「SUBARU BRZ R&D SPORTS」SUPER GT参戦リポート
第3回:第6戦 富士~第8戦 もてぎ最終戦


 初戦からアップデートを繰り返しながら、着実に進化してきた「SUBARU BRZ R&D SPORTS」。第5戦鈴鹿ではリタイアこそしたものの、後半戦へ向けファンに大きな期待を抱かせるに十分なパフォーマンスを魅せた。今回はそんなBRZの鈴鹿以降、最終戦までの戦いを振り返ってみた。

SUPER GT第6戦「FUJI GT300km RACE」
 ストレートが長く決してBRZとの相性はよくない富士スピードウェイだが、同じコースで戦った第2戦の成績は9位。鈴鹿でのマシンの仕上がり具合を考えれば、苦手なサーキットとはいえファンの期待も膨らんだレースではあった。そしてノックアウト方式の予選ではQ3までコマを進め10番グリッドを獲得し決勝に臨んだ。

 決勝レースの当日も午前中のフリー走行では6番手のタイムを叩きだし、マシンの仕上がりの良さを感じた。決勝10番手スタートのBRZは山野選手の追い上げによりわずか17周で5位と絶好調。28周目、佐々木選手へ交代するためピットイン。ところがここでタイヤ交換に手間取り20秒ものロスをしてしまい大きく順位を落としてしまった。その後の佐々木選手の追い上げは凄く、6位まで順位を戻しゴール、8ポイントを獲得した。それにしても後半の佐々木選手の気迫の走りは凄まじく、見ている方としては魅力的なレースとなったが当の本人はレース後、今季最高位にもかかわらず悔しさをにじませていたのが印象的だった。

後半、ピット作業でロスした20秒を挽回すべくコースに戻った佐々木選手の気迫の走りは今年強く印象に残った1コマだ。見ていて本当にゾクゾクした

SUPER GT第7戦オートポリス「SUPER GT IN KYUSHU 300km」
 台風接近により雨天での予選となったオートポリスは昨年レガシイB4でポールトゥウインを達成したサーキット。佐々木選手自身「得意なコース」と公言し、マシンの仕上がり具合や相性を考えれば表彰台を狙えるレースだ。ノックアウト方式の予選の結果は途中赤旗による中断もあったが、富士同様Q3までコマを進め8番手だった。

 決勝日も台風の影響が残り雨と濃霧に悩まされる1日となった。朝のフリー走行は中止、決勝レースも天候は不安定でセーフティーカーランからスタート。ABSやTRCなどの電子デバイスがないBRZにとっては望まぬ雨のレースとなってしまったが、山野選手、佐々木選手ともに快調にレースを運び後半には遂に3位までポジションアップ。さらに上位を狙うべく佐々木選手は2番手のポルシェを猛追。BRZ初の表彰台は目の前だった。しかし終盤にコースオフした際にラジエターに異物がつまり、それが水温上昇を招いたらしくスローダウン。最終ラップで4位に順位を落としてしまいレースを終えた。前戦富士を超える4位で11ポイントを獲得するも、またもや悔しさが残るレースとなった。

コースレイアウトがBRZとマッチするオートポリスは台風接近のため雨。予選はQ3まで進出し8位
天候が回復しなかったオートポリスでBRZは快走。最後の最後でスローダウンしてしまうもののなんとかゴールまでマシンを運び4位。これが今季最上位となった

SUPER GT第8戦「MOTEGI GT250km RACE」
 ストップ&ゴー主体でBRZのよさが最も出にくいサーキット、ツインリンクもてぎ。それでも、ここ数戦結果こそ残せずにいるもののその走りに進化の見られるBRZにとってどのくらいの戦いをできるかが見ものであったが、そのハードルは想像以上に高かったようだ。予選は15位、決勝でも挽回できずに15位と今季完走したレースの中で最も残念な順位で最終戦を終えた。

 また、今年中盤戦あたりから見られた、速さはあるもののアクシデントにより結果がついてこない状態とは違い、正直言ってコースサイドから見るBRZの走りは残念ながら精彩を欠いていたように感じた。

 今季全体を振り返れば、ニューモデル1年めのマシンとしてはとても魅力ある走りを我々に披露してくれ、またその一歩一歩進化していく姿はスバルらしい着実なものであったのは間違いないのだが、最後に大きな課題を残しシーズンを終えたようだ。

