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【F1日本GP 2019】山本尚貴選手、38号車 トロロッソ・ホンダマシンでFP1を走行。クビアト選手と約0.1秒差

「チームメイトと遜色ないタイムを出すことでチームに有益なデータをもたらしたことが合格点」

2019年10月11日~13日 開催

日本GPのFP1を走行する山本尚貴選手(38号車 トロロッソ・ホンダ)

 10月11日~13日の3日間にわたり、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で「2019 FIA F1世界選手権 シリーズ第17戦 日本グランプリレース」が開催されている。大型で猛烈とされる台風19号(ハギビス)の影響で10月12日のスケジュールはすべてキャンセルされ、サーキットはクローズとなることがすでに決定(別記事参照)しているが、10月11日は曇りの天候の中、フリー走行が行なわれた。

 特に午前中のフリー走行1(FP1)には、2014年の最終戦に小林可夢偉選手が参戦して以来の公式セッションを走る日本人ドライバーとなる山本尚貴選手(38号車 トロロッソ・ホンダ)が登場し、地元レースの日本グランプリで初めてのF1カーの走行を行なった。山本選手は、ホンダ系の日本人ドライバーの中で唯一スーパーライセンス(F1に乗るために必要な免許のようなもの。下位カテゴリーで基準の成績を満たす必要がある)の基準を満たしており、今回のF1フリー走行でのデビューにつながった。

 山本選手は合計で30周という誰よりも多い周回を確実に走り、チームメイトとなるダニール・クビアト選手と約0.1秒差という結果で17位につけた。

約0.1秒差でチームメイトと同じレベルのタイムをマークした山本選手。淡々とプログラムをこなす

淡々とプログラムをこなしていった山本尚貴選手(38号車 トロロッソ・ホンダ)

 10時から始まったフリー走行は、台風19号が当初の予想よりも東にずれていったこともあり、その影響はまだなく、曇りという天候で始まった。気温は25℃、路面温度30℃という暑くもなく、寒くもなくという好コンディションの中で行なわれることになり、山本選手のF1デビューを楽しみにしていたファンを喜ばせることになった。原稿執筆時点では鈴鹿サーキットから来場者数などの発表はないが、筆者の体感では例年の金曜日よりも観客数は多いように感じている。

 山本選手が乗り込んだのは、38号車のカーナンバーがつけられたトロロッソ・ホンダ。なお、カーナンバー38は山本選手が選んだ番号ではなく、トロロッソ側がプールしている番号で、仮に将来的に山本選手がF1にデビューすることがあった時につける番号というわけではなく、特にカーナンバーに山本選手が込めている意味はないということだ。

 その38号車に乗り込んだ山本選手は、まずインストレーションラップを行ない、その後ミディアムタイヤで2セット、ソフトタイヤで2セットの合計4回の走行を行なった。最初にミディアムタイヤで出て行った山本選手は、チームへの無線で「少しアンダーステアが出ていて、特にターン16、シケインでブレーキがロックする」と英語で説明したり、同じように「フロントのダウンフォースが足りない」など、エンジニアにフィードバックを行なった。その後、タイムを1分34秒050まで縮めたところでピットインし、タイヤをミディアムの2セット目に交換。1分33秒843にタイムアップした。この時点でソフトタイヤを履いたチームメイトに対して0.8秒差とまずまずのタイムだ。

 その後、ピットに入り15分ほどのブレイクに。チームは山本選手からのフィードバックを元にセッティングを少し変えたようで、タイヤをソフトに変えて出て行くと、チームに対しての無線で「前よりはよくなったけど、低速コーナーではまだ課題がある」とエンジニアに説明した。そのソフトタイヤに代えてからは1分32秒018と、この日のベストとなるタイムをマークした。チームメイトのダニール・クビアト選手はミディアムタイヤで1分31秒920のタイムを記録しており、タイヤの違いはあるがチームメイトの0.1秒落ちというタイムは、山本選手がこのトロロッソ・ホンダにテストでも乗ったことがないことを考えると充分賞賛に値する結果だと言える。

 そして残り10分でもう1セットのソフトタイヤに代えて出て行くが、この時はタイム更新ならずで、そのままチェッカーを受けてセッションは終了することになった。

チームメイトと遜色ないタイムを出すことでチームに有益なデータをもたらしたことが合格点

世界各国のメディアに質問攻めされる山本尚貴選手

 セッション終了後には、トロロッソのガレージ裏で山本選手の囲み会見が行なわれた。日本のローカルヒーローがFP1を走るということで、日本のメディアはもちろんのこと、海外のメディアからも注目されており、山本選手が登場すると瞬く間に記者の人垣ができた。以下、山本選手のコメントをほぼノーカットでお伝えする。

――実際ここ鈴鹿でF1に乗った心境は?

山本尚貴選手:今は終わった直後でこんなに記者の人が近くで会見するのが初めてなので、ちょっと圧倒されている(笑)。まず本当にF1をシミュレータしか経験していない中で、できるだけの準備はしてきたけど、自分の力と自分の準備が本当に充分なのか、本当に不安なところが正直いっぱいだったが、トロロッソチームの皆さんやホンダのサクラのメンバーも助けてくれたので、大きなミスもなく走ることができた。順位は残念ながら上の方ではなかったけども、ダニーと比べても負けてはしまったけど、いい結果は出せたのかなと。それは下準備と皆さんが助けてくれたお陰かなと考えている。F1カーを初めてドライブする最初の一歩を楽しむことができ、皆さんに感謝している。

――非常によい仕事だったし、よい結果だと思うが。

山本尚貴選手:正直に言って、レーシングドライバーとしての自分はこの順位に満足している訳ではない。いつでもトップを目指しているからだ。だけど、F1では性能が違う車両が走っており、結果を出すことは容易ではない。だが、ダニーとの差は小さく、それは自分にとって、チームにとってポジティブな点だと考えている。チームメイトと差が大きいと、データの意味がなくなってしまうからだ。0.1秒差は大きくなくて、自分のFP1のデータは今週末のチームに有意義なものになると思う。

ガレージから出てくる山本選手。その横でトロロッソチーム代表のフランツ・トスト氏がインタビューされていた

――作業はどういうことをしたのか?

