レビュー
奥川浩彦のキヤノン「EOS 90D」でモータースポーツを撮ってみた。新機能「流し撮り」モードも確認
2019年12月5日 16:43
2019年9月にキヤノンから「EOS 90D」が発売された。EOS 90DはキヤノンのAPS-C一眼レフカメラの最終形と言われ、EOS 5D Mark IVを上回る約3250万画素、キヤノン最新の映像エンジンDIGIC 8を搭載、EOS 7D Mark IIと同等な10コマ/秒の連写性能を実現した。
キヤノンのAPS-C一眼レフは、フルサイズ一眼レフに対し換算焦点距離が1.6倍となるため、望遠レンズを多用するモータースポーツの撮影ではアマチュアからプロまで人気は高い。それゆえ、EOS 80Dユーザーはもちろん、EOS 7D Mark IIユーザーで、その後継機を待ち望んでいたスポーツ系のカメラマンからも注目される存在だ。
果たしてEOS 90Dでモータースポーツをどこまで撮れるのか。実際にEOS 90Dを10月に富士スピードウェイ、鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎで開催されたWEC(世界耐久選手権)、F1日本グランプリ、MotoGPに持ち込んで、性能、画質、操作性などさまざまな面を評価してみた。
WEC、F1、MotoGPで撮影しレタッチした写真はそれぞれのフォトギャラリーに掲載してある。
EOS 90DのスペックをEOS 7D Mark II、EOS 80Dと比較
まずはEOS 90DのスペックをEOS 7D Mark II、EOS 80Dと一部抜粋して簡単に比較してみよう。モータースポーツの撮影を前提としているので、ライブビューなどの仕様は含まれていない。
EOS 90Dは有効画素数3250万、6960×4640ピクセルとAPS-Cサイズの撮像素子としては驚異的な高解像度を実現している。EOS 80Dの6000×4000ピクセルに対し1.16倍、EOS 7D Mark IIの5472×3648ピクセルに対し1.27倍。フルサイズのセンサーを搭載したEOS 5D Mark IVの約3040万画素、6720×4480ピクセルをも上回っている。
記録媒体はSD/SDHC/SDXCメモリカード(以下:SDカード)でシングルスロット。EOS 7D Mark IIはSDカードに加えCFカードも使用できるデュアルスロットだ。
スポーツ系の撮影で気になる連写性能は約10コマ/秒。EOS 7D Mark IIと同等で、これによりEOS 7D Mark IIユーザーがその後継機としてEOS 90Dに注目することとなった。ただし、連続撮影可能枚数はJPEG(ラージ/ファイン)で57枚、UHS-II対応カードを使用しても58枚と少なめな印象。EOS 7D Mark IIはUDMAモード7対応のCFカード使用時は1090枚とほぼ無限に連写が可能。長めに連写する人はやや気になる点だ。
測距点は最大45点。これは数よりもファインダー内で上下左右のカバーされるエリアが気になる。仕様を見ただけでは分からないので、実際にファインダーを覗いて撮ってみるしかないだろう。
筆者はサーキット撮影時は測距エリア選択モードで1点AFを常用している。たまにスポット1点AFも使用するが、ゾーンAFを使用することはほとんどない。EOS 90Dは1点AF、スポット1点AFに対応。EOS 7D Mark IIで設定可能な領域拡大AFには対応していない。
付属のバッテリはいずれもLP-E6N。EOS 90Dの撮影枚数はEOS 80Dの2倍弱、EOS 7D Mark IIの3倍弱と大幅に増えている。
カメラボディの大きさはEOS 7D Mark IIと比べるとひとまわり小さい印象。重さも200gほど軽い。ボディ単体で持ったときや短いレンズを付けたときは軽いと感じたが、EF 300mm F2.8 L IS II USMなどの望遠レンズを付けると、レンズの重さが2kgを超えるのでそれほどの差は感じられなかった。
