ニュース
【連載】西川善司の「NISSAN GT-R」ライフ
最終回:さらばGT-R 2012年モデル。ようこそGT-R 2013年モデル
(2014/2/24 00:00)
前回は2012年モデルを売却し、2013年モデルに買い替える話題をお届けした。新車で購入して1年で売却して、同じモデルの次年モデルを購入する理由については、前回に大枠を述べているのでそちらを参照していただきたい。
今回は2013年モデルへの買い替えに関連した話題と、2013年モデルに乗り替えた際のインプレッションなどをお送りする。また、2月に開催された2014年モデル試乗会にも参加したので、2013年モデルとの違いなどにも言及してみたい。
2013年モデルの購入へ
2013年初夏、愛車R35 GT-Rの2012年モデルをGT-R専門店「クラフトスポーツ」へと売却した。売却して得られた金額は、約340万円ほど残っていたローン返済に充て、一応の完済を迎えたのであった。
その残金に貯金を足して頭金とし、残りをローンとして購入する計画だ。頭金の設定方法、マイカーローン利用のコツについては本連載の第1回目に詳しく述べているので、GT-Rに限らずこれからマイカーを購入しようとしている人は参考にしていただきたい。本稿では、この部分について内容が重複するため詳しく言及はしない。
さて、2013年モデルの購入にあたって迷ったのはどのモデルを選択するか、という部分だ。2012年モデルの購入時は「R35 GT-Rの基本性能が体験できれば十分」として、もっとも安価な基本グレードである「PURE EDITION」を選択した。
2013年モデルの購入にあたっては、内装の満足度が高い「BLACK EDITION」を選択することにした。2012年モデルと2013年モデルでは走行性能のアップデートを受けているものの、外観の変更はないため買い替えた際の「見た目の違い」を楽しむとしたら、どうしても内装部分で楽しむしかない。内装は普段、運転する際にもっとも目にする部分であるため、この部分に違いを設けることで、ささやかな「買い替えた感」を満喫しようと考えたのだ。
「PREMIUM EDITION」にしなかったのは、内装がPURE EDITIONと大きく変わらないため。2013年モデルのPREMIUM EDITIONからはオプション設定で革張りの豪華内装「ファッショナブルインテリア」も選べるが、配色が赤茶色っぽいアンバーレッド一択(2014年モデルからはアイボリーホワイトが選べるようになった)で、これはあまり個人的に好きな色ではなかったこと、価格も約44万円高と高価だったことから最初から選択肢にあがらなかった。
そう、自然とBLACK EDITION一択だったのだ。
PURE EDITIONやPREMIUM EDITIONでは天井内装がグレーなのだが、BLACK EDITIONは天井内装まで黒になる。黒基調の内装になるからBLACK EDITIONというのだ。当たり前だが、ボディーカラーが何色でもBLACK EDITIONである(笑)。
BLACK EDITIONはPURE EDITIONに対して90万円ほど高く、取得税もその分増加するために、支払総額としてはPURE EDITIONに対して約100万円高となる。PURE EDITIONの時は支払総額が約930万円だったが、BLACK EDITIONではこれが1045万円となった。
任意保険については、2012年モデル購入の際に契約したセゾングループの「おとなの自動車保険」を引き続き契約。ただし、車両保険は980万円までしか掛けられないとのことだった。そのため、全損の場合は若干足が出ることになる。R35 GT-Rでは、インターネット通販系の自動車任意保険は数が限られているので、この部分は折れることにした。
なお、より詳細な自動車購入時における任意保険契約テクニックについては、これも本連載の1回目で詳しく解説しているので、そちらを参照いただきたい。
待ちに待った納車日。納車直後、事件に見舞われる!?
