氷結した女神湖で氷上ドライブを体験
「iceGUARD TRIPLE PLUS & PROSPEC Winter Driving Park」

iceGUARD TRIPLE PLUS & PROSPEC Winter Driving Park参加記念写真

2011年1月22日開催



 プロスペックが主催するスノードライブレッスン「iceGUARD TRIPLE PLUS & PROSPEC Winter Driving Park」が1月22日、女神湖(長野県北佐久郡立科町)で開催された。

 このドライブレッスンは、湖面が完全氷結した女神湖上で、スノードライブを学ぶというもの。毎年開催されており、今年は30名の募集枠に対して29名(1名は直前キャンセル)が参加した。

 レッスンは、ブレーキ操作などを学ぶ「ブレーキング及びスラロームエリア」、アクセル操作を学ぶ定常円旋回や8の字コースの「アクセルワークエリア」、総合操作として各種のコーナーが設けられた「ハンドリングエリア」の大きく3つに分けられたコースを走行することで行う。

 基本的には、持ち込み車両を使ってレッスンを受けるイベントなのだが、後援の横浜ゴムにより、最新スタッドレスタイヤ「iceGUARD TRIPLE PLUS iG30」を装着したスクールカーも用意されていた。

女神湖わきにある女神湖センター。イベント当日は、受付会場や講義会場として使用全面氷結した女神湖。氷の厚さは30cm~40cmくらいとのこと赤いパイロンで囲まれたところは、夏は桟橋となっていたところ。パイロンの外側は湖
午前中に路面(湖面)温度を測ってみた。温度は-17.7度気温を測定中。気温は-8度~-7度雪をかぶっているところ以外は、凍った湖面が見える
参加車両は、スタッフの手によって各部が洗浄される。これは湖上を汚さないようにするため掃除が終わった車両は、氷結湖面へと誘導される。その後、女神湖センターで、イベントの説明を受ける

氷結路面を思う存分走行可能
 最初にプロスペック代表である日下部保雄氏より、当日のレッスン方法についての説明が行われた。昨年までは、各車両に無線機を取り付け、1台1台レッスンを行っていく方式だったのだが、待ち時間がどうしても発生してしまうため、今年は3つのコースを自由に走行できるフリーレッスン方式を採用。午前中は50分の走行2本と、講義を1本行い、午後は同じく50分の走行2本と、仕上げとしてタイムアタックイベントを行う。

 インストラクターは、元アジアパシフィックラリー選手権チャンピオンの片岡良宏氏、スーパー耐久シリーズに参戦していた實方一世氏や松井猛敏氏、岸剛之氏の各プロドライバーのほか、プロスペックのスタッフが務め、各参加者は自由に疑問点を聞いたり、同乗走行を依頼したりできる。もちろん元ラリードライバーである日下部氏に依頼することもでき、1日たっぷり氷結路面を楽しめるプログラムとなっていた。

朝の説明風景。女神湖センターの食堂を使用して行われたプロスペック代表日下部保雄氏。日本人として初めて海外ラリーを制覇した名ラリードライバー。元全日本ラリーチャンピオンでもある当日のプログラム。氷結湖上を50分×4本走行できる
コースは3つのエリアに分かれているコース拡大図。ブレーキ操作やアクセル操作、ステアリング操作などが学べる氷結湖面を思い思いに走る各参加者。3つのエリアのどこを走ってもよい

運転の勉強になる氷結路面
 記者も参加者に混じって氷結路面を走ってみた。使用した車両は体験用のスクールカーとして用意された車両の1台である三菱自動車工業のSUV「RVR」。駆動方式は、4WDとなっており、タイヤにはiceGUARD TRIPLE PLUS iG30を装着していた。

 最新のスタッドレスタイヤ+4WDということもあって、発進はスムーズに行える。女神湖上は氷結路面と言っても、雪をかぶっているところがあり、そこでのグリップはダート路面と同様の感覚。加速や減速は問題なく行え、ステアリングを切れば、クルマの向きも素直に変わる。

 だが、氷がむき出しとなった路面になるとさすがに様相が変わってくる。ブレーキング及びスラロームエリアでは、40km/hまで加速し目標パイロンでブレーキを踏むのだが、踏んだ瞬間からABSが作動。軽い振動を伴いつつも、目標地点で止まれない。とくにアクセルワークエリアの定常円旋回は全面氷結となっており、向きを変えるきっかけがなかなつかめない。
 トラクションコントロールスイッチをONにすれば、ややステアリングが効くようになるものの、前に進もうとする力が弱まる。かといってOFFにすれば、スライドが楽しめるものの、進む方向がクルマ任せになってしまう。

スクールカーとして用意された各車。MRの電気自動車「i-MiEV」をはじめ、各駆動方式がそろえられていたRVRの4WDモデル装着するスタッドレスタイヤは、横浜ゴムのiceGUARD TRIPLE PLUS iG30。今シーズン発売された最新スタッドレスタイヤ。転がり抵抗の低減を図るなどエコ性能を進化
氷結湖面でも雪のあるところでは、快適に走行することができる
定常円旋回の部分はご覧のようにアイスバーン。さすがに最新4WD車といえども、すぐにスピン状態に移行するハンドリングエリアでは、1台ずつミニコースに挑んでいく