発売時期はEOS 80Dが2016年3月で3年半前。EOS 7D Mark IIにいたっては2014年10月ですでに5年を経過している。筆者はEOS 7D Mark IIユーザーなので「もう5年も経ったのか」と感じつつ、「90Dは7D Mark IIの後継機として使えるのか」と半信半疑。スペックを見ただけで気になる点がいくつもあった。実際に使用して感じたことを詳しく説明していこう。
測距点が最大45点、カバー範囲は充分か
筆者はEOS 7Dを3台、EOS 7D Mark IIを2台購入していて「いつか7D Mark IIIが出るといいなあ」と思っていたが、公式なのか非公式なのか「EOS 90DはAPS-C機の最終モデル」とまわりの関係者から聞かされ、EOS 90Dに関心を持っていた。EOS 90Dの発表直後、筆者がスペックは見て「連写性能が10コマ/秒なら7D Mark IIの後継機として使えるかな。測距点の45点はカバーエリアが狭くならないか」が最初の印象。
EOS 90DとEOS 7D Mark IIの測距点を重ねてみよう。画像はEOS 90Dのファインダー図、EOS 7D Mark IIのファインダー図とEOS 7D Mark IIのファインダー図にEOS 90Dの測距点のみ赤色で重ねたものだ。
EOS 90Dの測距点の配置はセンターのゾーンが縦横5×3、左右のゾーンも5×3。EOS 7D Mark IIはセンターのゾーンが縦横5×5、左右のゾーンも5×5となっている。縦(ファインダー内の上下)方向の5列はそのまま、横方向の測距点が減っていることが分かる。カバーエリアは縦は同じで左右端が1列チョット狭くなっている。
測距点のカバーエリアは広ければ広いほどよいのだが、元々APS-C一眼レフはフルサイズ一眼レフよりカバーエリアは広い。EOS 7D Mark IIよりEOS 90Dの左右のカバーエリアは狭くなったが、それが撮影に影響するか否かは、対象の被写体、撮影意図などによるので人ぞれぞれだろう。
筆者の場合は、元々EOS 7D Mark IIの左右端の測距点を使う機会は少なく、上下端はもう1列欲しいと思うことが多い。なので実際にEOS 90Dで撮影をしてみると左右のカバーエリアが狭くなった影響はほぼなかった。キヤノン純正のDigital Photo Professionalを使用して、上下左右端の測距点を使用した写真を探してみると、上下端を使用した写真は数多くあったが、左右端を使用したものは極わずかだった。
高解像度のメリット
撮った写真の使用目的はさまざま、人それぞれの出力があるだろう。SNSに貼って終わりの人もいれば、パソコンの壁紙にする人、卓上カレンダーを作製する人、巨大なポスターを印刷する人もいるかもしれない。それによって必要とする解像度は異なってくる。筆者の場合は、Car Watchのフォトギャラリー用がメインなのでフルHD(1920×1080ピクセル)が出力サイズとなる。それゆえ、被写体が小さめになっても「撮った後でトリミングすればOK」とゆる~く考えながら撮影している。
EOS 7D Mark IIは5472×3648ピクセルなので、元画像はフルHDに対し横方向は2.85倍のゆとりがある。EOS 90Dにいたっては6960×4640ピクセルなので3.63倍となる。かなり小さめに撮ったマシンもトリミングをすればフルHDで画面いっぱいに表示することが可能だ。EOS 90DはEOS 7D Mark IIに対し約1.27倍の解像度となるので、トリミングを前提とすれば1.27倍のテレコンバーター(エクステンダー)が内蔵されたと考えることもできる。保有する望遠レンズの焦点距離が足らないケースでも、EOS 90Dの高解像度は役立つことがありそうだ。
実例を挙げてみよう。F1グランプリの初日、FP1の注目は山本尚貴選手。セッションが終わってメディアセンターに戻ると予想どおり「山本選手の写真を1~2枚」のリクエスト。【F1日本GP 2019】山本尚貴選手、38号車 トロロッソ・ホンダマシンでFP1を走行として掲載された。
このセッションはヘアピン立ち上がり(I席スタンドの下)からヘアピンの外、立体交差下、デグナーイン側、130Rアウト側と移動しながら撮影をしたので、マシンが右向きの写真が主となる。とはいえ、同じ記事で2枚の写真を並べるなら向きの違う写真にしたい。
