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ブリヂストン、2輪車用スポーツラジアル「BATTLAX HYPERSPORTS S21」発表会

「アルティメット アイ」を市販2輪車用タイヤ初採用

2015年11月27日発表

ブリヂストンが新型2輪用タイヤ「BATTLAX HYPERSPORTS S21」を発表

 ブリヂストンは11月27日、一般公道およびスポーツ走行向けに性能を高めた新型2輪用プレミアムスポーツタイヤ「BATTLAX HYPERSPORTS S21(バトラックス ハイパースポーツ エスニーイチ)」を、2016年2月1日から発売すると発表した。

 一般公道向けタイヤとしては初めて、MotoGP用タイヤの開発にも用いられた独自技術「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」を採用し、耐摩耗性能の向上や軽快なハンドリング、従来モデルの「S20EVO」よりも高いグリップ性能を実現した。フロントは幅110から130の4サイズ、リアは幅150から200までの6サイズ、計10サイズをラインアップする。

フロント/リアサイズ
フロント110/70 ZR17M/C (54W)
フロント120/60 ZR17M/C (55W)
フロント120/70 ZR17M/C (58W)
フロント130/70 ZR16M/C (61W)
リア150/60 ZR17M/C (66W)
リア160/60 ZR17M/C (69W)
リア180/55 ZR17M/C (73W)
リア190/50 ZR17M/C (73W)
リア190/55 ZR17M/C (75W)
リア200/55 ZR17M/C (78W)

 また、発表に合わせ同社技術センター内にあるアルティメット アイの室内実験施設も報道陣に公開した。ここでは、発表会の内容と施設内の写真を中心にお届けする。

市場活性化のため「これまでにない回数」のプロモーション企画を予定

「BATTLAX HYPERSPORTS S21」は、同社2輪タイヤのラインアップのうち、ツーリング用とプロダクションレース用の間にある「スポーツ」用途にカテゴライズされるオンロードタイヤ。公道を安全に走れるだけでなく、サーキットのスポーツ走行でも高い性能を発揮するよう設計されたもので、従来製品の「S20」および「S20EVO」の上位モデルに位置付けられる。

新型のS21。タイヤ表面に薄く掘られている模様は日本刀をイメージしたもの
フロントタイヤ
リアタイヤ
ブリヂストン MCタイヤ事業部長 武田秀幸氏

 ブリヂストンMCタイヤ事業部長の武田秀幸氏は、国内はもとより欧米でも大排気量のオートバイの需要は頭打ちの状態にあり、さらにユーザーの高年齢化も進んでいるとし、オートバイを文字どおり支えるタイヤについても需要創出のためのマーケティング、開発が必要になっていると述べた。そのためには、顧客が期待する以上の商品を提案すること、2輪メーカーなどOEM先との協働開発による車両性能向上への寄与、ユーザーが楽しめる機会の提供、といった3点が重要だとした。

S21のプロモーションムービー

 そういった中で開発した今回のS21は、ウェットグリップ性能は維持しながらドライグリップを大幅に向上させ、しかもS20EVOに比べ30%以上の耐摩耗性能を実現させた。「雑念を消して無我夢中になれる。安心して楽しんで、バイクで走ることに集中できるタイヤを作りたい」(武田氏)という思いから生まれた製品であり、「意のままに操り、曲がることができる」、そして「サーキットに挑戦したくなる」タイヤだと語った。

バイクの需要は頭打ちで、それにつられてタイヤ販売も伸び悩んでいる
S21はスポーティに走るのを好むライダーに向けたモデル
「意のままに操り、曲がることができるタイヤ」を目指した
サーキット入門用のタイヤとしてもアピール

 さらに今後のプロモーション施策の方針についても、試乗会のほか、ゲストを招いてオートバイに乗る楽しさを伝えるイベントなどを「これまでにない回数、開催することを検討中」(武田氏)と宣言した。

4輪タイヤとMotoGPタイヤの開発で用いられた「アルティメット アイ」を初採用

S21の詳細を解説したブリヂストン MCタイヤ開発部の土橋健介氏

 S21ではフロントタイヤのクラウン半径をS20EVOと比較してやや小径化することで、これまで“立ち”の強かった性格を軽減し、ハンドリングの軽快性をアップ。さらにショルダー部の溝を減らしたことで、コーナリングでバンクを深くしていった時のタイヤ接地面積、接地長を増加させ、旋回性能の向上を図った。一方リアタイヤは逆にクラウン半径をわずかに大径化して、前輪とのバランスなどを最適化。前後輪ともにタイヤ両サイドのショルダー部を分子レベルで研究し、接地性を高めた新しいコンパウンドを導入することにより、さらなるコーナーグリップを獲得した。

