レビュー

【タイヤレビュー】ブリヂストン「エコピア EX20」

転がり抵抗性能に加え、ウェットブレーキ性能とライフ性能を進化

“雨に強い低燃費タイヤ”として登場したブリヂストン「エコピア EX20」

 低燃費タイヤでまず大事なのは、転がり抵抗を低減することで燃費性能を高めること。そこにウェットブレーキ性能を高めることで、低燃費タイヤのグレーディング制度で少しでもよい値を叩き出すことが求められてきた。だが、そのすべてが当然の世界となり、最近では新たなる価値を追い求めて各社模索が続いているのが現状だ。

 ブリヂストンでは、そんな低燃費タイヤ「ECOPIA(エコピア)」の世界をさらに広げようとさまざまな方向性でのブランドを展開。快適性、静粛性、そして乗り心地をバランスさせた「REGNO(レグノ)」。低燃費タイヤのグレーディング制度で転がり抵抗「AAA」&ウェット性能「a」といずれもトップレベルの「エコピア EP001S」。EV(電気自動車)専用タイヤ「エコピア EV-01」。運転の快適性を追求した「エコピア PZシリーズ」。あらゆる販売店で購入可能な低燃費タイヤ「エコピア EX10 & Playz RV」と、スタンダード低燃費タイヤ「NEXTRY(ネクストリー)」。エコピアの商品名やロゴを付けたタイヤがこれだけ展開されているのだ。

エコピアの商品名やロゴのついた、ブリヂストンの低燃費タイヤ群

 2014年シーズンから新たに展開する「エコピア EX20シリーズ」は、エコピア EX10&Playz RVに代わるスタンダード低燃費タイヤ。転がり抵抗を低減することで燃費性能を向上させていることはもちろん、今回テーマにすることは“雨に強く、長持ちする”ことだ。

 その目標を達成するために投入されたのは、ウェット向上ポリマーの採用やシリカを増量したナノプロ・テックゴム。これによりゴムにしなやかさが増し、従来品よりも路面を捉えるようになったのだとか。このナノプロ・テックゴムとトレッドパターンの見直しを合わせることで、実接地面積は10%もアップしているという。

 また、最先端シミュレーション技術とタイヤ計測技術を組み合わせた最適タイヤ設計「ULTIMAT EYE」を駆使することで、最適なトレッドパターンや水平接地形状を確保。接地圧の集中を防ぐと同時に、ハードブレーキ時にフルに接地するようになった。

ウェットブレーキ力を向上させるメカニズム
接地形状の工夫
接地圧を均一化
接地面積も増やす
ウェット向上ポリマーなどを採用
シリカも増量
タイヤの踏面の挙動を可視化していく「ULTIMAT EYE」
ULTIMAT EYEで可視化することで性能向上を図る
結果、ウェットブレーキ性能を向上させた
ライフ向上も図る
摩耗寿命も延びている

 結果として、すべての基本となるセダン・クーペ用の「EX20」のウェットグリップは12%も向上。ウェットグリップ性能のグレーディングも、19サイズ中18サイズで「b」から「a」へと引き上げられた。実際にウェット制動テストを目の前で見たが、そのストッピングパワーはたしかなもの。従来品よりもおよそクルマ1台分短く止まる性能には目を見張るものがあった。

 水平接地形状の採用により接地圧の集中を緩和したことにより、耐偏摩耗性能にも向上がみられた。これが“長持ちする”ことにも効いており、新たなる価値へ繋がっていることも見逃せない。ライフは11%も向上したというから、お財布にも優しそう。確かなグリップと減りに強いという、相反する性能を見事に両立してみせたというわけだ。

 さらに、エコピアEX20シリーズでは車種別専用設計にも踏み切った。セダン・クーペ用のEX20が採用するパターンはあくまでベースとなり、これは操縦安定性の向上を狙ったバランスのよい設計となる。軽・コンパクトカー専用の「EX20C」はラグ溝(横方向の溝)を外側まで貫通させずショルダーブロックの剛性を高めることで、街中における据え切りに対応。偏摩耗の抑制を図っている。ミニバン専用となる「EX20RV」は特にイン側のブロック剛性を高める設計を施すことで、定員乗車時にも耐える作りとした。

