レビュー

【タイヤレビュー】オフロード性能を高めたミシュランの2輪車用タイヤ「ANAKEE ADVENTURE」試乗レポート

アドベンチャーバイク乗りがうらやましくなる、ベストなマッチングのデュアルパーパスタイヤ

ミシュラン「ANAKEE ADVENTURE」装着車を試乗

 日本ミシュランタイヤは12月3日、オンロード・オフロード両用のデュアルパーパス二輪用タイヤ「ANAKEE ADVENTURE」を発表した。近年、日本国内で人気が高まっているアドベンチャーバイクに向けたもので、従来製品の「ANAKEE 3」の後継にあたる。発売時期はサイズにもよるが、2019年春から順次。同社によると、ANAKEE ADVENTUREはこれまでよりオフロード性能を一段と高めているという。

 アドベンチャーバイクを所有しているライダーの中には、乗るのはもっぱら舗装路面だけ、という人も少なくないかもしれない。しかしそれと同時に、安全にオフロードを走れるなら走ってみたい、という気持ちもあるのではないだろうか。ANAKEE ADVENTUREは、まさにそんなライダーにおすすめできるタイヤに仕上がっていた。ここでは、発表会当日に実施されたテストコースにおける試乗会のインプレッションをお伝えしよう。

ANAKEE ADVENTUREのサイズと発売時期
「MICHELIN ANAKEE ADVENTURE」サイズ表
フロント/リアサイズ等
フロント90/90 - 21 54V TL/TT
フロント100/90 - 19 57V TL/TT
フロント110/80 R 19 59V TL/TT
フロント120/70 R 19 60V TL/TT
リア130/80 R 17 65H TL/TT
リア140/80 R 17 69H TL/TT
リア150/70 R 17 69V TL/TT
リア170/60 R 17 72V TL/TT
リア150/70 R 18 70V TL/TT

想定用途は「オンロード8:オフロード2」

 ミシュランがアドベンチャーバイク向けにラインアップしている代表的な製品は3種類。100%オンロードでの使用を想定した「ROAD 5 Trail」と、主にオフロードの走破性に重点を置いた「ANAKEE WILD」、そして従来製品のオンロード・オフロード兼用タイヤ「ANAKEE 3」だ。今回の新しい「ANAKEE ADVENTURE」は、最後のANAKEE 3を置き換えるモデルとなる。

アドベンチャーバイク向けタイヤの製品マッピング

 同社がこれらの製品において提案するユースケースの表現は感覚的に分かりやすい。ROAD 5 Trailの用途を「オンロード10:オフロード0」とすれば、ANAKEE WILDは「オンロード5:オフロード5」、ANAKEE 3は「オンロード9:オフロード1」という割合。この値は必ずしも絶対性能の差を表しているわけではないが、積極的にオフロードを走るならANAKEE WILDを、ツーリング先でまれに林道を走ることがあるならANAKEE 3を、といったような選び方ができる。

 では、新製品のANAKEE ADVENTUREがどうなっているかというと、「オン8:オフ2」という割合だ。何度も言うが、この値は絶対性能の差ではない。1ポイント上下しているからといって、ANAKEE 3に比べてオンロード性能が確実に低下し、オフロード性能が確実に向上している、とは単純には言い切れない。かといって1しか変わっていないから性能差はわずかしかない、とも言えない。実際に比較試乗してみると、オンロード性能はそのままに、オフロードの走破性が明らかに向上しているのがわかったからだ。

ANAKEE ADVENTURE
100%オンロードを想定したROAD 5 Trail

 試乗用のバイクは本田技研工業「CRF1000L Africa Twin」、BMW「R 1200 GS」など。比較できるようANAKEE ADVENTUREの他に旧製品のANAKEE 3やANAKEE WILDが装着された車両も用意された。試乗コースはオンロードのハンドリングを確かめられるワインディングふうの周回路と、高速周回路のドライ路面が2種類。さらに急制動区間や直線パイロンスラロームがセッティングされたウェット路面に、粗い砂利道や砂地、急坂などを含むダート路面という計4パターンの設定だ。

