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ブリヂストン、BMW i3に標準採用された次世代低燃費タイヤ「ologic(オロジック)」技術説明会

狭幅・大径+高内圧で“断トツの低燃費性能”を実現

技術説明会に展示されたオロジック(上2本)
2014年5月8日開催

 ブリヂストンは5月8日、BMW i3に標準採用された次世代低燃費タイヤ「ologic(オロジック)」の技術説明会を技術センター(東京都小平市)で開催した。これは、BMW i3の発売に伴い、改めてオロジックの技術を知ってもらおうというもの。オロジックのネーミングから、その要素技術について説明が行われた。

オロジックを標準装着するBMW i3

 オロジックは、2013年3月5日に「ラージ&ナローコンセプトタイヤ」(LNCタイヤ)としてジュネーブモーターショーで発表。同日、日本でも発表会が行われ、将来的なエコカーへの装着を目指すとしていた。オロジックという名前は、同年7月23日の工学院大学「ワールド・ソーラー・チャレンジ」参加車「プラクティス(驍勇)」号の装着タイヤとして初公開。同社の低燃費タイヤブランド「ECOPIA(エコピア)」のロゴが刻まれるとともに、「ologic(オロジック)」のシールが貼り付けられていた。

 BMW i3の標準装着タイヤとして登場したのは「ECOPIA EP500 ologic 155/70 R19」で、その後スタッドレスタイヤとして「BLIZZAK NV ologic(ブリザック エヌブイ オロジック)」(155/70 R19 84Q)を市販。ブリザック エヌブイ オロジックは、i3のリプレースタイヤという位置づけになる。

ECOPIA EP500 ologic 155/70 R19
トレッドパターン。非対称パターンとなっており、右がアウト側
サイドウォールには「ECOPIA」のロゴが刻まれる
大きなブロックパターンを持つため、接地面剛性の高そうな印象を受ける。パターンの角などは工夫されているため、剛性調整はされているのだろう
リプレースタイヤとして市販されたBLIZZAK NV ologic。スタッドレスタイヤとなる
トレッドパターン。こちらは回転方向指定パターンとなっている
スタッドレスタイヤに関する説明はなかったものの、後で確認したところ高内圧ため雪中剪断性能は高いとのこと。狭幅のため、周方向の排雪や排水性能は高いのか、ストレートグルーブが存在しない

 ブリヂストン タイヤ研究本部長 坂野真人氏は、狭幅・大径+高内圧のオロジックタイヤを「クルマ社会で要望される高内圧化」に対応したものと説明。高内圧にすることで、転がり抵抗値は低減されるほか、狭幅による空気抵抗の低減、スペースユーティリティの向上などのメリットがあると紹介した。

 消費財グローバルマーケティング戦略本部 消費財グローバル先行OE戦略ユニットリーダー 村沢圭氏はオロジックについて、「タイヤの寸法がまったく違うため、一般用交換用タイヤとして装着してもらうわけにはいかない。今後オロジックが世に広がっていくためには、BMW i3のように自動車メーカーと一緒に標準装着タイヤとして開発していく必要がある」と、その課題を語った。

タイヤ研究本部長 坂野真人氏
消費財グローバルマーケティング戦略本部 消費財グローバル先行OE戦略ユニットリーダー 村沢圭氏

 オロジックに関する企画の背景については、消費財グローバルマーケティング戦略本部 消費財グローバル先行OE戦略ユニット 佐伯夏樹氏から、技術的な側面については、タイヤ研究本部 操安研究ユニットリーダー 松本浩幸氏から説明が行われた。

 ブリヂストンは2050年に向けての環境長期目標を発表しており、低燃費タイヤの開発はCO2削減へ寄与している。オロジックは、低転がり抵抗係数(RRC)と車両の空気抵抗低減により、“断トツの低燃費性能”を実現することでCO2排出量削減に貢献。その名称も、タイヤの基本性能となった“eco”と、超低燃費を実現する技術(理論)“logic”に由来しており、佐伯氏は、自動車メーカーと共同開発をしていくことで適用車種の拡大を目指すとした。

