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ブリヂストン、ICTの独自技術「BIO」と「BID」を活用する「スマートファクトリー構想」説明会
将来的には熟練工の技術を自動化することも目指す
2018年6月27日 05:00
- 2018年6月26日 開催
ブリヂストンは6月26日、ICT&IoTの独自技術によって統合した情報のビッグデータ解析やシミュレーションを活用して迅速、高品質、効率的なタイヤ生産を目指す「スマートファクトリー構想」を発表。同日に都内で記者説明会を開催した。
ブリヂストンではこれまでも、AI(人工知能)を実装した最新鋭タイヤ成型システム「EXAMATION(エクサメーション)」、タイヤ内部に設置したセンサーで路面状況をリアルタイムに認識する「CAIS(カイズ)」といったデジタル技術を発表し、自社の製品作りなどに利用しているが、今回の発表ではこうしたブリヂストンのデジタル技術に関するさまざまな取り組みをあらためて解説し、これからデジタル化の革命である「デジタルトランスフォーメーション」を進めていくことを表明した。
最初に説明を担当したブリヂストン 執行役員 CDO・デジタルソリューションセンター担当の三枝幸夫氏は、同社のタイヤ事業の変遷や事業概要について解説し、乗用車用、トラック・バス用、建設・鉱山車両用、航空機用といったタイヤ事業が事業全体の83%、免震ゴムやコンベアベルト、自転車、スポーツ用品といった多角化事業が17%となっており、依然としてタイヤ事業がブリヂストンの主力であると説明。
しかし、一方でグローバルのタイヤシェアでは、2005年のメーカーシェアではブリヂストンを筆頭に上位3社で半数以上を占めていたが、11年後の2016年には新興国のタイヤメーカーの台頭によって上位3社のシェアは4割以下まで減少しており、三枝氏は「私どもでも製品性能をどんどん高める努力はもちろん続けておりますが、それだけでは差別化を維持しきれなくなってきております」とコメント。この対策として、自分たちと付き合いのあるユーザーの困っている部分を解消し、新しい価値を生み出していく「ソリューションプロバイダー」になっていくことが必要だとした。
ソリューション事業を強化するためにはバリューチェーンの連携強化が必要だが、現時点では「各組織ごとの担当者や情報、システムが分断されており、現状では『eメールにエクセルファイルを添付して情報をやり取りしている』のが実態」と三枝氏は明かし、このままではユーザーにきめ細かな対応をして競争力を高めることは不可能であり、バリューチェーン全体を改革するデジタルトランスフォーメーションが必要になっていると語った。
この改革の対象になるのは商品戦略から販売後の顧客サービスまで多岐に渡るが、今回の説明会ではブリヂストンがとくに力を入れて取り組んでいる「ユーザー向けのサービス提供ソリューション」と、実際の商品生産に関わる「仮想工場生産」の2点を中心に紹介された。
デジタルトランスフォーメーションで取り組む3つの分野のうち、ユーザーに対する提供価値を高める「Digital for Customers」の具体例として、三枝氏は2017年1月から内容を刷新して提供している建設・鉱山車両用のタイヤ・ホイール管理ソフトウェア「TreadStat(トレッドスタット)」を紹介。トレッドスタットでは鉱山などの大規模な作業現場で使用される車両のタイヤにまつわる管理、運用などの情報を一元管理できるほか、タイヤの空気圧や温度などの情報を車両ごとにリアルタイムでモニタリングできる「B-TAG(Bridgestone Intelligent Tag)」とも連動可能となっている。
新しい取り組みとなるデジタルトランスフォーメーションでは、トレッドスタットやB-TAGといったデジタルツールによって集められる情報を「マイニングソリューションセンター」で集約。センターの「データサイエンティスト」が使用期間や摩耗状態などからメンテナンスや交換のタイミングを最適化。さらにトラブル発生を予測して車両が使用不能になる「ダウンタイム」を減らして収益性を高めるという。また、ユーザーの使用状況はデータ化されて商品戦略に活用され、タイヤを高性能化していく。
トラック・バス用タイヤでは、摩耗したトレッドゴムを貼り替える「リトレッド」を中心にデジタルトランスフォーメーションを展開。リトレッド事業でも以前から、使用済みのタイヤをリトレッド工場で預かってから、検査、修理、加工を終えてユーザーに返却するまでの情報を管理するデジタルソリューションツール「BASys(ベイシス)」を活用しており、デジタルトランスフォーメーションではこれまでのリトレッドに加え、荷物の量や走行距離、車速などのデータからユーザーが必要とするタイヤの性能を分析。将来的にユーザーごとのニーズに合わせたタイヤを提供できるようにしていくという。
生産面のデジタルトランスフォーメーションとなるDigital for Bridgestoneについてはブリヂストン 執行役員 タイヤ生産システム開発担当の國武輝男氏が解説。タイヤの生産は20世紀初頭にスタートしたころから長きにわたって手作業で行なわれ、1970年代になってラジアル化が進んでも人間の作業パートは多く、ブリヂストンでは1990年代から自動化を推し進め、近年ではAIも使った「自律化」も採り入れているという。この自動化や自律化で爆発的に増えたデータの有効活用が重要だと國武氏は解説し、現在ではデジタル技術をいかに進化させていくかが業務の中心になっていると語った。
自動化や自律化が進んだ「スマートファクトリー」はタイヤ生産のラインでは完結せず、原材料などのサプライヤーから購入して使うユーザーまで情報でつなぎ、1本1本のタイヤについてメーカーが情報を管理できるようになると國武氏は紹介。さらに工場内では人間のスキルに対して依存しなくなり、タイヤの使用状況のデータが市場からフィードバックされて次にタイヤ開発に活用され、求められる性能を持つタイヤがより早くユーザーの手に届くようになってバリューチェーン全体で効率が高められていくとアピールした。
スマートファクトリーの基盤となるのが、ブリヂストンで「BIO(Bridgestone Intelligent Office)」「BID(Bridgestone Intelligent Device)」と呼ぶ2つの技術。BIOは新製品の開発や作業工程などを仮想工場で行なう「フィールドの情報」となり、BIDはBIOで生成されたアルゴリズムに従って実際に工場で生産する「自動化された機能群」で、これによって高性能なタイヤで必要となる高分子複合体の材料や構造、加工技術が開発可能になるという。
BIOとBIDの具体的な活用例として、國武氏はタイヤ成型システムのエクサメーションを紹介。実際のタイヤや製造機械からセンシングで得たデータを解析し、新しいタイヤを開発するアルゴリズムを生み出すのがBIOであり、このアルゴリズムで製品となるタイヤを高精度で加工する技術がBIDであると國武氏は説明し、この開発と生産の流れを連続させてバリューチェーン全体で技術開発を進めているという。
また、建設・鉱山車両用タイヤのようなサイズの大きな製品では現在でも熟練工の技術で手作業が行なわれているが、この人間の作業についてもセンシングすることで、技術の向上に加えて技能伝承にも活用できると國武氏はコメント。モーションセンサーや圧力センサーなどを使い、熟練工が無意識に使っている勘やコツなどを解析。日本の工場で培われた技術を海外の工場に展開したり、国内工場でもマンパワーの変動でもタイムリーな生産が行なえる体制作りにも寄与すると語り、将来的には熟練工の技術の自動化にも進めていきたいとアピールした。