レビュー

【タイヤレビュー】ブリヂストン「BATTLAX HYPERSPORT S21」のストリート性能

明確に伝わってくる“安心感”とオールラウンダーな性格

BATTLAX HYPERSPORT S21の公道での感触はいかに

 2月に発売されたブリヂストンの新しい2輪用ストリート向けスポーツタイヤ「BATTLAX HYPERSPORT S21(バトラックス ハイパースポーツ エスニイイチ)」。筆者は3月にアブダビで開催された試乗会に参加し、最新のスーパースポーツ車に装着して高速サーキットでその限界性能を試すことができた。

 公道向けタイヤであるにも関わらず、想像以上のグリップ力を発揮し、スポーツ走行にも問題なく耐えられることがここで分かったわけだが、実際のところほとんどのユーザーが日常的に走行することになる公道ではどのようなフィーリングが得られるのだろうか。

 今回はスズキの「隼」(GSX1300R)にS21を装着し、公道をしばらく走行してみて、S21がストリートユースでどのような性格を見せるタイヤなのか、そのインプレッションをお届けしたい。

550kmを走行した印象は、圧倒的な安心・安定感

 隼の新車装着の標準タイヤはフロントが幅120サイズ(120/70 ZR17)、リアが幅190サイズ(190/50 ZR17)となる。S21はこの標準タイヤと同じサイズを選択している。

テストのために用意したS21

 1999年に登場した初代の隼は、排気量1299ccのエンジンを搭載し、最高速300km/hを超える性能をもつとして、かつては「世界最速の市販公道車」とも言われた。メガスポーツツアラーという新しいジャンルを開拓し、2008年に大きなモデルチェンジが実施された後も、毎年のようにカラーバリエーションやマイナーチェンジが加えられた新車が発売されている世界的に人気の高いロングセラーモデルだ。

 2003年式の隼は乾燥重量で公称215kgとされているが、装備重量で言うと240kg前後(車検証には250kgと記載されているが、若干の軽量化をしているため)になると考えられる。重量級の車両であることと、スペックシート上では175PSあることを考えると、タイヤへの負担はかなり大きい部類に入るだろう。それだけに、タイヤ性能の違いが走りに如実に現れやすい車種とも言える。

 タイヤ装着後、インプレッションのために走行したこれまでの総距離は550kmほど。都内から郊外までの市街地、高速道路、ドライ路面からハーフウェットの路面まで、一般的な走行状況をある程度試すことができている。そのなかで終始感じたのは、よほどのことがない限り転ばないんじゃないか、と思えるほどの絶大な“安心感”と“安定感”だった。

隼に装着したところ

交換直後の最初の右左折から感じる素性のよさ

 新品タイヤで走り出してすぐ、最初の交差点からその安心感を得ることができた。90度よりもやや鋭角に左折する場所で、なんのためらいもなくハンドルを切って曲がっていける。当たり前のことを当たり前にできるだけではあるのだが、全く“皮むき”ができていないワックスの光るタイヤで、10度前後のまだそれほど気温の高くない季節・時間帯でありながら、一切不安を覚えることなくいきなり信頼して操舵できるところに、さっそくその素性のよさみたいなものがかいま見える。

 しかし、タイヤ交換直後の急なハンドル操作や加速はやはり禁物だ。タイヤがしっかり路面の凹凸を捉えている感覚を確認しながら、車体や身体になじんでくるまでゆっくり慎重に走らせる。表面の皮むきを終えたところで改めて評価してみると、S21はどちらかというとヒラヒラ走るタイプではなく、着実に路面に押しつけて走るかのような、安定志向のタイヤに思えてくる。

 S21では、それ以前のS20 EVOと比較してフロントタイヤのクラウン半径は小さく、リアタイヤのクラウン半径は大きくなるようにそれぞれラウンド形状を変更し、バンクさせた時の前後のバランスを最適化している。その影響か、あるいは装着したリアタイヤの偏平率が50と緩やかで、リアの車高が低めになっているせいなのか(といっても標準サイズと同じなのだが)、リアから先に曲がってごくわずか後にフロントがスムーズに切れていくような感触、つまりリアステアの感覚が少し強い。

