ニュース

【インタビュー】ブリヂストン、「BATTLAX HYPERSPORT S21(バトラックス ハイパースポーツ エスニーイチ)」開発者インタビュー

「1000km、200周走った」タイヤS21と、アルティメット アイの今後の展開

S21のフィーリングや今後の開発、活動計画などについて語っていただいた山田氏(写真左)と土橋氏(写真右)

 3月5日にアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開催された、ブリヂストンの2輪用スポーツラジアルタイヤ「BATTLAX HYPERSPORT S21(バトラックス ハイパースポーツ エスニーイチ)」(以下、S21)の試乗会。その終了後に、2015年までMotoGPのタイヤサプライヤーとして責任者を務めた山田宏氏と、S21の開発を主導した土橋健介氏がインタビューに応じてくれた。

 MotoGPやF1で培ったタイヤ開発技術「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」を採用し、耐摩耗性能を従来製品のS20 EVOと比較して36%(国内発表では30%としていたが、世界的には試験結果を純粋に踏まえた36%としている)向上させたS21。実際に試乗した山田氏はS21にどんな印象を持ったのか、また、2輪ユーザーに対するブリヂストンブランドのPRや、タイヤ開発の計画はどのようになっているのかなどを伺った。

 なお、試乗会のレポートやS21の詳細、アルティメット アイなど技術面については以下の記事をご覧いただきたい。

【タイヤレビュー】ブリヂストンの2輪用スポーツラジアル「BATTLAX HYPERSPORT S21(バトラックス ハイパースポーツ エスニーイチ)」
ブリヂストン、2輪車用スポーツラジアル「BATTLAX HYPERSPORTS S21」発表会
ブリヂストン、最高速度400km/hでのタイヤ踏面挙動確認可能な「アルティメット アイ」施設公開

BATTLAX HYPERSPORT S21

S21は予想を上まわる好調な売れ行き

──改めて、S21はどんなタイヤで、どんなユーザーをターゲットに開発したものなのか、簡単に教えていただけますか。

土橋氏:これまではS20 EVOという商品があって、S21はそこからの正統進化を狙ったタイヤです。S20 EVOもご好評いただいていますが、もっと安心して攻められるタイヤを目指して開発しました。

──S21が属するスポーツ向けというカテゴリーは、2輪タイヤ全体から見てどれくらいのニーズ、市場ボリュームがあるものなのでしょうか。

土橋氏:2輪では、ツーリングタイヤとスポーツ向けタイヤが需要としてはだいたい拮抗しています。ですから、S21を含むスポーツ向けタイヤは、トップブランドの商品として重要な2大カテゴリーということになります。

株式会社ブリヂストン MCタイヤ開発部 土橋健介氏

──S21は2月1日から発売されています。まだツーリングシーズンではない冬の季節ではありますが、今のところの売れ行きはいかがでしょうか。

土橋氏:タイヤ需要のピークは春、3月~5月ごろですが、バイク用タイヤは通常1月か2月に新製品を発売することが多く、今回も2月の発売開始となりました。売れ行きは好調です。もともとS20 EVO以上の販売計画を立てていましたが、その想定をさらに上まわるペースです。S21の明快なコンセプトが受け入れられているのかな、と認識しています。

──前回の海外でのタイヤ試乗会は、BATTLAX BT-016 PRO HYPERSPORTのとき。2008年のスペイン ヘレスサーキットだったとうかがっています。今回はアブダビですが、ここを選ばれた理由と、このようなサーキットで試乗会を開く狙いはどこにあるのか教えてください。

土橋氏:S21は一般道での走行をメインに開発したものではあるのですが、一部ユーザーはサーキットを走ることもあるということで、その際のハンドリングやグリップの性能を向上させた製品ということになります。そこを十分に体感していただこうということで、サーキットを会場として設定しました。

 なぜアブダビかというと、特に欧州のジャーナリストの方々にとっては、試乗会はヨーロッパの本土でやることが多いんです。なのでちょっと目線を変えて、従来とは違う場所でいろいろな車両をそろえて、楽しく乗っていただこうというコンセプトで実施したのが今回になります。