そこでマシンがやや左を向いているヘアピンの立ち上がり直後の写真をトリミングして使用した。EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの望遠端400mmで撮影し、元画像の半分以下、約3000×2000にトリミングしレタッチ・リサイズして使用した。高解像度→トリミングにゆとり→出力の自由度向上となる。
高解像度と高感度ノイズ
解像度は高ければ高いほどよいかというとそうでもない。一般的にデジタルカメラは高画素化すると、撮像素子の1つ1つの受光部が極小化し高感度ノイズが増える傾向がある。またテクノロジの進歩により、新しいデジタルカメラ(=撮像素子)は高感度ノイズが減る傾向がある。EOS 90Dの有効画素は約3250万画素とEOS 7D Mark IIの約2020万画素に対し大幅に高画素化している。一方でEOS 7D Mark IIは発売から5年が経過している。両機の高感度ノイズを比較してみよう。
EOS 7D Mark II
EOS 90DとEOS 7D Mark IIのISO 100からISO 25600まで1段ずつ感度を変化させた写真を見てみよう。ISO 100の写真を並べて比較すると、EOS 90Dの情報量は桁違いだ。例えばヘルメット後方の車載カメラの上面。EOS 90Dは細かな模様が見てとれる。EOS 7D Mark IIでは見逃しそうなボディに付着したホコリもEOS 90Dは目立って見える。ノイズ感に差はなく高解像度のメリットが顕著で、テクノロジの進歩が感じられる写真だ。
ISO 800まではどちらも常用で使用できる印象。重箱の隅をつつくような見方をするとISO 1600からどちらもザラザラ感が見てとれる。どこまでを許容範囲とするかは個人個人の判断となるが、筆者としてはISO 6400までは許容範囲。夜間の撮影ならISO 12800は積極的に利用したい印象だ。
部分部分を比較してみると、ボディ上面はISO 25600にしても大差はないが、暗部のディテールはEOS 7D Mark IIがやや優勢だ。バージボード、サイドポンツーンの暗い部分はEOS 90Dはグラデーションの表現が難しい印象だ。あくまでこの作例ではそうなったが、実際の被写体で差が出るかは撮ってみないと分からない。
昼間のレースの撮影ではISO 25600を使うことはないと思われる。WECのゴール直前、F1の立体交差下でISO 800を使用したのが3レースでの最高感度。どちらもノイズを気にする写真とはならなかった。今シーズンの写真の中から富士24時間、鈴鹿10時間の夜間の撮影ではISO 1600、ISO 3200を使用している。モータースポーツの撮影においては、高感度ノイズの心配より、高解像度化によるメリットが多そうだ。
小絞りボケの影響は
高画素化=画素ピッチが小さくなることで光の回折により小絞りボケが発生する。カメラの画素ピッチにより一定の絞り値以上は絞れば絞るほどボケるというものだ。これは物理的な現象なので現在のデジタルカメラでは避けることができない。計算によりカメラごとの小絞りボケが発生する絞り値を求めることは可能で、APS-C一眼レフではF5.6~F8、フルサイズ一眼レフでもF8~F11から発生する。
APS-C一眼レフでF5.6より絞り込むとボケるといわれると、望遠ズームを使用している人は「ほぼ開放で撮れってこと?」と思うだろう。モータースポーツの撮影では流し撮りでスローシャッターを切ることは多く、晴れた日にスローシャッターを切ると絞りはF22、F32となることもある。理論値とは別にどの絞りからボケが目立つかを知ることは重要なので、自分のカメラの小絞りボケの影響をテスト撮影などで確認しておきたい。
実際にF5.6/F8/F11/F16/F22/F32で撮影した写真を用意したので、EOS 90Dの小絞りボケの影響を確認してみよう。
EOS 90D
