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メルセデス・ベンツ、最新モデルに対応する板金塗装技術の説明会

「アルミハイブリッドボディー」や「レーダーセーフティ」などを正しく修復

2015年7月31日開催

説明会で実演デモを担当したサービススタッフの4人

 メルセデス・ベンツ日本は7月31日、千葉県習志野市にあるメルセデス・ベンツ日本 習志野トレーニングセンターで、報道向けの「板金塗装(Body&Paint)技術メディア説明会」を実施した。

 近年のメルセデス・ベンツのモデルでは、5月に発表した「メルセデスAMG GT」で採用する90%以上にアルミニウムを使うシャシー技術の「アルミニウムスペースフレーム」や、2014年7月から販売を開始した「Cクラス」で採用するアルミニウムと高張力鋼板などを組み合わせた「アルミニウムハイブリッドボディー」など、鉄以外の材料を外装パーツやシャシーに多用。軽量化によって車両の運動性能や環境対応力を向上させている。

 また、将来的な「クルマの自動運転」に向けた要素技術の開発と合わせ、各メーカーでブレーキの自動制御やレーンキープ技術などの市販化が進んでおり、メルセデス・ベンツモデルでもレーダーとカメラを組み合わせて使う「レーダーセーフティパッケージ」を採用。ほかの車両や歩行者などとの衝突の危険性を低下させる「PRE-SAFEブレーキ」、補正ブレーキを働かせて車両を車線内に戻そうとする「アクティブレーンキーピングアシスト」などの先進安全装備を導入している。

 こうした新しい技術の採用により、クルマの商品性は大きく高められているが、一方で事故などのトラブルで板金塗装(BP)などの修理が必要になったときにはこれまでと異なる技術などが必要になる。また、とくに先進安全装備については、正しく修理が行われないとシステムが誤作動してしまう危険性もある。そのため同社では、自社におけるBP技術に対する考え方や採用している技術、指定BP工場の基準などを紹介し、ユーザーに適切な修理の重要性をアピールしている。

メルセデス・ベンツ日本 代表取締役副社長 サービス・パーツ部門担当 荒垣信賢氏

 説明会は2部構成となっており、はじめに行われたプレゼンテーションでは、まずメルセデス・ベンツ日本 代表取締役副社長 サービス・パーツ部門担当の荒垣信賢氏が登壇。荒垣氏は「おかげさまで新車販売は大変好調に推移しております。昨年は初めて6万台の大台に乗る新記録でありました。今年の上期につきましても対前年比で19%増となっており、これも新記録です。新しいモデルを続々と投入したり、MBコネクションでの活動や豊橋VPC(新車整備センター)に併設した『デリバリーコーナー』など、新しい斬新なマーケティング手法も台数増加に寄与しているものと思います。一方でこれだけ新車販売が伸びてきますと、市場を走る保有台数もどんどん増えます。現在でも約63万台のメルセデス・ベンツ車が国内を走っていますが、現在のペース、あるいはそれ以上の新車販売のペースになると、これがさらに増えていくことになります」と語り、好調に伸びている同社の販売について解説。

 これをふまえ「最新のモデルでは、例えば『レーダーセーフティパッケージ』が新車の90%ぐらいに付いている状態で、こういった車両が不幸にして事故などに遭ってしまった場合、その修理はきちんとしたものでなければなりません。センサー1つの取り付け方、角度や位置といったものが少しでも間違っているだけで、必要なタイミングで作動しなかったり、あるいは本来は作動してはいけないところで警報が鳴ってしまうようなことが起きます。一般の修理工場のみなさんもいろいろな努力はされていると思いますが、最終的な検証作業なしということでは、どこかで車両が危険な状態に陥る可能性があります」