セッティングが決まらず、ピットでの打ち合わせは熱を帯びる。決勝レースでも苦戦し最終戦は15位で終えた
今季鈴鹿戦にてGT100戦を達成した山野選手が最終戦の決勝レース前に表彰された指で100の文字を作る。なんとも山野選手らしい他の100戦達成選手はオープンカーでパレードしたが山野選手だけなんとBRZの箱乗り。そう、スバルにはオープンカーがないのだ
GT100戦達成のお祝いにツインリンクもてぎのスタッフもピットまで駆けつけてくれたグランドフィナーレでは山野選手、佐々木選手ともに大勢のファンに笑顔で応えた

今シーズンを振り返って。
 世界各地のモーターショーで注目を浴びてきたスバルの最新モデルBRZが「SUBARU BRZ R&D SPORT」としてデビューし1シーズンを戦い終わった。成績は予選、決勝ともに最高4位、シリーズを通じてのチームランキングは12位。データのまったくない新型車で、大排気量FIA-GT3マシンがひしめくGT300クラスでの成績としてはまずまずと言えるかもしれない。

 猛暑の中、鈴鹿サーキットを快走した第5戦。途中ピットでのロスタイムがありながらもアグレッシブな走りでスタンドを沸かせた第6戦。悪天候の中水温の上がったマシンを必至にゴールまで運んだ第7戦。どれも見応えのあるレースだった。

 しかしながら、WRC撤退後スバルモータースポーツの中核を担うそのポジションを考えても、BRZという車の話題性を考えても、ファンの期待はそれを超えるものであるのは間違いなさそうだ。マシン自体の速さ、強さとともにチームの総合力に磨きをかけて来期は更なるステップアップを果たし、多くの表彰台、そして優勝のシーンを我々にぜひとも見せてほしいと思う。

ラウンド結果
Rd.1 岡山 3月31日~4月1日予選8位 決勝リタイア(45周)
Rd.2 富士 5月3日~4日予選12位 決勝9位 (3point)
Rd.3 セパン 6月9日~10日予選12位 決勝8位 (6point)
Rd.4 SUGO 7月28日~29日予選17位 決勝10位 (4point)
Rd.5 鈴鹿 8月17日~18日予選4位 決勝リタイア(92周)
Rd.6 富士 9月8日~9日予選10位 決勝6位 (8point)
Rd.7 オートポリス 9月29日~30日予選8位 決勝4位 (11point)
Rd.8 もてぎ 10月27日~28日予選15位 決勝15位 (1point)
総合成績2012 GT300 TEAM RANKING  12位

「SUBARU BRZ R&D SPORT」を支えるスタッフ達
 レースの世界ではファンはもちろん、ドライバーや監督、そして多くのチームスタッフが勝利に向けて活躍しているからこそ成り立っているのは御存知のとおり。そんな中から今回はR&Dスポーツのスタッフ、そしてBRZギャルズの方々を紹介する。

R&Dスポーツ マネージャー 渡辺麻子さん
 レースの世界でマネージャーの仕事とは、とても守備範囲が広く、またチームごとに違うのでとても一言では言い表せるようなものではないが、例えば渡辺さんの場合、チームウエアや消耗品の用意、スタッフの宿泊の手配はもちろん、サーキットではホスピタリティの準備等、とにかく刻々と変わるレースの進行状態を管理しながらマシンに直接触れる部分以外のすべてに携わっている。

 そんな渡辺さんに今年1年の感想をうかがうと「いつも反省ばかり。常に前を向いてつき進むことで頭が一杯で、振り返って感想を考える余裕もありません」とキッパリ。チームの成長、そして多くの人にレースの魅力や車の楽しさをもっと身近に感じてもらうために必要な仕事は膨大で、仕事を1年スパンで考えるのは難しいとのこと。ごもっとも。

 また今年のニューマシンBRZについては「人気のあるモデルですよね。お父さんが(サーキットに)お子さんを連れてきて、そこでそのお子さんがまたスポーツカーに興味を持ってくれる。そんな連鎖を期待しています。これからもスポーツカーはなくなってほしくないし、エコカー主流の中でもスポーツカーに頑張り続けてほしいです」とのこと。そんな渡辺さんはもてぎでも山野選手がもらった大きな花束を切り分けてホスピタリティブースのテーブルに生けていました。ホント守備範囲広い。


R&Dスポーツ メカニック 塚邊俊介さん
 自動車の専門学校を卒業し、今シーズンよりR&DスポーツのメカニックとてスーパーGTに参加しているのが塚邊さん。まだまだマシンにはさわらせてもらえないが、マシンの窓を拭いたりサインボードを出したり、ピット作業中は消火マンとして活躍している。この仕事を始めた当初は憧れのレース業界に入れたことで浮かれていて、先輩に怒られることが多かったようだが、さすがに今はほんの少しだけ慣れてきており、その「慣れ」が空回りして危険な状態であるのを自覚している。

