レビュー
【タイヤレビュー】ブリヂストン2輪タイヤBATTLAX「SPORT TOURING T31」「ADVENTURE A41」試乗レポート
ツーリングタイヤはまた1段、スポーツに近づいた
2018年3月16日 00:00
2018年2月より、ブリヂストンの2輪用タイヤに後継モデルが登場している。1つはオンロード向けの「BATTLAX SPORT TOURING T31」(以下、T31)、もう1つはアドベンチャーバイク用の「BATTLAX ADVENTURE A41」(以下、A41)。いずれも主にツーリングユースを想定したモデルで、春を迎えてこれから本格化するバイクシーズンに向け、満を持して投入された製品だ。
T31は従来T30 EVOとして販売されてきたモデルの後継、A41は同じくA40として販売されてきたモデルの後継となる。今回、それら新モデルと旧モデルを交えて比較試乗する機会が得られたので、それぞれどれほど進化したのか、実際のライディングしてみた感触と、開発者のコメントを交えながらお伝えしたい。
「またツーリングに行きたくなるタイヤ」を目指したT31
T31のボリュームターゲットは、排気量1000cc前後、車重200〜250kg程度のツアラー、もしくはスポーツバイク。カテゴリーとしてはツーリングタイヤに属するが、「BATTLAX HYPERSPORT S21」のようなスポーツタイヤにやや寄った側面も持ち合わせ、ワインディングを軽快に走り抜けるシチュエーションまでカバーした製品だ。
以前のT30 EVOから、そうしたオールマイティなツーリングタイヤとしての評価は高かったが、新しいT31では、元々のオールマイティさに磨きをかけることによる総合性能のアップと、ウェット性能のさらなる進化を狙っている。T31をはじめ、多くの2輪用タイヤの設計に携わる高橋氏は、ウェット性能にフォーカスした理由を、ツーリングライダーが濡れた路面を避けられないシチュエーションに高い確率で遭遇するから、と語る。
「バイクツーリングに行く日は事前に決めてしまうことが多いので、必ずしも好天のなかを出かけられるわけではない」と同氏。「ほとんどの人が降水確率80%以上だったら中止するが、それ以下なら決行するという調査結果もある」とのことで、最初は降っていなくても「出先で雨に降られてしまうこともある」のが実情だ。つまり、予期せず雨に遭遇したとしても、安全、快適にツーリングを続けられることがライダーにとっては重要で、そこにウェット性能の高いタイヤのニーズがあると見ている。
ウェット性能や総合性能の向上は、T30 EVOにいくつかの改良点を施すことで実現している。1つはトレッドコンパウンドの改良だ。タイヤのゴムには、ゴム自体の強度に関係するシリカと呼ばれる物質が配合されるが、高橋氏いわく「ゴムと混ざりにくいもの」のため、できあがった製品を分子レベルで見るとどうしても偏りができてしまう。トレッドのなかに硬いところ、柔らかいところがまだらのようにできやすいのだ。
しかし、T31では「配合するシリカ自体を見直して、ゴムとの練り方を変えた」ことで、可能な限り均等に混ざるようにした。これによってゴムの柔軟性が増して路面の凹凸に食い込みやすくなり、グリップ力が向上したという。
また、従来から2輪・4輪の多くのタイヤ開発で採用されている、タイヤ踏面挙動を計測・予測・可視化する同社独自技術「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」を活用して接地特性の最適化も図った。タイヤ内部の構造やトレッドパターンを変えることで、接地圧分布の均一化と接地面積の5%アップを実現したとしている。
「リアタイヤの縦に走る大きな溝も微調整したことで、コーナリングで荷重がかかったときの接地面を大きくできている」ことも、グリップ向上に貢献していると高橋氏。雨に降られたとしても「またツーリングに行きたくなるタイヤ」を目指したのがT31だと話した。
ウェットグリップ向上で、ロングツーリングにさらなる安心感をもたらすA41
一方、アドベンチャーバイク向けのA41は、パニアケースを使って大きな荷物を積み、2人乗りで高速道路を長距離走行する、といった状況を想定した製品。特に直進安定性にフォーカスし、荷物などの影響で不安定になりがちでも不安なく走れるようにしたタイヤだ。高橋氏いわく、「安定して走れるので疲れにくい。東京から新潟まで寿司を食べに行く、みたいな思いつきのロングツーリングにも対応できる」のがウリだ。
BMW R 1200 GSに代表される欧州でのアドベンチャーバイク人気は、昨今は日本にも飛び火。高橋氏が「今後のメインストリームになりそう」と見込むカテゴリーでもある。これに伴ってサイズラインアップが大幅に増加している点にも注目したい。A40ではフロント2サイズ、リア2サイズだったのを、A41ではフロント9サイズ、リア11サイズにまで拡充した。一部サイズはチューブタイヤ用ホイールにも対応している。
A41の性能においてフォーカスしたのは、こちらもT31と同じくウェットグリップ。ツーリングを楽しむユーザーが濡れた路面を走行するのは避けられないこと、というT31と同様の理由からくるものではあるが、とりわけ長距離ツーリングだと移動中に天候の変化に直面する可能性が高いことも、ウェットグリップが重視される要因の1つと言えるだろう。
ただし、「最も注力したのはフロントタイヤ」と高橋氏が言うように、1歩進んだULTIMAT EYEの活用方法で解析と最適化を行なっているのも特徴だ。これまでは直進時の接地面の解析のみだったところ、今回から舵角を付けた状態で、キャンバー角を最大30度まで変えたときの接地面も解析し、その結果を設計に反映させているという。
