を接続することで、設計する部署が異なるようなコンポーネントでも全体像を把握することが容易になる

(笠原一輝)