ドライビング・イベントでBMW「3シリーズ」の燃費を体験

2011年5月26日



 ビー・エム・ダブリューは5月26日、報道関係者向けに「エフィシエント・ダイナミクス・ドライビングイベント」を東京 八重洲のBMWグループ・スタジオで開催した。

 これは同社が6月26日まで開催している「ロング・ディスタンス・キャンペーン」にちなんだもの。同キャンペーンは、BMW「3シリーズ」の燃費のよさをアピールしており、期間中に3シリーズに試乗すると「ロング・ディスタンスの旅を満喫できる宿泊券」や快適ドライビンググッズが抽選でプレゼントされる。

 このキャンペーンのキーワードは「912km」。3シリーズの最量販モデルたる「320i」セダンの6速AT車は15.2km/Lという10・15モード燃費を達成しており、同車の燃料タンク容量は60Lだから、「15.2km/L×60L=912km」という航続距離が導きだされる。ディーゼルでもハイブリッドでもない、ガソリンエンジン車の航続距離がこの数字というのは、なかなかインパクトがある。

 

山根健氏

どんな走りでもよい燃費に
 しかしこの912kmという航続距離の根拠となっている10・15モード燃費は、「実走行との乖離が大きい」という批判が常々寄せられている。

 同社のテクニカル・コーディネーターである山根健氏は「燃費測定モードはもともとクルマ同士の燃費を比較するために作られたのではなく、排気ガス規制の測定のために作られた。排気ガスにしても燃費にしても、その国の事情に合わせて作っている。実際にはクルマはグローバルな商品で、日本ではこのモード、他の国ではこのモードという形でやっているのは不都合が多い。特に燃費に関してはクルマの本当の実力がよく見えていない」「モードがあると当然、真面目な日本のメーカーは、きちっとモードに合わせた“受験対策”をしたクルマのセッティングをされ、非常に優秀なデータが出る。それが違うモードになると、とたんに半分くらいになってしまうケースもある」と、燃費測定モードの問題を説明した。

 このため、「世界中の試験モードを統一する動きがあるが、答申が2013年、採択時期は未定」(山根氏)と、すべてのクルマが同じ条件で燃費を測定できる日はまだまだ遠い。

 一方BMWは「エフィシエント・ダイナミクス」、つまり燃費・パワー・重量の3つすべてを達成できるスローガンを目標として立てている。同社が標榜する「走る喜び」と同時に環境性能も実現しようという欲張りな目標だ。

10・15、JC08、NEDCの燃費測定方法の違い。平均速度、最高速度のほか、加速度なども異なるエフィシエント・ダイナミクスの理念

 この発端は「1995、6年に、21世紀の新世紀エンジンとして、どんなエンジンを開発しようかとブレーンストーミングした中から出てきたもの」だと言う。BMWの全エンジンをエフィシエント・ダイナミクスに則ったものにするべく、エンジンの基本のシステムから見直すことになった。

 その解として登場したのがバルブトロニック(スロットルレス、可変バルブリフト機構)と、それに続く直噴技術。現在の直噴ターボに至ってそのラインアップが完成し、ブレーキエネルギー回生や電動パワーステアリングを加えた結果、「特殊な走り方をしたときだけがいい燃費でなく、さまざまな走りでよい燃費になる」クルマができあがったと言う。

直噴エンジン、ブレーキエネルギー回生などにより、パワーを出しつつ燃費を改善した

 

ドライブに使用した320i

航続距離794kmでスタート
 さて、それは本当だろうか。直列4気筒2リッターの直噴エンジン+6速ATの320i(2011年式)は、本当に1リッターで15.2km、フルタンクで900km以上走れるのだろうか。実際に320iでドライブし、それを体験しようというのがこのイベントの趣旨だ。

 とは言っても、さすがに912kmも走るわけにはいかない。コースは東京駅前のBMWグループ・スタジオと海ほたるPAを、先導車の後をついて往復するもの。

 もう少し詳しく言うと、BMWグループ・スタジオを出て首都高速 京橋ICから都心環状線に乗り、11号台場線、湾岸線を経て東京湾アクアラインに入り、海ほたるPAに至る。帰路は大井JCTから1号羽田線に入り、都心環状線の京橋ICを経てBMWグループ・スタジオに戻るというもの。一般道は東京駅前から京橋ICまで約1.5km(往復約2.5km)と短いが、木曜日の午後の首都高速は燃費的に厳しいコースと言える。その道中、燃費と航続距離を320iのオンボードコンピュータで確かめるわけだ。