フォーカスはヘルメットに合わせてある。ヘルメットのロゴやほぼ同じ距離のインダクションポッドのSCHUMACHERの文字をシャープさに注目して見ていこう。F5.6~F11は大差なしだがF16からシャープさが失われていく。F22は歴然とボケ始め、F32ではボケボケとなる。
一応、右フロントタイヤを見てみよう。F5.6ではボケているが、絞り込むことで被写界深度が深くなりF8、F11とシャープになりF16から徐々にボケていく。フロントタイヤの後ろにあるヘルメット灰皿も被写界深度の影響でNELSON PIQUEの文字はF22あたりが最もシャープだ。
同じ撮影をEOS 7D Mark IIでも行なった。ほぼ同じ傾向でF16からボケ始めF22、F32は極力使用を避けたい感じだ。これを見るとEOS D90の絞りは開放からF11ないしF16までを使用したい。筆者はEOS 7D Mark IIではF16までを目安として、それを超えそうなときはNDフィルターを使用している。
10コマ/秒の連写性能
EOS 90Dのスペックで目を引いたのは連写性能だ。EOS 7D Mark IIと同じ約10コマ/秒はこのクラスのカメラとしては充分な性能だろう。実際にシャッターを切ってみるとシャッター音は静か。言葉で表現すると“パコ、パコ、パコ”のような音で、第一印象は「これで10コマ/秒で撮れてる?」と感じた。テストしてみた。
絞りは開放、フォーカスはマニュアルでシャッター速度を1/1000秒、1/500秒……1/15秒まで変化させて連写し、Exifのデータでコマ数を確認してみた。結果は1/1000秒から1/250秒までは10コマ/秒。1/125秒から9.3コマとなり、1/15秒では6コマ/秒となった。シャッター音は音量は小さめ音質も迫力はないが、実力はなかなかのもの。シャッター音が静かなのは実用面では高く評価されそうだ。
シャッター速度別連写性能
シャッタースピード | 連写枚数(コマ/秒) |
---|---|
1/1000秒 | 10.0 |
1/500秒 | 10.0 |
1/250秒 | 10.0 |
1/125秒 | 9.3 |
1/60秒 | 9.0 |
1/30秒 | 7.7 |
1/15秒 | 6.0 |
高速なメモリカードは必須
冒頭で紹介したスペック表で連続撮影可能枚数はJPEG(ラージ/ファイン)で57枚、UHS-II対応カードを使用しても58枚となっていた。これも実測をしてみた。
マニュアル露出でシャッター速度1/500秒、絞り開放。フォーカスもマニュアルとして連写をした場合、JPEGの連続撮影枚数は70枚ぐらいでメーカー公表値より10枚ちょっと多く連写できた。JPEG+RAWの連続撮影枚数は30枚ぐらい。
10コマ/秒の連写が途切れた後は、高速なメモリカードは一瞬空白があり数枚を連写、また一瞬空白があり数枚を連写、を繰り返すイメージ。低速なメモリカードは長めの空白があり1~2枚撮影、また長めの空白があり1~2枚撮影、を繰り返した。カメラ本体にバッファされた写真がメモリカードに書き込まれるのを待つ時間の差(=メモリカードの転送速度の差)が、連続撮影可能枚数を超えた後の動作にかなり影響していた。
WEC、F1、MotoGPの撮影で使用したメモリカードは300MB/s(2000倍速)と250MB/s(1667倍速)のSDXCカード。連写を続ける時間はカメラマンの撮影スタイルや被写体により差があると思うが、3レースで連続撮影枚数の70枚(筆者はJPEG撮影が基本)を超える連写はなかった。
転送速度の違うメモリカードを用意し比較してみた。使用したメモリカードはいずれもLexar(レキサー)製で転送速度が300MB/s(2000倍速)、250MB/s(1667倍速)、95MB/s(633倍速)、60MB/s(400倍速)、20MB/s(133倍速)の5枚。一般的にメモリカードに記載される転送速度は読み出しの速度で、書き込みの速度はそれよりも遅くなる傾向がある。
いろいろなテストをして筆者が枚数をカウントしたり、ストップウォッチで時間を計るのは人の誤差が反映されると判断。最終的な比較方法はJPEGとJPEG+RAWで1分とチョット連写し、Exifに記録された撮影日時から1分間に撮影できた枚数をカウントすることとした。加えて、最後の1枚の撮影日時とファイル変換日時をExifで確認、撮影した写真がメモリカードに書き込まれる待ち時間(イメージはカメラの赤ランプが消えるまでの時間)を比較してみた。