「また、車両の軽量化や剛性強化などを目的に、アルミや超高張力鋼板といった新しい部材が使われるようになっています。昨年発表した新型Cクラスでは、アルミニウムハイブリッドボディーを採用しており、発表会ではアルミとスチールという異なる素材の結合技術について説明させていただきました。この点でも、(生産する)工場ではできても、市場に出たあとのクルマには対応できないということでは、私どもの安全に対する責務が果たし得ません。そこについてもきちんとした知識と技術、そしてツールを完備している正規販売店ネットワークに来ていただく必要があります」

「そこで私どもでは、しっかりした技術を伴い、道具や設備が整った『認定板金塗装工場』という制度の拡充を進めています。単純にボディーを叩き出す、ペイントするといった技術を持つ町の工場は実際に多いのですが、その先にある、仕上がったあとに校正を実施して検証されるためには、正規のツールや知識などが必要になります」と解説。先進的な安全装備やスチール以外の部材が多用されるようになった最新のメルセデス・ベンツモデルの魅力を維持するため、万が一の事故のときには指定BP工場を利用することが重要であるとアピールした。

安全に対する対策の一例として、2014年2月以降にデリバリーした新車すべてに装備している「レスキューQRコード」についても解説。ハイブリッドモデルの高電圧ケーブルや搭載位置の増えたエアバッグなどの情報をインターネット上で確認でき、大きな事故のときにもすばやく安全に車体が切断できるようになる仕組み
気に入った車両を長く乗り続けてもらうため、保証やロードサポート、メンテナンスパックなどのアフターケアを充実させているほか、以前にあった「オーナー表彰制度」を2010年から再開。実際に100万kmに到達したオーナーも存在するという

 荒垣氏に続き、指定BP工場における技術の概要などについて、メルセデス・ベンツ日本 技術部 技術フィールド課 マネージャーの寺島友義氏が解説。「ボディー修理によるカメラやレーダーセンサーへの影響」「軽量ボディー構造、及びその修理時注意すべきこと」「塗装の際注意すべきこと(クリアコートについて)」「メルセデス・ベンツ正規販売店指定板金塗装工場」の4点に分けてそれぞれ内容を紹介した。

「ボディー修理によるカメラやレーダーセンサーへの影響」では、最新のメルセデス・ベンツモデルに採用が進んでいるレーダーセーフティを取りあげ、この装備を採用する車両では、修理にあたってセンサー類を正しい位置に取り付けることが必要であり、カメラは専用の車両診断機やスペシャルツールによるキャリブレーション(校正)を行う必要があると紹介。また、正しく修理されなかった場合の例として、フロントバンパー内に設置されている短距離レーダーセンサーの取付不良についてムービーで解説。問題のない走行状況で隣のレーンを走る車両にセンサーが誤って反応し、車内に警報音が鳴る状況と、修理時にセンサーがわずかに間違って取り付けられていることを写真で紹介。本来と異なる取り付けでは機能が正しく働かないことに加え、このわずかなミスがセンサーの脱落に繋がった場合、不意に車両が急制動するおそれもあると語った。

メルセデス・ベンツ日本 技術部 技術フィールド課 マネージャー 寺島友義氏
メルセデス・ベンツの先進安全支援システム「レーダーセーフティ」。レーダー、ステレオカメラ、センサー類などを組み合わせて車両の周囲を360°チェックし、「PRE-SAFEブレーキ」「アクティブレーンキーピングアシスト」など多彩な機能で運転をアシストする
車両の周囲をスキなく確認するため、レーダーセーフティの採用車などには従来はなかった多数のセンサー類がボディー各所に設置されており、それぞれに決まった設置方法があるため、修理するときには正確な情報が必要となる

