モンスター田嶋選手、EVを武器に前人未踏のパイクスピーク7連覇を目指す
Team APEVとして参戦

モンスター田嶋選手

2012年3月27日発表



 “モンスター田嶋”の愛称で知られるレーシングドライバー 田嶋伸博選手は3月27日、7月に米国のコロラドスプリングスで行われる世界最高峰のヒルクライムレース「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」に今年は電気自動車(EV)で参戦することを発表した。

 昨年の優勝で通算7勝目、2006年から6連勝という前人未踏の結果を残した田嶋選手だが、今年は同選手が代表幹事を務める電気自動車普及協議会(APEV)の名前を冠した独自のチームを立ち上げ、同選手が経営するモンスターモーターコーポレーションが作成するオリジナルのEVを得て、前人未踏の8勝目、および7連覇を目指すことになる。

パイクスピークの絶対王者、グラベルからターマックに変わっても連勝を目指す
 パイクスピークは、基本的にはラリーと同様のタイムレースで、参加者がそれぞれ走り、1番速いタイムで登り切った者が優勝者となる。田嶋選手は、このイベントを過去6連覇しており、それ以前の1勝を加えると通算で7勝もしている、まさにパイクスピークの王者とも言ってよい存在だ。

 このパイクスピークは昨年までグラベル(未舗装路)を利用して行われていたため、ラリー用の車両を利用しての競技となっていた。実際、田嶋選手が昨年のレースで優勝を飾った車が展示されていたが、見るからに頑丈そうで、パリダカやWRCなどを走っていてもおかしくないような車だった。しかし、今年からパイクスピークのルールが変わり、路面はグラベルからターマック、つまりは舗装路に変更になったのだ。これにより、参加者が利用する車が大きく変わることが予想されており、田嶋選手が利用する車も、まったく新しいものに生まれ変わるのだと言う。

 そのタイミングに合わせて、以前より田嶋選手が代表幹事を務めていた電気自動車普及協議会(APEV)の名前をチームの名前に冠することを決め、Team APEVとして参戦することを決めた。APEVは2010年に設立された任意団体で、EVの普及を目指して様々な提案を行っている。昨年には既存の自動車をEVにコンバート(つまりは改造)する場合の安全基準を策定するなどの活動を行っている。APEV会長の福武總一郞氏(ベネッセホールディングス 取締役会長)によれば「田嶋氏より無償でかまわないというありがたい申し出があり、一緒にコラボレーションして電気自動車の普及に役立てばと考えてお受けすることにした」との経緯で、今年はTeam APEVとして参戦することに決まったのだという。

今年のパイクスピークは路面がターマックになる。三菱自動車工業やトヨタ自動車もEVでの参戦を決めていると言う非常に高低差があるコース田嶋選手のこれまでの戦績。7勝かつ、2006年からは6連覇中

2つのモーターを採用した、クローズドボディーのEV
 参戦車両は、田嶋氏が代表を務めるモンスターモーターコーポレーションにより設計、製造されたEV。「現在1分1秒を争って作っており、7月のレースに向けて全力で開発していきたい」(田嶋氏)とのことで、当日は完成イメージのイラストが公開された。

 公開されたデータによれば、CFRPで製造されたボディーカウルはCd値(空気抵抗係数)をできるだけ下げ、かつダウンフォースを得ることができるようなボディーカウルになっており、一見するとル・マン24時間に参戦するスポーツプロトタイプのようなクローズドボディーを採用している。フレームは昨年までのスチールフレームからアルミフレームに変更されており、大幅な軽量化を実現していると言う。

 動力に関しては前後に2つのモーターを搭載。前後のモーターのトルクを同期させることで、強力な駆動力を発生。ブレーキはAP製の4ピストンベンチレーテッドディスクを採用し、ブレーキパッドにはWinマックスと共同開発したものを採用。EVのメリット活かすため、ブレーキはできるだけ回生ブレーキを連携することでエネルギーロスを抑えてある。なお、バッテリーに関しては、リチウムイオン電池が三菱重工業より供給される。このほか、サスペンションはダブルウィッシュボーン方式で、オーリンズのショックアブソーバーを採用。タイヤはファルケン(住友ゴム工業)が供給する。

 パイクスピークの決勝は7月8日が予定されており、田嶋氏は今後もマシンの開発など忙しい日々を過ごすことになる。「このレースの決勝では私は62歳になる。そうしたシニア世代にも希望を与え、これからを担う子供達に明るい話題を提供できるようにがんばりたい。また東北の被災地の皆様にも希望を与えられるように、パイクスピーク終了後に東北でもイベントを開催していきたい」(田嶋氏)と述べ、前人未踏の8連勝を目標に掲げた。

新しい車のイメージ写真設計中のフレームのCADイメージ製造中のフレーム
風洞用のスケールモデル。実際に風洞にいれCD値の確認などが行われた製造されたボディーカウル。まだカット前なので、ホイル部分などに穴がないボディー設計はCd値を抑えるようなデザインが施された
フレームは、従来のスチールからアルミへと変更され軽量化が実現されている2つのモーターで、前後軸を駆動するタイヤはファルケンより供給される

(笠原一輝)
2012年 3月 28日