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【インタビュー】2014 スーパーフォーミュラ タイヤインタビュー

スーパーフォーミュラにワンメイク供給するブリヂストン

スーパーフォーミュラにワンメイク供給するブリヂストン。ブリヂストン グローバルモータースポーツ推進部グローバルモータースポーツ推進ユニット ユニットリーダー 塩谷聡一郎氏(右)と、同 MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏(左)にお話をうかがった

 1970年代の全日本F2000、1978年~1986年の全日本F2選手権、1987年~1995年の全日本F3000選手権、1996年~2012年のフォーミュラ・ニッポンと進化し続けてきた日本のトップフォーミュラ選手権。2013年からスーパーフォーミュラへと改称され、今年からは新型車両SF14が導入されて名実ともに新たなるスタートを切った。日本のトップから、アジアのトップへと脱皮を目指すスーパーフォーミュラは、F1にも負けないラップタイムを刻める新型車両SF14を導入したことにより、世界にも類をみないような高速バトルを実現していると定評があり、実際、ヨーロッパのモータースポーツ関係者からも徐々に注目を集めつつある。

ブリヂストンがワンメイク供給するスーパーフォーミュラ。2014年シーズンはマシンがSF14となり、最速の戦いが繰り広げられている

 そのスーパーフォーミュラにタイヤをワンメイク供給するのがブリヂストンだ。ブリヂストンは1970年代から一貫して日本のトップフォーミュラにタイヤを供給しており、1990年代後半にフォーミュラ・ニッポンでタイヤのワンメイク制度が導入されてからも、一貫してタイヤ供給を続けている。そのブリヂストンに、スーパーフォーミュラのタイヤ供給に関してお話をうかがってきた。

POTENZA(ポテンザ)をアピールする場として

 冒頭でも述べたとおり、ブリヂストンのスーパーフォーミュラ、およびその前身へのタイヤ供給の歴史は1970年代までさかのぼる。1990年代の後半までは他メーカーとのコンペティションで、それ以降はワンメイクでのタイヤ供給となっている。

 ブリヂストンはこうしたモータースポーツ活動では、同社のスポーツラジアルタイヤブランド「POTENZA(ポテンザ)」を使用しており、スーパーフォーミュラでもそのブランド名が使用されている。

ブリヂストン グローバルモータースポーツ推進部グローバルモータースポーツ推進ユニット ユニットリーダー 塩谷聡一郎氏

 ブリヂストン グローバルモータースポーツ推進部グローバルモータースポーツ推進ユニット ユニットリーダー 塩谷聡一郎氏は「ブリヂストンのモータースポーツ活動においては、2輪でBATTLAX(バトラックス)、4輪でポテンザをブランド展開しており、スーパーフォーミュラの車体やタイヤにはポテンザブランドを入れている」と述べ、同社はスポーツブランドを知ってもらう活動の一環としてモータースポーツに参戦していると説明する。

 Car Watchの読者には説明が不要だと思われるが、ブリヂストンは複数のシリーズのタイヤを展開しており、シリーズごとのタイヤブランドを持っている。低燃費タイヤであれば「ECOPIA(エコピア)」、スタッドレスタイヤであれば「BLIZZAK(ブリザック)」がよく知られている。スポーツタイヤブランドはポテンザとなり、スーパーフォーミュラでも、SUPER GTでも車体やタイヤのサイド部分には「POTENZA」というロゴが入れられている。

 日本のもう1つのトップシリーズのSUPER GTには、ブリヂストンのほかにもタイヤベンダーが参加しており、SUPER GTでチャンピオンを獲ったことが充分宣伝になり得る。しかし、スーパーフォーミュラでは、すでに述べたとおりワンメイクになるので、結果を出してもアピールするのが難しい。それどころか、「ワンメイク供給で難しいのは、タイヤメーカーにとってどのようにアピールしていくのかということ。問題があった場合には、それがむしろクローズアップされてしまう」(塩谷氏)と、下手をすれば逆効果になりかねないという状況になってしまうこともある。ワンメイク供給をどのようにスポーツタイヤのブランドイメージに変えていくかを「チームやサーキットと話をするのはもちろんだが、販売促進の部門とも話してレースを盛り上げる方法を考えていきたい」(塩谷氏)と、常に考えながら活動を行っているとのことだった。

鈴鹿サーキットで1分36秒台というF1の予選を通過できるタイムを刻めるSF14を支えるBSのタイヤ

 そうしたブリヂストンのスーパーフォーミュラでの活動だが、今年は新型車となるSF14が導入されたというのが大きなトピックになっている。これまでフォーミュラ・ニッポン時代も含めて、スーパーフォーミュラでは2009年~2013年までSF13(フォーミュラ・ニッポン時代にはFN09の名称)という米国スイフト製のシャシーが利用されてきた。それに対して、今年はイタリアのダラーラ製のSF14が導入され、従来のシャシーとは大きく性格が異なるシャシーとなっている。

 実際、スーパーフォーミュラを運営するJRP(日本レースプロモーション)の白井裕社長は、昨年本誌のインタビューに答えて「鈴鹿サーキットで1分36秒台を実現する速いクルマにしたい」と述べ、SF14を速いクルマにするのが目標だと常々表明してきており、シャシーメーカーのダラーラに対しても速さを追求したクルマというオーダーが出されてきた。その結果として、4月12日に行われた開幕戦の予選のQ2では、アンドレ・ロッテラー選手が1分36秒996という1分36秒台に入るタイムを記録しており、白井社長の“速いクルマを実現する”という公約は実現されている。ちなみに、この1分36秒996は、昨年のF1日本GPの予選Q1の最速タイムであるマーク・ウェバー(レッドブル・ルノー)の1分32秒271の107%となる1分38秒251を上回っており、そのまま昨年の日本GPに参戦しても予選を通過できるタイムだ。もちろん、日本GPの時期とは天候も、路面温度も異なっているため直接の比較はできないが、F1を走っても不思議ではないタイムということは分かっていただけるだろう。

