岡本幸一郎のマツダ「アクセラ」インプレッション後編
「マツダスピードアクセラ」と「i-stop」を搭載した「ビアンテ」


 2009年6月にフルモデルチェンジしたマツダ「アクセラ」をモータージャーナリスト岡本幸一郎氏が試乗し、インプレッションする。前編では話題の「i-stop」を搭載した「20S」と1.5LエンジンにCVTを組み合わせた「15C」のレビューをお届けしたが、後編では、コンパクトなボディーに2.3Lターボエンジンを搭載した「マツダスピードアクセラ」と、i-stopシステムを搭載し、燃費性能を向上した「ビアンテ 20S」のレビューをお届けする。

マツダスピードアクセラ
 アクセラシリーズの中で、最もホットでスポーティーなグレードとなるマツダスピードアクセラ。このクルマは、専用のエアロパーツやインテリア、エンジンとトランスミッションが与えられるだけでなく、ベース車ですらかなり向上しているボディー剛性を、さらに専用に強化しれている。

ターボモデルならではのエアインテークの設けられたボンネットのほかにも、専用の前後バンパーや大型のリアウイングが装備され、18インチアルミホイールを装着

 パワートレインも、専用にチューニングされた足まわりも、基本的に従来の仕様を踏襲しているが、ギア比がやや高速よりに変更されている。また、従来パワステはエンジン出力による油圧式だったが、新型では電動ポンプ式の油圧式に変更されている。

 最高出力194kW(264ps)/5500rpm、最大トルク380Nm(38.7kgm)/3000rpmというスペックを誇る2.3L直噴エンジンは、やはりそれなりにパワフルだ。ブーストがかかったときの加速感は、今や貴重な存在ともいえるターボエンジンならではの醍醐味がある。ただ、このクルマの場合、何を基準にするかによって、見方だいぶ変わってくるのも事実だ。

大型インタークーラーを装備した2.3L直噴ターボエンジンマフラーもシリーズで唯一の左右2本出しになるタイヤは225/40 R18、ブレーキも大径化され、トルセン式LSDが標準で装備される

 アクセラの標準モデルである20Sや15Cを基準にすると、まるっきり別物なわけで、圧倒的にパワフルだし、ロール剛性をはじめ足まわりも引き締められている。しかし、同じく国産のハイパワースポーツ、「インプレッサWRX STI」や「ランサーエボリューション」あたりと比較すると、エンジンの速さの感覚はだいぶ控えめとなる。一方でシフトフィールやペダル類などの操作感は軽快なタッチで、いたって乗りやすい。乗り心地も悪くなく、あくまで標準モデル+α程度の硬さ感で、誰でも気兼ねなく乗せられる。

アクセルを踏み込めばターボらしい刺激的な加速でドライバーをその気にさせ、足まわりも適度に締まっていてキビキビ走る。決してナーバス過ぎず手軽にスポーティーな走りを楽しめる

 もともとこのクルマは、ラップタイム短縮のための限界性能の高さとか、本格的にスパルタンであることよりも、こうしたちょっとスポーティーであることをヨシとして開発された印象だ。それがこの270万円弱なのだから、コストパフォーマンスは高いと言えるだろう。

随所に赤いステッチとグラデーションパターンがあしらわれたマツダスピードアクセラのインテリアシートも赤ステッチとグラデーションパターンがあしらわれた専用のもの。運転席にはメモリー機能付き電動8ウェイパワーシートが装備される
メーターも専用品。280km/hまで刻まれたスピードメーターにやる気を感じさせるトランスミッションは3ペダルの6速MTのみの設定。2ペダルやATの設定はない
マルチインフォメーションディスプレイには、i-stopの表示やエコメーターは表示されないが、平均燃費や平均車速(写真左)、瞬間燃費と走行可能距離(写真中)、オイル交換などメンテナンス情報の設定(写真右)は可能

 それにしても、マツダスピードアクセラのようなクルマは、一昔前はいくらでもあったのだが、今ふと見わたしても、ほとんどなくなっている。マツダスピードアクセラは、その貴重な1台だ。しかもリーズナブルな価格で、ちゃんとスポーティな感覚を味わわせてくれるところがよい。実際、とくに北米では人気が高いらしいのだが、それがとても分かるような気がする。

ビアンテ 20S
 アクセラのモデルチェンジの2週間後、ビアンテにも、アクセラと同じく2LのFF車に「i-stop」を採用した「20S」(FF)が追加された。これにより10・15モードは13.6km/Lとなり、従来比で約7%の燃費向上をはたしている。

従来のビアンテと比べて、エクステリア、インテリアともに見た目の大きな変更はない。リアゲートに追加されたエンブレムがi-stopの証だ

 さらに、20SのFF車には、トリップコンピュータ(燃費計)およびエコランプが採用された。また、これまで設定すらなかった横滑り防止装置「DSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)」が標準装備されたことも注目だ。こうしたけっこう大きな変更を加えながらも、価格を据え置きとしたところは立派といえるだろう。なお、エコカー減税については、i-stop搭載の20SのFF車が75%減税、非搭載の20CSのFF車が50%減税となっている。

ビアンテのインパネまわりメーター内にi-stopのランプが追加されるが、アクセラのようにエンジン停止時間などは表示されない横滑り防止装置DSCが標準装備されたのも今回の注目のポイント

 ビアンテにはこれまで何度か乗っており、今回ひさびさに乗ったのだが、あらためて感じたのは、やはりこのカテゴリーにおいては、ビアンテはかなり王道を外したクルマだということだ。

 それは別に悪い意味ではなく、むしろ外しているからこそ存在価値があるのだ。後発モデルゆえ、しかもマツダの出す久々の背高ミニバンだけに、できるだけ「ヴォクシー/ノア」や「セレナ」、あるいは上の「アルファード」あたりとまったく“違う”クルマにしたかったんだと思う。それは、個性的な内外装デザインもそうだし、驚くほど広い室内や、3列目シートの座面をたたんで最後端まで下げると2列目をドーンと下げられるシートアレンジなど、いろんなところが特徴的に仕上げられていることに見受けられる。

 i-stopについては、いうまでもなくアクセラ同様の印象ではある。ただし、i-stopにまつわる小さなインジケーターこそ備わるが、アクセラのようなi-stopモニター(植林モニター)は付かない。ビアンテの開発当時には、こうなることまで先読みができなかったのだろう。それでも、どのくらいアイドリングストップできたか、やはり目で確認したいのが心情ってもの。将来的には導入されることに期待したいと思う。

エンジンはアクセラのi-stop搭載エンジンと同じもの。やはりバッテリーは2つ搭載され、AT用の電動オイルポンプなどが装備される
信号待ちでは当然エンジンは停止。「スマート」もアイドリングストップ機構を持つが、スマートのそれはとてもシンプルで、右折待ちでも車庫入れの切り返しでもエンジンが止まる
車重1670kgのボディーに2Lのエンジンではやはりパワー不足は否めない

 走りについて、i-stopを搭載した以外に大きな変更点はないのだが、やはり加速が物足りない。上り勾配になるとなおさらだ。2Lエンジン+5速ATを、この重量級ボディーに載せるというのは、ちょっと無理があるような気がしてしまう。それでもビアンテは、この価格帯で、ひとクラス上の価値が手に入れられるクルマには違いない。個性的デザインや独特の使い勝手は、好みが別れるところかもしれないが、本質はコストパフォーマンスが高く、とても“使える”ミニバンであることには太鼓判を押したいと思う。

(岡本幸一郎 Photo:安田剛)
2009年 7月 17日