開催目前、今年も鈴鹿にWTCC(世界ツーリングカー選手権)がやってくる!!
ホンダの世界選手権復帰の号砲が鳴り響く、注目の一戦


 WTCC(World Touring Car Championship、世界ツーリングカー選手権)は、F1世界選手権、WRC(世界ラリー選手権)、WEC(世界耐久選手権)などと並びFIAが公認する世界選手権の1つに数えられる自動車レースで、世界中のサーキットを転戦し、世界一の“箱車乗り”を目指してドライバーがしのぎを削るレースとなっている。このWTCCの日本戦は、一昨年までは岡山国際サーキットで開催されてきたが、昨年より三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットに舞台を移して開催されている。

 今年も10月20日~21日の2日間にわたり、鈴鹿サーキットにおいてWTCCの鈴鹿ラウンドが開催される。もちろん世界選手権の1戦が日本で開催されるという意味でも重要なイベントであることは間違いないのだが、今年のイベントは日本のファンにとってさらに重要な要素がもう1つある。それが、2008年末にF1から撤退を発表して以来、FIAの世界選手権からはすべて撤退状態にあったホンダが“シビック WTCC”を擁して参入するからだ。


WTCC PROMOTION MOVIE

街中を走っている車がレーシングカーとなりバトルを繰り広げるWTCC
 WTCCは、その名のとおりツーリングカーと呼ばれる、セダンタイプの市販車をレーシングカーに仕立てた車で戦われている。FIAの規定では、ベース車両として利用できるのは、1年間で2500台以上が生産されている車となっており、FIAのS2000規定に基づいて改造されている必要がある。

 年間2500台というハードルは結構高いモノで、フェラーリのような特定の少数に向けたスーパーカーではなく、日本で言えばトヨタやホンダなどが生産する一般向けの市販車がターゲットになっていることは明らかだ。

 このため、現在のWTCCに参戦している車は、以下のようなメーカー、車種となっている。

メーカー車種
シボレー(GM)クルーズ 1.6T
BMW320TC
セアトレオン WTCC
フォードフォーカス S2000 TC
ラーダグランタスポーツ

 日本で市販されていない車が多い(そもそもセアトやラーダなどは日本には進出していない自動車メーカー)が、ヨーロッパではそこら中で普通に走っている市販車だ。

 ただし、エンジンに関しては市販されているモノとは異なっており、1.6リッターの4気筒ターボエンジンとなっている。これは、世界的にエンジンのダウンサイジングの流れもあり、レーシングエンジンも1.6リッタークラスが主流になりつつあることを反映している。駆動方式は2WDのみとなっているが、FFかFRはベース車両によって違っている。現在出場しているクルマではBMW 320 TCのみがFRで、その他のクルマはFFとなる。従って、サーキットによってはFF有利のサーキットもあれば、FR有利なサーキットもあり、そうした車種バラエティの多さもWTCCの魅力の1つとなっている。

 WTCCには2つの選手権がかけられている。1つはFIAの世界選手権で、こちらはメーカーからワークス登録を受けたドライバー、チームで争われ、ドライバータイトルとマニファクチャラーズタイトルの2つのタイトルがある。そしてもう1つが、メーカー系チームではない独立系のチームの車に乗るドライバーによって争われる“ヨコハマドライバートロフィー”で、メーカーによりワークス登録されていない選手で、タイトルが争われることになっている。

 なお、決勝レースは2レース制で、2回の予選(Q1、Q2)が行われ、上位10台で行われるQ2の結果で上位10台のグリッドが決まり、11位以下はQ1の11位以下がグリッドとなる。第2レースは上位10台がQ2の結果のリバースグリッドとなる。つまり、第1戦で10位グリッドだったドライバがポールになるというシステムになっている。

 2レース制の各レースで与えられるポイントは1位25点、2位18点、3位15点とF1同様のシステムが採用されているが、予選で手を抜くということを避けるため、予選Q2での上位5台にはそれぞれ5点~1点のポイントが付加される。従って、選手権上位を狙うドライバーにとっては、Q2でより上位を目指すことが重要になっており、予選でもシビアな戦いが繰り広げられている。

激しいバトルが特徴のWTCC、シボレー勢によるチャンピオン争いが激化
 WTCCの魅力はその激しいバトルだ。F1やGP2などのフォーミュラカーの場合は、昔はホイールツーホイール(ホイールとホイールがぶつかるかぶつからないか)のバトルもよく見られたのだが、近年はクルマの速度も上がり、安全性への懸念(ホイールがホイールに乗り上げるとクルマが浮き上がってしまう)もあり、スポーティングレギュレーションで厳しく制限されていることが多い。

