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ヨコハマタイヤのフラグシップタイヤ「ADVAN Sport V105」に試乗

ステアリング操舵時のレスポンスが優れる「マトリックス・ボディ・プライ」構造

アドバンブランドの頂点に立つ「アドバン スポーツ V105」。V103の後継となる新プレミアムタイヤ

 ADVAN(アドバン)ブランドと言えばピュアスポーツタイヤであるNEOVA(ネオバ)が直ぐに思い浮ぶが、アドバンはスポーツタイヤだけでなく、ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)のトップモデルのブランドとして位置づけられている。

 たとえば静粛性と乗り心地で定評があるdB(デシベル)は今やADVAN dBの名前で展開されており、将来的にはアドバンブランド単独での展開の可能性があると言う。もちろんスポーツタイヤの核であるネオバは継続して開発されているのは言うまでもない。

 さてここで紹介するのはアドバンでも、そのトップブランドであるADVAN Sports(アドバン スポーツ)だ。アドバン スポーツは日本国内でメーカー標準タイヤ(OE[Original Equipment]品)として採用されている例はまだないが、欧州メーカーでは積極的に採用が拡大されている。

ポルシェやアウディなどに採用される「アドバン スポーツ V103」

 日本ではあまり知られていないがアドバン スポーツは、現在V103シリーズがポルシェやアウディなどに採用されている。さらに北米ではフェアレディZのNISMOバージョンに採用されている点も新しいニュースとなるだろう。

 このV103はメーカー納入品以外にもリプレース用としてタイヤ販売店でも手に入れることができる。プレミアムカーに対して、特に乗り心地のよさと静粛性、ウェト性能が評価されて好評を博している。北米のフェアレディZ NISMO仕様にV103が選定されたのもこれらのトータル性能が評価されたからにほかならない。

フェアレディZのNISMOバージョン
装着されるアドバン スポーツ V103

 NISMO仕様は標準車をさらにチューニングしてサスペンション、エンジンのパフォーマンスを上げているが、これに装着されたV103のパフォーマンスをまずは確認してみた。試乗コースはサンフランシスコの郊外ペブルビーチ近郊のワインディングロードである。

 V103は4本のストレートグルーブを配した精緻なパターンで、ラージブロックを身上とするネオバとはがらりと雰囲気を異にする。スポーツカー専用のピュアスポーツタイヤというよりもプレミアムカーに代表される上級セダンからGTまでカバーする幅広い守備範囲を誇る。

 もともとNISMOチューンはスポーツカーであるZをさらに固めたものだけに、ステアリングの応答性、ロールの少なさなどハンドリング面の強化が目につく。ただしその半面、路面からの突き上げ、ハーシュネス等はきつくなっていくのは仕方がないところだ。特に北米のフリーウェイでの連続した路面の継ぎ目での突き上げはなかなか厳しいものがあり、ある周波数で入ってくるとイライラさせられる。

 ところがV103を装着すると、このきついハーシュを巧みに収束してくれる。もちろんスポーツカーらしい突き上げはあるものの許容レベルだ。これが連続したハーシュに襲われるフリーウェイならなおさらだろう。スポーツカー、Zの持ち味をうまく引き出しながら乗り心地を改善することができている。

 ステアリングレスポンスはプレミアムタイヤに相応しく、過敏でない程度に適度に保たれており、素直にコーナリング姿勢に入ることができる。コーナリング時のタイヤの変形は、Sタイヤのようなガッチリと路面との接触面が保たれているわけではなく、適度に変形を伴うが、スポーツカーに相応しいレベルの変形に留まり、その際に伝わるステアリングインフォメーションも上手に伝えてくれる。

 応答性はこのように適度で、左右にステアリングを切り返したときにも素直な反応を示す。パワーをかけながら大きなステアリング舵角を与えると、さすがにタイヤのロールは大きめに感じることはあるが、腰砕け感のようなことはないので安心できる。

 アドバン スポーツ V103がZのNISMOバージョンに装着され、北米で歓迎されているのも納得だ。サスペンションをよりコーナリングマシンとしてチューニングしてスポーツカーであるZの特性を引出すとともに、V103を履くことで高いコーナリング性能と乗り心地、とくに連続したハーシュネスの軽減という両立を図っている。

新たなフラグシップタイヤ「アドバン スポーツ V105」

 アドバン スポーツには、もう1つのラインアップがある。V105と呼ばれるタイヤで、メルセデス・ベンツなどを中心に採用を拡大している。リプレースと呼ばれる一般市販用モデルの発売は、先日発表されたように2013年2月になる。V103の後継製品として発売され、サイズの重なるモデルから置き換えていく。

 日本では、これから一般市販となるアドバン スポーツ V105に試乗する機会を得たので、ここにお届けする。V105が標準装着されていたのは、メルセデス・ベンツ SL550。タイヤ評価にもシビアなメルセデスが積極的にV105を採用している。