メモリカード別連写性能
速度 | JPEG | JPEG+RAW | ||
---|---|---|---|---|
- | 枚数 | 書込時間 | 枚数 | 書込時間 |
20MB/s | 165 | 46秒 | 45 | 69秒 |
60MB/s | 196 | 30秒 | 45 | 50秒 |
95MB/s | 273 | 14秒 | 119 | 14秒 |
250MB/s | 273 | 14秒 | 189 | 7秒 |
300MB/s | 273 | 14秒 | 232 | 6秒 |
JPEGで1分間に撮影できた枚数を見ると95MB/sより速いSDカードであれば273枚で差はない。撮影された写真が書き込まれる時間は14秒だ。20MB/sのSDカードでは書き込み完了まで46秒も掛かっている。
70枚(7秒間)連写することはなくても、10~20枚を連写することは珍しくない。例えば鈴鹿サーキットのヘアピンプラスで立ち上がってくるマシンを連写する場合、1台目のマシンを20枚連写し、すぐに2台目のマシンを20枚連写、これを繰り返した場合、高速なSDカードは3~4秒で書き込みが完了し連続で撮影が続けられるが、低速なSDカードは10~20秒書き込みが続き、書き込んでいる最中に次のマシンの撮影を開始するので、何台目かのマシンでは連写ができなくなるだろう。
JPEG+RAWで1分間に撮影できた枚数はSDカードが速ければ速いほど多くなった。60MB/sのSDカードでは45枚/分、300MB/sのSDカードなら232枚/分と5倍以上だ。書き込みに要する時間も低速なSDカードでは69秒と極めて長い。250MB/s、300MB/sのSDカードの書き込み時間がJPEGより短くなっているのは、カメラ本体にバッファされる写真の枚数が少ないためと思われる。
EOS 90Dは高解像度を実現したためファイルサイズも大きい。JPEG/FINEでも10MB前後で、パソコンに取り込む際の転送時間も掛かることになる。ここでもメモリカードの速度で差がでるのでEOS 90Dを使用する人は高速なメモリカードを用意したい。加えてパソコン側も転送速度の速いもの、ストレージ容量の大きなものが望ましい。
AFの性能は
モータースポーツなど被写体が動く撮影で気になるのはAF(オートフォーカス)の性能だろう。WECは3日、F1は土曜が台風で中止になったので2日、MotoGPは3日、計8日間EOS 90Dを使用して撮影を行なった。撮影枚数は5万枚を超えている。
3戦、3週末、たっぷり撮った結果、AF性能は普段使用しているEOS 7D Mark IIと比べ差はないように感じた。そもそもAFは逆光、陽炎など撮影時の環境によって合焦率が異なる。ビシビシとピントが合う日もあれば、イマイチな日もある。
加えて合焦率に最も影響するのは撮影者の技量だと筆者は思っている。サーキットでは被写体が真っ直ぐ近付いて来ることはなく、常にレンズを振ってAFポイントを被写体の1点に追従させなければならない。その追従精度が高ければAFの合焦率は高くなる。例えばF1やMotoGPならAFポイントをヘルメットに常に追従させられれば合焦率は高くなるはずだ。
撮影環境や撮影者(=筆者)の技量を含めてEOS 90DとEOS 7D Mark IIのAF性能に明確な差は感じられなかった。EOS 90Dの作例を見ていただこう。WECはコカ・コーラへの進入、F1はヘアピン立ち上がり、MotoGPは最終コーナー立ち上がりで連写した写真を掲載しよう。
ピクチャースタイルを好みに設定
EOS 90Dで撮影を始めて、しばらくは撮った写真を見てシックリこなかった。1つ目の理由は高解像度ゆえアラが目立つこと。EOS 7D Mark IIであれば気にならなかったピントの甘さやブレが、高解像度になったことで顕在化したと考えられる。