タイヤ交換なしでサーキットを1000km、200周走りきった

──山田さんご自身もサーキットで試乗されました。タイヤのフィーリングはいかがだったでしょうか。

山田氏:リッターバイクでサーキットを走るのは超久しぶりでした。まわりに速い人がたくさんいるからちゃんと走れるかも不安だったし、コースも難しくて最後まで覚えきれなかった(笑)。でも、タイヤについて言えばコンセプトどおりに、ハンドリングは素直だし接地感もあって、不安感は全然なかったですね。

 僕のレベルから言えば、アクセルをかなり開けたつもりでもほとんど滑る感じはないし、フロントタイヤが非常に軽快でニュートラル。今回はほかのタイヤとは比較していないのと、初めてのサーキットで初めてのバイクとタイヤだから、これまでの製品との違いをはっきり言うのは難しいけれど、本当に安心して楽しく乗れましたね。

株式会社ブリヂストン グローバルモータースポーツ推進部 山田宏氏

 S21はS20 EVOの後継なのですが、S20 EVOもいいタイヤで特に不満がないんですよね。開発を担当している人は、さらによいタイヤを目指すものですが、何をよくしたらいいのか悩むところもあると思う。何をどこまで、どうよくするのか。それこそR10(BATTLAX RACING R10 EVO)のようなサーキット性能があって、ライフもすごくもって、市街地でもウェットでもいいよとか、全部がパーフェクトなタイヤがもちろんベストなのかもしれないけれど。

 とは言ってもパーフェクトにはできないので、ユーザーに合わせて性能をバランスさせることが重要です。トランスポーターにバイクを積んでサーキットを走る人は、RS10(BATTLAX RACING STREET RS10)やRS10 TYPE-R(BATTLAX RACING STREET RS10 TYPE-R)、もしくはR10やスリックタイヤを履いてもらった方がいい。そうではなくて街乗りがメインで、週末にサーキットを走って楽しむという人にとっては、S21はすごくいいタイヤだと思います。

──S20 EVOと比べて36%アップしたという耐摩耗性能は、実際のところどうだったんでしょうか。

山田氏:今日の試乗会では、途中で1回もタイヤを交換してないんですよね。それでも最後までグリップダウンは感じなかった。さっきヨーロッパのスタッフに聞いたら、先導していた元MotoGPレーサーのホセ・ルイス・カルドソは、3日前の試乗会の準備期間から同じバイク、同じタイヤをずっと使っていて、今日でトータル1000km、約200周走ったと。

 ライフが36%アップしたというのは一般道での比較テストではあるけれども、サーキットでも同じように耐久性が高いことが分かりました。カルドソは今日の試乗会が終わってから、初めてタイヤを交換したそうだけれど、スリップサインもまだ出ていし、タレてないと言っていましたよ。

WSBKライダーのジョシュ・ブルックス(左)と元MotoGPライダーのホセ・ルイス・カルドソ(中央)ともう1人、世界耐久選手権ライダーのスティーブ・ミゼラ(右)が試乗会でガイド役となって先導を務めた
ガイド役を務めたライダー3人の走り

アルティメット アイの適用範囲は拡大。S21はOEへの供給も図る

──その耐久性につながる技術として「アルティメット アイ」をS21に採用したわけですが、今後この技術をほかのタイヤに応用していく計画はあるのでしょうか。

土橋氏:実際に今、複数の商品について開発を進めていて、それらにはすべてアルティメット アイを適用しています。今後、ブリヂストンのメインの商品についてはすべてアルティメット アイを適用する計画です。今回のS21では、販売訴求の面で分かりやすさを重視して、主に耐摩耗性向上のために採用したと説明していましたが、実は操縦安定性の解析と向上にも寄与していたりします。

 これからは、そういった操安性の部分にも使えるテクノロジーであることも積極的にアピールしながら、性能向上の適用範囲を拡大していきたいと考えています。

アルティメット アイを用いた開発で、S21はグリップ力や耐摩耗性だけでなく操縦安定性も向上させている

──アルティメット アイについて、テクノロジーのアップデートは近いうちにありそうですか。工場を拝見したときは試験機を設置している場所の天井高がずいぶんありました。そのときは「将来性のため」というお話でしたが。

土橋氏:アルティメット アイは、まず「第1弾が完成した」という風に考えて技術発表させていただきました。ただ、そこで止まってしまうと技術進化がないので、ずっと継続的に開発を続けていくものだと思っています。具体的にどういう形になるかは分かりませんが、設備開発の部隊もいるので、そこで決めていくことになるでしょう。