2013年モデルは5月頭に契約。わずか2カ月待ちで納車は7月頭となった。
GT-Rは、毎年年末にマイナーチェンジモデルが発表されるため、発表翌年の前半に注文が多く集まり、この時のオーダー分はやや納期が遅くなる傾向にある。筆者の商談ケースは、そのイヤーモデルの注文ラッシュが一段落したタイミングということもあってか、待ち時間は比較的短かったようだ。
ボディーカラーは今回も赤(バイブラントレッド)を選択。前述したように2013年モデルは2012年モデルから外観上の変更がないため、なんというか、最初の対面時は「姿を消した愛車が帰ってきたような感覚」であった。
ただ、ドアを開けて内装を目の当たりにしたときは、ちょっとした感動があった。BLACK EDITIONでは、電動調整・ヒートシーター付き本革製レカロシートが搭載され、さらにこのシートとステアリングに対して赤のアクセントカラーがあしらわれるのだ。
鈍く黒光りする本革の質感と、ややワインレッドよりの渋い赤のアクセントカラーは、PURE EDITIONに見慣れていた筆者からするととても新鮮に見えたのであった。花束贈呈と記念撮影の納車式を終えて、営業担当者に挨拶してディーラーを後にすることに。
新しい愛車とはいえ、同じ車種なので勝手知ったるもの。ディーラーから出発しようと、迷うことなくエンジンを始動。営業担当者は「ガソリンがあまり入っていないので、早めに給油お願いします」と窓越しから話しかけてくる。ディーラーから自宅まで4kmほど。まぁ、いくらなんでもいつも利用している自宅近くのガソリンスタンドまでは持つだろう。
動き出した新しい愛車を運転していてハッと目にとまったのは本革巻きステアリング上部に入れられた赤いアクセントカラーだ。
2012年モデルのBLACK EDITIONにも、赤アクセントの本革製レカロシートが採用されていたのだが、本革巻きステアリング上部に赤アクセントが入ったのは2013年モデルのBLACK EDITIONから。正面視界下部に収まるこの赤い円弧の鈍い光は、PURE EDITIONからの乗り換え派の筆者には「買い替えたんだなぁ」という実感を際立たせてくれた。
……と、そんな思いを噛み締めていたら、ディーラーから800mほど走り、右折車線に並んだところでエンジンが停まってしまった。
「あれ!?」なんとガス欠。ディーラーから出て800m走行してガス欠してしまったのだ。確かに納車時はあまりガソリンが入っていないものだが、800m走行してガス欠はあんまりな仕打ちだ。値引きがない車種なので、せめて満タン納車サービスを要求しておくべきだったと後悔。
すぐさまディーラーに電話。20分後、先ほど挨拶を終えて別れたばかりのディーラーの営業担当者がばつのわるい表情を浮かべつつガソリン携行缶を抱えて現れた。人生初のガス欠を、納車直後の車で体験するとは思わなかった。
ラインオフして間もない真っ赤なピカピカなGT-Rが右折車線で立ち往生……とても恥ずかしい体験であった。
2013年モデルのインプレッション
聞かれる前に答えておこう。
この連載で紹介し、前愛車である2012年モデルのGT-Rに装着してきたさまざまなグッズ類、そして元GT-R開発責任者の水野和敏氏、元GT-R開発ドライバーの鈴木利男氏、GT-Rの生産ライン構築に大きく貢献した元栃木工場 工務部第一技術課の宮川和明氏。3人の“ミスターGT-R”にサインをいただいたエンジンカバーがどうなったのかについて。
前回の2012年モデル売却編では詳しくは触れなかったが、この連載で紹介して取り付けたグッズ類は車両売却時にすべて取り外し、新しい愛車に移植している。サイン入りエンジンカバーも同様だ。
なので、クルマファンでない知人などは、2013年モデルに乗せてもクルマが変わったことにほぼ全員が気が付かない。目立つドライブレコーダーやレーダー探知機の取付位置などが同じなので、カラーリングの変わった内装にまで目が行かないようだ。
さて、2013年モデルの乗り味のインプレッションだが、2012年モデルと比較すると、まず足まわりの違いがよく分かる。
サスペンションが低速時もより動くようになっているのだ。もともとGT-Rは速度が上がれば上がるほどフラット感が増す乗り味だったが、2013年モデルは2012年モデルに対して、より低速時の細かい振動を穏やかにいなすようになっている。ゼブラ帯や高速道路の継ぎ目などを走ったときのガタガタ感が、かなり低減されるようになったのだ。
また、2013年モデルはコーナリング時の姿勢のチューニングを進め、ロールセンターを下げているわけだが、これはコーナリング時の応答性の向上という形で感じることができる。イメージ的にはステアリングを切ったときから動き出すまでの遅延が小さくなった……という感じだ。意外にも、低速時の舵角が大きい局面でも違いが実感できるのが面白い。
それと、2013年モデルではターボチャージャーの過給バイパス配管部に特殊オリフィス(絞り機構)を設けており、オーバーブースト時の過給圧を有効活用してアクセルレスポンスに対するターボチャージャーの掛かり具合の反応性を向上させているのだが、これは高速道路で走行しているときに実感することができた。アクセルオフしてから、再加速するためにアクセルオンした際のトルクの落ち込みがほとんどなくなっているのだ。これはスポーツ走行時のドライバビリティの向上に結びつくだけでなく、高速道路でのドライブ時も気持ちよいアクセルレスポンスが楽しめそうだ。
2014年モデルの試乗会に参加。2013年モデルからの違いは?
