レビュー

【タイヤレビュー】2輪車用スポーツタイヤの新定義となるか。ブリヂストン「BATTLAX HYPERSPORT S22」

ツーリング向けでもレース向けでもない、スポーツ走行をより“安全”にこなすタイヤ

BATTLAX HYPERSPORT S22装着車両の試乗でその進化をチェック

 11月28日に発表されたブリヂストンの2輪車用スポーツラジアルタイヤ「BATTLAX HYPERSPORT S22」。「BATTLAX HYPERSPORT S21」の後継となるこのタイヤは、ドライグリップとウェットグリップをさらに向上させ、ハンドリングの軽快性をも高めたという新しいスポーツタイヤだ。発売は2019年2月1日を予定している。

 前モデルのS21は、2年前に日本の公道やジムカーナアブダビのヤス・マリーナサーキットでインプレッションした通り、公道だけでなくサーキットユースにも耐えうる高い完成度を誇っていた。ツーリングを兼ねてワインディングやサーキットまで自走し、思う存分スポーツ走行した後、再び自走で安全に帰宅する。バイクの楽しみ方を広げるそんな使い方を可能にしたタイヤだった。

 順調にナンバリングが1つ増えたS22は、S21からどんな進化を見せているのだろうか。ブリヂストンの所有するテストコースにて新旧のタイヤで比較試乗する機会が得られたので、そのインプレッションをお届けしたい。

BATTLAX HYPERSPORT S22

T31とRS10の狭間で微妙な立ち位置になりつつあったS21

 ブリヂストンのオンロードタイヤ、中でもネイキッドやスーパースポーツのようなスポーツバイクに適合するBATTLAXシリーズの主なラインアップは現在4つある。1つは今回のスポーツラジアルであるS22の系譜。他には長距離走行に重きを置いたツーリング向けの「SPORT TOURINGS T31」と、高いドライグリップ性能を持つ「RACING STREET RS10」、サーキット性能にフォーカスした「RACING R11」を用意している。

 こうした製品マッピングの中で、これまでのS21はやや微妙な立ち位置になりかけていたと言える。なぜなら、ツーリング向けとしているT31もグリップ性能が底上げされ、S21のそれに近づいたからだ。対してS21はツーリングに必要とされるウェットグリップとロングライフ性能も高めた一方で、サーキット走行も可能なドライグリップを獲得し、RS10に迫るスペックを持つに至った。T31とRS10、そしてその“狭間”に位置付けられるS21との差は、一見するとごくわずかしかないように思える。

S21からS22へ。進化の方向性によってはその存在意義を問われることにも!?

 そうした点を考慮すると、S21からS22へと新旧交代させるにあたり、性能を単純にウェットグリップやロングライフに振れば“T31化”が進んでしまうだろう。かといってドライグリップを向上させればRS10との差別化がさらに難しくなる。S22になってその存在意義を問われることになるのか、あるいは反対にT31やRS10が不要なものとなるのか。そんな不安と、しかしそれに対する答えをブリヂストンの開発陣が用意していないはずがない、という期待を胸に、旧製品のS21と新しいS22を装着したマシンにまたがった。

 用意されていた試乗車両は、ヤマハ発動機「YZF-R1」「YZF-R6」「MT-09」、本田技研工業「CBR1000RR」、スズキ「GSX-R1000R」「GSX-1300R 隼」「GSX-S750」、川崎重工業「Ninja 650」、BMW「S1000RR」の9種類、計14台。試乗コースは100km/h超での巡航が可能な高速周回路と、ワインディングを想定したミニサーキットにも似ているドライ路面のハンドリング路、それと濡れた路面での性能を確認できるフルウェット状態の小さな周回路の3種類となっていた。

高速道路での巡航速度での性能を確かめられる高速周回路
ドライ路面のワインディングを想定したハンドリング路
フルウェットの路面

ショルダーの溝が、スポーツに重要なドライ・ウェットグリップを向上

 果たしてS22はどのように進化していたのか。結論から先に言えば、S21のあらゆるシチュエーションでの乗りやすさに輪をかけてフィーリングが向上し、しかしながらT31ともRS10とも違う進化の方向性を示した1本になっていた。こうした製品のアップグレードは、人によっては「前のバージョンの方が好みだった」と感じてしまう不幸な結末が待っていたりするものだが、今回のS22に関して言えば、S21に戻したくなる理由は何1つないと言ってもよい。それほどの“改善”があった。

