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ブリヂストン、パラトライアスロンの秦由加子選手の求めるグリップと耐久性を追求した「スポーツ義足用ゴムソール」

東京2020パラリンピックへの挑戦をサポート

2018年4月18日 開催

パラトライアスロンの秦由加子選手に新しいゴムソールを装着したスポーツ義足が贈呈

 ブリヂストンは4月18日、同社のタイヤ技術を応用して開発した新しいスポーツ義足用のゴムソールを発表した。2018年より新体制でスタートを切った自転車競技チーム「TEAM BRIDGESTONE Cycling」のパラアスリートに対する支援活動の一環として開発したもの。同チームに所属するパラトライアスロンの秦由加子選手に提供され、2020年の東京パラリンピック出場を目指す。

耐久性を高めて進化したゴムソール

ソールの変形を「見える化」して接地圧を分析

パラトライアスロンの秦由加子選手

 ブリヂストンのスポーツ義足用ゴムソールは、パラトライアスロンのスイム(750メートル)、ラン(5km)、バイク(20km)のうち、ランのパートで使用するものとして、2017年から秦選手に提供されてきた。今回の新たなゴムソールは、秦選手がこれまで約1年間使用してきたなかでのフィードバックと、同社がもつタイヤ技術や分析技術を組み合わせることにより、耐久性をさらに高める方向で進化させたものとなる。

ブリヂストンのパラアスリートに対する支援の取り組み

 パラトライアスロンでは、ランニングする際の路面状況が競技開催国によって異なるのはもちろん、走行中にはアスファルトだけでなく、より滑りやすい石畳などが出現することもある。大腿部から義足を装着する秦選手の場合、万が一路面で滑ったとしても関節で吸収できないことから、「滑るとすぐに転んでしまう。そうすると怖くて走れなくなる」ことが一番の課題だった。

「いろんな路面で安心して走りたい」という秦選手の要望を受け、同社は2017年にゴムソールを提供。開発初期の簡易的なものでも、走り出した瞬間に「うわ!なんですかこれ」と驚くほどのグリップ感があり、「安心して走ることができた」と秦選手。2017年10月と2018年2月に開催された「ITU パラトライアスロンワールドカップ」でのクラス優勝にも、そのゴムソールが貢献した。

最初のゴムソールを試したときの印象を語る秦選手

 その一方で、2017年後半からは「グリップはそのままで、3〜4カ月は使いたい」という秦選手の要望に応える、耐摩耗性能の向上にも着手した。秦選手によれば、2カ月余りでゴムソールの交換が必要になるほど摩耗するため、頻繁に義肢装具士に交換を依頼しなければならなかったという。また、ゴムソールの交換タイミングによっては、大会本番でベストな状態で使えるようにするのが難しい、という問題もあった。より長く使えるようになれば、そうした問題を軽減できる。

グリップは維持したまま、より長く使えるように、というのが秦選手の要望。ブリヂストンはタイヤ技術を応用してゴムソールの改善を進めた

 同社はこれらの問題を解決するため、秦選手のスポーツ義足がどのような環境で使用されているのか、練習環境の路面を実地調査。同社が4輪・2輪のタイヤ開発で培った計測分析、トレッドパターン設計および材料設計の技術を応用し、ゴムソールの接地面に加わる力を独自の装置で計測して「ゴムソールの変形を見える化」した。

 これによって、ランニング中のゴムソールには「トラックやバス(のタイヤ接地圧)並みの高い圧力がかかっている」ことや、「踏み込みから蹴り出しまで、後方から前方に向かって荷重が変化し、その圧力も一定ではない」ことなど、想像とは大きく異なる結果が得られたと同社デザイン企画部の糸井大太氏は語る。

株式会社ブリヂストン デザイン企画部 糸井大太氏
ランニング中のゴムソールの接地圧を分析。より効果的に地面に力を伝え、高い耐摩耗性能をもつデザインを狙った

 接地圧は高いものの、クルマのようなスピードは出ない点がゴムソールとタイヤの最大の違い、と同社のイノベーション本部長の迎宇宙氏。こうした違いを考慮に入れつつ、秦選手の走り方による「ゴムの特殊な使われ方」も踏まえて、ゴムソールの溝の間隔や大きさを後方から前方にかけて徐々に変化させ、つま先部分は溝をほとんどなくしたデザインに仕上げた。

株式会社ブリヂストン イノベーション本部長 迎宇宙氏

プーケットまで来て、帰りもゲートで待っていた

 2018年2〜3月には、秦選手がタイ・プーケットで1カ月間のトレーニング合宿に取り組んでいるところに、急きょ同社イノベーションマネジメント部の小平美帆氏が訪問する“サプライズ”もあった。現地に数日間滞在して練習環境や使用状況を把握するとともに、秦選手も交えて日本にいる開発陣と電話などでリアルタイムにコミュニケーションしながら開発に反映させてきたという。

株式会社ブリヂストン イノベーションマネジメント部 小平美帆氏。秦選手とのトークセッションが行なわれた

 発表会では秦選手と小平氏によるトークセッションも設けられた。秦選手は印象に残っている出来事として、そのタイでの合宿時のエピソードを披露。「(タイで練習中にゴムソールが)摩耗して練習できなくなることもありえる。だから現地に来てくれたら安心です、と冗談で言っていたら、本当に来た(笑)。私が帰国したときも空港のゲートで待っていた(笑)」とのことで、ブリヂストンのゴムソール開発にかける熱意を感じたという。

新しいゴムソールを装着したスポーツ義足

 小平氏は、「きっとタイはこういう路面なんだろうな、という経験的なもの(から推測できるところ)はあるんですけど、どういう場所でトレーニングしているのか、知らないのと知っているのとでは違う。それを理解して開発にフィードバックできたのはとても大きかった」とコメント。「私たちなりに技術、経験をゴムソールに込めていきたい。その先で秦さんが挑戦していく姿、進化していく姿を応援したい」とエールを送った。