 しかし、WTCCは、フォーミュラカーに比べて圧倒的に安全なツーリングカーを利用しているレースであるため、バンパーツーバンパー(バンパーとバンパーがぶつかるかぶつからないか)のバトルがそこかしこで繰り広げられている。もちろん、無理に当てて、相手をコースから押し出したり、相手をクラッシュさせたりすれば、WTCCでもペナルティを免れることはできない。しかし、多少バンパーや車体を押したりする程度のバトル(かつ相手を決定的に押し出したりしない程度)であれば、許容されており、外から見ていて面白いレースになっているのが特徴だ。

 今年の選手権だが、昨年同様シボレー勢が1位、2位、3位を独占する展開になっている。シボレーは、マニファクチャラ登録されているBMW、セアトが、セミワークス体制(メーカーが独立系のチームを援助する形)であるのに対して、唯一のフル参戦するワークス体制を敷いており、今年開催されているレースのほとんどをシボレー勢の1-2-3で終えているほどだ。このシボレー勢に続くのが4位のルコイル・レーシング・チームのセアトを駆るガブリエル・タルキーニだが、シボレー勢の3位であるアラン・メヌーに88ポイント(優勝で25点)離されており、事実上ドライバー選手権はシボレーの3人の誰かに絞られた状況だと言ってよい。

 そのシボレー勢で現在ランキングトップにいるのが、昨年のチャンピオンでもあるイヴァン・ミューラーだ。2008年、2010年にもチャンピオンを獲得しているミューラーは、WTCC通算28勝と、誰もが認めるWTCCのキングで、WTCC以前でもイギリスのツーリングカー選手権であるBTCCでチャンピオンになるなど、正に“箱マイスター”の称号に相応しいツーリングカー界の“シューマッハ”だ。

 そのミューラーに挑むのがチームメイトのロブ・ハフだ。2005年にシボレーと一緒にWTCCにステップアップしてから一貫してシボレーで戦うハフは、昨年も最終戦までミューラーとチャンピオン争いを繰り広げ、わずか3点差で惜しくも涙を飲んだ。WTCCも通算21勝しており、名実共にWTCCを支える中核ドライバーの1人に成長している。今年も原稿執筆時点(第17戦/第18戦 ソノマ前)で、両者のポイント差は17点と、1レース(優勝で25点)でひっくり返るだけの差であり、今後の展開によっては十分逆転可能だ。

 両者にとって、特にシボレーに育てられてきたハフにとっては、今年のタイトルは是が非でも獲りたい状況がある。というのも、すでにGMがWTCCから今季限りでの撤退を発表しているからだ。このため、来年以降、両者が今年のシボレー クルーズのように戦闘力の高いマシンに乗れる保証はなく、タイトルを獲るチャンスが次にいつ巡って来るかは不透明だからだ。そうした意味では、これから行われる米国でのソノマ戦、鈴鹿戦、上海戦、そして最終戦のマカオでのレースは、正に両者にとっては死闘となるだろう。鈴鹿でもそうしたタイトルを賭けたテンションの高いレースを見せてくれるのではないだろうか。

 シボレー勢以外で注目の存在は、昨年の鈴鹿での第2レースを勝利したロアルモータースポーツのBMW 320TCを駆るトム・コロネルだ。コロネルは、1997年の全日本F3選手権、1999年のフォーミュラ・ニッポンでタイトルを獲得した日本育ちのドライバーで、その後ヨーロッパに戻りツーリングカーレースで大活躍してきた。以前はセアトのユーザーチームで活躍してきたが、昨年からBMWのセミワークスチームでマニファクチャラ指定されているロアルチームに加入し、鈴鹿で1勝を挙げポイントランキングでシボレー勢に次ぐ4位となった。今年はここまで優勝こそないものの、ランキング5位で、4位のタルキーニを12ポイント差で追っている。走り慣れた鈴鹿のコースで、今年も暴れてくれそうだ。

タイヤはヨコハマタイヤのワンメイク供給、2013年から3年間の契約を更新
 こうした熱いバトルが繰り広げられるWTCCの足下から支えているのがヨコハマタイヤ(横浜ゴム)だ。ヨコハマタイヤは、モータースポーツに熱心なタイヤメーカーとして知られており、WTCCには2006年からタイヤをワンメイク供給し続けている。ブリヂストンがF1世界選手権から撤退した今となっては、FIAの世界選手権にタイヤを供給する唯一の日本のタイヤメーカーだ。