 最新の4WD車といえども、完全氷結湖面ではコントロールが難しく、クルマの特性があらわになってくる。この低速域で現れるクルマの特性を学ぶというのもレッスンの目的で、各参加者は氷結路面に苦労しつつ、クルマのコントロールを身に着けているように見えた。

 とくに午後のレッスンでは、参加者が慣れてきたせいか、各車の速度が上がっているのが目に見えて分かる。参加者に聞いてみたところ、「十分な時間走れるので、あれこれ試してみることができる」と言い、愛車の特性を学んでいたようだ。

 記者は、氷結路面での向きを変えるきっかけ作りのコツがなかなか掴めなかったため、日下部氏に同乗走行を依頼してみた。日下部氏によると「そういうときは、やはりグリップが回復するまで速度が落ちるのを待つしかないですね」とのこと。ただ、日下部氏のステアリング操作を見ていると小刻みに左右に動かしており、「自分は路面の状態を探るように、ステアリングを(左右に)入れたりしています」と言いながら、巧みに路面を捉えてクルマをコントロール下に置いていた。

同乗走行中の日下部氏。ステアリングさばきは素早く、そして的確。路面状況を探るため、小刻みなステアリングワークを繰り返していた

日下部氏がスタッドレスタイヤを講義
 午前中に行われた講義の時間では、日下部氏がスタッドレスタイヤのテクノロジーを参加者に語った。日下部氏の講義は、日本は緯度が低いにも関わらず、なぜ日本でスタッドレスタイヤの性能が向上したかということから始まった。

 よく知られているように、日本の冬は非常に冷たい偏西風が日本海の水気を巻き込みながら日本列島に吹き付けられ、それが山岳地帯にぶつかることで大量の雪を降らす。日下部氏は、日本は気温のわりに降雪量が多く、また気温が高いため、積もった雪が溶けやすい環境にあると言う。

 さらに人口密度が日本は高い。例えば北海道旭川市の人口は50万人で、札幌市は200万人。欧州などと比べて降雪地帯の人口密度が高く、クルマの交通量も多い。そのため降った雪は、クルマによって踏み固められ、日中は溶け、夜になると再び固まりアイスバーンと化す。その繰り替えしにより、日本の降雪地帯は極めてアイスバーン化しやすい傾向にある。なおかつ雪を溶かすのに利用されている融雪剤が、1度雪を溶かすため、アイスバーン化に拍車をかけていることが判明していると言う。

 このような状況を踏まえ、「アイスバーンで安定した性能を発揮させることは、日本のタイヤメーカーの使命」と日下部氏は言う。

世界の冬用タイヤの傾向。ウインタータイヤは主に欧州大陸で、スタッドタイヤは主に北欧、ロシア、北米で、スタッドレスタイヤは主に日本、北米、北欧、ロシアで使われていると言う日本のスタッドレスタイヤはアイスバーンでの性能がもっとも要求される日本は、他国の降雪地域と比べ気温が高いわりに降雪量が多い。そのため、アイスバーンになりやすい傾向にある
日本は降雪地帯の人口密度が高い。そのため交通量が多く、降った雪は踏み固められ、溶けやすいサマータイヤ、オールシーズンタイヤ、ウインタータイヤ、スタッドタイヤ、スタッドレスタイヤの特性について。スタッドレスタイヤはドライ・ウェット路面、新雪路、圧雪路、凍結路などいずれの条件下でもすぐれた性能を発揮する
乾燥路と圧雪路/凍結路の停止距離の違い。凍結路で止まるには、乾燥路の8倍の距離が必要となるサマータイヤのグリップの仕組み

 次に、スタッドレスタイヤの特性を紹介した。

 日本で使われるスタッドレスタイヤは、200km/h程度で走ると「タイヤがよれてしまう」(日下部氏)ものの、一般的な速度でのドライ~ウェット路面のほか、圧雪路から凍結路まで、幅広い条件下で安定した性能を発揮すると説明。

 スタッドレスタイヤの性能は、タイヤが回転するときの雪による抵抗力を表す「圧縮抵抗」、トレッドの溝が雪を踏み固めてできる雪柱を断ち切ろうとする力を示す「雪柱せん断力」、トレッドパターンのエッジが雪をひっかき、氷路では水膜を切ることでブロックを路面に接地しやすくさせる「エッジ効果」、ゴムそのものが持つグリップ力を示す「凝着摩擦力」の4点からなる。

 しかし、氷上では雪柱せん断力が働かないため、ゴムの凝着摩擦力とブロック、サイプのエッジ効果の寄与が大きいと言う。そのため、低温でもしなやかさを失わない特殊配合ゴムの使うことで氷との接触面積を確保するとともに、トレッドに多数のサイプを配合してエッジ効果を増加させ、さらに各種素材をトレッドゴムに混ぜることで、氷表面の水分を除去して摩擦効果を高める仕組みになっているそうだ。

