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ブリヂストン、次世代低燃費タイヤ「ologic(オロジック)」試乗会
BMW i3に標準採用された狭幅・大径・高内圧のタイヤ技術を、より多くのクルマに
(2014/10/27 17:42)
ブリヂストンはBMW i3に標準採用された次世代低燃費タイヤ「ologic(オロジック)」の試乗会を、栃木県那須塩原市にある同社のタイヤ性能試験・評価コースであるブリヂストンプルービンググラウンドで開催した。この試乗会では、日産自動車のEV(電気自動車)「リーフ」を使用して、試作オロジックタイヤ装着車と通常のタイヤ装着車の乗り比べなども行われた。
オロジックはブリヂストンが圧倒的な低燃費の実現を目標として作り上げたタイヤで、転がり抵抗を思い切り引き下げるために、従来のタイヤから大きくコンセプトを変更しているのが特徴となる。タイヤの転がり抵抗は係数として表現され、RRC(Rolling Resistance Coefficient)という値で表される。このRRCに垂直荷重を掛け合わせると実際の転がり抵抗値となる。タイヤ単体ではこのRRCを引き下げていくことがクルマの燃費改善につながり、現在の1つの開発目標となっている。
オロジックは、RRCを引き下げるために大径タイヤとし、同時に高内圧化。タイヤの幅を狭めることで、空気抵抗の低減効果(空気抵抗値は空気抵抗係数×前面投影面積なので、タイヤの幅が狭くなると前面投影面積が小さくなって空気抵抗値が下がる)もあるという。
ブリヂストン タイヤ研究本部 操安研究ユニット フェロー 桑山勲氏によると、基準となる175/65 R15の低燃費タイヤから高内圧化することで、14%ほどRRCを低減。155/55 R19としたサイズ効果によってさらに10%ほど低減し、それらを最適化することでさらに6%ほど改善。基準となる175/65 R15の低燃費タイヤを100とした場合、約3割低減され、70ほどのRRCになっている。このときの内圧は320kPaで、標準の230kPaより90kPaほど高内圧化されている。
ブリヂストンは、このオロジック専用のトレッドパターンを開発。オロジックは大径タイヤとなっているため、路面との接地長が長く、従来のECOPIA(エコピア)などに用いたエコパターンより各ブロックが大きくしっかりしたものになっている。狭幅であることを除けば、大荷重に耐えるべく設計されたスポーツタイヤに近い印象がある。
長い接地長をもち、接地面積も大きくなることから、旋回グリップ力は基準タイヤから20%向上、ウェットグリップも8%向上しているという。また、ハンドリングに関しても、定常操舵特性が向上。ステアリングを切ったら切った分だけ横Gが発生し、汎用サイズのタイヤより線形域(単純比例関係にある領域。いわゆるリニアな領域)が広いという。
桑山氏によると、このオロジックの開発で苦労したのはホイールだという。大径、しかも狭幅ということでホイールが存在せず、ブリヂストンで鍛造品を特注している。そのため、ホイールを作るだけで約2000万円の費用が発生したとのことだ。
また、オロジックをテストするためのテスト車両選びにも苦労したという。大径、狭幅のため、そもそもホイールハウスに収まる車両がなく、収まったとしてもホイールハウスの形状によっては、ステアリングが切れないという。その点リーフはホイールハウスが広く、オロジックを装着しても問題なく走行できるため、今回のテスト車両に選ばれた。
オロジックを装着したリーフ
今回リーフで試乗したコースは、ブリヂストンプルービンググラウンドのドライハンドリング路。始めに標準タイヤを装着したリーフに試乗し、次にオロジックを装着したリーフに試乗した。但し、このリーフに装着されていたオロジックはi3と同様のオロジックコンセプトで作られているが、よりオロジックコンセプトを追求した試作品になっている。
