ニュース

JEITA、業界向けセミナー「自動運転を実現させるには?」を開催

2020年までに自動運転の技術的な実用化は可能との見通し

2015年2月27日開催

 電子情報技術産業協会(JEITA)は2月27日、業界向けセミナー「自動運転を実現させるには?」を開催。自動車業界や関連技術の関係者などが多数出席。会場には、内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム」の自動走行(自動運転)システムのプログラムディレクターを務める渡邊浩之氏なども出席し、講演を聴いていた。

日産自動車 企画・先行技術開発本部 技術企画部 エキスパートリーダー 二見徹氏

 最初に自動車メーカーからの視点ということで、日産自動車 企画・先行技術開発本部 技術企画部 エキスパートリーダー 二見徹氏が「クルマの進化とこれからのモビリティ社会」というタイトルで講演し「近代社会は移動によって発展してきた。経済の発展と共に人の移動距離は増加傾向にある。自動車産業が抱える課題としてエネルギー、地球温暖化、渋滞、交通事故という4つの問題がある。これからの社会は都市部に人口が集中し、高齢者の比率も高くなっていく。加齢は視力や視野、情報処理能力を低下させる。これらの課題解決のため、自動車は『電動化』と『知能化』というアプローチがある」と語る。

 続けて、電動化は2000年から急速に進んでおり、電子制御はプログラムの行数換算で10年間で5倍にもなっている。これにより、自動車の構造も変化しており、例えばステアリングを車軸と直結させる構造から電子制御する「ダイレクト アダプティブ ステアリング」などの技術が登場。今や自動車は、内燃機関から電動パワートレーン、油圧パワーステアリングからステアバイワイヤ、油圧ブレーキからブレーキバイワイヤへと進化が加速している。日産では、安全目標として、2020年までに日産車がかかわる死亡・重傷者数を1/4に(1995年と比べて)、究極の目標として死亡・重傷者数をゼロにすることを掲げている。交通事故の93%はドライバーが原因であることが判明している一方、交通事故件数は減少傾向にあるが、高齢者ドライバーの事故件数は増加している

 そこで、日産は「クルマが人を守る」という考え方で、ドライバーに危険を近づけないよう、万が一衝突が避けられないときも被害を最小に抑えられるようにクルマがサポートするというコンセプトで運転支援システムを開発しており、さまざまな技術を実用化してきた。日産は、今後2020年までに自動運転の対応できるシーンを段階的に増やしていく方針であり、2018年には整備された高速道路での自動運転での走行が可能になる見通し。

 運転の3要素である、判断、認知、操作という個別の点ではコンピュータの処理能力は人間よりも優れているため、コンピュータが人間をアシストすることで事故防止などに効果が期待できる。とはいえ、自動運転の実用化にもまだ課題があり、信号とテールランプの区別や線のない交差点をどう曲がるか、フェンス越しに接近してくるクルマの判別など、人間では判別できてもコンピュータには難しいシーンもある。また人の動きを推定したり、様々な道路の構造による対応など1000以上のシーンに対応する必要がある。ドライバーと自動運転車がどうコミュニケーションするかも課題の1つだ。さらに高精度な位置測定など様々な技術が重要になってくる。自動運転技術を搭載したクルマは、プライベートでドアtoドアな利便性と、安全で運転本数が多く時刻通りに走るという新幹線のような交通機関としての確実性を兼ね備えたものになっていくのではないかと、今後の展望が語られた。

野村総合研究所 グローバル製造業コンサルティング部 エレクトロニクス産業グループ グループマネージャー 晝間敏慎氏

 次に自動運転と車載機器メーカー、IT関連機器メーカーとの関わりを野村総合研究所 グローバル製造業コンサルティング部 エレクトロニクス産業グループ グループマネージャー 晝間敏慎氏が「自動運転には、自動化の程度でレベルが存在する。初期的なレベルが衝突回避ブレーキなどの先進安全機能だ。自動化の程度とレベルによっては現行の法律では規制がされており、完全自動走行の認可時期は不透明、規制解釈の拡大と規制緩和が自動運転の広がりのトリガーとなる。なお、自動運転車の製品としての投入は、自動車メーカーによって温度差がある。例えば日産やダイムラーなどは完全自動走行をコミットしているが、トヨタやフォードなどは運転の主体はドライバーとして現在ではコミットしていない。完全自動運転車の事故時のメーカー責任の範囲が不透明なため、慎重になっている部分がある」と、自動運転に際する課題やメーカー間の考え方の違いについて説明。