もう1つは画質(ピクチャースタイル)の設定。カメラレビューは標準的な画質の設定で撮って見せるのが基本と考え、最初はピクチャースタイルをスタンダードにして撮影をしていた。普段は忠実をベースに晴れ用と雨用(コントラストと色の濃さを上げた設定)のピクチャースタイルを使用しているので、WECの途中からEOS 90Dのピクチャースタイルを忠実ベースのものに設定し、シックリくるようになった……ような気がする。
フォトギャラリーに掲載した写真は、レタッチしているので元画像とは微妙に差がある。また、今回は元画像を掲載しているので、おそらくピクチャースタイルをスタンダードに設定した写真よりはやや地味な印象を受けるかもしれない。
設定を変更してからは、高解像度ゆえ撮った写真を「デカいな、重いな」と感じることはあったが、画質面は特に気になることはなく、筆者は満足しながら撮影できた。画質に関してはパソコンのディスプレイ環境によって見え方も違うし、絵の好みもあるので、実際の写真を見ていただくのがよいだろう。
まずはWECの写真。ISO感度の項でゴール間近の写真は紹介したので、夕刻、逆光の写真なども含めてみた。
続いてF1の写真。強烈な逆光の写真も含めてみた。
3レース目はMotoGP。1stアンダーブリッジや雨の写真も含めてみた。
レースの写真ばかりなので、少し異なる写真として、WECの予選後に行なわれた、富士スピードウェイではお馴染みの小林香織バンドのライブで撮った写真を掲載しておこう。ISO 1250~2500で撮った写真もあるので参考にしていただきたい。
マルチコントローラーが2つになり操作性は向上したか
EOS 90Dの操作系のトピックスはマルチコントローラーが2つ用意されたことだ。1つはジョイスティック式のマルチコントローラー、もう1つはホイール式のマルチコントローラーだ。
筆者はEOS 20D/40D/7D/7D Mark IIを使用してきた。シャッターボタンの横に電子ダイヤル。背面液晶の横にサブ電子ダイヤル。その中心にセットボタン。サブ電子ダイヤルの上にジョイスティック式のマルチコントローラー。十数年この操作系は変わっていない。
一方、二桁EOSはEOS 60Dでバリアングル(可動式)液晶モニタを採用。これによりジョイスティック式のマルチコントローラーが非搭載となった。EOS 80Dのサブ電子ダイヤルは外周がホイール式サブ電子ダイヤル、中心がセットボタン。その中間がマルチコントローラーとなっていて、メニューやAFポイントの移動で使用できる。AFポイントの場合は、このマルチコントローラーで縦、横、斜めに移動させて設定が可能だ。
EOS 90Dはジョイスティック式のマルチコントローラーが復活。EOS 80Dと同様なホイール式のマルチコントローラーも継続され、2つの操作系を持つことになった。このあたりはAPS-C一眼レフの最終形として、EOS 80DユーザーもEOS 7D Mark IIユーザーも従来どおりの操作系で撮れるという配慮だと思われる。
ここからは筆者の個人的な印象を。ファインダーを覗きながらAFポイントを移動するときは、慣れもありジョイスティック式のマルチコントローラーが使いやすい。背面の液晶モニタを見ながら設定を変更するときは、ホイール式マルチコントローラーで上下左右に移動した方が使いやすかった。
微妙だったのが背面のサブ電子ダイヤルを回す操作。これまでは外周のホイールと中心のセットボタンに間になにもなかったので雑に操作できたが、EOS 90Dのサブ電子ダイヤルは外周だけ回すことを意識して指を置くことになり、やや回し難い印象だった。
バリアングル液晶モニタはサーキット撮影ではそれほど必要性を感じないが、ローアングルで風景、子供、動物などを撮ったり、少人数の集合写真をセルフタイマーで撮るときなどは極めて便利だ。EOS 90Dはバリアングル液晶モニタを搭載しているため、液晶モニタ左側のボタンが一掃されている。
