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ブリヂストン、新しいタイヤ原材料資源「グアユール」を用いるタイヤ技術発表会

2020年のグアユールゴムを使ったタイヤの実用化に向け着実に開発が進行中

2015年10月1日発表

グアユール由来の天然ゴムを使った試作タイヤ

 ブリヂストンは10月1日、新しい天然ゴム資源「グアユール」から作り出したゴムを用いたタイヤに関する技術発表会を開催した。

ブリヂストン 執行役員 中央研究所担当 森田浩一氏の「人が自分の意志を持って移動する楽しみを得られるのがクルマに乗ること。この楽しみを次の世代にも渡していくことが、いま自分たちがするべきことである」という話から説明会は始まった

 本題となるグアユールゴムの説明に入る前に、まずはブリヂストングループの環境認識について語られた。その内容は、現在、世界では新興国を中心に人口が増え続けていて、これに伴いクルマの保有台数も増加しているため、タイヤなどの自動車向けゴム製品を生産するため、世界で年間1100万tもの量の天然ゴムが使われているという。そして世界最大のタイヤ会社・ゴム会社であるブリヂストングループでは、総消費量の10分の1に迫る約100万tの天然ゴムを1年間で使っている。

 もちろん、これは無駄に消費しているわけではない。需要が多ければ製品の販売が伸び、そのため原材料の消費も増えることは当然のことだが、このまま人口増加に合わせて需要が増え続けると、原材料である天然ゴムが取り出せる「パラゴムノキ」などの資源消費が限界を超えてしまう見とおしがある。そこで年間約100万tを消費するブリヂストンとしては、これからも継続的、安定的に天然ゴムを得ていくために新しい取り組みを進める必要があると考えたのだ。

 そのために掲げられたのが「自然と共生する」「資源を大切に使う」「CO2を減らす」という環境長期目標の3本の柱。この目標を達成することが地球環境の保護になり、すなわち将来においても社会が持続可能(サステナブル)になるという考えである。

技術発表会に参加したブリヂストン 執行役員 中央研究所担当 森田浩一氏
ブリヂストン 環境企画推進部 環境戦略企画ユニットリーダー 吉田裕人氏
ブリヂストン 中央研究所 研究第3部 中山敦氏
ブリヂストンの考える環境認識についての資料。2050年には世界人口は90億人、クルマの保有台数は20億台を超えるとの予想。そこで資源消費を抑えながらの経済成長が求められるようになるとの認識
持続可能な社会に向けてのプラン。供給面、事業面、環境と社会という全ての面で持続可能な「100%サステナブルマテリアル化」を目指すとのこと

 ブリヂストンにおける現在の取り組みでは、パラゴムノキの増産や合成ゴムの開発、それにスペアタイヤを不要にすることで消費量が抑えられるランフラットテクノロジーの推進、耐久性向上により使用するゴムの量を軽減するハーフウェイトタイヤの開発、さらに消耗したトレッド面のゴムを張り替えてタイヤを再使用するリトレッドタイヤの技術などがある。これに加えて、もう1つ大きなプロジェクトとなるのがパラゴムノキ以外から天然ゴムを取り出すことで、「グアユール」という植物の研究を手がけてきた。

 このグアユールとは、アメリカ南西部からメキシコ北部の乾燥地帯を原産とする植物で、その植物全体の組織内にゴム成分を含んでいるので根から葉まですべてを収穫して利用できる。ただし、このグアユールから天然ゴムを取り出すためには植物を粉砕して溶媒を抽出し、そこからゴムや樹脂成分を分離させるという複雑な工程が必要だった。

このまま消費量だけが増えていくと地球が持つキャパシティを確実に超えてしまう。そこで100%サステナブルマテリアル化に向けたアクションとしては、原材料の使用量を減らすことから始まり、再利用による資源の循環などを行う
耐摩耗性を向上させてトレッドゴムを薄くして、材料低減とタイヤの軽量化を両立できるハーフウェイトタイヤやパンクしてもある程度の走行が可能なランフラットタイヤ。さらにトレッドゴムを張り替える技術、空気を入れないタイヤなど、持続可能な社会に向けた技術が次々と生まれている
パラゴムノキに頼らず原材料を確保するため、グアユールなどの再生可能資源の拡大、合成ゴムなどの化石資源の再生可能化といった取り組みが行われている

