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トヨタ、ITSについての勉強会で開発中の「右折時衝突防止支援システム」などを紹介

見通しのわるい交差点で54%のケースでシステム支援による発進抑制を計測

トヨタ自動車 IT ITS企画部 部長 山本昭雄氏

 近年のモータリゼーションのなかで非常に重要な技術となってきているのがITS(高度道路交通システム)。フリーランスの自動車関連ジャーナリストを中心に構成されるAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)では、ITSに積極的に関わっていこうということでITS分科会を立ち上げた。その第1回目の勉強会として、トヨタ自動車のITSについての勉強会が開催され、開発中の技術の一部が紹介された。

 まず、紹介されたのが「右折時衝突防止支援システム」。これは路車間通信(道路とクルマの間の通信)を使って、右折車と直進車の衝突事故や右折後の歩行者との事故を防止しようという試み。ITARDA(交通事故総合分析センター)の2011年データによれば、信号交差点で起きる事故のうち、右折時に発生するケースは39%。左折時(17%)の2倍以上の割合で、ケース別としてはもっとも多い。右折時の事故を防止することは事故件数を減らすことに大きく貢献する。

 トヨタが開発中の「右折時衝突防止支援システム」は、道路側に装着されたセンサーによって交差点に近づいてくる対向車や歩行者を検知。クルマ側に取り付けられた端末(HMI=Human Machine Interface)でドライバーに知らせるというもの。現状は試験中のためHMIは後付けタイプでダッシュボード上に設置するタイプとなっているが、純正採用されればメーターパネルやカーナビのモニター内にビルトインされる予定。

「右折時衝突防止支援システム」のシステム概要
赤く円で囲われているのが試験用に後付けされたHMI。画面内に黄色の矢印で対向車線に直進車がいることを示している

 現在、道路側のセンサーとしては画像式とレーザー式が、通信手段としては電波やビーコンが用いられている。道路側の設備については当然、警察庁との連携が図られている。

 トヨタはこれらの装置を搭載した状態で実証実験を実施。実験地はトヨタのお膝元である愛知県豊田市。市内の6交差点・13方路にインフラを設置し、トヨタの従業員ではない一般の参加者101名(20~69歳。男性63名、女性38名)をモニターとした。

 モニターが運転する車両(プリウス)には「右折時衝突防止支援システム」のほかに、ドライブレコーダーやデータロガーなどが取り付けられ、通勤などの日常運転でインフラ設置交差点を右折したときの映像と走行データを記録。システムから情報提供を行わない運転で3カ月間、その後情報提供がある状態での運転を3カ月間記録し、システムがドライバーをいかにサポートするか検証された。

実証実験の被験者データ
プリウスを使ったモニター車両の概要
データを取得する条件

 モニターが運転するクルマが交差点内で右折待ちのときにブレーキを踏んでいるか、アクセルを踏んでいるか、速度はどれくらいか、そしてクルマの動きがどのようなものだったかを解析するため、ドライブレコーダーによる車内映像はもちろん、交差点に取り付けられたカメラから撮影された映像も使用された。

 システムの有効率を引き出すため、交差点内で右折待ちをしている状態から衝突の危険が発生した状態(対向車が迫っているにも関わらず発進すること。具体的には5秒以内に交差点に到達するケースでの発進)をサンプルとして検証された。

 その結果、見通しのわるい交差点では54%ものケースでシステム支援による発進抑制が行われたという。見通しのよい交差点でも10%で発進抑制されたというのだから、このシステムの有効性は高いと言える。もちろん、システムがなくてもそのまま発進し、最終的に事故に至るケースはほとんどなかったのだろうが、それなりの効果は期待できる。

 試験後、モニタードライバーに対して行われたアンケートによれば、78%のドライバーが右折時に提供された情報を参考したと回答。また、88%が提供された情報は安全運転に役立ったと答えている。

サンプルとしてデータを集める条件付け
実証実験で明らかになった今後の課題
有効率の試算方法と結果。見通しのわるい交差点で高い効果を発揮している
トヨタ自動車IT ITS企画部 ITS開発室長 木津雅文氏
トヨタ自動車 IT ITS企画部 スマートコミュニティ室 交通ソリューショングループ長 早田敏也氏
トヨタ自動車 IT ITS企画部 企画調査室 主任 林康博氏

 続いて紹介されたのがHa:mo(ハーモ/Harmonious Mobility Network)。Ha:moはトヨタが提唱する低炭素交通システムの総称で、「クルマと公共交通を総合的な視点で最適に組み合わせて使う、人に、街に、社会に優しい交通の実現をかなえていくしくみ」とされている。そのHa:moの中心となるシステムがHa:mo RIDE。Ha:mo RIDEは乗りたいときにちょっとだけ乗る「ワンマイルモビリティ」で、パーク&ライドの進化型と考えると分かりやすい。

 現在、このシステムの検証が豊田市で行われている。使われているクルマは、軽自動車扱いとなる2人乗り電気自動車のCOMS(T-COM)3台、原付ミニカー扱いの1人乗り電気自動車であるCOMS(P-COM)が100台、同じく原付ミニカー扱いの1人乗り電気自動車i-ROADが4台の計107台。そのほかに電動アシスト自転車のヤマハ PASも100台導入されている。

Ha:moのアウトライン
公共交通と超小型モビリティを組み合わせて利用するのがHa:mo RIDE
Ha:mo RIDEにはスマートフォンを利用する

 2013年10月から有料サービスが開始され、豊田市内の主要駅や企業、商業&公共施設など32個所にステーションを用意している。Ha:mo RIDEを使うにはスマートフォンを端末として利用する。スマートフォンで使いたいクルマを予約することはもちろん、「マルチモーダルナビ」を利用してCO2発生が少ないルートの選択も可能となっている。

 また、トヨタではフランスのグルノーブルという都市でも同様の実験を2014年10月から3年間の予定で実施。グルノーブル市は先進国では珍しく、今後の人口増が予測されている都市。グルノーブル市としては、今後は自動車移動の比率を減らし、移動に掛かる自動車分担率を現在の55%から20%に減らしたいというビジョンを持っているという。

Ha:mo RIDEの利用状況。豊田市内に32個所のステーションを用意
Ha:mo RIDEの料金体系
利用者の77%が男性。豊田市以外の人も46%の利用がある
フランスのグルノーブル市でも3年間にわたって実証実験を行う予定
CO2の発生が少ないルートを検索できる「マルチモーダルナビ」
Ha:moはクラウドとのデータ連動で成り立っている

(諸星陽一)