 自動運転の分野は技術の変化スピードが速く、OEM(各自動車メーカーのこと)と従来のティア1メーカー(自動車メーカーの一次下請)だけでは市場ニーズに対応できないため、IVI(In-Vehicle Infotainment system)やHMI(Human Machine Interface)の領域では、画像処理演算装置メーカーのNVIDIAなどのITベンダーとOEMの直接連携がスタートしており、自動運転技術の一部にも進出を計画している。一方で、ティア1メーカーも注力しているため、棲み分けは不透明な状態。技術開発のスピードの観点から、IVI領域から始まる車載エレクトロニクスでは、OEM、ティア1、ティア2(ティア1に部品を提供する二次下請け)の役割分担が変化。メカトロニクスとのすり合わせが必要な領域と、素早い市場環境の変化に対応する領域を境に分化していく可能性がある。既にOEMと先進ティア2がアーキテクチャーを決定し、ティア1が製造や品質保証を行うという体制での開発が始まっているといい、「今後、IVIとHMIおよび先進安全機能をトリガーとして、ティア2側からのアプローチにより、車載エレクトロニクスの産業構造が変化していくだろう」と述べた。

明治大学 法科大学院 中山幸二教授

 自動運転の実現に向けての法的課題については、明治大学 法科大学院 中山幸二教授が紹介。中山教授は、「今までの技術開発と関連法規の整備は、ある程度の技術の普及と安定が生じたのちに関連する法規が整備されることがこれまでの歴史だった。そのためITS(Intelligent Transport Systems)関連の技術の開発に対し、関連法規の整備は非常に遅れている。しかし、技術開発の加速化と国際競争に伴い、関連する法規の整備作業がいち早く始まっている。自動運転に関わる法規としては、安全運転義務を定めた道路交通法第70条や輸送車両の保安基準を定めた道路運送車両法第40条~42条などが関わってくる。また、交通事故が発生した場合の法的責任に関しても刑事法、民事法、行政法などが関わってくる」と紹介。

 さらに、「自動運転に関わる法律としては、日本国内の法規だけではなく、1949年に締結され日本も批准しているジュネーヴ条約や、ウィーン条約(1968年締結)の改正も必要。条約が作られた時代には、自動運転や無人運転は想定外だったため、現在改正に向けて国連が検討に入っており、国際的な基準の策定が始まっている。既に自動運転に関する苦情や紛争の例は出始めており、これから増加と高度化が進んでいく。例えば、自動運転装置が誤動作した場合の対応や、正常に動作したにも関わらず損害が発生した場合の賠償責任などがポイントになる。仮に完全自動運転が実現されれば、運転者の責任からシステム責任へと責任が移行せざる得ない。現在の運転免許制度とは全く別の制度に様変わりする」と述べた。

 パネルディスカッションのパネラーたち。左から、日産自動車 企画・先行技術開発本部 技術企画部 エキスパートリーダー 二見徹氏、野村総合研究所 グローバル製造業コンサルティング部 エレクトロニクス産業グループ グループマネージャー 晝間敏慎氏、明治大学 法科大学院 中山幸二教授、日立コンサルティング 社会イノベーション&インキュベーション本部 シニアマネージャー 平田和義氏

 最後に、パネリストとして上記3名の講演者に日立コンサルティング 社会イノベーション&インキュベーション本部 シニアマネージャー 平田和義氏を加え、モデレータを技術ジャーナリスト 鶴原吉郎氏が担当し、「自動運転のあるべき姿と、実現のための課題」というタイトルでパネルディスカッションが行われた。内容としては各講演を補足する形の質疑応答となった。その中で印象的だったのが、日産自動車 企画・先行技術開発本部 技術企画部 エキスパートリーダー 二見徹氏による「自動運転技術は安全実現のために使用されるが、クルマの運転を楽しむ人のための運転性能の増幅ということもできる。例えば高齢者でも扱いの難しいスポーツカーの運転を楽しむということも可能になるだろう」と語っていた言葉だ。

 自動運転の実現には、政府、法律、自動車メーカー、部品サプライヤーが一丸となって動く必要があるが、既にどの分野でも検討が始まっており、2020年までのロードマップが見えてきた。自動車を取り巻くこれからの10年は大きな変化の時期となるだろう。

(シバタススム)