電気自動車「i-MiEV」開発者インタビュー
i-MiEVにまつわる疑問や、電気自動車の今後の展開

i-MiEV

459万9000円



 三菱自動車工業の電気自動車「i-MiEV」の試乗会が報道関係者向けに開催された。そこでi-MiEVの開発者である同社の開発本部 MiEV商品開発プロジェクト マネージャーの貴志誠氏にインタビューする機会を得た。iが電気自動車のベースになった理由やバッテリーの寿命、航続距離を稼ぐ方法、開発に当たっての苦労話などをうかがった。その模様をお伝えするとともに、i-MiEVの静粛性について、車内・車外から動画で撮影したので、あわせてご覧頂きたい。

 なお、i-MiEVは現在、法人ユーザー向けに販売が行われており、7月23日から順次納車されている。一般ユーザーには来年の4月から販売する予定で、すでに購入希望の受け付けも行っている。


 

今回お話を伺ったのは、三菱自動車工業 開発本部 MiEV商品開発プロジェクト マネージャーの貴志誠氏。以前は同社のガソリン直噴システム「GDI」を搭載したギャランやレグナムなどの担当をしていたと言う

──iのプラットフォームを使った理由は?
貴志:どれだけ多くの電池を搭載できるかが、電気自動車のパッケージングを語るにあたり最大の焦点になります。iはミッドシップで、通常のFF車に比べてエンジンルームに余裕があります。ガソリンタンクも床下ですし。車体側を大幅に変更しないで電池を多く積めるという理由が大きいですね。

 それと、三菱自動車としてこれから電気自動車を世に出す、というアピールをするのに最適なデザインだったことが挙げられます。プリウスがハイブリッド専用モデルのように、電気自動車として独立したデザインのものに仕上げたかったのですが、少しでも早く発売したいという気持ちが強かったため、iをベースにしたのも理由として挙げられます。

──そもそもiは電気自動車を見据えて作られたものなのか
貴志:少なくともiのガソリン車を開発している段階で、電気自動車として流用するという話はなかったですね。電気自動車化の話が持ち上がったのはガソリン車を発表する前あたりで、iのパッケージは電気自動車に流用できるのではないかという話が持ち上がったのは、このあたりです。

──開発の際に苦労した点は
貴志:これはたくさんありますね(笑)。初の電気自動車なので、ベンチマークとなるものがない。性能はどこまで上げるのか、車としての味付けはどうするかなど、電気自動車の基準を作るところで時間を要しました。また、リチウムイオン電池の仕様についてや電池の安全性、特に衝突時の安全確保にはかなり気を使いました。電池自身もそうですし、電池を囲うケース、ケースとボディーを取り付ける形状についても苦労しました。

──最大航続距離を160kmにした理由は
貴志:ユーザーに対して、1日あたりどのくらいの距離を走りたいかというアンケート調査を行ったところ、1日30km、長くて60kmで十分という回答が多かった。一方、搭載できる電池の量で航続距離は変わるわけですが、物理的に積める量には限度がある。10・15モードで160kmと公表していますが、実際にはエアコンを使用したり、加減速を頻繁に繰り返すことにより、その数値は変動します。しかし、どんな悪条件下でも実力的にはおよそ80~100kmは航続可能でしょうから、買い物や送迎を主たる目的としているユーザーから不満が出ることはないと考えています。ユーザーが実際に1日で走る距離、それとバッテリーの量。その両者の兼ね合いを考えて決めました。

──バッテリーはどのくらいの寿命なのか?
貴志:使い方で大きく異なってくるので、なんともいえません。10年15万kmくらいは問題ないと考えていますが、バッテリー自身は充放電を繰り返しているうちに最大容量が徐々に減ってきますから。寿命を延ばす上手な使い方としては、なるべく減らしてから充電するということですね。あとは充電時間は延びてしまいますが、急速充電器を使わずに、家庭用の電源を使ってゆっくり充電するとよいでしょう。

 また、バッテリーは気温に左右されやすい。40~45℃といった気温が高いところでバッテリーを保管すると、寿命は短くなってしまいます。逆に気温が低いところでは活性化の問題で充電に時間がかかったり、出力する電流をモーターに流しにくくなるというデメリットも出てきますが、経時劣化でバッテリー容量が減るという意味では、高温の方が厳しいですね。満充電近くで頻繁に充電を繰り返すというのも、寿命を短くする原因となります。こうしたバッテリーとの上手な付き合い方についても、今後普及活動をしていかなくてはと考えています。

──何故ギアは変速がないものを採用したのか
貴志:i-MiEVは走り出しからトルク(最大トルクは180Nm/18.4kgm)のピークを出すことができますので、車に求められる十分な加速性能を、1つのギアで達成できますし、変速ギアを採用するとコストも上がります。また、機械である以上は部品点数が多ければ多いほど故障の原因にもなり得ます。そういう意味ではシンプルな構造の方がよいのです。それでも、iのターボ車と同等かそれ以上の加速感が得られますよ。

──操作そのものや実際に乗ったフィーリングはガソリン車と変わらないが、これは狙いなのか
貴志:その通りです。動力性能ではiのターボを凌ぐことを目標としています。電気自動車だからといって、特殊な操作をしなくてはならなかったり、運転したときに違和感をユーザーが感じてしまったら、これは電気自動車の普及の妨げになりますから。エンジンのフィーリング自体もガソリン車となるべく変わらないようにチューニングを施しました。