再生ボタンや消去ボタンは背面モニタの右側へ移動。クリエイティブフォト(ピクチャースタイルなど)のボタンや拡大/縮小(虫メガネ)ボタンはなくなっている。ピクチャースタイルは頻繁に変えないので、メニューの中に取り込まれても支障はなかったが、拡大/縮小ボタンは設定によりボタン一発でAFポイントを等倍表示でき、撮影直後の確認用に使用頻度が高かったので使いにくい印象を持った。一連の操作で電子ダイヤルで拡大、縮小するクセが抜けず、何度も操作ミスをした。
人間はすぐに慣れるものだ。3週間EOS 90Dを使用し、EOS 7D Mark IIに戻ると、逆にEOS 90Dの操作を指が覚えてしまって、操作ミスをすることがあった。結局は慣れることが重要なのだろう。
新機能「流し撮り」モード
EOS 90Dは「ポートレート」「キッズ」「手持ち夜景」などのスペシャルシーンモードに「流し撮り」モードが追加された。取扱説明書から抜粋すると、「対応レンズで撮影を行なったとき手ブレ補正機能、および被写体のブレに対する補正機能が作動する」「対応していないレンズで撮影すると、被写体のブレに対する補正は行なわれないが、[流し効果]の設定に応じたシャッタースピードの自動調整が行なわれる」とのこと。
対応レンズはEF85mm F1.4L IS USM、EF24-105mm F4L IS II USM、EF70-200mm F4L IS II USM、EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USMとなっている。
設定画面を開くと「流し撮り」モードの設定で選択できるのは[流し効果]の大・中・小。AF方式は「1点AF」「ゾーンAF」。露出補正は可能で、連写は連続撮影の約3コマ/秒が最高で10コマ/秒は設定できない。
説明を読んだだけではよく分からないので、実際に撮ってみた。まずはWECでヘアピンからダンロップへ向かう300R。超高速コーナーだ。ここで[流し効果]を小、中、大と切り替えてシャッター速度を確認してみた。
小に設定するとシャッター速度は1/400~1/800秒。中は1/200~1/400秒、大は1/125~1/200秒。各設定でシャッター速度に幅があるのは、マシンの車速によるもので、LMP1など速いマシンはシャッター速度が高め、GTクラスなど遅いマシンはシャッター速度が低めとなっていた。使用したレンズは対応レンズの1つ、EF24-105mm F4L IS II USMだ。流れ具合は実際の写真で見ていただこう。手ぶれ補正や被写体ブレ補正は効果があるのかないのか撮っただけではよく分からなかった。
F1日本グランプリは土曜日が中止となったため、撮影スケジュールが切迫しテスト撮影をする時間はなかった。ところがデジタルカメラマガジンの編集部の人がヘアピンで「流し撮り」モードを試していたので、その写真を見せてもらった。
ヘアピン進入時はシャッター速度が1/30秒、スイングが速くなるクリッピングポイント付近は1/60秒、立ち上がりは1/40秒となっていた。流し撮りのスイング中、常にレンズを振る速度をカメラが検出し、シャッター速度を可変することでブレ量(スピード感)を一定にしているようだ。技術的にはとても興味深い。
ちなみに筆者が自分で撮った写真では、スイング中の変化に気付かなかった。例えば300Rで撮影する場合、ヘアピンから向かってくるマシンは写し止めるかスローシャッター、ダンロップへ走り去るマシンは車列を写し止めるなど、目的を分けて撮るため、進入から立ち上がりを同じ設定で振り抜くことがないためだ。
流し撮りで重要なシャッター速度は慣れている人は「ここでは1/125秒で撮ろう」などと決められるが、普段は流し撮りをしない人は設定に迷うだろう。そのような場合、スペシャルシーンモードの「流し撮り」モードは、流し撮り効果の大、中、小に応じてカメラがシャッター速度を選んでくれるのでアシスト機能として役立ちそうだ。
MotoGPでも「流し撮り」モードで撮影をしたので、作例を掲載しておこう。最初の2枚はS字で撮影しているので車速は速め。非対応レンズのEF300mm f/2.8L IS II USMで撮っているのでシャッター速度の自動設定のみ。3枚目はヘアピンで車速は遅め。対応レンズのEF24-105mm f/4L IS II USMで撮影している。いずれも流し効果は大に設定してある。