ワインディングふうの周回路
高速周回路
ウェット路面
ダート路面

高い剛性感を確保しながら、リズムを作りやすい柔軟性も併せ持つ

 ANAKEE ADVENTUREのトレッドを見ると、ANAKEE WILDのような完全なブロックタイヤとまではいかないものの、どちらかといえばその雰囲気に近い。オンロードでのグリップ性能は、左右方向に一体的なパターンを形作っているANAKEE 3には及ばないのではないか、と思わせられるが、その予感はいい意味で裏切られた。

ANAKEE ADVENTUREのトレッド
ANAKEE 3のトレッド
ANAKEE WILDのトレッド

 ワインディングふうの周回路では、ANAKEE ADVENTUREもANAKEE 3も、ステップを擦るところまでバンクさせてもグリップに余裕がある。ANAKEE ADVENTUREのトレッドのブロック感が、走行中にハンドルやシート、ステップから伝わってくることはもちろんない。剛性感も変わらず、ワインディングを楽にこなせるポテンシャルを秘めているのはどちらも同じ。ただ、ハンドリングの軽快さという点では、ANAKEE 3にわずかばかりアドバンテージがあるだろうか。

ワインディングふうの周回路の走行。ANAKEE ADVENTUREではステップを擦ってもまだグリップに余力がある

 ブロックタイヤの雰囲気がありながらも剛性感に差があるように思えないのは、ANAKEE WILDでも採用されている「ブリッジブロック」の恩恵が大きそうだ。これは、2つの隣り合うタイヤブロックの一部を0.5段ほど低いブリッジで連結させ、一体化することで剛性を保つ構造。センター部とショルダー部のタイヤブロックが連結される形になっているため、横方向への力も加わるバンク時に特にその効果を体感しやすい。

センター部とショルダー部のブロックが、0.5段ほど低いブリッジで連結されているのが分かる

 前後方向にブリッジはないため、ブレーキング時はトレッドの柔軟性をバランスよく活かす形になっているのか、接地感は上々だ。コーナーの立ち上がりでトラクションをかけていく場面でも、しっかりリアに荷重を乗せて加速する感覚が得られる。こうした柔軟性のあるタイヤはワインディングでリズムを作りやすく、自分にとって気持ちいいペースで走れるのがポイントだろう。

ANAKEE ADVENTUREではコーナー前のブレーキングからコーナーの脱出まで、リズムを作ってクリアしていける
ANAKEE WILDではさすがにペースを抑え気味にしないと横滑りする

 高速道路での100km/h前後での巡航も、オンロードタイヤと同等の扱いやすさがある。ブロックタイヤのようにオンロードでの限界性能の低さを考慮して走行レーンを選ぶ必要はないし、レーンチェンジのときに時折見せる頼りなさみたいなものを感じることもない。

100km/h超での巡航。ANAKEE 3と同様、レーンチェンジで頼りなさを感じたりすることはない

 ハイグリップタイヤではないのでペースの上げすぎは厳禁だが、出発地点から目的地となる林道までの往復区間も走りを楽しめるのは間違いないだろう。ブロック1つ1つの角を面取りすることで偏摩耗を抑制する工夫も、「8」の割合でオンロードを走る長距離移動の多いライダーにとってうれしいところだ。

砂地を楽に走破するオフロード性能

 オンロード性能がANAKEE 3と同等であるのに対して、オフロード性能は圧倒的にANAKEE ADVENTUREが有利だ。ANAKEE 3でも粗い砂利があるようなフラットダートは易々とクリアでき、ある程度の登坂も軽くこなせる性能を備えているものの、ANAKEE ADVENTUREになると走りのレベルが1段上がる。

オフロード走行をテスト
ANAKEE WILDのオフロードでの力強さは群を抜く
ANAKEE 3でもある程度のダートは不足なく走れるが……

 最も差が現れるのがタイヤが埋まってしまう砂地。今回の試乗コースにあった30mほどの砂地エリアに突入したところ、ANAKEE 3だとハンドルが取られ、リアタイヤも砂をかく力を十分に発揮できず転倒寸前で立ち往生してしまうことがあった。しかし、ANAKEE ADVENTUREでは危険なシチュエーションに陥ることは一度としてなし。幾度となくチャレンジして、わざとハンドルをこじるような走り方をしても、破綻せずに走り抜ける。

