レビュー

ヨコハマのハイパワープレミアムタイヤ「ADVAN Sport V105」スペイン試乗会

アスカリ・サーキットで、その実力を試す

ハイパワープレミアムカー向けラジアルタイヤ「アドバン スポーツ V105」

 ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)のグローバル・フラグシップブランドであるADVAN(アドバン)。そのハイパワープレミアムタイヤがADVAN Sport(アドバン スポーツ)だ。アドバン スポーツは2005年のV103から始まり、当初はポルシェの標準装着タイヤとして世に登場した。スポーツモデルに装着しても乗り心地がよく、かつハイスピード・パファーマンスも高いことが評価され、メルセデス・ベンツをはじめ、アウディ、ポルシェ、ベントレーなどに次々と採用されていった。その間、OE(Original Equipment)向けはその都度変更を加えて完成度を高めたのは言うまでもない。リプレース用タイヤとしても内外のプレミアムカーを中心に装着が進んでいた。約7年の歳月を通じて評価を高めていたアドバン スポーツだが、2012年11月に一気にフルモデルチェンジして「アドバン スポーツ V105」が登場し、新世代に入ったことになる。

 このV105はすでにメルセデス・ベンツをはじめ、欧州のプレミアムブランドが積極的に採用している。特にメルセデスの各モデルへの装着率は高い。また、V105はヨコハマのプレミアム・フラグシップだけに生産技術も含めて高度なテクノロジーが投入されている。もちろんアドバンのルーツであるレーシングテクノロジーも活用されているのは言うまでもない。開発はもちろん神奈川県平塚にある研究開発センターで行われたが、テストフィールドとなったのは日本でのテスト拠点「D-PARC」だけでなく、過酷で鳴るドイツの「ニュルブルクリンク」も主なトラックに選ばれた。開発には欧州のカーメーカーも積極的に協力したと言う。

 言うまでもなくアドバン スポーツはレーシングタイヤでも、Sタイヤでもない。プレミアムカーが日常履く高性能タイヤで、ドライでのグリップだけでなく、ウェットグリップ、そして快適な乗り心地、静粛性、摩耗などの髙いバランスが求められる。V105に投入された技術はV103からの改良ではなく、構造、パターン、コンパウンドのすべてに渡って新規に投入された技術が使われている。

 構造にはレーシングタイヤ譲りのハーフラジアルを採用している。ヨコハマではこれを「マトリックス・ボディ・プライ」と呼称しているが、斜めのカーカスをトレッド付近までターンアップさせることで剛性を上げて、軽量化にもつなげている。剛性が高い分、路面からの入力に対してタイヤのゆがみが少なく、ステアリングレスポンスも向上する仕組みだ。

 これは開発技術だけでなく精密な生産技術があってこそ成立し、コストもかかるがプレミアムタイヤに相応しい性能を得るためにあえて挑戦したと言う。骨格となるカーカスは温度依存の少ないレーヨンを採用して、操縦安定性に寄与する。これらのタイヤ構造、材料の見直しで剛性を大幅に上げながら軽量化に成功しており、サイズによっては4.6%も軽量化している。バネ下の軽量化はハンドリングに対する効果が大きく、さらに燃費に対するファクターも大きい。

トレッドパターンは左右非対称を採用。回転方向指定はない
設地形状の最適化に寄与する、丸みを帯びたブロックパターン。プロファイルも丸みを帯びている

 トレッドコンパウンドには大量のマイクロシリカが投入されている。よく知られているようにシリカは温度依存が少なく、ウェット時でも低温からグリップを出せ、摩耗にも有利になるが、シリカはカーボンとの混合が難しく、大量に使用することが難しかった。ヨコハマでは新規にシリカ分散剤を開発し、大量のシリカを拡散したカーボンに混ぜることに成功した。

 さらにV105では機能が異なる3種類の高分子量ポリマーをブレンドし、グリップ、ウェット、摩耗を高次元でバランスさせている。コンパウンドにはヨコハマ独自のオレンジオイルを配合し、ミクロレベルでゴムをしなやかにし、路面への追従性を向上させている。オレンジオイルは汎用タイヤだけでなく、レーシングタイヤにも採用されている技術だ。

 トレッドパターンは左右非対称となり、アウト側は幅広ショルダーで剛性を上げて、接地幅を確保し、イン側は幅広いストレートグルーブを配することで、ウェットでの排水性に効果の高いパターンとしている。ストレートグルーブは3本のワイドグルーブと1本の細いグルーブで構成されており、比較的シンプルなパターン構成だ。またブロック形状も工夫しており、丸みを持たせることで接地形状が最適化できる。さらにいうならプロファイルも丸みを帯びているのも特徴だ。

スペインで開催されたグローバル試乗会

 グローバル試乗会はスペインの南、マラガに近いロンダにあるプライベートサーキット、アスカリ・レース・リゾートで開催された。リゾート内にあるアスカリ・サーキットはトラディショナルなレイアウトで3つのセクションに区切ることができ、それぞれテーマごとのタイヤテストが行われた。