 どこか自信にみなぎった目をしているように感じたので聞いてみると「今やっている仕事はレースでは大切な仕事。でもそこで満足しちゃいけない。自信を持てなければ上へは行けない」と頼もしい返事。さすが。

 そんな彼に今年1年の感想を聞くと、「実は忙しくてよく分かりません、覚えることが多すぎて……」

 ちなみに、近年SUPER GTに限らず国内のさまざまなレースの現場で自動車専門学校の学生を数多く見かける。単なる移動の道具ではない自動車に魅せられこの世界を目指す人は、実は少なくない。塚邊さんも昨年まではそんな中の1人。この世界を志す1人でも多くの若者が自分の夢を達成できれば自動車業界にとっても素敵な話になると思う。

SUBARU BRZ GT GALS 植田 早紀さん
 「レースクイーンっていうのは(チームの)一番の応援団で一番のサポーターだと思っている」と言う植田さんは、一年間BRZの戦いと葛藤を間近に見てきて、改めて素晴らしいチームだと感じ、そんなチームを一生懸命愛しながらSUBARU BRZ GT GALSを務めることが出来たと満足気だった。自身のブログでは多くの関係者への感謝の言葉とともに「BRZくんお疲れ様でした♡ありがと。。♡」と書かれており。来年はもっともっとBRZくんが頑張っちゃうでしょう。

SUBARU BRZ GT GALS 春菜 めぐみさん
 昨年もこのチームでレースクイーンを務め、レガシィで2回の優勝を経験した春菜さんにとっても、BRZは生まれたての車をチームみんなで1から作っている感じがして「BRZになってからさらにスバルへの愛が強くなりました!」と語る。また「悔しい思いをしたからこそ成長を感じることができ、その思いを次の結果につなげるチームを尊敬できました」と、BRZはここでも大人気。

SUBARU BRZ GT GALS 森 紗羅さん
 「GT GALSのメンバーもみんな優しく、また山野、佐々木両選手や辰己監督そしてチームのスタッフ皆が一丸となってBRZという新しい車種をいかに速くしていくかの試行錯誤を間近で見れてホントに勉強になりました」「実はBRZの優勝を見られなかったのは残念です。本当に思い入れが強かったのでオートポリスでは悔しくて泣きました」そんな森さんはレースクイーン1年生。

SUBARU BRZ GT GALS 上條 かすみさん
 「今年からスバルのチームの一員としてやらせていただいたのですが、とにかくスバルの注目度の高さに驚きました。」と言う上条さん。やはりBRZのファンからの注目度は高いようで、その最前線にいる彼女たちは最も肌で感じているのだろう。またファンとチームが一丸となって暖かいチームを作っていると感じたそうだ。ファンには「毎戦毎戦多くの人が応援に来てくれて、選手だけではなく私達の事までありがとうございました」とのメッセージ。

 1年間のレースを間近で見てきた彼女達誰もが口にするのが、デビュー間もないBRZを作り上げていくスタッフの苦労とチームの暖かさだ。開幕当初、時間をかけて勝てるマシンにまで成長したレガシィB4のGTマシンをあっさりとBRZにチェンジし、また一からのスタートを選んだことを疑問視する声もあったようだが、彼女達の声を聞いていると、この新たなチャレンジはR&Dスポーツ、STI、そして多くのスバルのファン、誰にとってもベストな選択だったのではなかろうかと思えてくる。

 青いBRZ GTは惜しくも今季未勝利。山野、佐々木両選手はポディウムに乗ることさえ叶わなかった。しかし、この一歩一歩確実に歩み続ける姿こそ「SUBARU BRZ R&D SPORTS」の魅力の一面でもあり、来シーズンへの期待につながっていくのだろう。

 最後に、シリーズ最終戦を走り終えたドライバーからそれぞれ一言。

山野哲也選手
「とにかく忙しい1年でした、(苦労もしたけど)いいこともいっぱいありましたよ!」

佐々木孝太選手
「終わりよければすべてヨシ……って訳にはいかなかったですね。また来年頑張ります!」

 そんな両選手がBRZで走る次のレースが今週末に行われるJAFグランプリ FUJI SPRINT CUP 2012だ。BRZ今年最後の走りを富士スピードウェイで堪能し、山野、佐々木両選手やBRZ GT GALSに会いに行てみてはいかがだろう。

(高橋 学)
2012年 11月 16日