消費財グローバルマーケティング戦略本部 消費財グローバル先行OE戦略ユニット 佐伯夏樹氏
ブリヂストンの長期ビジョン
CO2を減らす
オロジックについて
オロジックの狙いと構成
オロジックの名称について
BMW i3に標準装着
Tire Technology of the Yearを獲得
今後の展開計画

 松本氏は、オロジックのルーツはF1用タイヤ開発にあるという。F1用タイヤでは最小の接地面積で最大のグリップを発揮し、なおかつ広く均一な接地面を実現することが必要になる。また、現在タイヤ供給を行っている2輪のMoto GPではそもそも接地面積を広く取れない中で、最大のグリップを確保することが必要となる。これは、タイヤ接地面のエネルギー効率を追求することにほかならず、低燃費タイヤ開発と同様の要素を持つとする。

 オロジックが最小のエネルギーでグリップ力を追求したタイヤであることを説明した後、日本のJC08モードと欧州で使われているNEDC(New European Driving Cycle)モードの2つの燃費モードの構成要因を解説。従来の低燃費タイヤが転がり抵抗係数の低減だけだったのに対し、オロジックでは転がり抵抗係数の“大幅低減”と、空気抵抗の低減に取り組んだという。

 転がり抵抗係数の大幅低減には、従来同様コンパウンドの改善によるエネルギーロスの低減のほか、大径化による曲率緩和で変形量を抑える工夫がなされており、高内圧とすることの相乗効果もあるという。

タイヤ研究部 操安研究ユニットリーダー 松本浩幸氏
オロジックの開発はモータースポーツ用タイヤから始まっている
燃費モードの構成要素
オロジックの適用技術
転がり抵抗低減の考え方
空気圧による転がり抵抗低減
空気抵抗低減
ウェットグリップの両立を実現した
要素技術

 標準装着タイヤとしての採用の多いエコピア EP25(175/65 R15)を100とした場合、サイズによる効果で転がり抵抗係数が96%に、さらに内圧を高めたことで76%に低減。最適化技術を使うことで70%、つまり3割ほど低減している。EP25でも内圧を高めることで転がり抵抗係数は低減するが、より低減率の高い設計にしてあるとする。

 また、空気抵抗に関しては、タイヤ幅を205から155に狭くすることで3.7%低減。これは60km/hで走行した場合、転がり抵抗4.5%減に相当する値であるとのことだ。

 転がり抵抗と相反する要素として挙げられるウェットグリップ性能に関しては、幅が狭くなっていることで基本的な排水性能を向上。さらに接地面の剛性の最適化や専用トレッドゴムによって、旋回性能で5%、制動性能で8%の性能向上を実現している。

 タイヤの重さに関しても、大径+高内圧となることで基本的な横剛性が向上。高内圧に対応するコンパウンド開発は必要だったものの、構造的には余裕のある開発だったという。とくに横剛性については1.5倍ほどあり、タイヤがゆがみにくいため、接地面形状も安定。結果、操縦安定性のよさにつながっているという。

 BMW i3への標準装着にあたっては、ブリヂストンが開発したタイヤ踏面挙動の可視化技術「アルティメット アイ」によって接地面の挙動を解析。従来のエコパターンではなく、新たなオロジック専用パターンを作ることで旋回グリップを20%向上させた。

 転がり抵抗が低下し、ウェットグリップが向上するオロジックだが、その難点として挙げられたのは、従来のタイヤとあまりに幅と径の比が異なること。そのため、従来のクルマに装着した場合、物理的には取り付けることができるものの、ステアリングを切ることができないなどとなってしまう。高内圧であることも、単純交換では乗り心地の悪化につながるため、サスペンションから専用セッティングとしなければならない。そのため、実際はプラットフォームから新規に開発するクルマでなければ装着には向かず、自動車メーカーと一体になった開発が必要であるとのことだ。

 そのほか、難点というほどではないが、オロジックは狭幅・大径のため、横から見るとそこそこかっこよいが、後ろから見ると頼りない感じを受けるとのこと。これは、今後クルマユーザーのタイヤに対する認識が変わっていくことを楽しみにしたいと技術解説を結んだ。

ウェットグリップ確保のまとめ
さまざまな車両への装着も実験
i3標準装着へ向けた開発

 オロジックの技術説明会では、アルティメット アイの施設公開も行われたが、それに関しては別記事にてお届けする。

(編集部:谷川 潔)