写真で綴る「フェラーリ・ワールド」訪問記

フェラーリ・ワールドの入口。ちなみにスタッフの方はほぼ全員がバイリンガル(英語&アラビア語)で、筆者のひどい英語でも特に問題はなかった。なおチケット売り場はこの脇にある



 F1やフェラーリに興味のある読者なら、アラブ首長国連邦の一つ、アブダビに建設された「フェラーリ・ワールド」というテーマパークのことを聞いたことがあるかもしれない。

 正式名称は"「Ferrari World Abu Dhabi"で、2009年10月に構想が発表され、2010年11月4日にプレオープン、2010年11月に正式オープンとなった。

 このフェラーリ・ワールドはGoogle Mapで見ていただければ分かるとおり( http://maps.google.com/maps?client=opera&rls=ja&q=Ferrari%20World%20Abu%20Dhabi&oe=utf-8&num=100&um=1&ie=UTF-8&sa=N&hl=ja&tab=wl、F1のアブダビGPが開催されるヤス マリーナ サーキットに隣接して建設されている。アブダビ国際空港から、タクシーなどでおおよそ40分ちょっとといった距離である。

 

 

 もっともこのフェラーリ・ワールド、日本から行こうとするとちょっと厄介である。アブダビへの直行便としては、エディハド航空が毎日2便(成田空港と中部国際空港から、それぞれ1便ずつ)運行しているのでこれを利用するのが一番楽なのだが、それでも片道12時間である。他にもバンコク経由とか、ヨーロッパ経由などの方法もあるが、こちらは片道16時間とか、一番ひどい乗り継ぎ案では38時間とかいうのもあった。

 裏技としては、同じくアラブ首長国連邦に属するドバイはアブダビから車で1時間程度の距離なので、エミレーツ航空を使ってドバイに行き、そこからアブダビ入りするという案もあるが、所要時間が短くなるわけではない(むしろ増える)から、手軽に行けるという場所とはちょっと言いがたい。

 そんなフェラーリ・ワールドであるが、今年5月に別件でアブダビを訪問する機会があり、その折に(わずか3時間ながら)フェラーリ・ワールドを訪れることができたので、もっぱら写真で内部をご紹介したいと思う。

外観~入場まで
 今回はヤス マリーナ サーキット内にあるヤス マリーナ ホテルからバスでフェラーリ・ワールドまで移動したのだが、ほぼ隣接した場所にあるにもかかわらず、移動時間は30分余り。土地が余りまくっていることもあり、とにかく広い。バスでずーっとフェラーリ・ワールドの横を移動していても、さっぱり全貌がつかめない。内部は2階建てなのだが、とにかくその2階の天井高が高いので、外から見るとえらく威圧感のある構造である。

バスから見る風景はずーっとこんな感じ位置的にはこれに近いと思うのだが、このアングルでかろうじて跳ね馬マークが目に入る。
独特の屋根の構造がお分かりいただけようか。手前の客待ちタクシーと比較してもらえば、建物の大きさが想像できようこれはフェラーリ・ワールドには無関係だが、途中で目にした看板。ヤス マリーナ サーキットにはカートコースが常設されており、いつでも遊ぶことができる。フェラーリ・ワールド訪問にあわせて、こっちでも遊ぶというのもいいかもしれない

 1階の入口をくぐると、いくつかのショップと軽食の店が並んでいるが、実はこれはフェラーリ・ワールド「ではない」ので注意。ここからエスカレーターで2階に上がると、やっとフェラーリ・ワールドの入口である。この入り口を入ると、いきなりフェラーリの世界が始まるというわけだ。

こちらはスクーデリア・フェラーリではなく、スクーデリア・ドバイのショップ。フェラーリ・ショップ自体は別にあるので、ご注意をフェラーリと関係の深いドカティ・ショップだが、残念ながら大したものがなかった。「ロッシのTシャツとか、昔のカール・フォガティのTシャツがあったら買って来い」という指令が飛んできたのだが、レースに辛うじて関係しているのは、ニッキー・ヘイデンが掛けているサングラスだけだった1階ははっきり言っておまけなのだが、それは2階に上がらないと分からないという罠
いたるところにフェラーリ・ワールドのロゴが入口の先の直ぐ左がフェラーリ・ショップ。ただ出入口が共通なので、これは帰りに寄れば十分である

 入場料は、当初はGeneral(一般)/Premium(優待)、大人/子供の4種類だったが、その後Annual(通年)が加わっており、

種別価格
General Admission(一般大人)AED 225(約4840円)
General Admission Junior(一般子供)AED 164(約3530円)
Premium Admission(優待大人)AED 495(約1万640円)
Premium Admission Junior(優待子供)AED 390(約8390円)
General Admission Annual Pass(通年大人)AED 1195(約2万5690円)
General Admission Junior Annual Pass(通年子供)AED 795(約1万7090円)