 そこでブリヂストンは、米国アリゾナ州エロイ市に114km2(東京ドーム約25個分)という敷地を持つグアユールの栽培研究農場を設立。さらにグアユールの加工研究所も作っている。

 しかし、これほどの手間とコストを掛けるくらいなら、パラゴムノキをもっと栽培すればよいのでは?と疑問に思うところだが、パラゴムノキが栽培できる地域は東南アジアに集中していて、今でも全体の約9割がこの地域で栽培されている。もちろん、ここでは植林などにより資源のサステナブル化を行っているが、その栽培地にも限界があり、生産地が1個所に集中しているとその地域や輸送ルートにトラブルがあったときに供給が途絶えてしまうリスクもある。また、パラゴムノキは植林してから収穫可能になるまで4~6年の歳月が必要で、25~30年で再植林が必要になる。これに対してグアユールは乾燥地帯で栽培できるので、産地がパラゴムノキと被らない。さらに3年周期で栽培が可能なので、生産性もよいということだ。

 そんなグアユールから取れる天然ゴムだが、これをそっくりそのまま従来のパラゴムノキから作る天然ゴムと置き換えられるかと言えばそうではない。このため加工研究所で研究開発を行っているのだが、今回の技術発表会に、従来品の天然ゴムを使っていた部分のほぼ全てをグアユールゴムに置き換えた試作タイヤが展示されるほど技術が進んでいることが示された。社内で行った試験でも、すでにタイヤとしての基本性能は確認済みということで、今後は市販化に向けてさらに煮詰ていく段階とのことだった。

 ちなみに、過去にもグアユール由来の天然ゴムで作ったタイヤというのは存在していたが、コストや特性、性能面の課題がクリアできずに終わっていた。これに対してブリヂストンではタイヤとして使えるレベルまで到達できた理由については、前出の研究農場での栽培、品種改良、ゴム成分の抽出、加工方法などを一貫して手がけることにより、どんどん技術を発展させていけたと説明された。

 グアユールの研究は2012年からはじまり、3年が経った現在ではグアユールの品種改良や栽培について一定のレベルに引き上げられるまでに進歩。そして2020年にはグアユールゴムを使ったタイヤの実用化を目指しているという。

パラゴムノキの原産地は南米だが、この地域では病害などが起きやすいとのことで、製品化に向けた栽培は同じ赤道周辺の東南アジア地域で行われている。これに対してグアユールは乾燥地帯が栽培地。さらにロシアタンポポは温域地帯となっており、このように産地をバラバラにすることで供給の安定化が図れる
グアユールは根っこから葉っぱまで全ての組織に天然ゴム成分が含まれているので、収穫時は一括して取り込む。それに対してパラゴムノキは、幹に傷を付けて樹液を取り出す採取法で手間がかかる。さらに育成にかかる時間もグアユールのほうが短い
グアユールのデメリットは、天然ゴム成分を取り出すために複雑な工程と機材を要する部分。このような面があると非効率に思えるが、栽培における生産性が高いので十分採算性もあるとのこと
チェーファー、ビード、ビードフィラー、カーカスという部分が天然ゴムを使うべき部分。グアユールゴムは社内試験でこの部位に使うことが可能であると確認済み。サイドウォールやインナーライナーは天然ゴムと合成ゴムをブレンドして使う。トレッド部分はタイヤごとに使うゴムが異なる
グアユールから天然ゴムを作ることは第2次世界大戦時から行われていて、タイヤとして最初に使ったのはファイアストンだった。しかし、これは技術面から頓挫。タイヤとして成立させているはブリヂストンが初と言ってよいだろう
ブリヂストンは栽培から品種改良、加工まで一貫して行っているのが強みであるという。関連技術を融合させることで全体の研究が確実に進んでいく
グアユールゴムに対する取り組みの年表。生産体制や研究施設が整い、マイルストーンでもあった試作タイヤも完成した。あとは2020年の実用化に向けて発展させるだけだ

(深田昌之)