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ブリヂストン、最高速度400km/hでのタイヤ踏面挙動確認可能な「アルティメット アイ」施設公開

SUPER GT用レーシングタイヤのテスト風景を紹介

2014年5月8日実施

ブリヂストンの技術センター内にあるアルティメット アイ施設。ドラムを回してタイヤ踏面の状況を確認できる

 ブリヂストンは5月8日、技術センター(東京都小平市)で次世代低燃費タイヤ「ologic(オロジック)」の技術説明会を報道陣向けに開催。それにあわせ、オロジックの開発でも使われたタイヤ踏面挙動の計測・予測・可視化技術「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」施設を公開した。

 オロジックの技術説明会に関しては、別記事として掲載しており、ここではアルティメット アイに絞ってお届けする。

●ブリヂストン、BMW i3に標準採用された次世代低燃費タイヤ「ologic(オロジック)」技術説明会
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140508_647475.html

 アルティメット アイについては、ブリヂストン タイヤ研究本部 操安研究ユニット フェロー 桑山勲氏が説明。一般的にタイヤのシミュレーションは、タイヤ構造をメッシュで再現、ある弾性のゴムを想定して行われている。アルティメット アイは、シミュレーションと異なり、実際のタイヤの踏面(接地面)を解析するもので、最高速度は400km/h、タイヤ直径は2mまで対応する。つまり、乗用車用タイヤだけでなく、トラック・バス用タイヤ、そしてレーシングタイヤの解析まで可能となっている。

ブリヂストン タイヤ研究本部 操安研究ユニット フェロー 桑山勲氏
アルティメット アイのロゴ
アルティメット アイの結果をシミュレーションにフィードバックしながら、タイヤ解析の性能向上を図っていく
アルティメット アイ施設の概要
データプロセス
タイヤ性能向上
オロジック EP500の性能向上
エコピア EX20の性能向上

 基本的な仕組みは、高速で回るドラムにセンサーを設置。そのドラムとタイヤを接地させて回すことで、タイヤの接地圧、制動・駆動力、横力のデータを得られる。従来も接地圧を計測するシステムはあったものの、周方向の平均接地圧しか分からなかったのが、センサーやコンピュータの能力向上を得たことで、タイヤの任意の点の接地圧などが計測できるようになった。

 センサーは、ドラムの周方向に30度おきに9つ設置。このドラムをずらしていくことで、タイヤ踏面をスキャニングしていく。タイヤの回転角、ドラムの回転角を正確に保持することで、タイヤの踏面接地圧のマッピングが完成する。分解能は、周方向に1/3mm、タイヤ幅方向に1mmで、1本のタイヤをスキャニングするのに10分~20分かかるとのこと。タイヤは長時間回転させることで特性変化が起きるため、スキャニング時間の短縮もポイントだったという。

 また、ドラムと接地するタイヤの角度は±15度程度まで変更でき、ステアリング操作をした際の接地圧変化も確認可能。そのほか、2輪用タイヤの開発にも使われるため、50度~60度のキャンバー変更もできるとする。

アルティメット アイ施設
タイヤとドラムを接地させて計測する。タイヤはSUPER GT用タイヤが使われていた
回転するとこのような感じに
キャンバー変化を実現する基部のレール。説明では50度~60度だったが、レールを見るともう少し深い角度まで計測できるように見えた
アルティメット アイの制御パネル
上部には映像モニターが設置されていた
センサーからのデータをすぐに表示できる機械
実際にアルティメット アイを動作させるデモが行われた
センサーからの出力データ
CF(コーナリングフォース)は即時に計測できるようだ
別のモニターではホイールにかかる力などが出力されていた
これがマッピングデータ画面。左上が接地圧

 精密な接地圧などのマッピングができるようになったことで、トレッドパターンの接地圧解析が可能になった。例えば、どのパターンのどの部分が接地圧構成に影響しているかなどが解析できるようになり、接地圧の適正化を実現。先頃発売されたエコピア EX20ではウェットグリップでラベリング制度の最高グレードとなる「a」を達成しているが、この開発にも接地圧の適正化が寄与している。また、オロジックにおいても接地圧を適正化することで、グリップ力の向上を果たしている。

 ドラムの最高速度が400km/hとなっているのは、この技術がF1用タイヤ開発を視野に入れていたため。アルティメット アイの開発初期は、タイヤ回転角との同期を取ってマッピングするだけの周辺技術がなかったが、ドライのレーシングタイヤではトレッドパターンがないため(スリックタイヤのため)解析上の不都合は発生しなかった。ブリヂストンは2007年からF1にタイヤをワンメイク供給するようになったため、F1用タイヤの激しい開発競争は一段落。2007年頃から高まった低燃費タイヤの開発要求に応えるべく進化した結果が、アルティメット アイの現在の姿だ。

ブリヂストン アルティメット アイ施設

 アルティメット アイの解析結果はシミュレーション開発にフィードバックされており、従来のシミュレーションだけでは分からなかったタイヤの踏面の動きなどが分かるようになったことで、シミュレーションの精度向上にも貢献している。今後の課題としては、サスペンションの動きなど、タイヤを支えるデバイスの再現などがあるとした。

 アルティメット アイの説明を聞いていて思い出したのは、確かにかつてのブリヂストンの説明資料では、接地圧の説明にトレッドパターンが描かれていなかったこと。2009年に掲載した「POTENZA RE-11」や「PZ-X、PZ-XC」の記事と、2014年に掲載した「エコピア EX20」の記事を比較してもらえば分かるように、タイヤの運動解析に大きなジャンプアップがあったことがうかがえる。

●ブリヂストン「POTENZA RE-11」徹底レビュー【前編】
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20091126_329530.html

●ブリヂストンの新“らくタイヤ”「PZ-X」「PZ-XC」リポート(前編)
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20090323_43359.html

●【タイヤレビュー】ブリヂストン「エコピア EX20」
http://car.watch.impress.co.jp/docs/review/20140328_640837.html

 アルティメット アイ施設には大きな空間が残されており、これは「今後、さまざまな拡張のために使っていく。詳細は話せない」と、桑山氏は語ってくれた。

アルティメット アイの施設には学会への発表内容がパネル展示されていた
タイヤとセンサー付きドラムの同期を取ることで、平均的な値からピンポイントの値が分かるようになり、トレッドパターンの精密な解析ができるようになった

(編集部:谷川 潔)