フロントタイヤ。クラウン半径はS20 EVOと比較してやや小さくなった
リアタイヤ。フロントタイヤとは反対にクラウン半径はやや大きくなった

 個人的にはフロントから切れ込んでガンガン曲がっていく方が好みではあるのだけれど、それだと公道走行では転倒のリスクや不安をどうしても抱えることになってしまう。リアステア気味になると一瞬フロントが遠くにあるような感覚になるものの、その分だけ倒し込む時の安定度は増す。結果的に安全に交差点やワインディングをクリアできるようになるわけだ。

安定重視のタイヤかと思いきや、全く別の側面も

 だからといって常に切り返しにだるさがある、ということではない。筆者は速度を出すことのない公道上ではリラックスして、気持ち後ろ目に体重を預けるようにどっしり構えることが多く、そうした場合はリアステア感を味わいながらゆったり曲がっていける。ところが、少しフロントに荷重を移しながらコーナリングしてみると、フロントとリアが同期して倒れるようになり、スポーティ感が出てくる。

公道では少しリアに預けるようにしてゆったり構える筆者。低速でも安定して曲がっていける

 これは、例えば平坦なコーナーと、やや下り坂のコーナーをゆっくり流してみるだけでも違いが分かる。つまり低速時は安定重視で曲がることができ、スピードが乗ってくる(フロント荷重が多くなる)と安定感は維持しながらもメリハリのあるコーナリングができる、ということ。ライダーが積極的に体重移動したり、ブレーキングで荷重と姿勢を変化させたりするようなスキルを発揮しなくても、タイヤが自然にコーナーのRや速度域に合わせてくれるかのように振る舞うのだ。

 逆に解釈すれば、ライダーのスキルやシチュエーションに合わせて性格を変化させられるタイヤであるとも言える。のんびり移動したいツーリングライダーにとっては、狭い市街地から高速道路のコーナーやワインディングまで、不安定さとは無縁のまま走り抜けることができるし、マシンとの一体感を求めてペースよく走りたいライダーにとっても、必要に応じてしっかり荷重コントロールすれば、まさにスポーツタイヤとしてのポテンシャルを引き出してライディングできるだろう。

驚くほど広い対応温度レンジが大きな魅力

 ケースがしなやかで、コンパウンドもソフトな雰囲気はあるのだが、タイヤの接地感は十分に感じられる。S21に交換した当初は、路面の凹凸をかなり細かく拾うものだと思っていたのだが、直前まで装着していたプロダクションレース用タイヤに合わせて前後サスペンションをセッティングしていたため、いったん前後のダンパーを3クリック分緩めてみたところ、見事に凹凸の角が取れ、それでいて接地感は維持しながら、アスファルトの粗さの違いを感じ取りつつ、しっかり路面をつかんで走る実感が得られた。

 この接地感は気温や路面温度に関係なく、いつでもほとんど同じように伝わってくるのも特筆すべきところだ。冒頭で述べたとおり、新品タイヤ装着後の皮むきが終わっていない段階でもコーナリングには不安がないし、長距離ツーリングで途中休憩して、冷えたタイヤのまま再び走り出した時もやはり同じように接地感があるので、最初から気を使わずに操縦できる。

 雨でハーフウェットの状態になった路面であっても、常識的な速度と加速で走る限りは、特別気を払わなければならない部分もない。恐ろしく対応温度レンジの広いタイヤであることが確認でき、公道上ではうっかりタイヤを滑らすこともなければ、転倒なんていう万が一の事態も起こらないのではないかとさえ思えてくる。タイヤを信頼しすぎて気の緩んだ運転をするのはもってのほかだが、それくらいナーバスなところがなく、幅広い走行シーンに対応してくれるタイヤなのである。