 具体的には、アクセルを踏み込んだときの加速の仕方に気をつけましたね。モーターというのは非常にレスポンスがよく、トルクも出しやすい。しかし、あまりに機敏になりすぎると逆にギクシャクした動きになってしまい、運転がしづらくなるのです。味付けの方向としては、4速AT搭載車に近いものにしました。実際に踏んだときのレスポンスはそれよりもよいですが。

──走行ポジションのすべてで回生ブレーキ機能は働くのか?
貴志:すべてのポジションにおいて、アクセルを離せば回生ブレーキ機能は働きますが、逆に言うと少しでもアクセルを踏むと回生はされません。これはガソリン車でアクセルを踏めばガソリンがエンジンに送り込まれ、離すとそれを止めるのと同様のことと言えます。回生は、DポジションよりもECOポジション、ECOポジションよりBポジションでより強く働きます。

──Dポジションである程度まで加速し、アクセルを離して惰性で走るのと、Bポジションで走るのとどちらが電気の消費を抑えられるか?
貴志:これは走り方によります。渋滞時などストップ&ゴーを繰り返すような道路状況でしたらBポジションの方が有利ですね。一方、流れのよい道ですとDポジションの方がアクセルのON/OFF操作が頻繁に求められません。このような状況でBポジションで走行すると、回生ブレーキの効きが強い分、余計にアクセルを開けてしまうことになります。そうすると結果として電力を使ってしまうのです。一般的には、下り坂などが続く場合はBポジション、車の流れがよくなったり悪くなったりする状況でしたらECOポジション、スムーズに走れる状況ならDポジションに入れておけばよいと思います。

──ガソリン車では急発進・急制動は燃費に影響するが、i-MiEVではどうか
貴志:まったくガソリン車と同じですね。このような走り方は電力を著しく消費しますので、航続距離を稼ぎたい場合は、スムーズな運転を心がけて頂きたいと思います。ガソリン車との一番の大きな違いは、アクセルを離したときに電気(燃料)が戻ってくるという点です。そのメリットを最大限に活かした走らせ方をして頂きたいと思います。

──企業へ向けて納車が開始されたが、想定外の反響などはあるか
貴志:「加速がよい」とか「静か」といった声がおかげさまで多く、現時点で大幅な改良をしなければならないものはありません。強いて言うのであれば、これは納車後の反応というわけではないのですが、電力会社との共同実験を行っていた際に、エンジンがかかっているかどうか分からない、要するに「音」がしないという声はありましたね。

 また、急速充電器のインフラ整備について、いろいろなご意見を聞きます。そもそも遠出しないという方は、1日50kmも走れれば十分満足だから必要ないと仰いますし、ガソリン車とまったく同じように遠出をしたい方は、充電切れしたらどうしようと気にされます。今後、各電力会社やコンビニエンスストアのローソン、それとショッピングセンターのイオンなどと協力して、給電拠点を拡大していきたいと思っています。i-MiEVを発売しようとした3年前は、誰も電気自動車に興味を持たなかったのですが、現在はインフラ整備の話を含め、“普及の時期”に突入したことを私自身実感しています。

 今後課題となるのは、電気の転売が禁止されているため、急速充電器を導入した店舗などが、ユーザーに対してどう販売していくのか、また急速充電器自体が数百万という値段のため、来年の4月から一般販売される頃までに、果たしてどこまで普及していくのかということが挙げられます。普及の鍵は政府、自治体、電力会社の協力如何になってくる。神奈川県などは電気自動車に対して積極的な考え方ですので、給電拠点の増設は多分にあると思いますね。

急速充電器も会場に展示してあった普通充電システム用のガン。このガンを使って一般用コンセントと車両側を接続し、充電を行う。充電ケーブルは標準装備

──電気自動車モデルの今後の展開については?
貴志:今回、iのガソリン車をベースにして電気自動車化し、その成果として電池パックやモーター、インバーターなどコンポーネントが完成したので、今後そのプラットフォームを使ってスポーツカー、商用車などをリリースしていきたいと考えています。さらにその後、ひと回りサイズの大きいコンパクトカーベースの電気自動車化を目指しています。

 また、もっと大きなボディーサイズの車も検討していますが、車自体が大きくなると、より長い航続距離が求められるようになります。そのため、基本は電気で走り、その補助としてエンジンを搭載するプラグイン・ハイブリッドモデルも検討しています。

──i-MiEVを完成させた今の感想は?
貴志:非常にやりがいのある仕事でした。量産化を目指した電気自動車というのは、過去に例を見なかったと思いますから、i-MiEVの開発に携われたことは素直に嬉しいですね。完成度には自信がありますが、今後一般のユーザーの方々にも使っていただくことで、課題が出てくることもあるでしょう。若干の不安もありますが、楽しみでもありますね。いずれにしても、今は完成した安堵感でいっぱいです(笑)。

i-MiEVの車外および車内の様子

【お詫びと訂正】記事初出時、充電システムのガンの説明を急速充電用と記載しておりましたが、正しくは普通充電用となります。ご迷惑をおかけした皆様にお詫びを申し上げるとともに、訂正させていただきます。

(編集部:小林 隆)
2009年 8月 10日