バッテリ、メモリカードスロット、Bluetoothなど
最後はこまごまとした気になる点についてお伝えしよう。まずはバッテリ。
EOS 20Dから7Dまではバッテリの持ちがよく、1日の撮影ならバッテリ交換不要で数千枚の撮影ができた。EOS 7D Mark IIになって、ガクッと撮影可能枚数が減少。長時間の撮影では予備バッテリを用意するようになった。
スペックを見ると、EOS 7D Mark IIの670枚(ファインダー撮影・常温)に対しEOS 90Dは1,860枚と2.8倍も撮影ができる。実際にサーキットの撮影ではEOS 7D Mark IIでも3000~4000枚は撮れるので、EOS 90Dは1万枚近く撮れそうだ。1日の撮影は楽勝、もしかするとEOS 90Dのバッテリは3日間充電なしで撮れそうなほど驚異的だった。
筆者が普段使用しているEOS 7D Mark IIはCFカードとSDカードのデュアルスロットに対応している。デュアルスロットの使い道は、同じ写真を2つに書き込みバックアップとする、1つにJPEG、もう1つにRAWを書き込む、などがあるが、筆者は2台のカメラの1台はCFカード、もう1台はSDカードとしている。運用としてはメディアセンターに戻ってパソコンに写真を取り込む際、カードリーダーにCFカードとSDカードを挿し、同時に取り込みをする。例えばCFの転送時間が4分、SDが6分なら合計10分ほど転送にかかる感じだ。
筆者には、このデュアルスロットの10分が便利だ。その間にトイレに行ったり、最終セッションならコンタクトレンズを外してメガネに替えたり、夏場は着替えたりする時間となる。
EOS 90Dはシングルスロット。2台のカメラで撮った写真の取り込みは、短時間で戻ってきて途中でカードを入れ替えなければならない。大したことはない話しだが、「デュアルスロットは便利だったんだ」と感じた瞬間だった。
似たようなことで、EOS 7D(ファームウェア更新後)からファイル名が変えられるようになったのも便利な機能だ。7Dは3台買ったので1号機は7D1_0001.JPG、2号機は7D2_0001.JPG、3号機は7D3_0001.JPGとしていた。EOS 7D Mark IIになって7D2(7Dまーく2)を使ってしまったことに気付き1号機は721_0001.JPG、2号機は722_0001.JPGとしている。ファイル名で、どのカメラボディで撮った写真か分かることはたまに便利と感じる。昔は気にならなかったが、IMG_0001.JPGにファイル名が固定されるのはやや残念な感じがした。
EOS 90Dでのモータースポーツ撮影
WEC、F1、MotoGPとEOS 90Dで撮影して、大きな不都合を感じることはなかった。EOS 7D Mark IIユーザーが乗り換えても充分撮影はできるだろう。では筆者が積極的にEOS 90Dに乗り換えるかと聞かれると悩ましいところ。連続撮影枚数に制限があるなど、サクサク感でEOS 7D Mark IIが優位なのは間違いない。連写した後の背面モニタに写真が表示される待ち時間も、数秒だがせっかちな筆者には気になる。
では、他人から「EOS 90Dを買おうと思うのですが?」と聞かれたら、即答で賛成だ。バリアングル液晶モニタ搭載、4K動画に対応、ライブビュー機能も進化、Bluetooth搭載で撮った写真はスマホ転送してすぐにSNSにアップが可能と総合的にはEOS 90Dの優位は明らか。EOS 90Dはサーキットの撮影も可能で、景色、人物、運動会などオールマイティな撮影で満足できるカメラだ。一眼レフで撮る写真の99%以上がモータースポーツという筆者はサクサク感を優先するが、いろいろな写真を撮る人はEOS 90Dを選択した方が幸せだろう。
サーキットの報道エリアでもミラーレスカメラをチラホラ見るようになった。まだまだスポーツ撮影では一眼レフが主流だが、テクノロジが進歩しEVFでスポーツ写真を撮る時代は必ず来るだろう。その日が近ければEOS 90Dは本当にAPS-C一眼レフカメラの最終形だ。「昔のカメラはミラーがパタパタ動いたよね」と言われるのは何年後だろうか。