JIMTOF2010で「GT-R」のエンジン手組み工程を実演
エンジン組立工程の公開は工場見学以外で初

JIMTOF2010(第25回日本国際工作機械見本市)

2010年10月28日開催



 10月28日に東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で開幕した「JIMTOF2010(第25回日本国際工作機械見本市)」において、日産「GT-R」のエンジンやトランスミッションの手組み工程を展示するとともに、一部工程を実演する催しが行われた。

 JIMTOF2010は工作機械などの展示会で、今回は“モノづくり 未来を創る 夢づくり”をテーマに開催。主催者の企画展示としてGT-Rのパワートレーンの展示が行われた。エンジン組立工程の公開は工場見学以外で初公開となった。


展示ブースでは、GT-Rの実車よりも組立途中のエンジンのほうが人気が高かったように見える

GT-Rの実車、エンジン、トランスミッションを展示
 展示ブースには、2011年モデルとして発表されたばかりのGT-R EGOISTが展示されたが、今回のメインは作業台の上に固定された作りかけのVR38DETTエンジン。来場者の多くもGT-R本体よりも展示されたパーツなどに注目していた。

 エンジン手組み工程の実演では、タイミングチェーンまわりの手組みを実演するため、タイミングチェーンが組み付けられる一歩手前の段階で止められ、傍らには実際にエンジンを製造する横浜工場で使われる工具やパーツが置かれていた。

 製造途中のエンジンのほか、完成したVR38DETTエンジン、後方にはトランスミッションのカットモデル、ギアをはじめとしたトランスミッション関係のパーツなどが展示された。

 また、今回は自動車のパーツや技術の展示というよりも、「匠」の技の紹介に重きを置いた展示となっている。パネル展示では、日産の熟練作業者「匠」育成プログラムの紹介や、こだわりの製造工程紹介といった展示がなされ、機械任せでは到達できない職人技を見て、別の観点からGT-Rの“モノ”としての凄さが分かるようになっている。

組み立て途中のVR38DETTエンジン。タイミングチェーンがない完成したVR38DETTエンジン展示されたGT-R EGOIST
作業台に固定された制作途中のGT-Rのエンジン実演で使う工具類と左端にはタイミングチェーンとスプロケット等バルブクリアランスを測定するシックネスゲージ。GT-Rの調整パラメータがIN/OUTとも記載してある
匠による組立体制GT-Rのエンジンは全数パワーテストを行って性能を保証している匠集団の体制。匠、準匠、準匠候補と3ランクのピラミッド体制だ
展示されたGT-Rのトランスミッション。愛知機械工業による手組み製品手前のパイプはギアへ潤滑油を供給するためのもの精度の高い磨きあげられたギア
愛知機械工業の技術、ギアの歯面を仕上げる技術トランスミッションの洗浄などの工程を説明トランスミッションの品質を保証

日産自動車横浜工場第一製造部エンジン課の杉山秀吉氏

「匠」によるエンジンの手組み実演
 開幕初日と30日の土曜日には、「匠による超高性能パワートレーンの手組み工程展示」と題し、日産の「匠」が会場に出張してエンジン製造工程の一部を再現する催しが企画され、28日に手組み工程を披露するデモンストレーションが行われた。

 GT-Rのエンジン製造は、1エンジンに1人が専属で携わり、最初から最後まで手作業で組み立てが行われる。組み立てに要する時間は1台あたり200分。テスト工程まで含めると300分ほどかかり、1日あたり2台がやっとのペース。

 会場では、組み立て工程をすべて実演するわけにはいかず、まず工程をまとめたビデオが上映され、エンジン製造に30年以上携わったと言う日産自動車横浜工場第一製造部エンジン課の杉山秀吉氏が解説し、さらに、そのうちの一部を実演するというスタイルが取られた。

 上映されたビデオは横浜工場での製造工程を撮影したもので、熟練度1、2を争う匠による製造工程が披露された。横浜工場では、ガラス張りのクリーンルームがあり、GT-Rのエンジン製造はすべてそこで行われる。クリーンルームで作業する理由は、回転部や動弁部にチリやホコリが付着したまま製造すると、エンジン出力低下の原因になるため。クリーンルームでの自動車エンジン製造は国内でも初の取り組みで、クリーンルーム内は1年を通して室温23度、湿度51%に保たれる。

