日産、市場導入直前の技術を紹介する「先進技術説明会」【前編】
FF車用の新型ハイブリッドユニット公開

直列4気筒2.4リッターエンジン「QR25」とハイブリッドシステムを搭載したインフィニティ「JX」

2012年10月17日発表



新型エクストロニックCVTを搭載した日産「アルティマ」

 日産自動車は、「先進技術説明会&試乗会」を神奈川県横須賀市内の追浜グランドライブで開催した。

 先進技術説明会は、2002年から毎年行われている報道陣向けの説明会で、今年で10回目の実施となった。長期的な展望においた技術ではなく、2~3年後に市場に導入できる直近の技術を実際のカットモデルや車両を用いて解説する。それに加え、先進技術が搭載されるテストカーにも試乗できるというのが、先進技術説明会&試乗会になる。

FF車用として新規開発されたハイブリッドユニット
 今回の先進技術説明会で発表されたものは、大きく分けて「環境技術」「安全技術」「ダイナミックパフォーマンス技術」「ライフオンボード技術」の4項目になる。

 まず、「環境技術」への取り組みだが、日産の環境理念である「人とクルマと自然の共生」を実現するために提唱している中期環境行動計画「ニッサン・グリーンプログラム2016」の考えがベースとなっている。

 2011年に発表した「ニッサン・グリーンプログラム2016」では、2016年までの6年間に取り組むべき環境技術の対策を公表。具体的な数値では、2005年比でCO2排出量を20%削減、企業平均燃費を35%削減、クルマ1台あたりの再生材使用率を25%向上するなどの数値目標を掲げている。そして、CO2や平均燃費の削減の取り組みに貢献する軸となるのがが「ゼロエミッション車の普及」と「良燃費車の拡大」になる。

ニッサン・グリーンプログラム2016について今回の先進技術説明会で発表された内容FF車用として新開発されたハイブリッドユニットを初公開

 燃費性能に優れたクルマの拡大において、今回の説明会で初公開されたのがFF車用として新開発されたハイブリッドユニット。日産では、2010年に発売した「フーガハイブリッド」でハイブリッドユニットを初めて市場に導入した。1モーター2クラッチという独自のハイブリッドユニットは、フーガハイブリッドに続き今年発売した「シーマ」にも採用されている。だが、良燃費車の拡大という意味で、V型3.5リッターエンジンの縦置きエンジンでは採用できるモデルが限られてしまう。そこで、今回公開されたFF用として使える横置きのハイブリッドユニットが必要だった。
 
 お披露目されたハイブリッドユニットは、直列4気筒2.4リッターエンジン「QR25」をベースにしたモデルと、直列4気筒2.0リッターエンジン「MR20」をベースにした2タイプ。フーガハイブリッドで使われる、FRユニット用のハイブリッドシステムと同様の1モーター2クラッチ方式とリチウムイオンバッテリーを採用。細かいセッティングなどは異なると言うが、基本構造はフーガハイブリッドに搭載されるシステムと同様となる。

 QR25ハイブリッドはスーパーチャージャーも組み合わせていて、3.5リッター並みの出力を発揮すると言う。国内モデルで言えば、「ティアナ」や「エルグランド」、「ムラーノ」などに搭載することを想定しているユニットだろう。解説によると、フーガハイブリッドよりもエンジン走行するシチュエーションが多くなるそうだが、スーパーチャージャーをセットすることで、極低回転でも実用的なトルクを出すことができると言う。街乗りで多用する低速域のモーター駆動を、よりアシストするのがスーパーチャージャーになるようだ。

直列4気筒2.4リッターエンジン「QR25」をベースに、フーガハイブリッドで採用されるハイブリッドシステムをFF車に適応。スーパーチャージャーをセットすることで、極低回転でも実用的なトルクを出すと言う