ブリヂストン MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏

 そうした速くなったSF14を支えることになるブリヂストンタイヤだが、今シーズンに向けては基本的には昨年投入したスペックのタイヤをそのまま利用している。ブリヂストン MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏によれば「今年のスペックは昨年利用したのと同じスペック。2012年の8~9月頃にお話をいただいて、2013年に14年マシン用の新スペックのタイヤを前倒し投入しているからだ」と説明する。ブリヂストンが昨年投入した新タイヤは、それを装着しただけで1秒程度上がってしまうような、なかなか性能が高いタイヤだったのだが、それもこれも今年のマシンを意識していたからなのだ。

 では、昨年までのSF13(FN09)に利用していたタイヤを新マシンSF14につけても違いはないのだろうか? 細谷氏によれば「エンジンメーカーが行ってきたテストで何度も走らせる中で、だいたいの傾向をつかんできた。もちろんエンジンテストではロングランはできていなかったが、タイヤのタレもなく、熱的にも問題はなかった」という。ただ、前述のようにSF14はJRP自身が認めているように速さを意識して作ったマシンなので、その分タイヤへの負担が増えそうな気がするが、「シーズンオフのテストなどでデータを確認したところ、確かにトップスピードは出ているが、タイヤへの加重という意味では増えておらず、昨シーズンまでとほぼ同じ程度」(細谷氏)とのことで、タイヤへの負担はさほど増えていないという。

 こうしたスーパーフォーミュラ用のタイヤについて細谷氏は「SUPER GTではレースによってタイヤを換えることができるが、スーパーフォーミュラでは基本的に同じスペックのタイヤを通年で使わないといけないので、タイヤの設計にはマージンを持たせている。このため、このタイヤをどう使うかは、温度に合わせて上手にウォームアップしたり、周回少なめにアタックするとか様々な工夫が考えられ、それをできたドライバーが速く走ることができる」と述べ、ファンにとってもどのドライバーがタイヤをうまく使えているかに注目して見ると、さらにレースを深く楽しむことができるだろうとした。

開幕戦でのロッテラー選手の失速の原因は左右を逆につけてしまったから

 ブリヂストンにとっても、新型車にとっての初めてのレースは楽しみでもあり、ドキドキ半分だったという。細谷氏は「速いクルマというのはシリーズの魅力を高める上で重要な要素だと考えており、実際それが実現できたことはいいことだと思っている。その反面、ちょっと速すぎじゃないかとも言えるので、安全にレースを終えるという意味では不安もあったので、開幕戦が無事に終わったことで一安心だった」と、期待半分、不安半分で迎えた開幕戦を無事に終えたことにホッとしているようだった。

 ただ、開幕戦では、ブリヂストン側のミスという訳ではないが、36号車アンドレ・ロッテラー選手がセーフティーカーが出たタイミングで、緊急ピットインしたタイミングで左右のタイヤを逆につけるというミスを犯したことで終盤失速するというトラブルが発生した。「快調に走っているように見えたので、終盤失速した時にはどうしたのだろうと思っていた。レースが終わって見てタイヤを確認してみたところ、フロントのイン側のゴムがほとんどなくなっていた。これでよく走れていたなというのが率直な感想」(細谷氏)と、タイヤメーカーとしても想定外のトラブルだったとした。

 市販車では、タイヤローテーションといって前と後ろを入れ替えたりすることは普通に行われているので、左右を入れ替えるぐらいたいしたことないんじゃないのと思われるかもしれないが、「レース用のタイヤは左右専用の設計をしている。逆につけても走れることは走れるが、ハンドルの舵角を多めに切らざるを得なくなるので、温度や内圧が上がってしまう」(細谷氏)と、実際にはそれでタイヤに対してかなりの負担が生じて、それがロッテラー選手の終盤での失速につながっていったのだ。

大混戦となっているスーパーフォーミュラ

 そうした“想定外”のトラブルはあったものの、細谷氏にとっては開幕戦は一定の満足を得られる結果だったようだ。「何よりも重要なことは開幕戦を無事終えることができたこと。ワンメイク供給ではトラブルなく終えられるのがあたり前であり、問題なく開幕戦を終えられたのは本当によかった」(細谷氏)と技術陣としても、まずは新型車と現行スペックのタイヤで問題なくシーズンインできたことが何よりも喜ばしかったようだ。

 スーパーフォーミュラは今週末に鈴鹿サーキットで最終戦を迎えるが、第1戦、第2戦(2レース制)、第3戦といずれも違う勝者が誕生し、その後はその4人の争いとなっている。その4人とはロイック・デュバル選手(第1戦)、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手(第2戦レース1)、アンドレ・ロッテラー選手(第2戦レース2)、中嶋一貴選手(第3戦)といずれもワールドクラスのドライバーが勝利を収めている。この4人がポイントランク上は抜けた形となるが、7人のドライバーにチャンピオンの可能性が残された混戦が展開されている。

(笠原一輝/Photo:安田 剛)