といったところ。日本円は21.5円/AEDの換算レートでの数値だが、当然これはレート変動の影響を受けるので、参考値と考えてほしい。お勧めはやっぱりPremium Admission。こちらは、あとで紹介する「スクーデリア・チャレンジ」以外、すべて無料で利用できるほか、ジェットコースターなどに優先的に乗ることができる。

 ちなみにチケットの見た目はほかのチケットとあんまり差が無いのだが、それとは別に腕輪を渡され、これを嵌めているとVIP扱いとして認識される。

実はこのチケットは入場の時にしかチェックされない後述するアトラクションの「フォーミュラ・ロッソ」の場合、平均待ち時間が40分ほどだが、この腕輪をしていると優先的に搭乗できる。これだけでもPremiumの価値があろうというもの

フォーミュラ・ロッソ
 フェラーリ・ワールドの一番の目玉は間違いなくこれ。最高速240km/h、加速度1.7Gという、まさしく世界最速のジェットコースターである。

 普通と異なるのは、最初に(おそらくリニアモーターを使った)カタパルトで文字通り「打ち出される」ことだ。普通はまず坂の上に台車を引っ張り上げ、そこから位置エネルギーを変換する形で速度を上げるわけで、そうした通常のジェットコースターを考えていると思いっきり面食らうことになる。

 一応ゴーグルと、あと女性用にはチャドルの上に被るカバー(チャドルむき出しで乗車すると、風圧で瞬時にチャドルが飛んでしまうので、これの防止)は渡されるが、速度・加速度共にすさまじいために、手荷物類は乗車前に籠に移して預かってもらうし、乗車中は手足を出すのは一切禁止である。実際、最初はカメラを持ち込んで風景の撮影を……とか思っていたのだが、全然それどころではなかった。カメラそのものの持ち込みもできなかったが、仮に持ち込めても撮影は無理だっただろう。なお座席はF1を模したものである。

「世界最速」が看板にも華々しく記されているフォーミュラ・ロッソ右下の直線部の手前がスタート地点。ここから直線を一気に加速して最高速に到達するネックレスとか腕輪の類も外すように指示される。実際、簡単に風で飛んでしまいそうだ
4人乗りの車台が4つ繋がり、1回に16人が出発する一部のコースはこんな具合に2階の床の下を潜って配されていた

 実際に乗車した映像としては、英デイリーテレグラフ紙が録画してYouTubeにあげた(http://www.youtube.com/watch?v=ZGyqztIdUiQ)ものがあるが、見てみると案外にスピード感がない。射出の瞬間をビデオに記録したが、実際に乗ってみるとまず前後方向の1.7Gあまりの加速度に圧倒される。

 一応筆者はバイク乗りで、サーキットでの大排気量走行の経験もあるから、「オーバーリッターでストレート全開の加速ほどではなかろう」と多寡をくくっていたら、とんでもない話だった。バイクとは姿勢が違う(前傾姿勢で、しかもタンクにべったり伏せた上体でのフルスロットル)という言い訳は一応書いておくとしても、フォーミュラ・ロッソの方が遥かに加速感が上。射出後に高い坂を駆け上がるまでの間、本当に身動きが取れなかった。

 速度感に関して言えば、本来なら坂を駆け上がる直前が一番速度が出ている筈なのに、むしろ坂を駆け上がって、そこから下る時の方が風圧を強く感じた次第。こちらも、普段前傾姿勢で、しかもヘルメット越しとはだいぶ感じが違った。もっとも筆者的には、加速度感に比べればまだ速度感の方はそれほど驚きがなかった。ただこれは普段から風にむき出しで乗っているバイク乗りの意見であって、そうした経験を持たない読者には、200km/hを超える風圧もまた、未体験のものだと思う。

 ちなみにこうしたアトラクションとしては、「フィオラーノGTチャレンジ」とか、(筆者が行ったときは調整中とかで休止していた)「G-フォース」、エンジンの中に入って動きを体験できる「V12」などがある。

建物のほぼ中央にあるのがこの「G-フォース」。中央の赤い柱を囲むように座席が設けられ、ものすごいスピードで上下することで加速感を味わえる、らしい「V12」。時間が無くて試せなかったので入口の写真だけ。フェラーリ599のV12エンジンの巨大モデルで、ピストンが上下(最大12mほど)する様を、そのピストンの中に入って体感できるというもの

スクーデリア・チャレンジ
 フェラーリ・ワールドのもう一つの目玉が「スクーデリア・チャレンジ」。

 これには2種類あり、まず円弧状になった壁に沿う形で「ドライビング・ウイズ・ザ・チャンピオン」が用意されている。こちらはプロのドライバーが実際にF1マシンを運転するのをシミュレータで追体験できるというもので、それほど待ちもなく遊べるし、それなりに楽しいのだが、いわゆるシミュレーションそのものではない(ちなみにコースはヤス マリーナ サーキットを模しているそうだ)。