山本尚貴選手:当然、自分の習熟を兼ねての走行が大半ではあったので、もちろん今週末レースを控えているチームなので、チームが用意しているプログラムに沿ってやった。僕はF1を本当に知らないので、F1で何ができるのかというと正直評価に値するには経験が少し足りていない。そこで、新しいエアロパーツなどのテストはダニーが担当し、僕はスタンダードな車両で走った。その結果、新しいエアロをつけて走ったダニーと、ベースセットで走っている僕との比較でどこが改善されているとか、見ることが一番の仕事だった。5秒も6秒も遅いドライバーのデータは参考にならないので。ドライバーとして0.1秒負けてしまったが、最終的に同じぐらいのタイムで走ることができたのは、僕のデータを少し有効に使えるのかなと思うので、そういう意味ではFP1自分の仕事はまずまず合格点をあげていいのかなと思っている。

――スーパーフォーミュラマシンとの一番大きな差は?

山本尚貴選手:一番大きな差はパワーでした。F1は950馬力~1000馬力で、スーパーフォーミュラは600馬力ぐらいだからだ。2番目はパワーウェイトレシオだ。スーパーフォーミュラは650kgだが、F1はもう100kg程度重い。このことは車両のバランスに大きな影響を与えている。いずれにせよ、初めてF1を運転できて本当にハッピーだよ。

――F1に乗って思っていたところと違う点は?

山本尚貴選手:尋常じゃないパワー、これを言葉にすることはできない。ロケットに乗ってるみたいで、ロケットには乗ったことはないけども(笑)。ジェットエンジンに乗ってるみたいで、こんなパワーでレースをやっているのだと思うと、改めてF1ドライバーに対する尊敬の念が湧いてきた。このマシンをイチから作り上げたトロロッソと、かなり苦労していたと思うのですが、ここまで戦えるパワーユニットを作って、初めて乗ったドライバーでも扱いやすいパワーユニットを用意してくれたホンダの努力を改めて感じました。本当に今まで憧れの舞台だったけれど、ものすごく身近に感じることができたし、もっともっとF1を知りたいなと感じました。

――今回の経験はどう活きていくか?

山本尚貴選手:もちろん、より速いマシンをコントロールする技術が芽生えたということは、スーパーフォーミュラやSUPER GT、F1以外のカテゴリーに乗ったとしても有効になると思うし、何よりも初めて乗るマシンに対してここまで努力をしてきたことは裏切らなかったと思う。改めて努力することの大切さを感じた。やはり日本のレースでもどのレースでも、常に努力することを忘れちゃいけないなと感じました。

――日本グランプリで、鈴鹿で日本人ドライバーがドライブすることをどう考えるか?

山本尚貴選手:僕の年齢を考えてもさまざまな意見があることを重々承知の上で、今回の挑戦をお願いした。本当は100人いたら、100人が祝福してくれるようなことが幸せなのかもしれないが、応援してくれる人はもちろんいいことを言ってくださるが、ネガティブなコメントもそれが自分の成長につながる。この日本で走ることによって、多くの人がFP1を見てくれたと思うし、これが海外のサーキットなら現地で見るのも大変だし、日本で走ることに大きな意味がある。

 今回、パドックにもスーパーフォーミュラを戦うライバルたちが来ていて、当然レーサーなんで僕がうまくやってることは面白くないかもしれないが、「山本がやれるなら自分もやれる」と少しでも思ってくれることができたとしたら、31歳の僕がここで乗ることの意味は大きいと思う。本当に多くのファンの皆さん、母国グランプリの、FP1だったけれど乗ることができ、そして各スタンドで旗を振ったり、手を振ったりしてくれていたのがインラップでは見ることができて感動の瞬間だった。まだまだ続くレース人生に向けてもっともっと努力したいなと思った。

――F1に向けて特別に準備したことはあるか?

山本尚貴選手:常に準備する姿勢は変えてないですし、覚えないといけないことが沢山あるのがF1なので、そこは大変だったけれど、これを難しいがクリアできたかどうかはチームだったり、ホンダだったり、レッドブルが評価することなので、僕が満足してもレーサーとしてはダメなので、いい評価をしてくだされば幸せ。大きなミスなく自分の仕事を着実に落ち着いてこなすことができて、沢山の人に助けてもらってFP1を走り切ることができたので、本当に今週末のトロロッソとこれからのトロロッソ、今週末に走るホンダパワーユニットを搭載した4台のクルマがいい結果を残せるように祈っている。

――来年や再来年にF1に昇格するチャンスはあるのか?

山本尚貴選手:FP1を終えたばかりの今の時点で言えることは、まずはチームとFP1についてよく話をする必要がある。その後、ホンダやさまざまな関係者と議論していく必要がある。

何重にも海外メディアに囲まれる山本選手。F1ドライバーに値する走りをFP1で見せたことで海外メディアからの注目度も急上昇だ