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【インタビュー】クルマ趣味の今と未来を支える「Made in PIVOT」
高性能、高品質を誇る電子パーツを生み出す「PIVOT(ピボット)」という技術者集団
(2014/3/17 00:00)
もの作りに対するこだわりの美学と作り出す製品の完成度をチェックする
高度な電子制御システムが組み込まれて動いているのが現代のクルマ。エンジンを動かすための燃料噴射も、空気を取り入れるスロットルの動作などもすべて電子制御になっている。つまり、クルマに乗り込んでキーをON(メインスイッチオン)にした瞬間から、さまざまな電子パーツが作動している。そんな状況だけに、ハイブリッドカーやEV(電気自動車)などにとどまらず、すべてのクルマが“電気で動いている”と表現しても過言ではないだろう。
そんな現代のクルマだけに、エンジンの電子制御に関係するアフターパーツの製造は容易ではない。その時代ごとの最新電子制御技術を理解し、その複雑なシステムに介入しても問題が起こらず、正常に動作することが求められるのだ。クルマ用のアフターパーツにはマフラーやサスペンションキットなどもあるが、そうした機械的なパーツとはまったく性質が異なるものが電子系パーツということになる。それだけに、この分野のパーツ開発はとくに専門性が求められている。
そこで登場するのがPIVOT(ピボット)という企業。1986年9月に創立された会社で、当初からクルマの電子制御に関わるパーツを開発、製造していた専門企業だが、当初は市販車向けではなく、レースカー向けの計測機器を作っていたという。
ピボットが誕生した1980年代は、クルマの構成がアナログからデジタルへと移っていく自動車技術の過渡期。これに合わせてアフターパーツ業界でもデジタル化に向けた開発や分析が始まったばかりで、まだまだ技術&ノウハウ的に不安定だった。しかし、そんな状況でも正確な動作と確実な効果を必要とする世界もあった。それがレース界だ。ここが当時のピボットが活躍した場所であり、そして当時作ったものに燃費計がある。
当時の燃費計測はポンプによって送り込まれる燃料の流量を計測するタイプだったが、このころのクルマの燃料系は、タンクから圧送された燃料のうち、使用しなかった分をリターン配管を通してタンクに戻す構造だった。そのため、圧送側で計測した流量では正確な燃料消費が計算できなかった。
そこでピボットが採用したのが、インジェクターの噴射量を計測し、そこから使用した燃料の量を計算するという方法。これなら正確な燃料消費計算が可能になる。なぜそこまでして燃費を気にするかといえば、レースカーは車体重量を軽くしたほうが、加速、減速、コーナーリングなどすべての面において運動性が向上する。そのため、スタート時に搭載しておく燃料は必要な分ピッタリというのが望ましい。“ゴールした直後に使い切る”という感じだ。これを実現するためにはテスト時に正確な燃料消費計算を行いたい、だから正確な燃費計を、という流れだ。
そんなシビアな要求を電子制御過渡期に求められ、そのオーダーに応えてきたのがピボットというメーカーなのだ。
職人的こだわりで作る最新電子機器
レース界向けのアイテムを開発してきたピボットだが、1992年になるとストリート向けパーツの販売も開始した。ラインアップは前出のレースカー向け燃費計測技術を使用した燃費計、追加メーター、シフトランプ、そしてスロットルコントローラーである。
ちなみに燃費計は今でこそ自動車メーカーも採り入れている技術だが、当時、ピボットが提案したこの機能に注目するメーカーは少なかった。唯一導入してくれたのがオーディオメーカーのアルパインであり、同社のナビゲーションシステムに「エコ運転支援機能」として組み込まれることになった。
話を戻すと、こうしたピボット製パーツのラインアップだが、掲載しているパーツの写真を見るとどれもシンプルなデザインに見えるかもしれない。しかし、ここがピボットらしさでもあるのだ。