「軽量ボディー構造、及びその修理時注意すべきこと」では、2010年の「SLS AMG」、2012年の「SLクラス」ではフルアルミニウム、2013年の「Sクラス」、2014年の「Cクラス」ではアルミニウムハイブリッドボディーを採用し、以前は限定的なモデルとなっていたアルミニウムなどの部材がCクラスのような生産台数の多い車両でも使われている現状を解説。Sクラスのボディー構造を例に挙げて、アルミとスチールを組み合わせた構造と事故発生時の応力分散、アルミを使っている部分は修理できないため交換が必要になることなどを解説し、この交換には特殊な技能と機材が必要になると明かした。また、Bピラーには「極超高張力鋼」という非常に硬い鋼材を使っており、事故後に交換するときには溶接ではなく、接着剤とリベットを使って接合することを紹介した。

 このほか、新型のCクラスで採用された世界初の片面接合技術「ImpAcT(インパクト:Impulse Acclerated Tacking)」について解説し、このインパクトで構成されたボディーにも専用の補修方法が用意されていると語っている。

「塗装の際注意すべきこと(クリアコートについて)」では、メルセデス・ベンツモデルの指定塗料となっているクリアコートが高い耐擦り傷性を持ち、さらに熱によって復元する能力も採用していることから、修理時に一般的なクリアコートを使ってしまうと、経年変化で傷の付き方に差が出てしまうと解説している。

 これらの理由から、正規販売店の指定BP工場で作業することが、修理後にもユーザーに安心して車両を使ってもらうために非常に大切で、指定BP工場の整備に注力しているとした。指定BP工場は1990年代に20個所存在していたが、ボディー構造の進化や先進安全装備の登場などを受けて2013年に基準の全面見直しを実施。現在ではレベル1~3の3段階で、全国に計38個所を展開している。

メルセデス・ベンツにおけるアルミニウムボディー採用の歴史と展開拡大。量販モデルのCクラスでも採用がスタートし、今後は市場に出まわるアルミボディーの車両が大幅に増えていく流れだ
Sクラスのアルミニウムハイブリッドボディーの構成図。ルーフや車両の前後部分などにアルミ材を多用していることが分かる
アルミニウムとスチールを特殊なリベットを貫通させて接合する世界初の片面接合技術「ImpAcT(インパクト)」
インパクトを使った車両生産シーン
先の尖ったリベットが2種類の異なる部材を貫通。リベット側面に施された凹凸が重なり合う双方の部材と噛み合う摩擦で、片面からのリベット接合を可能とする
ドイツで実施されたボディー修理のテストでは、正しい修理が行われなかった場合にエアバッグの展開が20ms遅れて本来の乗員保護性能が発揮できなくなっていたことをグラフで紹介
ダイムラー指定のクリアコートは傷に強く、熱で傷による凹みが押し戻される機能を持つ
3点の項目で指定BP工場での修理が必要になると結論づけている
指定BP工場は、スチールボディー専門のレベル1から、フルアルミボディーの修理依頼も可能なレベル3まで3段階。全国に計38個所が存在する
レベル2から上の指定BP工場には、アルミ材を研磨したときなどに発生する粉じんで爆発事故などを起こさないよう、専用ベイが設置されている
指定BP工場の位置を紹介する一覧

アルミボディーのリベット接合やセンサー校正のBP技術デモを実施

アルミボディーのリベット接合で利用されたSLクラスのホワイトボディー

 プレゼンテーション後には、指定BP工場ならではとなるアルミボディーのリベット接合やセンサー類の校正作業などを実演するデモンストレーションを実施。日常的に指定BP工場で実際の作業に携わっているサービススタッフが、作業の手順や通常とは異なるポイントなどについて解説しながらデモが進められた。