i3に装着されているタイヤは、ピュアEVタイプでは前後155/70 R19で、i3レンジエクステンダーでは後輪のみ175/60 R19というサイズになっている。指定空気圧は前230kPa、後280kPaで、本来のオロジックコンセプトよりも低い値。これは、300kPa以上の高い空気圧による乗り心地悪化や、高い空気圧に対応したサスペンション開発を回避したためかもしれない。ブリヂストンがBMW側にオロジックタイヤを提案したタイミングが、i3の開発スケジュールとうまくあわなかったためというのが最もありそうなシナリオだ。
話をリーフに戻すと、このリーフが履いているオロジックタイヤは165/60 R19サイズ。空気圧は前後320kPa(リーフの標準は250kPa)となっており、オロジックタイヤが本来目指している値になっている。トレッドパターンもi3装着タイヤと異なるもので試作品。コンパウンドは、ドライ用と雨を重視したものとがあるとのことだが、今回はドライ用のものが装着されている。もちろん、ここでいうドライとかウェットは、そのシチュエーション専用というより、コンパウンドチューニングの範囲になる。また、タイヤ外径がリーフ標準品と若干異なることから車高も微妙にアップ。車軸位置は目で見て異なるのが分かる感じだ。
標準タイヤ装着のリーフでドライハンドリング路を走行後、オロジックタイヤ装着のリーフに乗り換えてすぐに気がつくのはタイヤのしっかり感が高いことだ。アクセルを踏んだ際の車体の蹴り出し感もよく、右に左にコーナリングしてもタイヤ幅が狭い故の不安感はない。標準タイヤ装着のリーフよりも剛性感があり、ステアリングを切った際のコーナリングフォースも鋭く立ち上がる。かといって単に硬いタイヤに仕上がっているのではなく、サイドウォールが長いことからサスペンション性能も高く、乗り心地面での悪化はわずか。スポーツタイヤを装着した感触に近い。重心高が高くなるため、コーナリング時の傾きを強めに感じたが、思ったよりも普通のタイヤだった。
なお、リーフは2012年のマイナーチェンジ前と後でクルマの性格ががらりと変わっているが、試乗車に使われていたのはマイナーチェンジ後のリーフ。いわゆる軽量タイプのリーフで、初期型のような重厚感のあるものではない。その運動特性からも標準装着タイヤとオロジックタイヤとの差が小さかったのだと思われる。
曇りのドライ路面で試乗を始めたが、オロジックタイヤで走る頃には雨が強く降り出しウェット路面に。このウェット路面でもしっかりしたグリップ力を感じることができた。
オロジックタイヤは見て分かるように、サイドウォールが半径方向に長いタイヤになる。このようにサイドウォールが長いタイヤは乗り心地面で有利になるが、コーナリング時にはたわみやすく不利に働くのが基本的な特性だ。ドライ路面であえてオーバースピード気味にコーナリングしてみたが、その際の滑り出しに小刻みなジャダーを感じた。唐突にタイヤのグリップが失われることはないので怖さを感じるものではないが、できればスムーズにタイヤが流れていってほしいところだ。これについてはブリヂストンも認識しており、今後の開発過程で何らかの対策が打たれていくのだろう。
桑山氏は、標準タイヤとオロジックタイヤとでは、コーナリング時の力の働きが異なるという。ステアリングを切った際に、標準タイヤはトレッドパターンと内部のゴムの間にあるスチールベルトが変形しながら力を出していくのだが、オロジックタイヤは非常に高内圧であるためスチールベルトの張力が強く、しっかりタイヤに角度がついてコーナリングフォースが立ち上がるという。
ホイールを同じ角度で切った場合でも、タイヤのトレッドパターンとスチールベルトの違いがあり、より大きなコーナリングフォースが発生する。これはタイヤの接地長があることも影響しており、横にずれていく際も有利に働く。タイヤのサイドウォールが長いので路面からの力をいなしやすく、とくに轍路などでのロバスト性が高くなっているとのことだ。