アルティメット アイの試験機。設置している場所はかなりの天井高があった

──そのアップデートがあるとしたら、まずは4輪からということになるのでしょうか。

土橋氏:アルティメット アイの開発のきっかけはF1レースでした。今後、どのカテゴリーで先行して新しい技術を採用していくかは(市場)環境によるところもあると思います。ただ、技術のベースはレースから来ていますので、新しい技術もレースから、ということになるんじゃないでしょうか。

──OE(バイクメーカーなど)へのS21の供給は進んでいますか。

土橋氏:もうOEへのアプローチはしていまして、各メーカー様から比較的よい反応をいただいています。メーカー様は主にドライ路面でのハンドリング性能に重点を置いていて、S21についてはその部分を評価いただいているようです。

初心者や女性も参加しやすい、年間計10回のサーキット走行会を企画

──国内の発表会では、S21を「サーキットに挑戦したくなるタイヤ」と表現していました。ただ、一般のツーリングライダーにとってサーキットは、「怖い」とか、装備も含めて「お金がかかりそう」という意識がハードルになっているようにも思います。ブリヂストンとしてはそういった層に対して、今後どんな活動をしていくのでしょうか。

山田氏:1つは2016年の今年、一般ライダー向けのサーキット走行会を強化していくという方針を打ち出しています。2015年は計6回開催しましたが、今年は10回に増やします。そこについては私も提案しているところがあって、やっぱり走ったことのない人を呼び込もうよ、と。

 ですので、今年は初心者と女性のクラスを新設した「BATTLAX走行会」を4回、サーキット経験者向けの「BATTLAX PRO SHOP走行会」を6回、この2本柱で実施します。前者の「BATTLAX走行会」は初心者と女性クラスをメインに、中上級クラスもあるという走行会で、サーキットを走ったことのない人にサーキット走行の楽しみに気付いてもらうという狙いです。

 私も現地に行くつもりだし、1日楽しんでもらいたいなというのもあるので、例えば(元ホンダワークスライダーの)宮城光さんに司会として来てもらってトークショーをやったり、初回の4月2日は千葉県の袖ケ浦フォレスト・レースウェイで開催するのですが、そのときは(2015年のJSB1000と鈴鹿8耐で優勝した)中須賀克行選手も来てくれることになっています。

 中須賀選手も一緒に走るし、トークショーもやります。あと、(日本人女性として初めて世界選手権GP125にフル参戦した)井形ともさんをインストラクターに迎えます。それと一緒に「Hiroshi'sキッチン」もやろうっていうことで、メニューをどうしようかと毎日そればかり考えてます(笑)。

初心者や女性でも参加できる「BATTLAX走行会」の開催は4回予定されている(画像はブリヂストンのWebサイトより)

──走行会では、やはり革ツナギが必須になるのでしょうか。

山田氏:ツナギじゃなくてもいい走行会も開催します。でも、基本はツナギです。転倒したときのダメージを考えたらツナギですよね。いずれはツナギ屋さんと一緒に、走行会のときにレンタルもできるようにしたいとは思っています。買うのに十数万円っていうのは、やっぱりハードルが高いですから。

──この試乗会の期間中に「ブリヂストン モーターサイクル」のFacebookページも立ち上げましたね。

山田氏:ブリヂストンファンを増やしたいというのが狙いです。私自身、Facebookを始めて3年くらい経ちますけど、ファンを増やしたいという気持ちでレースに関わる仕事をやってきました。SNSは今主流というか、(ファンになりうる人とは)そこのつながりが大きい。企業のFacebookページって難しいなと思うところもありますが、今後なんとかうまくやって、輪を広げていきたいですね。

──最後にアピールしたいことがありましたら。

土橋氏:今回のS21の試乗会で、我々開発陣が狙ったタイヤのよさみたいなところを感じていただけたかなと思っています。初心者から中級者、サーキットに行く人まで広く使っていただける、自信をもって出せる商品と思っていますので、ぜひ1度お乗りいただければ。

山田氏:RS10に続き、S20 EVOの後継商品としてS21はかなりよくなっていると思うので、みなさんにぜひ乗ってほしい。走行会も盛り上げて、サーキットの楽しさを1人でも多くの人に知ってほしいなと思います。

(日沼諭史)