オールアルミボディーのSLクラスのパーツ交換で必要になるリベット接合のデモ。指さしで紹介しているのは工場生産時のリベット接合で、パーツ交換では異なる接合技術が必要となる。今回のデモでは、下側の右から3つ目のポイントを接合する
リベット接合で使われる「XPress800」というリベッター。先端で前後から挟み込んでリベット接合を行い、先端部分を交換して既存リベットの除去にも使われる
接合する部分にリベットを入れ、XPress800をそえてトリガーを引くだけで接合完了
工場生産時の状態ではリベットだけで接合されているが、パーツ交換の際には接合強度を高めるため専用ボンドを使用する。ボンドは2液式となっており、ノズルの先から押し出されるときに混ざり合う仕組みとなっている
リベットは「S」と刻まれたスチール用、「A」と刻まれたアルミ用の2種類が用意されている。それぞれの数字はサイズ(長さ)を意味しており、数字が大きいほど長いリベットとなる
工場生産時とパーツ交換時のリベットを比較する見本。交換手順は4段階となっている
工場生産時のリベット裏側。盛り上がって凸状になっているのはプレートのアルミ材で、リベットの先端は凸部分の内側で開き、2枚のプレートを固定している
極超高張力鋼を使うBピラーの穴開けデモ
最初に一般的なスチール用のドリルビットを装着してテスト。ドリルビットに問題がないよう、パッケージから取り出したばかりの新品を使っている
両手で力をかけ、途中で切削油を使いながら何回かに分けてトライしたが、表面が細かく削れるだけでドリルビットが進んでいく気配がない。削れているカスも、一部はドリルビット自体ではないだろうか
1本数万円という極超高張力鋼用のドリルビットに変更。スチール用と比べてグイグイ進んでいくことが見て取れるが、作業スタッフの右膝の角度から、かなり体重をかけて押し込んでいることが分かる
ちょっとした作業時間で貫通。穴の周辺に出ている削りかすの大きさを見ても2本のビットの差は歴然としている
事前のデモで開けられ、削りかすなどをきれいに除去した部分。四角い開口部の両サイドにデモの跡が残っている
左がスチール用、右が極超高張力鋼用のドリルビット
ドリルに固定された極超高張力鋼用のドリルビット。扱い方を間違えると、わずか数回でも使えなくなってしまうこともあるそうで、使う人の技量や知識なども重要となる
新型Cクラスを使ったセンサー類の校正作業のデモ
OBD2コネクターに診断機の車載器側をセット。液晶ディスプレイを備えるハンドセットとは無線を使ってデータをやりとりする。ハンドセットにはパナソニックのロゴが入っており、Windows OSで動作している
Cクラスのフロントウインドー内側に設置された「ステレオマルチパーパスカメラ」の校正デモを実施。フロントウインドーを交換したときなど、比較的作業が必要な場面も多そうな部位になる
ハンドセットの画面(デモでは見やすいように別体のディスプレイに表示されていた)に、正しい固定方法を確認できる写真解説を表示可能
「アクティブレーンキーピングアシスト」「アダプティブハイビームアシスト・プラス」が機能していることを示すステータス表示。「交通標識検知システム」は日本未導入のシステムだ
キャリブレーションの結果が「成功」となっており、校正が済んでいることを表示している
校正作業の細かな手順についてもカラー写真付きで分かりやすく詳細に表示。地上から1275mmの位置に、専用プレートの中心となる十字を合わせる
専用プレートの設置角度も非常に重要な要素となるため、プレート背面に水準器を備えている
クリアコートの耐擦り傷性と熱による復元のデモ。日本国内で流通している指定塗料は「スタンドックス」「R-M」「PPG」「シッケンズ」の4メーカーの製品
一般的なクリアコート(左側)と指定塗料となっているスタンドックスのクリアコート(右側)の両面を、乾いたまま洗車ブラシで30往復して傷つき具合をチェック
両側とも傷が入っているが左側の一般製品のほうは白く曇るほど大小の傷ができている
時間をかければ外気温でも復元するが、デモでは短時間で復元するよう電熱器を使用。3分ほど暖めて復元状態を確認する
中心の白いラインから左右ではっきりと差が出た。左側のクリアコートも暖められてある程度は復元しているが、右の指定塗料はあれほどの傷がほとんど消えている
会場となったメルセデス・ベンツ日本 習志野トレーニングセンター

(編集部:佐久間 秀)