2010年のマイナーチェンジでバルブトロニックに変え直噴エンジンを搭載した320i。ドライブに使用した6速ATモデルは10・15モード燃費15.2km/Lで、平成22年度燃費基準を+15%達成。エコカー補助金の対象となっている。ちなみに6速MTモデルにはアイドリングストップが付き、10・15モード燃費が18.4km/Lとなる

 記者は弊誌のインプレッション・リポートなどでもおなじみの岡本幸一郎氏と同じクルマに乗り込むことになった。まずは岡本氏がハンドルを握り、海ほたるで記者に交代する。エコランではなく、実走行での燃費のよさを体験するイベントということで、オートエアコンは22度に設定。ほかの車両とこのイベントの車両の区別をつけるためにヘッドライトを点灯したまま走行する。

 出発時の航続距離表示は794kmだった。満タン状態でこの航続距離は短すぎるように思われるが、その理由はこうだ。320iのオンボードコンピュータの航続距離表示は、アウトバーンなどで長距離走行する際に、今の燃料残量であとどれだけ走るかを確かめ、給油のタイミングを決めるために重要なものだ。その仕組は、50km程度の区間の燃費の履歴をもとに、ガソリン残量から航続距離を割り出すようになっている。ドライバーの走行パターンを学習して算出するのだ。実はこの車両、BMWのドライバー・トレーニングでサーキット走行をしてきたため、その学習結果をもとにして航続距離が短く算出されているのだ。

オートエアコンは22度に設定メーターパネル中央のディスプレイに表示された航続距離。出発時は794kmだった
岡本氏の運転で出発。木曜日午後、東京駅周辺の一般道は混んでいる

走行中にどんどん改善される燃費と航続距離
 我々の先導車はBMWドライバー・トレーニングのインストラクター萩原秀輝氏のアクティブハイブリッドX6。京橋ICまでの一般道では何度も赤信号でのストップ&ゴーを強いられ、当然、出発からの平均燃費はヒト桁だ。が、首都高に乗ってしまえば渋滞もなく、制限速度+αで流れていた。

 オンボードコンピュータの燃費と航続距離の数字がみるみる改善されていく。もちろん岡本氏のドライビングのうまさのおかげでもあるのだが、「エコランではない」ということで、遅い車を避けて加速し追い越す場面もたびたびあったし、アップダウンもあるコースだったのに、燃費と航続距離は伸び続けている。

 出発前に、BMWドライバー・トレーニングのチーフ・インストラクターである大角明仁氏が燃費のよい運転を解説してくれたのだが、そのコツは「スムースな操作」。スムースな操作が、アクセルの踏みすぎのような無駄な操作を防止し、燃費を改善するのだ。そのためには、遠くを見てどのような走り方をするかを予測する必要がある。

先導車のアクティブハイブリッドX6の後を走行する。首都高は順調に流れていたが、アップダウンがあるうえクルマの量は多く、先導車との間に割り込んだクルマを追い越すべくアクセルを踏み込む場面もあった
大井南から羽田空港へ進む間にも平均燃費は10km/L台から12km/L台に改善されていくチーフ・インストラクターの大角氏
先を読んでスムースに操作することで無駄な操作を防止し、燃費を改善する

 川崎浮島JCTから東京湾アクアラインに入ると、トンネル内の長い下り坂が続く。下り坂でアクセルOFFの状態の320iは、エンジンへの燃料供給をカットして燃料消費を抑える。

 また、このような状態で初めてオルタネーターが動作し始める。バッテリーの残量が少なければオルタネーターは常時動くが、ある一定以上の残量があれば加速中は必要な電力を供給できる程度にその動作を抑え、十分な残量があればまったく動作しないで、エンジンの負荷を減らす。最大限に発電するのは減速時、つまりブレーキエネルギーを回生するときだけだ。

 このほかにも電動パワーステアリング、ウォーターポンプ、燃料ポンプ、オイルポンプ、エアコン用コンプレッサーなどは必要なときにだけ動作するようにして、あとは極力エネルギーの消費を抑えるよういにしている。好燃費を得るために、エンジンの改良だけでなく、細かな節約を積み重ねているのだ。

 こうして海ほたるまで36km、約40分間走行した後の平均燃費は、ほぼ10・15モードと同様の15.1km/L、航続距離は875kmまで伸びていたのであった。

ほかの車両と区別するため、このドライブに参加した車両はヘッドライトを点灯して走行したアクアラインに突入
海ほたるPAに到着した時点で平均燃費は15.1km/L、航続距離は875kmまで改善されていた