リーフの標準タイヤであるエコピア EP150は、ベストセラーの標準装着低燃費タイヤで、多くのコンパクトカーに採用されている。このタイヤを単体で持ったことがあるが、サイドウォールが非常に薄く作られており、タイヤ単体を軽くすることでの省燃費性も狙っているようだ。「オロジックタイヤも同様なのか?」と桑山氏に質問してみたところ、タイヤはEP150よりも軽く作ってあるがサイドウォールの剛性はEP150より高いとのこと。ただしこのタイヤの軽さはホイール径が大きいこともあってホイールの重さで相殺され、トータルではあまり変わらなくなっているとのことだ。
オロジックタイヤのポイントは、これまでタイヤの幅を広げることで確保してきたグリップ力を大径化することで長さ方向で確保していることにある。また、高内圧化することで転がり抵抗を低減し、高内圧化によって確保した剛性で低偏平率化を避け、タイヤとしてのサスペンション特性を確保している。高内圧に耐えるタイヤのため、硬い構造になっていると思われるが、165/60というサイドウォール高さがその硬さをあまり感じさせないものになっている。
今までの常識で考えると19インチタイヤなのにやけに細いオロジックタイヤだが、いつかは普通に街中で見られるものになるのかもしれない。いずれにしろ装着するクルマとの共同開発が必要なタイヤのため、本格的な普及にはもう少し時間がかかるかもしれない。
ブリヂストンプルービンググラウンドでは、オロジックタイヤ装着第1弾となるBMW i3 レンジエクステンダーの特設スラロームコース試乗も行われた。装着タイヤは前述のように前155/70 R19、後175/60 R19で空気圧は前230kPa、後280kPa。レンジエクステンダーユニットを後方に積むため、後輪接地圧の適正化が図られている。
やや速めの速度でスラロームを行ってもきちんとグリップしてくれ、幅の細いタイヤにありがちなグリップ力不足を感じることもなかった。当たり前だが、不安なく乗ることのできるクルマに仕上がっていた。あえて普通のクルマと異なると感じたのは、アクセルを踏み込んだ際の蹴り出し感のよさだ。アクセルを踏み込んだ際に、すぐに車速が立ち上がる。モーターの特性もあると思うが、タイヤがその特性をじゃますることなく、しっかりトルクに対応できているからだろう。
BMW i3は、BMWディーラーですでに販売されており、特別試乗イベントなども積極的に行われている。オロジックタイヤに興味のある方は、一度ディーラーや特別試乗イベントに参加してみるのをお勧めする。
●BMW i eDrive Experience
http://bmw-i.jp/Event/
ブリヂストンプルービンググラウンド
この試乗会ではブリヂストンプルービンググラウンドの説明も4輪市販用タイヤの試験を統括するブリヂストン 実車試験部 実車試験第3ユニットリーダー 小澤通夫氏から行われた。
那須のブリヂストンプルービンググラウンドは1977年に1期工事が完成。1989年に2期工事が完成し、総面積が約40万m2から約77万m2になった。1996年には冬用タイヤの開発・試験を行う北海道プルービンググラウンドも完成し、こちらの総面積は約237万m2になるという。ブリヂストンは国内においては、この2つのプルービンググラウンドで開発・試験を行っており、夏タイヤは那須が受け持っている。
ブリヂストンプルービンググラウンドの評価試験路は、最大50度のバンクを持つ高速周回路、ドライハンドリング路、ウェットハンドリング路、コーナリングハイドロプレーニング路などの、ドライ、ウェット路面のほか、特殊舗装が用意されている。特殊舗装は、国内外のさまざまな路面が用意されており、タイヤを多角的に評価しているという。
昨今の開発トピックとしては、2010年より導入された低燃費タイヤのラベリング制度があり、これによってタイヤの開発が加速しているのは読者もご存じのとおりだ。また、EVの登場に伴って試験車両にEVを導入している。タイヤの走行音に関する規制導入が国土交通省で検討されており、今後はその面での開発もブリヂストンプルービンググラウンドで強化されていくのだろう。