2014年2月に、日産自動車追浜工場のテストコース「GRANDRIVE(グランドライブ)」で行われた、2014年モデルの試乗会に筆者も参加してきた。
この試乗会で面白かったのは、自身の車両をテストコースに持ち込んでまず走り、その後2014年モデルで同じコースを走れたこと。開放されたコースは、距離にして1周約2km足らずだったが、それでも自分の愛車と乗り味を直接比較できる機会を与えてくれたのは粋な計らいだ。筆者の場合は、愛車の2013年モデルと新型の2014年モデルを直接比較することができたというわけである。
走行コースは、停止状態から全開加速、そしてそこからの急停止、パイロンスラローム、都市高速の道路の継ぎ目を再現したセクションの走行、経年劣化で荒れたアスファルト路面を再現したセクションの走行などが盛り込まれていて、一般的に行われる市街地での試乗よりもクルマの性能を評価するのに適していた。
実際に走行を終えてのインプレッションだが、2014年モデルは加速・減速においては2013年モデルから大きく変化した実感はない。スペック上も最高出力550PS、最大トルク64.5kgmと、2014年モデルと2013年モデルは同一スペックなので、そういうものと納得できた。
違いが感じられたのは2点。1つはパイロンスラロームだ。2013年モデルもレスポンスはわるくないが、2014年モデルはステアリングの舵角に対してのレスポンスがよい。
GT-R企画責任者の田村宏志CPS(チーフプロダクトスペシャリスト)によれば、100km/h以下のアクティブステアリングのレスポンス特性を調整するだけでなく、実際にステアリングバルブの部材を変更しているとのこと。ここはチューニングではなく、根本的なモディファイを施したということだ。
パイロンスラロームだけでなく、ゆるい低速コーナーを走行しているときや、それこそ駐車時の取り回し感も改善されており、2013年モデルに対してひとまわり小さなクルマを運転しているような感覚を味わえた。
ただ、パイロンスラロームでもそうだし、比較的曲率のきついコーナーをそれなりの速度で曲がっていった場合のロール感は、2014年モデルの方が大きい。2013年モデルは車内が常にフラットとなる乗り味に対して、2014年モデルはシーソーのような左右の動きが大きい。2014年モデルも、路面を掴んでいる感は2013年モデルに優るとも劣らず……なのだが、スポーツ走行やワインディングでの走りは2013年モデルの方が楽しそうだ。実際、田村氏もサーキットを走らせたときのタイムは、2013年モデルの方が2014年モデルを上回ることを認めている。
2つ目は、道路の継ぎ目や荒れた路面を走行したときのばたつき感だ。2014年モデルは継ぎ目での突き上げ感や荒れた路面でのばたつき感がだいぶ低減されているのだ。2013年モデルもこの部分は改善されてきたこともあるので、今ではスポーツ車種の中ではずいぶんよい方だと思うが、2014年モデルは「そうした上下の微振動」に対してやすり掛けを行い、さらにマイルドにしたような乗り味になっている。
GT-Rは高性能車の評価軸である「GT(グランドツーリング)」と「R(レーシング)」の2つの要素を高品位に融合させた車種として誕生したわけだが、田村氏によれば「GT」と「R」のいいとこ取りは2013年モデルまでとし、カタログモデルのGT-R(PURE EDITION、BLACK EDITION、PREMIUM EDITION)は「GT」の要素を色濃く与える商品企画をしたのだそうだ。
2014年モデルは、車高や最低地上高といったスペックは2013年モデルから変更はないが、タイヤのキャンバー角は大きく変更されている。2013年モデルはハの字型のネガティブキャンバー寄りの設定が基準なのに対し、2014年モデルは直立寄りのニュートラルキャンバーに近い設定となっているのだ。
確かにタイヤハウスの隙間に指を入れてみると、2013年モデルまではタイヤハウスとタイヤの隙間に筆者の指では2本しか入らないが、2014年モデルは隙間が大きくなっていて指が3本入る。サスペンションの違いだけでなく、タイヤ関連の設定の違いもセダンやサルーンっぽい乗り味の一因になっていると推察される。
