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「スムーズな運転」を学ぶ、プロスペック主催のドライビングスクールを体験

冬の氷上ウィンタードライビングレッスンも2015年初頭に開催予定

日下部氏も参加者の車両に同乗してアドバイス
2014年11月1日開催

「“こう運転すると危ない”ということを実際の体験を通じて教えたい」と語っていたプロスペック代表の日下部保雄氏

 プロスペックは11月1日、富士スピードウェイで一般ドライバー向けのドライビングスクール「2014 YOKOHAMA&PROSPEC Autumn Driving Park」を開催した。日常的に運転している自分のクルマで参加できる「運転が上手になりたい人」向けのプログラムで、全日本ラリー選手権などでの優勝経験もあるプロスペック代表の日下部保雄氏らがインストラクターとして指導にあたった。

 同社によるドライビングスクールの歴史は長く、20年ほど前から同様の形式で開催を続けており、近年は年間1、2回程度のペースで実施している。前回は2014年1月に、全面凍結した長野県 女神湖で氷上を走行するウィンタードライビングレッスンを実施した。

 参加者がゆとりをもって練習できるように参加受け付け数を絞っていることもあり、参加枠は毎回争奪戦となるほどの人気。このドライビングスクールに取材を兼ねた形で筆者も参加させていただいたので、当日の模様をリポートしたい。

インストラクターがマンツーマンで指導

 開催当日の参加台数は14台。一般ドライバー向けのプログラムということで、参加車両も海外メーカーのスポーツカーから国産車の小型ファミリーカー、軽自動車など多彩だ。参加者は男性が多いが、なかにはカップルで1台の車両を交互に運転している姿も見受けられた。インストラクターの話によれば、平均的には40代男性の参加が目立つものの、20代から60代まで幅広い層の人が学びに来るという。

当日はあいにくの雨模様ながら、タイプの異なる14台の参加車両が集った
会場は富士スピードウェイ内にある広い駐車場

 ちなみに、筆者のクルマはステップワゴン。ほかにはミニバンで参加している人はいなかったが、このスクールで学ぶ内容はあくまでも公道を走るときに役立つドライビングテクニックであり、車種に関係なく楽しみながら腕を磨けるのが特徴だ。ミニバンであっても十分に参加する意義がある。

 当日は、午前中が練習、午後は練習とタイムアタックの時間が設けられた。練習時は3つの班に分けられた参加者が、富士スピードウェイの広い駐車場にパイロンを使って設定された3種類のコースを、決められた時間帯ごとにローテーションで走行や休憩をするスケジュールになっていた。

 3種類あるコースはそれぞれで異なるドライビングテクニックが学べるよう設定。1つめは加減速と直線状に置かれたパイロンでスラローム走行を学べるコース、2つめはコーナーリングとハンドリングを学べるコース、3つめは散水して滑りやすくした路面で定常円旋回などを行う旋回路コースだ。

 各コースではインストラクターが常駐して指導にあたり、必要に応じて参加者の車両に同乗してマンツーマンでアドバイスを行う。インストラクターには国内外のラリー選手権の参戦経験もある片岡良宏氏、多くの耐久レースで活躍している松井氏、全日本GT選手権などの参戦経験もある岸剛之氏の3人と日下部氏の計4人。参加者1人ひとりにていねいに指導し、ときには熱く教えている姿も見受けられた。

さまざまなラリー選手権に参戦経験のある片岡良宏氏
多数の耐久レースで活躍している松井猛敏氏
全日本GT選手権などに参戦経験がある岸剛之氏

ハンドリングとブレーキングの大切さを学ぶ

 プロスペックのドライビングスクールは、サーキットのコースを高速周回するいわゆる「走行会」ではないため、スピードを出してクルマの限界まで攻めるというよりも、公道走行を前提に安全で滑らかな運転をいかに身に付けるかを主眼に置いたプログラム構成となっている。

 例えば、加減速と直線パイロンのスラローム走行を学べるコースでは、前半のスラローム部分をリズムよく走り、滑らかにステアリングを操作してクリアすることが重要。無駄に大きくステアリング操作したり、急激な旋回をすると、曲がりきれなかったり、場合によっては車両のコントロールを失う危険性も出てくる。

直線状に置かれたパイロンを左右に切り返すスラローム走行。スラローム直後にはUターンエリアが設定されている

 後半の加減速エリアでは、しっかり加速してから目標制動を行うが、このときに急制動ではなく、最初から最後まで一定の力でブレーキを踏み込んで静かに止まることが課題。ブレーキを踏む力が強弱してしまうとそれだけで乗り心地が損なわれ、同乗者にとってはストレスになる。運転者のみならず、友人や家族がといった同乗者も安心して快適に乗ってもらえるようにする運転が目指せるレッスン内容だ。

まっすぐ加速して目標制動をする加減速エリア
一定の力でブレーキペダルを踏み続け、パイロンで囲まれたエリア内で停止する

 コーナーリングとハンドリングを学べるコースではある程度のスピードを出すことになるが、オーバースピードでコーナーに進入すれば、当然ながら曲がりきれずに設定された車線からはみ出してコースアウトしてしまう。特に当日は雨が断続的に降るあいにくの空模様で、路面は常に湿った状態。きちんと減速しなければステアリングを操作してもタイヤが滑り、ときにはまっすぐ進んでしまうこともある。