 もう一方のハイブリッドユニットは、Cセグメントやミニバンなどをターゲットにしたモデルで、「セレナ」などにも搭載されているMR20がベース。QR25のようなスーパーチャージャーなどの過給器を持たない内燃機関エンジンにハイブリッドユニットがセットされる。こちらも1モーター2クラッチ方式で、バッテリーはリチウムイオンを採用している。

直列4気筒2.0リッターエンジン「MR20」をベースに、やはりフーガハイブリッドのハイブリッドシステムを組み合わせた

エクストロニックCVTも高効率化

CVTも高効率化
 そして、グリーンプログラムで掲げる企業平均燃費削減に対するアプローチは、FF用のハイブリッドユニットだけでなく、エクストロニックCVTも高効率化された新型になる。2つのハイブリッドユニットに組み合わせた新型のCVTは、CVT単体で約10%の燃費削減が可能と言う。効率を高めるために、オイルポンプの小型化やオイルの低粘度化、撹拌(かくはん)抵抗を下げるといった変更が行われ、フリクションを40%低減。ローギアとハイギアの変速比も従来の6から7とワイドレンジにすることで、より駆動効率をアップさせている。

 QR25にセットされたCVTは、350Nmの入力に耐えられる大容量タイプのCVTでチェーン駆動になる。一方、MR20にセットされるのは250Nmまでに対応する中型のCVTでベルト駆動。小型のCVTは、すでに「マーチ」や「ノート」に採用される副変速機付きのエクストロニックCVTがある。今回発表された2つの新型CVTを導入することで、コンパクトカーからDセグメント級の大型モデルまで、すべてのFF車両に新型CVTを組み合すことが可能となった。

 今回の先進技術説明会では、QR25をベースとしたハイブリッドユニット搭載車と、250Nmに対応する中型のエクストロニックCVT搭載車を実際に運転することができたので、その印象をお伝えする。


インフィニティ「JX」

軽々と2tのボディーを引っ張る新型ハイブリッドユニット
 まず、新型ハイブリッドユニットの試乗車は、インフィニティ「JX」。JXは北米で昨年から販売されている7人乗りの中型SUVだ。

 インフィニティのSUVとしては大型の「QX」と「FX」があったが、その中間を埋めるモデルがJXとなる。中型SUVといっても、全長は約5mでVQ35エンジン搭載車の重量は2000㎏に及ぶ。この重量級のクルマに対してどのような加速をするのかが気になるところだが、アクセルを踏み込むと軽々と2tのボディーを引っ張っていく。試乗コースの途中で停止してからフル加速するシチュエーションがあったが、低中速からトルクが湧き上がる感覚で、それほどアクセルを踏み込まなくても意図した加速が得られるのは、モーターとスーパーチャージャーの効果だろう。

 また、2クラッチを持つハイブリッドなので、100㎞/h前後で走行していてもアクセル開度が少ない低負荷領域ならばエンジンが停止し、モーターだけで走行する。低速域のトルク感と低負荷時のエンジンストップなどを考慮すると、燃費への貢献はかなり高いのではないかという印象。ハイブリッドシステム全体のユニット出力は、発売前とのことで公開できないそうだが、3.5リッター並みかそれ以上の動力性能を持っていると感じた。


日産「アルティマ」

 一方の新型エクストロニックCVTを搭載した試乗車は、北米で販売されている日産「アルティマ」。セットされたCVTは250Nm対応の中型用で、エンジンはハイブリッドではなくコンベンショナルなガソリンエンジン。

 ロックアップ領域を広げたことやフリクションを減らしたと言われているが、乗ってみてもっとも印象的だったのが、アクセル開度とエンジン回転数の違和感のなさ。CVTはアクセルの全開にしたときなどに空走感があり、そこに違和感を感じることがあるが、その点がだいぶ抑制されているようだ。変速比やロックアップ領域の拡大は、燃費向上にも大きく影響するはずで、100㎞/hでのエンジン回転数は1500rpmほど。フィーリングや燃費の向上が期待できる新型CVTと感じた。

FFハイブリッドシステムの概要

(真鍋裕行)
2012年 10月 17日