ぬかるむような砂地エリア
簡単にハンドルが取られてしまうような状態だが、ANAKEE ADVENTUREならクリアできる
急坂も力強く駆け上がる

 ANAKEE ADVENTUREのセンター部は、ショルダー部とは違って1つもブリッジのないフルグルーブトレッドとなっている。細かな砂に対してもしっかり食い込んでかき出し、推進力が得られる仕組みだ。この深い溝は流れるようにショルダーへとつながり、高い排水性能を達成するのにも貢献している。

センター部にブリッジはない。このおかげで砂を効果的にかきだして前に進める

 ウェット路面での走行時には、この溝がしっかり仕事をしていることが分かる。水たまりの中を走っているような路面ながら、60km/h超からのフルブレーキングにも怖さがなく、最短距離で停止可能だ。パイロンスラロームではアクセルのON/OFFで加速と減速にメリハリをつけながら走るのにも不安ゼロ。ANAKEE 3でそれが無理ということでもないけれど、ドライ路面でも得られたANAKEE ADVENTUREの接地感の高さがそのままウェット路面でも活きているのがよく分かる。

急制動区間でのフルブレーキングにも安心感がある
直線パイロンスラローム。滑りやすい路面でもメリハリをつけて走ることが可能
ANAKEE 3では思い切りよく走るのが少し怖い

特筆すべき電子制御バイクとのマッチングの高さ

 オフロード性能はANAKEE ADVENTUREで確かに進化した。ただし、ここで忘れてはならないのが、マシン自体の進化とタイヤとのマッチングが影響している可能性もあること。ABSはもとより、スリップ・ウィリーを抑制するトラクションコントロールシステム、シチュエーションに合わせた出力特性が得られるパワーモードなど、どのメーカーのアドベンチャーバイクも程度の差こそあれ電子制御化が進んでいる。

 とりわけスリッピーなダート路面やウェット路面は、こうした電子制御の恩恵(時にはデメリット)を最も受けやすいシーンの代表格だ。マシンがどのように路面にパワーを伝えるか、伝えないかについて、直接路面に触れているタイヤの挙動を判断の1要素に用いているから、というのは皆さんもご存じのことと思う。

 極端な例を挙げると、溝のないタイヤで砂地を走ろうとすれば、滑りすぎて電子制御が働きすぎてしまい、なおさら前に進まないことが考えられる。溝が深すぎるブロックタイヤで舗装路面を走るときも、路面状況を正しく判断できずにやはり効果的な電子制御が行なわれない可能性もあるだろう。であるなら、ドライにもウェットにも、あるいはオフロードにおいてもベストなタイヤ性能を発揮するには、電子制御を搭載したアドベンチャーバイクとのマッチングも重要になってくるはずだ。

特にオフロードやウェットのような滑りやすい路面は、タイヤにとって、最新のアドベンチャーバイクとのマッチングが鍵となる

 そう考えると、ANAKEE ADVENTUREは単純に基本性能が高いだけではないのかもしれない。特に試乗で感じたドライ路面でのリズムの作りやすさ、ウェット路面での急制動の安定感、砂地を含むオフロードでの走破性は、昨今のアドベンチャーバイクとのマッチングの高さも示しているのではないか。違う見方をすれば、ANAKEE ADVENTUREはアドベンチャーバイクの性能をあらゆる場面で引き出すことに成功した、もしくは少なくともその領域に一歩前進した、と言えるのではないだろうか。

 自宅から多少ロングツーリングになっても林道まで行って分け入り、散策を楽しんでまた帰ってくる。そんなバイクライフを無理なく、安全に楽しめるだろうANAKEE ADVENTUREの懐の広さを知ることができるアドベンチャーバイク乗りが、正直言ってうらやましい。

日沼諭史

日沼諭史 1977年北海道生まれ。Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。IT、モバイル、オーディオ・ビジュアル分野のほか、四輪・二輪や旅行などさまざまなジャンルで活動中。Footprint Technologies株式会社代表取締役。著書に「できるGoPro スタート→活用完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。2009年から参戦したオートバイジムカーナでは2年目にA級昇格し、2012年にSB級(ビッグバイククラス)チャンピオンを獲得。所有車両はマツダCX-3とスズキ隼。

Photo:高橋 学