ピボットの代表取締役である内川誠一氏は、1986年にピボットを創立する前は工業デザイナーという肩書きであった。この工業デザイナーという職業は、名称にデザイナーと付くので芸術家的な造形品を作るようなイメージを持つ人もいるが、工業デザイナーは機能を使いやすい形状に仕上げる技術者ともいえる仕事で、創作どころか極めて現実的な視点でものごとを進めていく職種になる。
そんな内川氏が率いるピボットのもの作りには、この工業デザイナー的な視点と思考が色濃く反映されている。
例えばメーターの文字盤デザインでは、数字の書体やサイズなども、見た目のかっこよさより、走行中の視認性の高さに重点を置いて決められる。そして目盛りの振り方、その目盛りを指す指針の形状や長さなどもすべて見やすさが基準。もっといえば、メーター照明に関しても、明るさをどのレベルにするかについて、開発&テストをひと月ほどかけて行うこともあるぐらいの凝りようである。ただ、そこまで突き詰めてもデザインや形状の派手さでアピールすることはない。あくまでも「違和感なく使える」という部分への落とし込みで完結させている。この自然な完成度の追求こそ工業デザインの美学である。
開発に対してスピード感がある、これが強み
メーターについてもう少し説明しよう。ピボットのメーター動作にはステッピングモーターが使われているが、これもレースカー向けの技術を継承したもの。ステッピングモーターを選んだのは正確な針の動きを実現するだけでなく、レース中の強い横Gや路面からの突き上げを受けても針がブレることがなくなるから。どんな状況でも正確なデータを読み取るための選択なのだ。
このステッピングモーターを駆動させるには専用の基盤とソフトウエアが必要になるが、実はピボットは社員の7割が技術者。ピボットは電子部門、工業部門、製造部門と、パーツを開発するための機能をすべて持っているメーカーなので、電子パーツの主要部分はすべて社内で開発している。また、こういった体制だと最新電子制御技術の進化スピードにいち早く対応可能でもある。
例えば現在、人気商品でシェアナンバーワンとなっているスロットルコントローラーだが、新しいクルマに新システムが追加されたときなどは、制御の適正化のためにソフト変更が必要になる場合もある。
そこで制御ソフトのバージョンアップ作業が行われるのだが、このときに製作の一部でも社外に委託していると、その会社とのやり取りに時間が浪費されることになる。しかし、社内で完結できる体制なら、症状の報告から原因の解明、対策、再リリースまでスピード感を発揮できるという。これもピボットの強みである。
ピボットだから作り出せるものがある
ピボットというメーカーはそれほど大きな規模の会社ではない。しかし、その企業サイズは売り上げの多寡で決まったものではなく、このメーカーが持つ特性を維持するために最適なサイズに収めている結果だと内川氏は語る。会社が大きければ生産効率は上がるだろうが、利益の求め方も違ってくるので製品ポリシーとのバランスを取るのが難しくなる。反対に小さすぎれば満足いく開発体制が整えられないということだ。
そんなピボットがこれからのクルマに向けて考案しているのが、「スロットルレスポンスを走行状況によって可変させるスロットルコントローラー」、そして「設定速度の誤差がなく、動作時の速度ブレもない真に快適なオートクルーズ」というクルマの使い勝手を向上させる製品や、「センサー装着の必要がない追加メーター」「採点式で楽しむエコ運転測定メーター」など、趣味性の高いアイテムなど。
こういったアイディアはいくつも持っているが、それが出るのも「ピボットだから」と内川氏は表現する。この言葉が意味するところは、組織のサイズや立場がもの作りに最適であることに加え、大企業ではない分、常に必死さが求められるからだという。しかし、むしろそんな環境だからこそ、常にアイディアが生まれてくるというのだ。
過去には大企業から「組まないか?」と持ちかけられたこともあったが、「ピボットのよさを失いたくないからボクは断った」と大きな身振り手振りを交えながら話す内川氏からは、ピボットという会社に対する自信が溢れているように感じた。