 スタッドレスタイヤ「iceGUARD」とサマータイヤ「DNA ECOS」のサイプ数、溝面積を比較してみると、iceGUARDのサイプ数が72(前後方向)なのに対し、DNA ECOSはわずか5(同)にとどまる。一方、溝面積はiceGUARDが66(前後方向)なのに対してDNA ECOSは50(同)と、サイプの数の違いと比べて差が少ない。これは、「スタッドレスタイヤはレーシングタイヤと同様に、接地面積を増やすことでグリップさせようという意図があるため」と日下部氏は言い、同一サイズのサマータイヤとスタッドレスタイヤを比較すると、スタッドレスタイヤのほうが実際は幅広であることなどを紹介した。

 また、スタッドレスタイヤのコーナリングフォース特性についても触れ、スタッドレスタイヤはグリップ力が急激に立ち上がる特性を持つが、ある点を超えたところから急にグリップ力が低下する傾向にあることを解説。

 サマータイヤの場合は、グリップ力が緩やかに上昇し、ピークを超えてからまた緩やかに落ちていき、グリップ力が落ちる中でもハンドルを切れば多少の反応をみせると言う。しかし、スタッドレスタイヤの場合は限界点を超えてしまうと何をしても反応をしなくなり、一度滑り出したらグリップ力が回復するのに時間を要すると解説し、「こうした特性を理解しながら氷上を走って学んで欲しい」と述べた。

 最後に日下部氏は、「どんなドライバーも、クルマが滑り出したらコントロールするのは大変。アイスバーンと積雪路/圧雪路では制動距離が4倍も違う」と言い、アイスバーンを極力避け、片輪でも雪のあるところにタイヤを載せることでグリップ力が回復すること、アイスバーンでの急激なハンドルさばきは避け、ジワジワとコントロールしながらグリップの限界を超えないようにすれば、スムーズに走らせることができることなど、アイスバーンを走る上でのポイントをレクチャーした。

スタッドレスタイヤの性能は圧縮抵抗、雪柱せん断力、エッジ効果、凝着摩擦力の4点からなるスタッドレスタイヤでの氷上走行のメカニズムについてゴムの硬さの温度依存性は、ゴム質によって異なる
サマータイヤ(セミレーシング/高バランス)とスタッドレスタイヤの硬さ、粘っこさの特性の違い氷上でタイヤをグリップさせるには、水膜の除去が必須となるミクロのハイドロプレーニングが、氷上でタイヤがグリップしない最大の理由
iceGUARDとDNA ECOSのサイプ数、溝面積の比較スタッドレスタイヤとサマータイヤのコーナリングフォース特性の違い

タイムアタックでは高星明誠君が優勝
 氷上走行の最後には、ハンドリングエリアを使ってのタイムアタックイベントが行われた。優勝者はFRのシルビアで参加した高星明誠君。実は高星明誠君は、ジュニアフォーミュラカテゴリーであるFCJに参戦しているNDDP(ニッサン・ドライバー・デベロップメント・プログラム)所属ドライバーで、まだ免許を持っていないとのこと。現在、教習所に通っている最中で、この氷上レッスンには自身の練習を兼ねて参加したと言う。

 駆動方式によりハンデが設けられていたものの、高星明誠君の駆るシルビアはレッスン中から明らかにほかとは違う勢いのよさを持っており、NDDPに選ばれるほどのドライビング能力の高さを実証したと言える。

タイムアタックイベントは、ハンドリングエリアを使用。黄旗が上がるとスタート優勝した高星明誠君は、FRのシルビアでコンパクトなコース取りをしてた
優勝した高星明誠君のタイムは1分34秒34。免許はまだないが、FCJに参加するレーシングドライバー

 タイムアタックイベント表彰式後、各インストラクターから総評が行われた。松井猛敏氏は「舗装路で起こりにくいことが氷路では起きるが、クルマの動かし方は舗装路も氷路も同じ。今日覚えたスキルを覚えておいて欲しい」、岸剛之氏は「今日得たスキルを今後のドライビングに活かし、一般道でもスムーズで効率のよい運転をして欲しい」、片岡良宏氏は「今日氷上で運転した人はクルマの動きが分かりやすく、コントロールがしやすいと感じた半面、思い通りのラインを通れずにくやしい思いをした人もいるはず。今後もスキルアップして欲しい」と述べた。

 最後に主催者として日下部氏が挨拶。日下部氏は「今日のイベントはみんなが楽しめるイベントにしたかった。その上でスキルアップできたらなおよいのではないか」と述べるとともに、来年の開催を約束してイベントを終えた。

インストラクターを務めた松井猛敏氏同 岸剛之氏
同 片岡良宏氏最後に来年のイベント開催について約束した日下部氏

(編集部:谷川 潔/編集部:小林 隆)
2011年 1月 25日