 自動車メーカーがタイヤを選定する場合には、かなり厳しい条件を付けるが、トータルとして言えることは各性能のバランスチャートの円グラフが大きく、どの性能も及第点になければならないことだ。例えば一般市販用タイヤなら、静粛性は若干落としてもドライグリップを上げる、という選択肢もあるがOE品にはそれが許されない。

 メーカーの要求仕様は、高い直進安定性とリニアなハンドリング、快適な乗り心地と小さいパターンノイズなどの静粛性、そして高いウェット性能などが挙げられる。そして最近では燃費をよくするために、優れた転がり抵抗性能も要求される。ヨコハマタイヤはスポーツタイヤの先駆者であるだけでなく、環境性能に対しても世界のメーカーでいち早く取り組んでおり、この面でのアドバンテージもV105の開発に大いに貢献しているはずだ。

主溝が4本のV103。トレッドパターンには、複雑なラインが描かれている
主溝が3本となったV105。シンプルなトレッドパターンが描かれており、パターンノイズの低減を意識しているのが分かる

 トレッドパターンは左右非対称パターンを採用。V103の主溝が4本で形成されているのに対して3本(副溝1本)になり、アウト側には比較的大きなブロックを配すると同時に細い溝を効果的に入れて、排水性を損なわないよう考慮されている。イン側はアウト側と比べると、排水性を重視しているが、見た目のダイナミックなパターンの印象は変わらない。また、外観では判断することはできないが、タイヤ構造(コンストラクション)とタイヤ形状(プロファイル)、それに左右非対称パターンと新コンパウンドで相乗効果の高いパフォーマンスを発揮することになる。

 試乗コースはV103で走ったのとほぼ同じ、米国ペブルビーチ郊外のワインディングロード。そのほか、V105を装着したクルマに日本でも試乗しているので、その印象も付け加えておこう。

 第一印象はさすがに各性能のバランスが非常によいことで、タイヤが自己主張せずにクルマの性格にあわせて、役割を発揮している感じだ。SL550は言うまでもなくハイパワーのスポーツカーだが、それでも発進時に軽くアクセルを踏んだ状態でスーと走り出す。極端な言い方をすると重いものをよいしょ!と引っ張っていく感触がない。285/35 R18のファットなタイヤというイメージがないのだ。

 さらにアクセルOFF時にどこまでも転がっていくような転がり抵抗の小ささを体感でき、この感触は、ヨコハマの最新タイヤであるブルーアース・エースで感じたデジャビューでもある。ちなみに日本でメルセデスCクラスに履いて繰り返し乗ったが、燃費がそれまで履いていた標準タイヤよりも数%向上した。燃費向上技術の進化は目覚ましいが、コンパウンドとタイヤの軽量化、そして接地形状が燃費向上に寄与しているのだろう。

 低転がり抵抗タイヤ=低グリップというのは最近の低燃費タイヤにはまったく当てはまらないし、むしろ高いウェットグリップに驚かされることが少なくない。V105はタイヤのビード部がしっかりしており、ステアリングを切ったときのタイヤの応答遅れのような捻じれを感じない。ステアリングの操舵量に応じて素直に反応するのでドライバーの安心感は高い。速い操舵をしてみたが踏ん張り感は変わらず、リアグリップを失うような兆候も見られなかった。

 ステアリング操舵時のレスポンスが優れているのは、回転方向に対して垂直ではなく、やや斜めに角度のついたカーカスプライを組み合わせた「マトリックス・ボディ・プライ」構造を採用したことと関係している。WTCC(世界ツーリングカー選手権)用のレース用タイヤででも使われており、ハーフラジアルとも呼ばれる構造だが、これにより小さなステアリング舵角に対しても微妙に反応してくれる。それでありながら、タイヤの周剛性が高く、ハイパワーのSL550でラフなアクセル操作をしてもトラクションに対するレスポンスが優れていた。

 乗り心地は穏やか。ピュアスポーツタイヤのような突き上げ感とは無縁で、V103譲りのハーシュネスの小ささを受け継いでいる。静粛性は、ロードノイズ、パターンノイズともよく抑えられている。OEタイヤらしく全方位で性能が上げられ、総合性能が高くなっているのがよく分かる。メルセデス・ベンツをはじめとする欧州の自動車メーカーからも評価が高いのもうなずける。

 今回試乗したのはメルセデス・ベンツ用のV105だったが、2013年2月には205/55 R16 91V MO~295/30 ZR19(100Y)の全33サイズが発売され、アドバンのフラグシップタイヤとしての役割を担っていくことになる。GTからセダンまで守備範囲の広いプレミアムタイヤの誕生である。

(日下部保雄/Photo:荒川正幸)