 このコースでは、コーナー進入前にしっかりブレーキを使って減速し、タイヤを滑らさず確実に曲がりきれる速度に調整することの大切さと、ブレーキによって車両の前輪に荷重をかけてタイヤのグリップ力を最大限に発揮させることを学び、その感覚を身体に覚えさせることが主題だ。また、コーナー脱出時には自然にステアリングが戻るのを待つのではなく、ドライバーの手できっちり回転させて滑らかに戻すことも、スムーズなドライビングには重要なポイントとなる。

ハンドリング・コーナリングを学べるコースでは、ほかと比べて速度域を高めに設定
コース後半には「ステアリングをしっかり回す練習」ができるクランクエリアが設けられた

 旋回路ではオーバルや定常円で旋回し続けるが、ここでもステアリングやブレーキの使い方の大切さをみっちりと学べる。コーナーの突っ込みで前輪が滑ってしまうようなケースは、単純にオーバースピードであるパターン以外にも、ステアリングを急激に切っていることが原因になっている場合も多いという。

 それなりにスピードが出ていても、滑らかにステアリングを操作すれば車両の挙動に不安を感じることはない。ブレーキもコーナー進入前に終わらせておくのではなく、進入後もわずかにブレーキを残しながらコントロールすれば、速く、スムーズにコーナーをクリアできる。自動車教習所で習うことの多い、コーナー進入前にブレーキで完全に減速するような運転方法は、スムーズな運転を目指すという面では必ずしも正しくない、というのがインストラクターから教わった筆者の感想だ。

当日は雨が降っていたが、路面がフルウェットに至るまでの雨量ではなく、定期的に散水車で水がまかれていた
オーバルや定常円の走行でブレーキングとハンドリングのテクニックを学ぶ

独自開発の「Gカップ」を利用して「スムーズな運転」を評価

「Gカップ」に水を注ぐスタッフ

 午前中はゆっくりと恐る恐る走っているように見えた参加者も、次第にレッスンでコツをつかんできたのか、練習が進むうちに明らかにメリハリのあるスムーズな運転に変わっていった。午後に用意された最後の練習時間帯を終えると、次に待ち受けていたのはタイムアタックだった。

 タイムアタックのコースは、練習時に走ったコースの一部をそのまま活かす形で作られたが、スタートからゴールするまで単純に短いタイムで走り抜ければよいというわけではなかった。独自開発したという半球状の透明の器「Gカップ」に水を入れ、それを車両のフロントウインドーに取り付けて走行。Gカップの水をこぼさないように気を遣いながら、合わせてできるだけ短時間でコースをクリアする「スムーズな運転」を競う特別ルールが用意されていた。

 注ぐ水の量や、減った水の量のチェックは目分量ではあるが、10cc減るごとに完走タイムに2秒加算するという厳しいペナルティが課される。上位入賞者には賞品がプレゼントされることもあり、参加者らは否応なく盛り上がった。

 参加者それぞれで練習走行2回、本番走行2回を行ったものの、人によって戦略はまちまち。練習走行では大胆に走り、どれくらいのペースでどれだけ水がこぼれるのか確かめつつ本番に挑む人、慎重な運転に徹し、時間をかけてでもペナルティゼロを目指そうとする人などさまざまな工夫が見られたが、いずれにしろ、上位を狙うには可能な限り急激なGを発生させないようにする運転の滑らかさが必要。ここまでの練習走行でインストラクターから教わってきた、数々の安全・円滑な運転テクニックを本番でどれだけ活かせるか試される。

水がこぼれないギリギリを狙って、慎重に、あるいは大胆に走る参加者たち
しかし、加減速時やコーナーリングでのロールによって水がこぼれていく
上位の成績を残した人には日下部氏から賞品がプレゼントされた

 試しにということで、筆者もタイムアタックに参加させてもらった(上位になっても賞典外)ところ、加減速時はある程度までは勢いがあってもこぼれにくいものの、コーナーでは少しでもハンドリング操作に滑らかさが欠けると容赦なく水が減っていく。しかし、じんわりとGがかかっていくように運転すれば、速度が乗っていても意外に水がこぼれることなくクリアできることが分かった。

 結果としては、タイム自体はトップ相当だったものの、水が30ccこぼれて6秒加算となり、あえなく2位相当に陥落。“ロールが大きくなりがちなミニバンだから”と言い訳したいところだが、そういう車種であるからこそ、よりいっそう滑らかで慎重な運転が求められるだろうとも感じた。

 なお、プロスペックによる次回のドライビングスクールは、2015年1月ごろに長野県 女神湖での開催が予定されている。運転が上手になりたい人、同乗者に安心してもらえるような運転テクニックを身に付けたいという人は、ぜひ同社のWebサイトをチェックして次回以降の参加を検討してほしい。

(日沼諭史)