レビュー

【タイヤレビュー】2020年2月発売の2輪車用バイアスタイヤ、ブリヂストン「BATTLAX BT46」を試す

ウェット路面の新旧比較で感じた完成度

2020年2月1日 発売

ブリヂストン「BATTLAX BT46」と旧モデルの「BATTLAX BT45」を比較試乗した

 2輪車用バイアスタイヤ「BATTLAX BT45」が誕生したのは1998年。それから今日まで、20年余りに渡ってほとんど当時の技術のまま製造を続けることができたのは、BT45が最初から極めて高い完成度を誇っていたからに違いない。事実、ブリヂストンの話によると、これほど長く使い続けられながらも、クレームらしいクレームは聞いたことがないのだとか。

 それでもあえて2020年2月1日より発売する新商品「BATTLAX BT46」としてモデルチェンジを敢行するのには理由があるはずだ。BT46の発表会で同社の担当者が明かしていたように、「全体の製品ラインアップにおける優先順位」を考えた結果、ここまで後ろ倒しになってしまったということもあるだろうが、多くがバイアスタイヤを標準装着している250ccクラスのスポーツバイクのトレンドとも無関係ではないように思う。

「BATTLAX BT46」のフロント(左)とリア(右)

 ブリヂストンによる新旧タイヤの比較試乗会でも、BT45とBT46はそれぞれカワサキ「Ninja 250」に装着されていた。試乗コースは全行程ウェット路面で、BT46の最も大きな進化ポイントの1つであるウェット性能を体感するプログラムだ。日常の足としての実用性も兼ね備える250ccは、天候に関係なく乗り出す人が多いはず。そういう意味でもウェット路面での試乗は適しているだろう。

BT45とBT46の比較試乗はウェット路面で行なわれた

 BT46では、フロントの回転方向をこれまでとは逆、すなわちBT45の逆履きのような状態のトレッドパターンにし、その影響で力が加わりやすい前後方向に対する剛性感は高まる傾向に。一方、リアは近年の技術を採用した新しいコンパウンドとし、特にウェット路面でのグリップ力を向上させている。

BT46のフロントタイヤ。回転方向がBT45の逆になった
BT46のリアタイヤ

 20年以上も間が空いたわりには、変更は小幅に収まっているようにも思う。しかし、実車で比較するとその違いは明らかだ。ゆっくり低速で走り出したところからフロントブレーキをかけただけでも、車両の反応がまったく異なる。力が受け流されていたようなBT45に比べ、BT46では踏ん張るような性格になり、その違いが車両を通してダイレクトに伝わってくる。

BT45の試乗。ウェット路面でもグリップしてくれるが、特にリアの滑りそうな予感が伝わってきてスピードに乗り切れない

 左右に振ったり、ブレーキングと加速を繰り返したりしてみると、より分かりやすい。ライダーの入力に対して車両が前後左右に機敏に反応してくれるので、クイックでスポーティな乗り心地になる。大げさではなく、2台の車両のサスペンションセッティングが違っているのではないかと思ったほどだ。

BT46の試乗。車両が機敏に反応し、グリップ感も高いためタイヤが冷えている1周目から不安なく走り出せる

 それでいて、決してフロントの剛性感が強すぎたり、リアのグリップが勝ち過ぎていたりすることもない。アンバランスさはなくうまく均衡してくれているので、元々絶妙にバランスしていたBT45に慣れている人でも、履き替えた後に違和感を覚えることはなさそうだ。

特にフロントの剛性感は高く、スポーティなハンドリングを実感できる

 フロントの剛性感のおかげで、少し遠慮がちに走りたいウェット路面であってもコーナー手前でしっかり前方に荷重をかけて不安なく曲がることができ、リアはコーナー出口できちんと力を受け止め、粘るようにして加速を助けてくれる。

ダウンヒルからのコーナーの突っ込みにも不安はない
コーナーからの脱出。リアに荷重を乗せてグリップさせているイメージを作ることができる

 ただ、ラジアルタイヤと同じような感覚で倒し込もうとすると、すぐに限界を突破しそうな雰囲気があるのはバイアスタイヤらしい注意すべきところで、そういうものだと割り切らなければいけない部分だろう。また、長距離走行はしていないので確認できなかったが、ここまで乗り心地が変わると、ロングツーリングにおける疲労の感じ方がBT45とは変わってくる可能性もある。

当日の路面温度はウェットということもあり8~9℃
走行後のタイヤ表面温度。フロントは13℃前後だった
リアは約19℃。この温度でも十分にグリップ感が得られる

 それでも、250ccのスポーツバイクの運動性能をバイアスタイヤでありながら1段階引き上げており、街乗りもツーリングも楽しみが増えることは保証できる。現行のBT45で特に不満がないユーザーも多いとは思うが、ドライ性能とライフはBT45のままで、運動性能が高まることを考えれば、BT46を“次のタイヤ”として選ばない理由はないだろう。

試乗会と合わせて、VRによるタイヤ製造の体験もできた。このVR体験で一連の製造工程を知ることができる。ブリヂストンの那須工場の見学コースで誰でもプレーできるとのこと
ゴーグルを装着し、コントローラーを両手に持つ
仮想空間でいきなり東南アジアのゴム農園に飛ばされる筆者
タイヤの材料がどんな風にできるかを理解したら、工場に入ってタイヤ製造ラインへ
加熱されたタイヤ素材に水をかけているの図
加熱されたタイヤ素材に風を送っているの図。目の前の送風機が回ったと思ったら本当に顔が涼しくなって「VRすげえ」と思ったが、実際にはこういうことだった
できあがったタイヤを検査する工程
X線検査でタイヤの内部をチェックする
VRなのでいろいろな角度から工場やタイヤを眺められるのが最高に楽しい!

日沼諭史

日沼諭史 1977年北海道生まれ。Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、四輪・二輪や旅行などさまざまなジャンルで活動中。Footprint Technologies株式会社代表取締役。著書に「できるGoPro スタート→活用完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。2009年から参戦したオートバイジムカーナでは2年目にA級昇格し、2012年にSB級(ビッグバイククラス)チャンピオンを獲得。所有車両はマツダCX-3とスズキ隼。

Photo:高橋 学