レビュー

【タイヤレビュー】ダンロップ「エナセーブ EC203」

ロングライフ性能に加え、走りの性能も手に入れた低燃費タイヤ

低燃費タイヤ「エナセーブ EC203」で伊豆スカイラインなどを堪能しました

 低燃費タイヤの試乗会だというのに、集合場所として指定されたのは修善寺。主な試乗場所は伊豆スカイラインというワインディング路だというから首を傾げた。実はこのステージ、普段であればスポーツカーなどで試乗や撮影をする場所であり、エコカーや低燃費タイヤとは無縁といってもいい場所なのだ。

ダンロップ「エナセーブ EC203」の走りはよかったです

 キツネに抓まれた気分で新製品となるダンロップ(住友ゴム工業)の「エナセーブ EC203」装着車に乗ってみる。すると、乗り始めた瞬間から転がり出しは良好。旧製品となる「EC202」に比べると明らかに抵抗感なくスッと前に出ているのが分かる。EC202はゴロゴロとした感じとでも言えばご理解いただけるだろうか? ダンロップによれば、EC203の転がり抵抗はEC202に比べて12%低減。低燃費タイヤのグレーディングも「A」から「AA」へと昇格している。

 だが、感心したのはソコじゃない。走り始めれば低燃費タイヤとは思えぬ走りを展開。ステアリングの切り始めから確かな操舵感がある一方で、荷重をグッとかけていけば確実なグリップを発揮してくれるから面白い。それほどこのタイヤにはシッカリとした感覚がある。まるでスポーツタイヤである。だからこそ、わざわざ伊豆スカイラインを試乗コースに選んだのだろう。

シッカリとした感覚で“まるでスポーツタイヤ”と思わせるエナセーブ EC203

 まるでスポーツカーのように走ってみせたEC203は、摩耗肌についても良好。EC202はセンター付近が斜めに減っていたが、EC203はそんなところが見られなかった。

ダンロップの主力商品となるエナセーブ EC203
タイヤ幅によって4リブパターンと5リブパターンがある。写真は175以下のサイズに用いられる4リブパターン
こちらは185以上のサイズに用いられる5リブパターン。センターリブが加わる
実際の装着写真。これはマツダ「デミオ」のエナセーブ EC202装着車。サイズは175/65 R14となるため4リブパターン
同じくデミオに装着した、175/65 R14のエナセーブ EC203。4リブパターンだ。上の写真と比べてもらえれば、とくにサイドのリブなどがしっかりしたパターンになっているのが分かるだろう
エコカーの代表格であるトヨタ「プリウス」とEC202。サイズは日本の主力サイズとなった195/65 R15で、パターンは5リブ
こちらが195/65 R15のEC203を装着したプリウス。リブに横方向の溝が多く見られるEC202に対し、EC203は周方向にしっかりしたリブが描かれている。これにより見た目だけでなく走りのよさを生み出し、ライフ性能を向上させていると思われる

 結果として乗り心地についてはやや硬質だ。旧製品となるEC202は走り出しからずっとたわみを繰り返している印象だが、EC203は常にタイヤの形状を維持しながら走っているイメージ。路面からの入力も瞬間的にダンピングするタイプであり、乗り心地を硬く感じるところは否めない。これまでのヤワな乗り味に慣れてしまった人は、やや戸惑うかもしれない。

 一体なぜ新たなタイプの低燃費タイヤが誕生してきたのか? ここからはその裏側をお伝えすることにする。

 ダンロップの低燃費タイヤは、全国カー用品店上位2社における販売本数が4年連続第1位(日本能率協会総合研究所が1月28日に発表)という結果を残した。その中でも最も売れている製品がエナセーブ EC202になるという。これはあくまで限定的な条件下ではあるが、ユーザーの心を確実に掴んでいるという結果といっていいだろう。

 そんなEC202が遂にフルモデルチェンジを行うことに。後継モデルとなるエナセーブ EC203を作るにあたってまず行ったことは、ユーザーニーズをきちんと把握すること。ユーザーの心を掴むにはソコを調べねばということなのだろう。そこで導き出された結果は、第1に減りにくいこと、第2にブレーキ性能が優れていることだったという。

 そこでエナセーブ EC203が目指したコンセプトは、タイヤの原材料から化石資源使用量を減らすネイチャーセーブ。転がり抵抗を低減させ燃料消費を削減するエナジーセーブはそのままに、タイヤの寿命を延ばすロングライフ性能を重視することだ。その目標を達成するために考えられたことは、タイヤの発熱をいかに抑えるか。そしてパターン剛性やケース剛性を最適化することで、路面からの入力を一極集中せずに全体でそれを受け止めることである。

 まず発熱に対する答えは、ゴムが持っている本来の性能をフルに引き出すことだ。トレッド面には「新マルチ変性SBR」と呼ばれるコンパウンドを採用。ゴムの内部にひそんでいる変性基の位置や種類を最適化。配合されるシリカをまんべんなく配合する製法も盛り込むことで、熱の発生を抑制している。

 同様の考えはサイドウォール部のコンパウンドにも展開。「末端変性ポリマー」を盛り込んだところが新しい。これはポリマー末端にカーボンと結合しやすい変性基を導入することでポリマー末端にカーボンが結びつき、結果としてポリマーの動きを抑制することになる。

 これらの新たなコンパウンドによって、無駄な発熱を抑え、転がり抵抗が低減するばかりでなく、減りに対しても強くなるというメリットをもたらした。

無駄な発熱を抑えた低燃費性能に、タイヤの寿命を延ばすロングライフ性能を追加

 こうした発熱に関する考え方はタイヤの構造にも表れている。ケース剛性を高め、変形させないようにすることで、不要なエネルギー消費を抑制。ショルダー部からサイドウォール部の内面は断面が大きな円を描く真円プロファイルを採用することで発熱を抑え、低燃費性能を向上させている。

 また、パターン剛性についても大幅に進化。新旧を見比べるとよく分かるが、ひとつひとつのブロックをできるだけ大きく、さらに細かい溝も少なめにすることでパターン剛性を最適化。軽自動車やコンパクトカーなどの小さなサイズでも剛性バランスを発揮するよう、4リブ化(大きいサイズは5リブ)している。

 結果としてロングライフ性能は大幅に向上。5リブタイプは9%、4リブタイプは17%も耐摩耗性能が引き上げられたのだ。コンパウンドから剛性まで、妥協なく作り込んだ結果がそこにある。

ベストセラー商品「エナセーブ EC202」の後継となるだけに、EC203は開発に力が入っている。低燃費タイヤのグレーディングも「A」から「AA」へと向上
低燃費タイヤの基本スペックである転がり抵抗係数を12%低減
真円プロファイルを採用
トレッドパターンの剛性も最適化
サイドウォール部に新たなコンパウンドを使うことで不要な発熱を抑制
EC202とEC203の性能比較イメージ
タイヤサイズラインアップ
ダンロップがEC203で打ち出してきたのが“ロングライフ性能”。低燃費タイヤを購入するユーザーは燃費にシビアなだけに、コスト意識も高いとのこと。とくに4リブで性能改善が著しい

 さらに言えば冒頭に書いた走りを達成したこともまた、こうした高剛性化が活きたということなのだろう。もう低燃費タイヤだから走れないという時代は終わったのだ。

 低燃費タイヤの試乗会を伊豆スカイラインで行う……。これこそがダンロップの自信の表れだったわけだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。