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トヨタ、ヤンマーと共同開発した「TOYOTA-28 CONCEPT」公開

アルミ、カーボン、FRPを組み合わせた「トヨタハイブリッドハル」採用

2016年3月3日 公開

試験艇「TOYOTA-28 CONCEPT」の前で握手するヤンマー株式会社 専務取締役 苅田広氏(左)とトヨタ自動車株式会社 専務役員 友山茂樹氏(右)

 トヨタ自動車は、3月3日~6日に神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で開催されている国内最大のマリンイベント「ジャパンインターナショナルボートショー2016」に出展。この会場で、3月1日に発表したヤンマーと共同開発した「トヨタハイブリッドハル」を採用する試験艇「TOYOTA-28 CONCEPT」を公開した。

「トヨタハイブリッドハル」を採用し、試験艇としての第1号艇である「TOYOTA-28 CONCEPT」
名前の28は、このボートが28フィートクラスの製品であることを示している。トヨタが販売している「PONAM(ポーナム)」シリーズと共通する命名法則だ
エンジンの船外部分はヤンマー製。トヨタ製のエンジン本体は船内に設置されている
波を切り裂く船底前方部分
横方向への推力を得るためのバウスラスターも装備している
船首部分
後方のアフトデッキ
フロアはウッド調のデザインだが、実際には表面がソフトで海水などにも強い樹脂製となっている。エンジンリッドはデッキシートを兼ねる構造
出入り口をデッキ左側に設定
TOYOTA-28 CONCEPTのインテリア。ホワイトを基調とした開放感のあるスペースとなっている
操縦を行なうヘルムステーション
キャビンのドアはスライドタイプ
オーバルデザインの室内灯
サイドウィンドウにはカーテンも設置されている

10月発売を目標に開発中。供給能力拡大に向けてトヨタ・ヤンマーの協業を推進

トヨタ自動車株式会社 専務役員 友山茂樹氏

 開幕初日の3月3日にトヨタブースで行なわれた記者発表会では、トヨタ自動車 専務役員の友山茂樹氏、ヤンマー 専務取締役の苅田広氏の2人が登壇。はじめに挨拶したトヨタの友山氏は、「トヨタは現在、アルミ製の船体、いわゆるアルミハルと自動車用エンジンを採用したプレジャーボートを製造・販売しておりまして、その卓越した走破性や静粛性によって多くのお客さまから高い評価をいただいております。一方でこのアルミハルは剛性感に優れる半面、熟練した加工技術が求められ、生産量に限界があるなどの課題がありました。そこで2年前からアルミハルと同等以上の剛性を有し、かつ生産性の高いFRP、カーボン、アルミの複合素材による『次世代ハル』の開発を進めてきました」

「その過程で私たちは、ヤンマーさんが有する高度なFRP技術に着目しまして、昨年から生産技術開発を共同して進めた結果、アルミと同等以上の剛性に加え、アルミよりも軽量で複雑な曲面形状にも対応できる『トヨタハイブリッドハル』の量産化技術に業界で初めて目処を付けることができました。同時に、このハルを採用した試験艇を完成させ、従来の同型艇をしのぐ走破性、旋回性能を確認できました。それがこの『TOYOTA-28 CONCEPT』です。トヨタではこの試験艇の商品化も並行して進めており、ヤンマーさんに『トヨタハイブリッドハル』と合わせて舟艇の製造も委託する予定で、今年10月の発売に向けて鋭意準備を進めております」と、約半年後を目処にトヨタハイブリッドハル採用のボートを市販する計画であることを明らかにした。

 このほかにトヨタでは、トヨタハイブリッドハルをベースに商品ラインアップの強化を実施。同時に供給能力も増強するため、ヤンマーとの協業をさらに進めていくとしている。

 最後に友山氏は「今回、このような形でマリン業界では私どもの大先輩であり、長い歴史をお持ちのヤンマーさんとご一緒できる機会をいただき、大変光栄に思うと同時に、私どものお客さまによりよい商品がお届けできるものと期待しています」と語り、両社の取り組みがマリン業界全体の発展、さらに日本のマリンレジャー活性化につながることに期待を示した。

ヤンマー株式会社 専務取締役 苅田広氏

 ヤンマーで研究開発を担当しているという苅田氏は、今回の2社による協業が行なわれることになった経緯について、前年のジャパンインターナショナルボートショーの場で両社の関係者がマリンプレジャーの将来的な夢について語り合ったことからスタートのきっかけになったと紹介。2015年4月には開発委託の契約が結ばれたが、それから1年にも満たない短期間でこれほど新しいコンセプトの船を完成させるといったもので、造船業界では異例の開発プランであったと明かした。

 また、苅田氏は1933年に小型のディーゼルエンジンを世界で初めて実用化したことなどのヤンマーの歴史を解説。さまざまな商品を世に送り出し、マリン製品で長い歴史を持つヤンマーにとっても、今回のトヨタから提示された新技術の開発は非常に高いハードルだったが、挑戦的でやりがいのあるものになったと表現した。

 試験艇のTOYOTA-28 CONCEPTについては、「走りにこだわった小型高級マルチクルーザー」というテーマで開発を実施。新規開発したトヨタハイブリッドハルは、FRP材、アルミ材、カーボン繊維という3種類の素材で構成され、量産艇でこのような試みを行なうのは日本国内で初めてのことだと語っている。

 走りの面では、エンジンにトヨタが開発した新型260PSエンジンと、2重反転プロペラ採用のヤンマー製ドライブユニットを組み合わせて搭載し、輸入艇にも引けを取らない仕上がりになっていると解説した。

2艇のボートを展示するトヨタブース
ブース内には新開発したトヨタハイブリッドハルの強度を体感できるよう、ポーナムシリーズで採用している5mm厚のアルミ材、8mm厚のFRP材とそれぞれ上に乗ってたわみ具合などをチェックできる展示も行なっていた。乗ってみるとFRP材はわずかに沈み込む雰囲気だが、アルミ材とトヨタハイブリッドハルは変形する雰囲気のない剛性が感じられた
トヨタハイブリッドハルの技術解説パネル
TOYOTA-28 CONCEPTの主要諸元
トヨタハイブリッドハルはFRP材をベースに、アルミ材やカーボン繊維の補強部材を縦横に配置。ポーナムシリーズで採用するアルミハル同等の剛性を手に入れながら、重量は約10%低減。燃費なども向上するという
海外仕様の「ランドクルーザープラド」で採用する直噴ディーゼルターボエンジン「1KD-VH」をベースに、ボート向けの「マリナイズ」を行なった「M1KD-VH」エンジン
TOYOTA-28 CONCEPTにも搭載される「M1KD-VH」エンジン。海水による腐食を避けるための表面塗装などが行なわれており、最高出力は191kW(260PS)
エンジンについて紹介するパネル展示。冷却を海水で行なうことも大きな特徴だ
2014年10月に発売されたスポーツユーティリティクルーザー「ポーナム 31」
「M1KD-VH」エンジンを2基搭載し、価格は2970万円(税別)
開会式などが行なわれたイベントステージを挟んでトヨタブースと隣接するヤンマーブース
フィッシングプレジャーボート「EX38A」
フィッシングプレジャーボート「EX30B」
「EX38A」に搭載する「6CXB-GT」エンジン(左)と「6LY400」エンジン(右)
2013年にアメリカスカップで2連覇を果たした「オラクルチームU.S.A」のヨットで実際に使われていたステアリング。ヤンマーは同チームのオフィシャルテクニカルパートナーを務めている

(編集部:佐久間 秀)