 最初のロータス・エリーゼによるADVAN NEOVA(アドバン ネオバ) AD07を履いたタイムアタックは余興だが、簡単な肩慣らしをすることができた。軽いロータス+ハイグリップタイヤであるネオバの組合せは高いコーナリングパワーを発揮する。

 次のテーマはウェットハンドリングにおけるV105とV103のウェット比較テストだ。60km/hでのスラロームと40km/hでの円旋回、そして60km/hからのフルブレーキだ。スパンが短いスラロームを高速で抜けるとV103ではステアリングの操舵量が大きく、レスポンスもワンテンポ遅れ気味だったが、V105では素直なハンドル応答性を見せる。円旋回もステアリング舵角が異なり、V105では同じ円周でも速度が上がり気味になり舵角も小さい。

 低μ(ミュー)路でのフルブレーキは初速度が一定にならず、残念ながら比較テストにならなかったものの、両者とも低μ路の割にはよく制動力を発揮したと思う。タイヤサイズはいずれも225/45 R18である。

 次のステージはメルセデスのSLとCLSに履いたV105の絶対評価だ。コースはアスカリ・サーキットの中では中速になるが、このコースの特徴でアップ・ダウンが厳しいタフなレイアウトだ。インストラクターの同乗するSLに引っ張られ、この車をトレースしながらコースレイアウトを覚える。

 SL、CLSともタイヤはメルセデスの承認記号、MOの入ったものでタイヤサイズはフロント255/40 R18、リア285/35 R18である。サーキット用のSタイヤではないので、アップ・ダウンから上下に入る入力が大きく、タイヤ剛性的になかなか厳しい条件。しかしV105がベースに持っている素直なフィーリングは小気味よく、ライントレース性に優れている。

 上下に厳しいコーナーアプローチでも、ステアリングレスポンスはタイヤが変形しながらも反応は確実だ。しかも舵はよく効いてくれてグイと旋回姿勢に入る。さすがにこれだけ上下入力が大きいとタイヤ変形は小さくないが、剛性はしっかり確保されていて、タイヤのヨレ変形が急激に起こることはなく安心感がある。

 また、ステアリングを切って方向が決まるとライントレースは一定しており、一定舵角でのステアリング修正は最小限だ。ブレーキングでも同様で前後方向の剛性が確保されており、制動は予測したとおりに減速する。この際にもタイヤ変形は感じるが、厳しいサーキットの割には、一定したたわみでこの感触も安定感が高い。

 アトラクション的に、ヨコハマのテストドライバーであるオリバー氏がドライブするアウディR8 V10のナビシートで、フロント235/35 ZR19、リア295/30 R19のリプレース用V105を堪能する。

 オリバー氏はテストドライバーらしく、コーナーでは一定舵角でタイヤの挙動を待っているようなドライビングをする。タイヤをコジらないのでタイヤ特性がよく分かるドライビングだ。ここで感じたのは癖のないタイヤ特性で、強大なトルクでクルマが滑り出しても、十分にドライバーが対応できる余裕だった。オリバー氏は「Sタイヤじゃないからね」、と言いながらのドライブだったが、なかなかコントロールしやすいポテンシャルを持っているのが印象的だ。

V103に比べ、ステアリングレスポンスのよいV105

 3つ目は、同じサーキットながらハイスピード・セクションをSLとCLSで走る。基本的にV105の印象は変わらない。転がり抵抗が小さく、スーと走っていく印象だが、ブレーキはしっかりと効く。むしろクルマのほうが音を上げてしまい、ブレーキペダルはスポンジーになっていた。もっとも3日間も痛めつけられていたから当然と言えば当然だ。

 高速コーナーもステアリングレスポンスが自然で適度に切れがよい。高速コーナーリング中もピタリと姿勢が安定するため、細かいステアリング修正はほとんど必要なかった。リラックスしてスマートに旋回していく。

 コーナーの切り返しではレスポンスの遅れは最小で、かつ剛性感があるのでプレミアムタイヤとして充分に満足のいくレベルだ。

 最後のメニューはアウディTDIによるV103とV105の比較試乗だ。タイヤサイズは245/40 ZR18。ここではタイヤの剛性の違い、グリップの違いが如実に感じられた。V103もレベル的に低くないのだが、V105に比べると性格の差が現れる。

 V103ではステアリングレスポンスが若干遅れること、コーナーのアプローチでステアリングの位置決めのために僅かに修正をする必要があるが、V105ではピタリと一発で決まる。さらに高速コーナーのライントレース性ではV103はややアウト側にはらんでいく傾向があったが、V105では一定舵角のままで、さらに切り込む必要はなかった。グリップの高さもさることながら、剛性感とレスポンスが小気味よい。

 直進安定性は素直でどっしりしていることから、プロファイルと剛性が高いレベルで融合していることが分かる。

 アスカリ・サーキットではハイパフォーマンスカーでV105の性能を堪能したが、実は以前も公道でV105を履いて、ダンピングの効いた乗り心地と高速直進性の髙さ、それにがっちりとした剛性感がもたらす安心感に魅了されていた。ハードなシーンにおける性能を再確認したのが今回のサーキット・テストドライブだった。いずれにしても素晴らしい環境とともにV105を存分に楽しんだ1日だった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。