 本命は、その円弧の中心におかれたシミュレータで、F1-2010とF430の実車(といってもエンジンなどは搭載していないと思う。あくまでフレームが実車というだけ)を油圧シリンダーを使ってぐいぐいと動かすというもの。ちなみにこちらの2台に関しては、Premium AdmissionであってもAED 75(1600円強)の追加料金が必要となっているが、筆者が訪れたときは大量の順番待ちの列ができていて、とても試すどころではなかったのが残念である。

「ドライビング・ウイズ・ザ・チャンピオン」。手前のシミュレータには「フェルナンド・アロンソ」の張り紙が。1台ごとに、異なるドライバー設定になっているこちらがシミュレータ。アトラクションの看板にはF430と書かれていたが、リアまわりの造形が標準的なF430とちょっと異なる気もする

 

その他
 こうした先鋭的なもの以外にも、いくつものアトラクションが用意されている。大人向け、という意味では「ベル・イタリア」や「シネマ・マラネロ」が、子供向けには「ジュニア・グランプリ」や「ジュニアGT」、「ジュニア・トレーニング・キャンプ」、ラジコンコースや風洞実験その他といった、数々のアトラクションが用意されている。

イタリアの名所をのんびりドライビングするというコンセプトの「ベラ・イタリア」「シネマ・マラネロ」。要するに映画館。上映されている「コッパ・デ・シチリア」のMakingがYouTube(http://www.youtube.com/watch?v=S-SEVRnX-Lk)に上がっている
「ジュニア・グランプリ」。割と本格的なコースとなっている。残念ながら子供のみ「ジュニア・トレーニング・キャンプ」。こちらは脚漕ぎの4輪車で遊ぶことができる「ラジコン・コース」。なぜか館内マップにものっていないのだが、結構本格的なラジコンのコースが用意されていた
「風洞実験」。外観はエンジンのヘッドカバー(?)を模した構造。向かって左には実際のF1マシンが置かれ、ボタンを押すとスモークが出て空気の流れが目で見えるという次第で、向かって右側は中に入ることができ、ここでボタンを押すと風洞内の風の強さを体験できるこれは確かジュニア・トレーニング・キャンプのそばに設けられた、いわゆる子供向けアトラクション。右側の黄色いチューブは確か滑り台になっていたはず

 F1のレースに興味がある人ならば、モーターホームやピット・ウォールなども楽しめるだろうし、何より館内至る所にF1マシンが展示されているから、こちらを穴が開くほど眺め倒すのも一案だろう。

 もちろん会場には、F1マシン以外の車も多く展示されている。このあたりもフェラーリが好きな人には興味深いのではないかと思う。

F1のパドックでおなじみフェラーリのモーターホームこちらがモーターホームの反対側。中には入れるが、さすがにホスピタリティまではないピット作業を仮想体験できるというもの。時間が無くて見ることができなかった
シューマッハが駆ったチャンピオンマシン、F2001ではないかと思うが、ちょっと自信がないこちらはF10だと思う(やはり自信なし)。カーナンバーは8が着いていたので、フェルナンド・アロンソが駆ったマシンということになる250GTO
599F430カリフォルニア。この車のまわりで自分のスナップを撮る人多数
G-Forceの側で、2台の車がぐるぐる回っているという、ちょっとシュールな光景。ではあるのだが、車の裏側をしげしげ眺める機会もそうないので、たっぷり拝見してきました

 最後はお土産ということになるが、さすがにお値段のほうはフェラーリ価格なのはまぁある意味止むを得ないところ。携帯扇風機が50AED(1100円弱)というあたりから概ね推察していただけよう。筆者の印象としては、法外に高いという訳でもないという感じであった。

 というわけで、簡単ながらフェラーリ・ワールド アブダビの紹介をさせていただいた。今回は3時間という限られた訪問だったので全然楽しめた印象がない。やっぱり最低でも1日はフルに時間を空けたいところ。

 ここの訪問「のみ」を目的に日本から行く、というのはちょっと辛い気はするが、アブダビやドバイの観光、あるいはF1観戦などと絡めて訪問するにはかなりよい場所だと思う。実際筆者が訪れた時も、アラブ圏の中学生くらいと思しき男子/女子が大量に居て、修学旅行のコースなのだろうか? などと思ったりした。あるいは家族連れでの訪問客も多く、フェラーリがどうこうというよりも、遊園地がたまたまフェラーリの冠をいだいている、というノリなのかもしれない。とりあえず行って損はない、ということで機会を見つけて訪問することをお勧めする。

これは当日別件でフェラーリ・ワールドに行かれなかった、Car Watchの某ライターへのお土産。受け取った彼は涙を30リットルほど流して喜んだ(若干の誇張あり)。ちなみに秋葉原あたりだと100円位で買える、ただの携帯型扇風機である。フェラーリ・ショップとは別のところに位置するフェラーリ・パスト&プレゼントというショップであるが、このぬいぐるみは何なんだろう?

(大原雄介)
2011年 8月 15日