これにより、バンク時の接地圧分布の均一化も進めることができ、キャンバー角30度のときのフロントタイヤの接地面積はA40比で5%増、ウェット路面でのリアタイヤの摩擦係数は同9%増になったとしている。直進安定性だけに的を絞るのではなく、ドライ、ウェットのグリップ性能も大きく向上させたのが、新しいA41のようだ。
さらにスポーティに。T31は「全くの別物」になった
これらT31、A41と、旧モデルのT30 EVO、A40を、同一車種で比較できる形で試乗した。試乗当日は前日の豪雨の影響でコースのあちこちにウェットパッチが残り、小雨が時折ぱらつくこともあるコンディション。完全なウェット路面を走ることはなかったため、ウェット性能を高めたという新しいタイヤを試すのにベストとは言えないが、その片鱗を味わうことはできた。
最初に試乗したのは、ヤマハ発動機の「MT-09」に装着されたT30 EVO。旧モデルとはいえコーナリングでは十分なグリップ力と旋回性の高さがあった。しかし、その後T31に乗り換えたところ、走り出しでステアリングを左右に軽く振っただけですぐに違いが分かる。T31の切り返しの軽さは圧倒的で、思った通りにバイクの向き変えができ、かといって直進安定性が損なわれているわけではないので、高速道路のような速度域で路面のひび割れにタイヤが乗っても、全く不安定さは出ない。
一般道のワインディングの速度域では、路面の凹凸の角がT30 EVOよりさらに丸くなったようで、不快な突き上げが減っている。ゆっくり切り返してみると、サスペンションの減衰とは別のしなやかさが感じられ、常に安定感、安心感が得られるため、不安なくコーナーに飛び込んでいける。
コーナリングでは、リアに体重を乗せ、リアで曲げていくような感覚で徐々にバイクを倒していくことができる。このリアに乗っている感覚は、意識して姿勢を作らなくても、バイクあるいはタイヤが自然とその姿勢を維持してくれるかのようで、さらなる安心感につながっている。もっと倒し込んでいけば、今度はフロントタイヤを適度につぶし、ぐいぐいインに曲げていくようなグリップ感を手に取るように感じつつ、加速しながらコーナーを脱出していける。
以前より切れ込みがわずかに強くなったとも言えるが、決してネガティブな印象はない。グリップ力に頼って曲げていけるようになった分、コーナリング時の自由度が高まり、例えばコーナーで突っ込みすぎたときのリカバリーが一段と容易になった。ドライ路面であっても、湿った路面であっても、そうした場面で変わらずにクリアしていけるのは、T30 EVOにはなかった部分だ。
総合的に言えば、T30 EVOとは「全くの別物」という言葉がしっくりくる。グリップ性能の向上を確実に感じられるのは当然のこととして、ストレートでもコーナーでも、前後バランスが完全にマッチしてバイクがより扱いやすくなったと思えるほど。T30 EVOでも乗り手がリズムを作ればコーナーを気持ちよくクリアしていけたが、T31ならそのリズムが自然とできあがり、よりスポーティに走れる。そんな違いを、誰でも実感できそうだ。
はるかに高まったA41のグリップ力。ツーリングタイヤを超えたツーリングタイヤへ
A41は、スズキのアドベンチャーモデル「V-Strom 650XT」に装着されていた。こちらも、走り出しの時点でやはりその進化に気付く。まず低速時のハンドリングの軽快さがぐっと高まり、アドベンチャーバイクの重量を全く意識させない。車格がひとまわり小さくなったとすら思える。その軽快さは、速度を上げていくにしたがって直進安定性へとなだらかにつながり、一定の速度から上ではA40に輪をかけた直進安定性が得られる。
このとき、高い直進安定性が「バイクの立ちの強さ」として感じられることがある。姿勢を変えようとして軽く逆ステアリングを切っても反発して真っ直ぐに戻りやすい、というようなイメージだ。タンデムシートのパッセンジャーが不意に座り直してバランスを崩してしまいそうな状況であっても、この性質のおかげで不安はなさそう。直進性が強いと言っても、高速道路でレーンチェンジするようなシチュエーションで挙動が鈍重に思えたり、バイクが重く感じたりすることはない。
ただ、ワインディングのシーンで切り返しが続くときに、バイクの動きに若干の「よっこらしょ感」があるのは否めないところ。それでも、いったんコーナーに入ると一定のバンク角をA40以上に維持しやすく、倒し始めからバンク走行、立ち上がりまで、きれいな弧を描いて走り抜けられる。高速域から一気に速度を落とすときも、路面がドライであろうとややウェットであろうと、迷いなくブレーキを握り込んでコーナーにアプローチすることが可能だ。T31と同様、湿った路面でのグリップ力と、それによる安心度は着実に向上している。
直進安定性が強い分、タイトコーナーではフロントタイヤが遠いような感覚になってリカバリーが難しくなる場面もあった。決してワインディングを積極的に攻めるためのタイヤではないことを思い知らされるが、A40よりはるかに向上したグリップ力のおかげで、全体的には自分のペースを作りやすく、アドベンチャーバイクでもワインディングをよりいっそう楽しめるようになっていることは確か。
A40の時点でタイヤとしての完成度は高かったと考えられ、それ以上の直進安定性やグリップ性能を実現したA41は、持て余し気味になるかもしれないな、というのが率直な感想だ。もはや、新しいA41はツーリングタイヤを超えたツーリングタイヤ、と言えなくもない。ツーリングにおける絶対的な安心感につながるうれしい進化を果たしたA41ではあるけれど、半面、向上した性能のせいか、特定のシーンではそれがバイクの重さとして感じられてしまいそうなのが気になるところだった。