 WTCCはタイヤに対して非常に厳しいレースの1つだ。というのも、駆動方式1つをとっても、BMWはFRだし、それ以外の車両はFFと異なっている。そうした駆動方式の違うクルマに対してイコールコンディションのタイヤを供給するということ1つをとっても実現するのは難しいのだ。それでもいずれのチームからも苦情が寄せられることもなくワンメイク供給を行えていることは十分賞賛に値するだろう。さらにヨコハマタイヤのレーシングタイヤには市販タイヤにも使われたオレンジオイルが先行開発として投入されており、SUPER GT用タイヤと同様、グリップ力の強化に使われているのだろう。この辺りは機会があったら、確認してみたいところだ。

 なお、ヨコハマタイヤは、ワンメイクタイヤを供給する契約を2013年から3年間延長したことを発表しており、ここにもWTCCからの信頼の厚さがうかがえる。

 タイヤ関連の見所だが、今年のタイヤルールでは、第1戦のみドライタイヤは新品4セットで、第2戦以降は新品3セット+中古2セット、レインタイヤはいずれのレースでも4セット利用できる。このため、各レースや予選でどのようなタイヤを使っていくかも重要になってくる。練習走行などでは中古の2セットを使うことになるので、いかに程度のよい中古タイヤを残すかがポイントだろう。その辺りのタイヤ戦略もチームによって別れてきているようだ。

ホンダがシビック WTCCでWTCCに初参戦、その戦闘力がついに鈴鹿で明らかになる
 そして、今回のWTCC鈴鹿ラウンドでは、日本のファンにとって待ち望んだ時がいよいよやってくる。それがホンダのWTCC参戦だ。2008年にリーマンショック後の厳しい経済情勢により、泣く泣くF1から撤退したホンダが、ついに世界クラスのモータースポーツシーンに帰ってくるのだから、もちろん注目しないわけにはいかないだろう。

 ホンダのWTCCへの本格的な参戦は2013年からが予定されているが、鈴鹿ラウンドを含む終盤戦にテスト参戦する。なお、2013年のチーム体制はすでに発表されており、現在セアトのエースとして走っているガブリエル・タルキーニと、同じくセアトのユーザーチームで走っているティアゴ・モンテイロという2人の元F1ドライバーが、ホンダのワークスチームと位置づけられるJASモータースポーツから参戦する。このうち、モンテイロが鈴鹿ラウンドからJASモータースポーツへ移籍して、ホンダのWTCCカーを走らせることになる。

 ホンダのWTCCカーは欧州で販売されているシビックの5ドアをベースにした車両で、シビックWTCCという車両名がつけられている。このシビック5ドアは、日本では販売されていないが、以前日本でも逆輸入車として販売されたシビック TYPE R EUROの5ドア版となる車両だ。このシビック5ドアに、本田技術研究所で開発された新開発の1.6リッターターボエンジンを搭載し、WTCCにチャレンジすることになる。なんとそのデビュー戦が鈴鹿になるというのだから、ホンダファンと言わずとも注目だろう。

今年もスーパー耐久と併催されるWTCC、注目の決勝は10月21日に
 その注目のWTCC 鈴鹿ラウンドだが、10月20日が予選、10月21日が決勝ということになる。前週にはWEC(世界耐久選手権)が富士スピードウェイで、さらにその前々週には鈴鹿でF1日本GPが開催されると、まさに3つの世界選手権が3週連続で開催されるゴールデン月間のトリを努めることになる。

 なお、今回のWTCCでは昨年に引き続き併催イベントとしてスーパー耐久シリーズも行われることになっており、WTCCと両方をまとめて楽しむことができる。昨年に引き続きWTCCに関しては東コースでの開催になっており、通常であれば2分程度かかる鈴鹿の周回が東コースだけなので、スタンドで見ていても、1コーナーや2コーナーで見ていても、すぐマシンが帰ってくるので飽きないレースになるだろう。

 チケットは鈴鹿サーキットのWebサイト(http://www.suzukacircuit.jp/ticket_s/2012/wtcc/)で販売されているほか、各種プレイガイドでも取り扱っている。家族で観戦するのにお得なファミリーチケットやグループチケットなども用意されており、観戦券は前売りで大人5000円、中高生で1600円と世界選手権のチケットにしては格安で用意されている。

 ホンダを応援するファンも、世界レベルのツーリングカーの戦いを堪能したいファンも、10月20日/21日は鈴鹿サーキットに集合だ!

(笠原一輝/Photo:奥川浩彦)
2012年 9月 20日