ハーフウェットの路面でも全く不安なく走ることができる

 ただ、1つだけ気になるのは、渋滞にはまって1km/hも出ているか出ていないかくらいのノロノロ走行時に、フロントタイヤがうねるような違和感を覚えること。タイヤのセンターをわずかにまたぐように溝が掘られたトレッドパターンとなっており、その部分でタイヤ自体の凹凸がハンドルに伝わってくるようだ。ちょっとでも速度が出ればすぐに感じられなくなるのだが、戸惑う人はいるかもしれない。

摩耗知らず(?)でロングツーリングにも最適か

 550km走行後のタイヤ表面の摩耗肌は、さらさらのきれいな状態。路面温度がそれほど高くない季節だったからというのももちろんあるとは思うが、高速道路で長時間走行した後でも、トレッドが溶けて玉状になる、いわゆる“アリンコ”は見られなかった。サーキット試乗会でもトレッドの荒れは目立たなかったことから、摩耗しているとは感じられないほどゆるやかに摩耗し、きれいな状態を保ち続けることになりそうだ。

 後述するジムカーナ走行で、トレッドの端に波状の摩耗肌の“アブレーション”が現れやすいタイヤ負荷の高い走り方をしたところでも、S21ではそういった現象がほとんど見られなかったことも記しておきたい。MotoGPのタイヤ開発に用いられたULTIMAT EYE技術によってタイヤライフが30%以上向上したというのは伊達ではないようだ。

約500km走った後の前後タイヤ。公道で使うセンターはさらさら。サイドはジムカーナでやや削れたが、アブレーションは出ていない

 S21を総合的に評価すれば、公道はもちろんサーキットでも十分なパフォーマンスが得られ、タイヤのライフも長いため、ロングツーリングからスポーツ走行までオールラウンドに対応する“スポーツタイヤの決定版”と言える。いろいろな意味でとんがった性能が欲しいユーザーには無難すぎるタイヤと思われてしまうかもしれないが、「高速道路を使ったツーリングがメインだけれどワインディングも楽しみたい」とか、「いつかはサーキットデビューしてみたい」と考えている人、あるいは「今使っているタイヤがなんとなく扱いにくい」と感じている人も、S21は得はあっても損はない選択となるはずだ。

余談:S21はジムカーナ走行にも使えるか?

 ここからは公道走行から少し離れ、サーキットとも異なるジムカーナでの限界走行時のフィーリングについて軽く触れておこうと思う。オートバイジムカーナの大会では、2016年より一部でタイヤメーカーを限定したワンメイクレースとなっているが、今回のテストはタイヤ指定のない大会を走行した。結論からいえば、S21はジムカーナでも“普通に”走ることができるタイヤだった。

スポーツタイヤとしての高い性能を実感しながら楽しんで走ることができた

 サーキット走行で感じた通り、S21のグリップ力は高く、タイトターンや中速域でのコーナリングが細かく繰り返されるジムカーナにおいても十分な旋回力を発揮してくれる。先述の通り、低速域でも積極的なマシンコントロールでフロント主体に曲げていくこともできれば、瞬時にリアに荷重を乗せてコーナリング出口からトラクションを稼ぎながら加速していくこともできる。

 多くの選手が用いるプロダクションレース用タイヤと比べるとさすがに絶対的なグリップ力はそれに及ばず、上位を目指せる戦闘力があるかというと厳しいところだが、温度が低くても本来の性能を引き出せるS21は、冷えた路面コンディションでも最初からペースを上げて走ることができ、つまりは転倒しにくいという点でメリットが大きい。

 また、タイヤの限界を超えるような場面でも、滑り始めの感覚ははっきり伝わってきて、コントロール可能な範囲に収めることができる。走行ラインを大きく外して乱れることはなく、走り自体が破綻することもない。スムーズなアクセル・ブレーキ操作を心がけていれば、間違いなく、思い切り楽しんでマシンを走らせることができるはずだ。

もちろん大会には自走で参加。気温の低い季節でも問題なく自走できるのはありがたい
ジムカーナ走行動画

日沼諭史