すべての基本となるセダン・クーペ用の「EX20」。一見スポーツラジアルのように見えるほどのブロックパターンが並ぶ。これにより接地面積を増大させ、ウェットグリップを向上させている。また、タイヤの型のつなぎ目でゴムのパーティングラインが見えるが、従来よりも細かいピッチで入っている。より細分化された型を使って、タイヤの真円度を向上させているのだ
タイヤのパターン当てクイズのようになってしまうが、それぞれのパターンの比較。これが基本となるセダン・クーペ用の「EX20」。クルマはプリウス、サイズは195/65 R15
左と同サイズのネクストリー。細めのリブがEX20より1本多く並ぶ。接地面積は確かに小さそうだ
軽・コンパクトカー専用の「EX20C」。センターのリブデザインはEX20と同様だが、サイドのデザインが異なる。クルマはタント、サイズは155/65 R14
同じくタントに装着されていたネクストリー。ネクストリーは車種最適化ではなく、サイズによる最適化が行われている。195/65 R15のネクストリーと比べてセンターのリブが1本少なく、2本のリブの面積を大きくしている
ブリヂストン エコピア EX20C vs. ネクストリー タント(155/65 R14)。ウェットブレーキ比較。パイロン1本が1m間隔で並んでいる。EX20Cのほうが明らかに短い距離で止まっている
一番分かりやすいのが、ミニバン専用となる「EX20RV」。イン側のパターンが異なり、より大荷重に耐えるようになっている。クルマはセレナ、サイズは195/65 R15
同じくセレナに装着されていたネクストリー。ミニバン専用の工夫がされていないのが分かる。同じ型で大量生産できるため、EX20よりやや安価で販売されている
ブリヂストン エコピア EX20RV vs. ネクストリー セレナ(195/65 R15)。ウェットブレーキ比較。こちらも同じ速度でブレーキした際の比較映像。新製品なので当然だが、EX20RVのウェットブレーキ性能のよさが分かる

 今回はそんなエコピアEX20と、スタンダードクラスのネクストリーとを比較試乗することに。まずはネクストリーを装着したプリウスでテストコースを走り始めると、特別にクセを感じることなくソツなく走るところに感心。スタンダードタイヤというと、どこか物足りなさを感じるのが常だが、このタイヤにはそのような感覚が一切ないのだ。

 けれどもEX20に履き替えると、その感覚がコロッと変化してしまう。走り出しから何しろよく転がるのだ。まるでプラスチックの軸受けからフルベアリングに交換したRCカーのようにストレスなくスルスルと前へと進むのだ。グレーディングで見れば「A」対「AA」の差。それはきちんと肌で感じられるほどに心地いい。

ネクストリーを装着したプリウス。これはこれでソツなく走る
しかし、EX20を装着したプリウスに乗ると、その性能差は歴然
ミニバン用のEX20RVでは、シッカリ感を感じることができた

 そんな差をより感じたのはウェット路面における比較テストだった。ネクストリーも当然ながら走れないわけではないのだが、グリップ感、ライントレース性、そしてブレーキングまで、あらゆるシーンでEX20のほうが一枚上手な感覚。同じコーナーでコーナーリングスピードも比較してみたが、EX20のほうが遥かに速くそのコーナーを駆け抜けていることが一目瞭然だった。もちろん、ウェット&エコタイヤでコーナーリングスピードを語るなんぞはご法度だが、それほどまでにEX20には走りに余裕があるのだ。これはイザという時の緊急回避性能に確実な差が表れるに違いない。ウェットブレーキにおける1台分短く止まれる性能もそうだが、高いタイヤはそれだけ安全性が高まっていることは明らか。限界まで使い切らず街乗りをはじめとする一般的な使い方ならば減りについても伸びているに違いない。

ウェット路面における比較テストでは、ドライ以上の差を感じる結果に
走りに余裕があるEX20を装着したプリウス。スタンダード低燃費タイヤでも、ウェットブレーキ性能「a」のタイヤを購入できる時代になったのだ

 これだけ余裕ある走りを展開しつつ、確実なウェット性能を確保したEX20は、低燃費タイヤのベーシックモデルとしては十分すぎる魅力を感じることができた。これぞ新たなる価値を持った低燃費タイヤだと言える仕上がりだったのだ。

Photo:安田 剛

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。