 変化が最も分かりやすいポイントは、タイヤのショルダー部分を使うとき。深くバンクする必要はまったくない。低速で左右に振ってみるだけでも、S21以上の切り返しの軽さに気付くことができる。高速周回路に向かおうと重量級のGSX1300R 隼を発進させ蛇行させた直後、その車重を忘れそうになるハンドリングの軽快さに一瞬戸惑うほどだった。

GSX1300R 隼では、走り始めの切り返しの時点で軽さを感じた

 低速での軽快さは、YZF-R1やGSX-R1000Rのようなスーパースポーツだと、元々の車重やハンドリングが軽いためかそこまで目立つことはなかった。それに対してGSX-S750やMT-09のようなキャスターが少し寝ているバイクでは、ハンドリングのクイックさというより、落ち着きのある自然なハンドルの切れ込みとして感じ取ることができる。

キャスター角がやや大きいGSX-S750などは、低速時は軽快さというよりも自然なハンドルの切れ込みの方が印象に残る

 隼でのケースはともかく、このあたりの感触はS21とよく似ている。それもそのはずで、タイヤのプロファイル(断面形状)はS21とS22とで変わっていないからだ。変わったのはコンパウンドとトレッドパターンのみ。特にショルダー部分はトレッドの溝が増えているため、その分変形量が増えてタイヤのブロック剛性としては低下することになる。

S22(左)とS21(右)。ショルダー部の溝が増えていことが分かる

 開発を担当した同社MCタイヤ開発部の高橋氏によれば、溝の増加によるブロック剛性の低下をコンパウンドの変更で補うことにより、タイヤ全体の剛性感を維持しているという。タイヤのセンターはほぼ溝がなく、レーンチェンジ程度のアングルだとトレッドパターンに大きな違いのあるショルダーまではほぼ使わないため、高速走行時の直進安定性の高さからくる安心感はこれまで通り。それでいて、ショルダー部分は溝の増加により一種の“柔らかさ”につながっているため、リーンさせるときに違いが分かりやすいわけだ。

高速周回路の走行
直進安定性はS21と同様、車種に関係なく相変わらず高い
S21に引き続いてS22の開発も担当した株式会社ブリヂストン MCタイヤ開発部 設計第2ユニットリーダー 高橋淳一氏

 溝を増やさず、コンパウンドの変更のみを施したのであれば、グリップ力はS21より上がるかもしれない。そうしなかったのは、S22においてはウェットグリップの向上も不可欠だったからだ。ワインディングやサーキットまで自走して、帰路も安全に走行できるようにする。そうした用途をターゲットとしたS22では、往復する途中で雨に降られることも考えなければならない。自宅付近は雨だが、サーキットは晴れているというパターンも少なくないはずだ。

 ウェットグリップを向上させる簡単な方法は、溝を深くするか、溝の数を増やして排水性を高めること。剛性や効果的な排水のことを考えれば、むやみに溝を深くしたり溝を増やしたりすればいいというわけではないが、とにかくS22の場合は溝を増やすことでウェットグリップの向上を図った。言い換えると、コンパウンドの進化でトレッドの剛性を上げた分、排水性を高めるための溝を増やせるようになった、ということだ。

排水性を高めるS22の溝

 本当にウェットグリップは向上しているのだろうか。それを確かめるウェット路面で試乗車として用意されていたのは、できるなら雨の日に乗りたくないと思ってしまう前傾姿勢の強いYZF-R6。ビビってS21とS22の違いに気付けないのでは……という心配は、しかしまったくの杞憂だった。

 そもそもS21のときから、雨天や冬季の冷えた路面、冷えたタイヤで走り出す際の信頼性の高さは折り紙付き。最初に乗ったS21を装着したYZF-R6では、出だしこそ念のため恐る恐るといった感じで走らせたものの、周回路を1周する間に感触をつかむことができ、加速やブレーキングもある程度大胆にできるようになってくる。