 ここでは、1台のエンジンを1人の匠が組み上げ、テストまでも1人の匠が担当し品質に責任を持つ体制を敷いている。杉山氏によれば、匠それぞれ個人バージョンのエンジンになると言っても過言ではないほど、1台1台、情熱を持って組み付けていると言う。

 また、組み立て工程では、電動ツールを使ってシリンダーヘッドを固定するが、その際の角度や締付トルクなども、エンジンの履歴としてデータが保存される。エンジンナンバーを辿ることで、製造した匠をはじめ、製造データをいつでも調べることができるようになっていると言う。

 ビデオ上映の後は、メインイベントとなる手組みの実演が行われた。杉山氏が「No.2匠」と評する塩谷泉氏が登場、タイミングチェーンをはじめとしたパーツの取り付けを実演した。

 寡黙に作業を進める塩谷氏は、組み上げの際、トルクレンチの操作や合いマーク合わせで指差喚呼を行うなど、1つ1つの工程を確実かつ丁寧にこなしていく。途中、杉山氏が何度かボルトの締付トルクの値を質問するが、塩谷氏はすぐに値を返答した。GT-Rのエンジン製造に携わる匠たちは、すべての製造工程を頭に入れており、パーツ1つ1つの配置はもとより、個々の締付トルクまでもすべて覚えていると言う。

 タイミングチェーンを取り付けた後は、カムとリフターのクリアランスの確認作業に入る。シックネスゲージで測定するのだが、ゲージを差し込む力の加減によって誤差が生じることがある。匠たちは皆、ゲージを使う力の加減を、訓練によって体得していると言う。

参加者が実際に工程の一部を体験した

 手組み実演では、匠による実演のほか、来場者参加による組み付け体験も行われた。初回は来場者の中から選ばれた男性が、シリンダーヘッドにバルブリフターをハメ込む作業を体験した。すっぽり入れるのが難しいという作業だが、すぐにはめ込むことができ、会場の拍手を誘っていた。

 なお、GT-Rは2011年モデルから出力が530PSにパワーアップされているが、パーツや細かなチューニングが異なるだけで、製造工程そのものに基本的な違いはないとのことだ。

シリンダーブロックに液体ガスケットを塗りこんでいるところエンジンの手組み工程エンジンの手組み工程
全開性能試験の様子全開で回し、ターボが赤く焼けるまで1台1台テストが行われるスプロケットをカムシャフトに組み付けている
バルブクリアランスを測定しているタイミングチェーンがかかったエンジンバルブリフターをハメ込む作業のために用意されたシリンダーヘッド

モノづくりについて語る匠たち。左から愛知機械工業の松浦氏、松本氏、日産の杉山氏、塩谷氏

愛知機械工業でも、トランスミッションを手組み
 GT-Rの手組み工程はエンジンだけではない。今回実演はなかったが、GT-Rに搭載されるGR6型デュアルクラッチトランスミッションの製造を担う愛知機械工業からも匠が駆けつけ、手作業で製造するGT-Rのトランスミッションについて語られた。

 たくさんのギアが詰まったトランスミッションの製造においてもクリーンルームが使われ、常時気圧が高くなる部屋を作り、外部の汚れた空気が入らないようにして製造するといった手組みでの注意点を、永徳工場第三製造課の松本吉広氏が語った。

 また、永徳工場技術部駆動開発グループの松浦恭信氏は、同社での匠育成の取り組みとして、選抜者が作った製品の現物を使い、匠の“カンコツ”を次の世代に吸収してもらう試みを行っているなどの話がなされた。また、松浦氏は工程設計が担当だが、製造に使う治具や工具の提供を通して匠を支援していると言う。

エンジンの手組み実演は30日にも実施
 「匠による超高性能パワートレーンの手組み工程展示」は、30日の土曜日にも11時と13時に行われる。

 手組みの実演には、マイナーチェンジ発表後で忙しいはずの匠たちが、GT-Rエンジン製造日程を調整して駆けつけているとのことだ。匠たちの実演を見てみたいなら、ぜひ会場を訪れてほしい。

(正田拓也)
2010年 10月 29日