 また、公道用2輪タイヤとしては初めて、ブリヂストン独自のタイヤ開発技術アルティメット アイを採用している。およそ10年前から研究開発をスタートし、2012年に学術発表も行っているという同技術は、すでに4輪自動車用タイヤ「ECOPIA EP500 ologic」および「ECOPIA EX20」で、高いグリップ性能やウェット性能、低転がり抵抗を実現したことで知られる。同社が2015年シーズンまでタイヤ供給を行ってきたオートバイレースの最高峰MotoGPにおけるタイヤ開発でもこのアルティメット アイが用いられ、レースタイヤの性能向上に貢献してきた。

S21における進化ポイントと採用技術
トレッドパターンの工夫による性能向上
フロントタイヤの構造見直しによる性能向上
リアタイヤの構造見直しによる性能向上
S20EVOと比較して、サーキットラップタイムで1.7秒の差がついたという
ウェット性能を維持。タイヤライフは30%以上アップした
日本刀をイメージした模様を彫り込んでいる

計測技術とシミュレーションを融合させたアルティメット アイ

 アルティメット アイは、従来からある同社のコンピューターシミュレーション技術と、「タイヤ踏面挙動計測・可視化技術」とを組み合わせ、タイヤ開発に役立てるテクノロジーだ。後者の挙動計測・可視化技術では、回転するドラムにタイヤを押しつけて一定の走行状態を再現し、そのタイヤ表面の挙動をセンサーで分析してタイヤの接地反力などを可視化する大型の実験装置が用いられるのが特徴となっている。

アルティメット アイは賞を受賞したこともある技術。特許も登録している
計測技術とシミュレーションを融合させたのがアルティメット アイ
400km/hにまで対応する

 F1用レースタイヤの開発も意識して設計されたこの実験装置は、最大400km/h相当まで対応。もちろん、低速走行や一般公道の制限速度に合わせた分析も可能だ。2輪用タイヤ向けには、同装置のタイヤを固定しているタイヤスタンドを動かすことにより、キャンバー角(バンク角)やトー角(ハンドルを切った時の角度)も再現できるようになっており、直線の定常走行だけでなく、コーナリング時、加減速時のタイヤの変化なども捉えられるという。

ブリヂストン 研究第2部 操安・音振研究ユニットリーダーの松本浩幸氏

 このような分析が可能になったことで、タイヤのトレッドパターンにおける接地圧の詳細な計測データを得ることができ、コンピューターシミュレーション技術と組み合わせることで、より接地面積が大きく(グリップ力が高く)、摩擦力の高いタイヤの開発につなげることができる。今回のS21については、フロントタイヤでは操縦安定性に、リアタイヤではトレッド表面の“滑り域”と“粘着域”を解析することによるグリップ力向上などにアルティメット アイをそれぞれ役立てている。

10年以上前から研究・開発を進めてきたという
アルティメット アイの屋内実験装置
センサーや処理システムにも工夫
装置で得られたデータをシミュレーションに反映することで、常に進化し続ける
アルティメット アイにより4輪自動車用タイヤも飛躍的に性能向上
S21にアルティメット アイを初採用し、旋回グリップ性能、耐摩耗性能を向上

 サーキット走行におけるテストでも効果が実証されたとしており、全日本ロードレース選手権 J-GP2クラスに参戦している関口太郎選手が走らせるホンダ CBR1000RRで、宮城県にある菅生サーキットの3コーナーで計測したデータによれば、コーナーに飛び込む際の速度がS20EVOと比べ+2km/h、コーナー出口で+4km/h改善。1周あたり1分38秒程度(S20EVO時)のラップタイムであるところが、S21では約1.7秒ほど短縮できたという。

 アルティメット アイは、今後同社の他のカテゴリーのタイヤにも順次採用していく方針。アルティメット アイ自体もさらに高度なシミュレーションや検証を行えるよう継続的に進化させていくとしている。

実験装置の外観。キャンバー角(バンク角)は60度まで傾けられる。建物内部の天井高には余裕があるが、これは「将来」を見越したもの
回転する巨大なドラムにタイヤを押しつけて計測する
コントロールルームから制御。計測をスタートし始めたところ
タイヤ表面に赤く見える点はセンサーで温度計測している場所
アルティメット アイで開発した4輪自動車用タイヤ「ECOPIA EP500 ologic」と「ECOPIA EX20」

(日沼諭史)