そして、田村氏によれば、2014年モデルから新設された「GT-R NISMO」というスペシャルグレードに対しては、逆にRの要素を強く演出したとのこと。よりスパルタンなスポーツドライビングを楽しみたい人はNISMO版をどうぞ、というわけである。
同乗走行ではあったが、GT-R NISMOで同じコースを走っていただいたところ、確かにこの乗り味は2013年モデルに近い。
ただ、2014年モデルのカタログモデルで、2013年モデルまでのような「GTとRのいいとこ取り」の設定が選べないのは残念である。GT-R NISMOは1500万円を超える高級モデルであり、1000万円前後のカタログモデルとはいわば別車種のような扱いとなってしまっていて、手が出しにくい。
この点を田村氏に伺ってみたところ、「それは想定内の質問です(笑)。後に復活設定する予定の新版トラックパックオプションにご期待下さい」とのことであった。2013年モデルまでは、サーキット走行を視野に入れた「トラックパック」と呼ばれるオプションパッケージが用意されていたのだが、2014年モデルではこの設定が消えてしまった。実は現在、その開発が進行しているようなのだ。
2014年モデルは外観上の違いも与えられ、開発責任者も替わり、ある意味R35 GT-Rは第2ステージに突入したといえる。今後の進化からも目が離せそうにない。
さて、読者の中には2013年モデルを購入した筆者の今の心境を聞きたい、という人も少なくないだろう。実際、筆者には前回の記事が掲載されて以来、いくつか「2014年モデルにも買い替えるんですか?」というメッセージをいただいている。
結論から言うと、R35 GT-Rという型式番の車種では、現在は買い替えるつもりはない……というのが正直な心境だ。2014年モデルから始動した「GT」要素と「R」要素の二分化コンセプトは新規ユーザー開拓のためには素晴らしい提案だと思うが、スポーツ車種を選び続け、走行会レベルではあるがサーキット走行も経験してきた自分からすると、自分が求める理想のR35 GT-R像は、やはり「GT」要素と「R」要素のいいとこ取りの形態、すなわち2013年モデルまでのGT-Rということになるのだ。その最終モデルとも言うべき2013年モデルをしばらくは大事に乗り続けたいと思っている。
R35 GT-Rは、よくもわるくも存在感の強かった元GT-R開発責任者の水野和敏氏が作り上げたモデルなので、氏が手を掛けた最後のモデルという意味でも、2013年モデルは価値が高いと自分では思っている。
今回が最終回。今までありがとうございました
約2年間にわたってお送りした「西川善司のNISSAN GT-Rライフ」は、今回が最終回となる。
他のCar Watch記事とは違うかなりマニアックな内容で、読者がついてきてくれるか心配だったのだが、意外や意外、その濃い口の味わいが一部の読者にはハマったようで、掲載期間を開けていると担当編集者よりも厳しい「次回はまだですか」という催促(笑)をメール等で受けたりもしたし、GT-Rオーナーズミーティングなどに参加すると、「西川さんの記事を参考にしてGT-Rを買いました」という人から挨拶されることもあった。今回取り上げた2014年モデル試乗会でも、試乗会後の商談会で、まさに本連載記事の読者が成約する場面にも遭遇した。著者としては、なんとも感慨深く嬉しいものである。
連載はひとまず今回で終わるが、この後GT-Rの括りにとらわれないマニアックなカーライフ連載も企画中なので、期待していて欲しい。
それではまた会う日まで。
西川善司
テクニカルジャーナリスト。元電機メーカー系ソフトウェアエンジニア。最近ではグラフィックスプロセッサやゲームグラフィックス、映像機器などに関連した記事を執筆。スポーツクーペ好きで運転免許取得後、ドアが3枚以上の車を所有したことがない。以前の愛車は10年間乗った最終6型RX-7(GF-FD3S)。AV Watchでは「西川善司の大画面☆マニア」、GAME Watchでは「西川善司の3Dゲームファンのためのグラフィック講座」を連載中。ブログはこちら(http://www.z-z-z.jp/BLOG/)。