S21では、安全を期して恐る恐る走り出し、その後ペースを作ることができた

 しかし、次に乗ったS22装着車は、1周目から躊躇なく走り出すことができ、走りそのものを楽しめた。その後、何度かS21装着車とS22装着車を行ったり来たりしてもその印象は変わらなかったから、単に身体の慣れの問題ではないだろう。S21の場合、ウェット路面でのグリップ感や接地感が完全に得られるまで徐々にタイヤを温めていくような時間がわずかながらでも必要なのに対し、S22ではその時間が一切不要だった。

 ショルダー部の溝が増えたことで、排水性が高くなっただけでなく、路面を柔軟につかむことができるようになり、それがバンク時の安心感につながっているのだろう。S22では、S21のときよりギヤを1段低くしても思い切ってアクセルを開けることができる、というほどの差があった。この1点だけを取っても、S21からS22に変える価値はあるのではないかと思える。

S22になると出だしから思い切って走ることができる

 ワインディングを想定したドライ路面のハンドリング路、あるいは8の字走行のような場面でも、このショルダー部の柔軟さからくるメリットは活かされている。S21でもバイクを倒し込んでいくときのハンドリングのナチュラルさは大いに感じていたが、S22ではさらなる接地感を確かめつつ、そこから先のしっくりハマるバンク角まで自然と移行し、そのまま維持するのが容易になっている。まるで「上手に走れるポイントはここだぞ」とタイヤやマシンが教えてくれるかのようだ。ライダーの実力のもう少し“先”を見せてくれるようにも感じられる。

ドライ路面のハンドリング路
S21でも十分なグリップ力があるが、S22はバンク時の接地感が得られるポイントまで自然に移行する
ヘアピンコーナーには今まで以上に不安なく突っ込むことができ、アクセルの開け始めも少し早めることができる

中量級バイクのスポーティな走行に的を絞り、用途が明確に

 今回用意されていた試乗車を見て分かるとおり、隼を除きほとんどの車両が比較的軽量なスポーツバイクだ。これは偶然ではない。S22は、軒並み250kgを超えるようなビッグネイキッドやツアラーをメインターゲットとはしておらず、幅広いライダーがワインディングやサーキットの走行を楽しめる、中量級のスポーツ車にターゲットを絞ったようだ。

隼のような重量級のマシンでももちろんS22は使えるが、メインのターゲット層としては想定されていないという

 すでに述べた通り、S22はS21からコンパウンドとトレッドパターンを変えたのみ。プロファイルやタイヤのケース剛性については変わっていない。したがって、S21がそうであったように、タイムを削る本気のサーキット走行やジムカーナ的な走行など、急激に大きな荷重をタイヤに加える使い方では、S22でもタイヤが潰れすぎて腰砕けのような感覚に陥ることがある。

S22のフロントとリア。プロファイルはS21と変わっていない

 その領域の走りをするのであればRS10やR11を選ぶべきだし、ツーリングがメインで、ワインディングやサーキットでのスポーツ走行を視野に入れていない(その用途に向いた車両でない)ならT31がベストということになる。ドライグリップやウェットグリップの面では、RS10やT31にさらに似通ってきたところはあるかもしれない。ただ、S21の「安全に自走して、目的地でスポーツ走行した後、再び自走で安全に帰宅する」というスポーツ走行に的を絞ったコンセプトは、S22でさらにその方向性を強めた。ターゲットユーザーも一段と明確になったと言える。

 ウェットグリップの向上などでさらに安全マージンを広げられるという意味では、すでにS21で満足しているライダーにもおすすめできるのは間違いない。そして、自分のスポーツバイクの性能をもう少し引き出して走りたい、まだライディングに自信はないけれど一歩先のライディングを学びたい、と考えている人も、S22がきっと走り方を“教えて”くれる。ブリヂストンがS22で目指したのは、ライダーのライフスタイルを含めてバイクでスポーツするとはどういうことなのか、それを定義し直すことだったのではないだろうか。

日沼諭史

日沼諭史 1977年北海道生まれ。Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、四輪・二輪や旅行などさまざまなジャンルで活動中。Footprint Technologies株式会社代表取締役。著書に「できるGoPro スタート→活用完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。2009年から参戦したオートバイジムカーナでは2年目にA級昇格し、2012年にSB級(ビッグバイククラス)チャンピオンを獲得。所有車両はマツダCX-3とスズキ隼。

Photo:高橋 学