ニュース

ブリヂストン、天然ゴムの5倍以上の耐亀裂性を持つ新材料「High Strength Rubber」発表会

一般的な合成ゴムと樹脂、触媒から生成

2018年5月17日 発表

新開発の材料「High Strength Rubber」

 ブリヂストンは5月17日、タイヤなどに用いられている天然ゴムの代替素材となりうる新たな人工材料「High Strength Rubber」(以下、HSR)を開発したと発表した。HSRは、ブタジエンなどの合成ゴム成分とエチレンなどの樹脂成分を、ガドリニウム(Gd)を配合した同社独自の触媒を用いて共重合(分子レベルで結合)させたもの。生成したHSRは、天然ゴムと比較して耐亀裂性で5倍以上、耐摩耗性で2.5倍以上、引っ張り強度で1.5倍以上の高い耐久性と強度を達成したという。

 性能が向上している分、天然ゴムの代替として用いた場合、少量の材料でも従来通りの性能を発揮できることになる。そのため、より軽量にしながら、高強度で耐摩耗性の高い次世代タイヤなどの開発につながる可能性がある。また、触媒の配合によってできあがりの素材特性を変化させられるため、タイヤに限らずその他の分野への応用も期待される。HSRを採用した製品は、早ければ2020年代の登場を見込む。

触媒の工夫で素材の特性を自在にコントロール

 ブリヂストンは2016年12月の時点で、イソプレンと独自のGd触媒を重合させることで天然ゴム並みの性能を持つ「新規ポリイソプレンゴム」の開発に成功したことをすでに発表している。今回のHSRはその成果をさらに発展させたもので、生成される物質は「共役ジエン/オレフィン共重合体」と呼ばれる。ごく一般的な合成ゴムとして知られるブタジエンやイソプレンなどと、同じく一般的な樹脂であるエチレンなどを改良型のGd触媒によって共重合させたことで生まれた。

HSRの詳細を解説した株式会社ブリヂストン 中央研究所 フェロー 会田昭二郎氏
天然資源である天然ゴムは、タイヤ材料のおよそ30%を占める。代替材料を見つけることで、多様化によるリスクヘッジや資源の有効活用につながる
ブリヂストンは2016年12月に「新規ポリイソプレンゴム」を発表済み。これを元に研究開発を進めてきた
独自の触媒技術でゴム成分と樹脂成分を共重合させることに成功
単純に混ぜただけでは、画像右のようにそれぞれが塊となるだけ
合成ゴムと樹脂を独自のGd触媒で共重合した結果、「共役ジエン/オレフィン共重合体」が生まれた

 同社 中央研究所 フェローの会田昭二郎氏によると、従来の試験方法でHSRの物性を検証したところ、耐亀裂性においては天然ゴムの5倍となる120万回におよぶ引っ張り試験でも破断することがなかったという。引っ張り強度自体は55%、耐摩耗性は172%それぞれ高く、加えて「静的オゾン劣化試験」においては劣化が見られないため、屋外に長期間放置していても性能が低下しにくい、高い耐候性を兼ね備えることも明らかになったとしている。

引っ張り疲労特性の試験では、120万回試行しても破断しなかった
引っ張り強度は天然ゴムより55%高い
耐摩耗性は173%高い結果に
耐候性にも優れていることが明らかになった

 元の材料がいずれもありふれたものであることと、レアメタルのなかでも希少性の低いGdをごく少量しか用いないという、資源の入手性の高さがポイントの1つ。また、Gdに配合する配位子(化合物)を工夫することによって、ゴム寄りの特性を持つ素材にしたり、樹脂に近い特性を持つ素材にしたりなど、特性をさまざまに変化させることも可能。その特性変化を「ある程度自在にコントロールし、任意に作り出せるようになった」ことも成果の1つだとした。

Gd触媒を工夫することで、樹脂成分の特性が強い素材にしたもの。ぼそぼそとした紙くずのような触感
ややゴム成分の特性を強くしたもの。まだ樹脂感はあるが、柔らかさが加わっている
さらにゴム成分の特性を強くしたもの。しなやかな触り心地
シート状に加工したもの。柔らかいが、強く引っ張っても切れたり伸びたままになる気配はない
左が新材料。右が天然ゴム。カーボンを加えて輪ゴム状に加工したものだが、新素材の方が圧倒的に強度が高く、ゆっくり引っ張っていくと、かなり力を入れても切れない。天然ゴムはどこまでも伸びるか、簡単にちぎれてしまう

 会田氏は「強度や耐久性が上がり、材料が少なくなるのでタイヤが軽くなる。それによって車両の燃費が向上し、資源の有効活用やCO2の削減にもつながる」と述べ、同社がCSR(企業の社会的責任)の目標の1つとして掲げる環境負荷低減にも貢献することをアピールした。さらに、HSRを同社が得意とするタイヤ製品だけでなく「いろいろなものに活用したい」という思いから、さまざまな業界から活用アイデアを募るなどして、オープンな姿勢で共同開発などを進めていく方針も明らかにした。

HSRをさまざまな分野で活用していけるよう、オープンな体制でさまざまな産業に働きかけていく計画

 製品への採用に向けては、今後もより適した触媒を追求するとともに、量産の方法・体制の確立などの課題解決が必要であるとのこと。同社 常務執行役員 グローバルイノベーション管掌の松田明氏は、実際の製品に採用されるのは「2020年代になるだろう」と述べるに止めたが、すでにHSRを取り入れたタイヤの試作にも取り組んでおり、近い将来、耐摩耗性や強度が圧倒的に高い次世代タイヤが登場することにも期待が持てそうだ。

「次世代のモビリティに確実に貢献する」と力強く語った株式会社ブリヂストン 常務執行役員 グローバルイノベーション管掌の松田明氏