クアルコム、「EV用無線充電」技術を説明 効率は90%。技術はライセンス |
クアルコムジャパンは22日、同社が開発中の電気自動車(EV)用無線充電について報道関係者向けに説明会を開催した。
ギルバート氏 |
■携帯電話用無線充電技術から派生
クアルコムジャパンは米クアルコムの日本法人。クアルコムは1985年に創設され、米国サンディエゴに本社を置く。無線通信技術で成功した会社であり、携帯電話用の半導体などで非常に大きなシェアを持つ。auが採用しているCDMA 1xなどはクアルコムが開発したもの。2011年度の売上は150億ドルで、うち25億ドルを研究開発に投じている。
そのクアルコムがEV用無線充電技術を開発しているのは、「携帯電話の無線充電技術の開発からの派生」と、クアルコム ヨーロピアン イノベーション デベロップメントのアンドリュー・ギルバート エグゼクティブ バイスプレジデントは語る。携帯電話用無線充電技術で得た特許や周波数などの規制への対応ノウハウが、EV用無線充電技術にも活かされている。
同社の事業は大きく分けて「技術ライセンス」「半導体」「ワイヤレス・インターネット」の3つ。もっとも売上が大きいのは半導体事業だが、利益は技術ライセンス事業が最も大きいと言う。
EV用無線充電技術は技術ライセンス事業の1つとして位置づけられており、クアルコムが開発した技術を自動車メーカーやサプライヤーにライセンスすることで収益を得る。クアルコムが直接、充電器などを製造/販売するための開発ではない。
クアルコムのライセンス事業。左が通信技術などのモデル。右はEV用無線充電技術のモデルだが、左とまったく同じ構造。クアルコムはエンドユーザー向けの製品はリリースしない |
クアルコムが手がけてきた車載技術 |
クアルコムの創業初の製品/サービスはトラック用運行管理システム「オムニトラックス」で、現在でも車内からのインターネットへの接続や「eCall」と呼ばれる車載エマージェンシーコールなどを手がける。
EV向け無線充電技術技術については、この8日に無線充電技術分野で20年の歴史を持つヘイローIPTを買収。ヘイローIPTがローラと共同で開発してきたEVレーシングカー「ローラ ダイソン B12/69EV」のプロジェクトも継続すると言う。
クルマとの関わりの濃さを強調する一方で、EV用無線充電技術には、各国の法規制や標準化などに対応してきたノウハウなど、全世界で無線通信技術に関わってきた経験が活かされていると言う。
ローラと共同で開発するEVレーサー | ロールスロイスの実験EV「ファントム102EX」にもヘイローIPTの無線充電技術が使われている |
無線充電システムの仕組み |
■将来はダイナミック・チャージングも
EVにおける無線充電の重要性をギルバート氏は「EVやプラグイン・ハイブリッド車が成功するにはいくつかの課題がある。航続距離と、充電の難しさだ。プラグによる充電は、ケーブルの取り回しがしにくく、雨や雪のときはさらに困難になる」と言う。
「しかし、これがうまくいくためには、すべての無線充電システムに互換性がある必要がある。どのクルマで、どの充電ステーションに行っても、ちゃんと使えなければならない。共通したスタンダードと互換性が重要だが、これは携帯電話のビジネスでも重要であることを経験している。この結果、システムのコストが下がり、機能も向上する」。
同社のシステムは無線充電に電磁誘導方式を採用。こうした方式では、BCU(ベース・チャージング・ユニット:地面側の充電器)とMCU(モバイル・チャージング・ユニット 車両側の充電器)の間の伝送効率がクローズアップされるが、クアルコムはその外側、つまり電源からバッテリーまでの「End to end」の効率を重視し、90%以上の効率を確保していると言う。
また、充電時に車を停める位置が多少ずれても、あるいはBCUとMCUの距離が近かったり離れていたりしても、90%の効率を維持できるように配慮されているのも特徴と言う。
「将来的には、(道路にBCUを埋め込んでおけば)運転中に充電する“ダイナミック・チャージング”も可能」とギルバート氏は言う。サーキットにBCUを埋め込んでおいて、ダイナミック・チャージしながらレースをする、ということも考えられると言う。
ロンドンの実験車両 |
■ロンドンで実証実験
関連記事にあるとおり、クアルコムは2012年初頭から英国ロンドンで、無線充電の実証実験を行う。期間は最大2年の予定だ。
英国政府、ロンドン市長オフィス、トランスポート・フォー・ロンドン(ロンドンの公共交通機関運営組織)、アディソン・リー(英国最大のハイヤー会社)、チャージマスター(欧州のEVインフラ業者)が参加し、50台のEVを使用する大規模なものだが、一般に商用運用するわけではなく、クローズドなテストになる。
その目的は「無線充電の課題を見出すこと」(ギルバート氏)。 中でももっとも大きなものは、無線充電器の設置場所。ユーザーが充電する場所や機会は、自宅、職場、外出先などが考えられる。外出先の場合、店舗に設置して店の付加価値を高める可能性もあるし、集合住宅などでのシェアリングサービスなども考えられる。こうした可能性をすべて検証するのが、実証実験の目的だ。
(編集部:田中真一郎)
2011年 11月 22日