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更新・補修の対象となる高速道路は合計で2110km、総概算事業費は3兆200億円

NEXCO3社、高速道路の大規模更新・修繕計画の概略を発表

提言書を提出した長期保全等検討委員会 委員長の藤野陽三氏(左)と、代表で提言書を受け取ったNEXCO東日本 代表取締役社長の廣瀨博氏
2014年1月22日発表

 NEXCO 東日本(東日本高速道路)、NEXCO中日本(中日本高速道路)、NEXCO西日本(西日本高速道路)の3社は1月22日、高速道路を永続的に利用していくために必要とされる大規模更新・修繕に関する計画(概略)を発表した。

長期保全等検討委員会 委員長 藤野陽三氏

 NEXCO 3社は、2012年11月より「高速道路資産の長期保全及び更新のあり方に関する技術検討委員会」(長期保全等検討委員会)を設立し、NEXCO 3社が管理している高速道路を将来にわたって長期的に利用するために必要な措置について、1年以上の期間をかけて検討を重ねてきた。記者会見が行われた22日には、同委員会の有識者4名がこれまでの分析結果をまとめた提言書をNEXCO 3社に提出。提言書はNEXCO東日本 代表取締役社長の廣瀨博氏が代表で受け取った。

 会見では、まず長期保全等検討委員会 委員長である東京大学大学院工学系研究科総合研究機構 特任教授の藤野陽三氏が挨拶し、「提言書には将来にわたって必要な高速道路に関する長期保全、更新に関する基本的な考え方や大規模更新、大規模修繕の実施時期、実施に伴う課題や点検のあり方、そして第三者等に対する被害防止策などが盛り込まれている。委員会ではこれまでNEXCO3社が管理する高速道路や橋梁、トンネルなどをさまざまな資料をもとに分析し、道路を永続的に使用していくために現時点で必要な対策や技術要件を整理した」などとコメント。高速道路全体に関しての包括的な分析は今回が初めてという。

 藤野氏は最後に、「長期保全等検討委員会設立直後に起きた中央自動車道笹子トンネル上り線の天井崩落事故のような事故を二度と起こさないよう、ハード・ソフトの両面から維持管理を着実に進めることが必要」と述べて挨拶を終えた。

NEXCO東日本 代表取締役社長 廣瀨 博氏

 引き続き、提言書を受理したNEXCO東日本 代表取締役社長の廣瀨博氏は「本委員会の提言は、国民の共有財産である高速道路資産を健全性と機能を永続的に確保するための方向性が示されている。今後は国など関係各所とともに連携しながらスピード感を持って取り組み、長期的な視野に立って道路構造物の計画的な保全に努めていきたい。また、中央自動車道笹子トンネルの事故では9名の方が亡くなられており、改めてご冥福をお祈りしたい。同時に、二度とこのような事故を起こさないという決意をNEXCO3社共通の思いとし、改めて表明したい」などと挨拶した。

 提言書に記された具体的な内容は、NEXCO 3社の高速道路総延長約9000kmのうち、大規模更新が必要な道路が約240km、概算事業費は1兆7600億円、大規模修繕が必要な道路は約1870km、概算事業費は1兆2600億円で、更新・補修の対象となる道路は合計で2110km、総概算事業費は3兆200億円であることが示された。これらの道路を今後15年を掛けて更新・修繕していく計画だが、具体的な開始時期については明確にはされなかった。

 高速道路の現状としては全国の高速道路の総延長約9000kmのうち、30年以上経過した道路は約4割の3700kmにおよぶ。橋梁やトンネルに関しても同様で、橋梁の約4割、トンネルの約2割で老朽化が進んでいる。

高速道路の現状と課題
従来の補修の様子
大規模更新・修繕計画の概略

 大型車両の通行による負荷も課題だ。10tトラックが1台通過すると1tの車両1000台分の負荷が道路にかかるという。また、車両制限令の規制緩和によって車両重量そのものが増加傾向にあるほか、大型車両の24%が総重量を超過している違反車両であることも影響している。

 また、スパイクタイヤ廃止後に増加した凍結防止剤による塩害、近年頻発する短時間の異常な降雨なども老朽化に拍車を掛けている。特に凍結防止剤では道路の床版に塩分が浸透し、橋梁を腐食するような事例が多くみられるという。

交通量の増大による損傷。写真は京葉道路
重量車両の通過によって橋がたわむ様子
鉄筋が浸食されさびた様子
橋の床版が剥がれ落ちているところ

 大規模更新の定義は「補修を実施しても長期的には機能が保てない本体構造物を再施工することによって本体構造物の機能維持と性能強化を図る」とされ、目標としては「最新の技術を使い、現在の新設計構造物と同等、またはそれ以上の性能とすること」とされる。従来の補修目標では、こうしたケースは「建築時の性能を維持する」ことが目的であったが、それでは長期的な視野で見た場合に根本的な解決にならず、重大事故を招く可能性があると判断された。大規模更新では主に橋梁を対象としており、床版の取り替えや桁の架け替えなど大規模な工事が必要になる。

大規模更新個所の例として挙げられた犬上川橋(滋賀県)。大型車両の交通と凍結防止剤による塩害が発生している
福島須川橋(福島県)。こちらも塩害による侵食でコンクリート床版のひび割れや剥離などが起こっている
松島高架橋(和歌山県)。当時、コンクリートの骨材として河川砂が不足しており、代替品として海砂を使っていたため塩害が発生
大規模更新のイメージ。鉄筋コンクリート床版をより耐久性の高いプレストレストコンクリート床版に取り替える
鉄筋コンクリート桁はプレストレストコンクリート桁へ架け替える

 大規模修繕の定義は、「本体構造を補修・補強することにより性能・機能を回復するとともに予防保全の観点も考慮し、新たな変状の発生を抑制、本体構造物の長寿命化を図る」とされ、目標性能としては「最新の技術を使い、建設当初と同等またはそれ以上の性能を確保する」という。こちらは大規模更新ほど大がかりな規模ではないが、橋梁、土構造物、トンネルを対象としており、延長も合計で1870kmと範囲が広い。

大規模修繕のイメージ。橋梁の上部構造を修繕し、防水加工や桁補強を行う
土構造物、トンネルの大規模修繕イメージ。グラウンドアンカーを既設のものに追加して増強したり、トンネル内にインバートを設置したりして土圧の増加を抑え、地盤を強化する

 今後の課題としては、技術開発を含めた投資が必要であり、財源を確保するため国との調整が必要であるほか、より一層のコスト削減と人員の確保・育成などを挙げた。また、今回の計画についてはあくまで現時点で対策が必要な案件に対するもので、今後はさらに調査を重ね、適宜計画を見直しながら柔軟に対応していくことが必要とされた。

現在の橋梁点検の様子。特殊なクレーン車や直接ロープを付けた人員が肉眼で確認している
将来的には赤外線カメラの応用や無人機による点検も計画
トンネルの点検では多数のCCDカメラを搭載した車両による通行止めを伴わない点検方法も検討されている

(清宮信志)