 

海ほたるに到着した参加車両

誰が運転しても燃費は改善
 帰路は記者が運転する番だ。エコランではないと言うものの、せっかく岡本氏が伸ばしてくれた燃費を落としてしまうのは悔しい。が、短気でがさつ、ついでに体重も重い記者にとって、エコランほど苦手なものはない。おじけづいてアクセルを踏めないでいると、先導車に引き離されていく。慌ててアクセルを踏むと、すぐにATがキックダウンし、アクティブハイブリッドX6との距離を詰めていく。

 大角氏が「ふんわりアクセルだけがエコドライビングではない」と説明していたのを思い出す。クルマは加速している最中ほど燃費がわるく、アクセル一定での走行ほど燃費がよい。だから、すこし大胆に加速して早めに定速走行に持ち込み、燃費のわるい加速時間を短くするのも状況によってはエコランなのだ、と。

 ギアを高く、エンジンの回転数を低く保つほうがもちろん燃費にはよいのだが、時として低いギアで鋭く加速するほうがよいこともあるし、ドライバーにとっても快適。そうBMWが考えていることが、ATのシフトスケジュールからも伺える。

帰路は記者が運転を交代大胆に加速して、加速時間を短縮し、アクセル一定で走る時間を伸ばすのも、燃費を改善するテクニック

 かと言って、記者のように加速しすぎて先導車にくっつきすぎ、慌ててブレーキを踏むのは論外だ。先程の大角氏のアドバイスのように、あくまでスムースに必要なだけ加速するべきだし、そのためには遠くを見て、先を予測して運転する必要がある。

 アクアラインを出て、1号羽田線に入ると道はほぼ真っ直ぐで、アップダウンもゆるやかだ。結局、渋滞にハマることもなく京橋ICに到着。この時点で平均燃費が16.1km/Lの大台にのり、航続距離は950kmを超えていた。

 出口で赤信号にひっかかったときに、大角チーフ・インストラクターが、BMWはスタート&ストップボタンでエンジンをON/OFFできるので、手動でアイドリングストップをすることができる、と言ったのを思い出した。

 320iはMT車にのみアイドリングストップが装備されているが、ATにはない。しかし、直噴エンジンの再始動は手動でも速く、ボタン操作だからON/OFFも簡単だ。さらに、ギアをニュートラルに入れてボタンを押してOFFにしても、エンジンとエアコンが止まるだけで、カーナビやオーディオ、灯火類は動いている。そんなわけでBMWグループ・スタジオに戻るまでの間、信号停止のたびに手動でエンジンを止めていた。

 なお、山根テクニカル・コーディネーターによれば、手動アイドリングストップで燃料が節約できるのは、だいたい15秒以上停止した場合だと言う。それ以下だと、直噴エンジンはアイドリング時の燃料消費も少ないので、エンジン再起動のほうが多くのガソリンを使ってしまうと言う。

 BMWグループ・スタジオに帰りついてみると、オンボードコンピュータの数字は次のようになっていた。

  
走行時間1時間15分
走行距離69km
平均燃費15.6km/L
平均速度59.0km/h
航続距離982km

 

 つまり、912kmを上回る航続距離、10・15モードを0.4km/L上回る燃費をマークしたわけだ。我々の車には岡本氏と記者の他にカメラマンが1人乗っており、3人の体重の合計は約200kg。しかも帰路は運転の下手な記者がドライバーだったことを考えれば、これは感心すべき数字だろう。

 最終的に16km/Lを超え、990km台の航続距離を記録した組もあると言う。比較的道路が流れていた幸運に恵まれたとは言え、都内の短時間のドライブで、しかもBMWらしいスポーティーな運転感覚を楽しみながら、こんな数字が得られたわけだ。

 ちなみに記者は、2008年式の320iのオーナーである。このドライブに使用した2010年式320iと同じ「E90」という型だが、エンジンが異なり、直噴でなくバルブトロニックを採用している。また、ブレーキエネルギー回生などの機能は搭載されておらず、10・15モード燃費は12km/Lにとどまっている。この320iでエコランに挑戦すると、空いた高速道路で我慢に我慢を重ねてやっと13km/L台の平均燃費を記録できるという具合。同じE90でも着実に進化していることも、このドライブで実感したのであった。

(編集部:田中真一郎)
2011年 6月 3日