レビュー
ブリヂストン、POTENZA史上最速のストリートラジアル「RE-71R」説明&試乗会(前編)
対称パターン・対称形状採用し、“踏めるタイヤ”に
(2014/12/15 13:13)
ブリヂストンが2015年2月2日から発売するストリートラジアルタイヤ「POTENZA RE-71R」。ブリヂストンのスポーツタイヤブランドであるPOTENZA(ポテンザ)のフラグシップ製品であり、ストリートラジアルタイヤの性能を一段上に引き上げた「RE-71」に“R(レーシング)”が加わった製品名となっている。
そのRE-71Rの製品説明会&試乗会が筑波サーキット コース2000で開催された。本記事では、前編として製品説明会を主にお届けし、後編はモータージャーナリスト橋本洋平氏によるサーキット試乗記をお届けする。橋本洋平氏は、Car Watch誌上で連載している「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記をお読みの読者には説明が不要だが、日本屈指のドライビング能力を持つモータージャーナリストである。その橋本氏に“POTENZA史上最速”をうたうRE-71Rの最速具合を体感していただいている。まずは、前編の説明会編でその最速テクノロジーを確認していただきたい。
“半端なタイヤにしたくなかったのでRE-71R”とした
説明会の冒頭、挨拶を行ったのはブリヂストンタイヤジャパン 消費財マーケティング本部長 長島淳二氏。長島氏は、ブランドを振り返り、モータースポーツにかける技術を市販用タイヤに投入してきたのが“ポテンザ”だという。
RE-71をはじめ、RE-711、RE-01などがそれらのタイヤで、それらの最新タイヤがRE-11Aだった。このRE-11Aに関しては、スポーツ走行層の減少や街乗り層の増加によりコンセプトを「一般路からサーキットまで実感できる楽しさと速さの追求」と広く構えたものとしていたが、86やBRZの登場による国産スポーツカーの復権により、新商品コンセプトは「サーキットでのラップタイム短縮追求」と尖ったものになった。そのために求められたものは、圧倒的なDRY(ドライ)性能で、「サーキットのあらゆるシーンで発揮されるハイグリップ」「ドライバーの感性と一致するステアリングフィール」を製品特長としている。
発売は2015年2月からとなり、発売サイズは185/60R14 82H~275/35R19 96Wの全41サイズ。一般へのお披露目は2015年1月に開催される「東京オートサロン」のブリヂストンブースになる。現行のRE-11Aの発売が2011年、その前作であるRE-11が2008年となるので、7年ぶりの完全新作タイヤとなる。
タイヤに限らず製品の開発時は開発名称なり開発番号がつけられており、発売へ向けて名前が決まってくることが多い。そこで、どの時点で「RE-71R」という伝統を背負う名前になったのか長島氏に聞いてみたところ、当初は、RE-01系、RE-11系の後継製品ということで、「RE-21」という案もあったとのこと。ただ、それでは中途半端なものになる可能性があり、徹底的に突き詰め、性能でトップに立つためにも、あえて“RE-71”の名を冠した「RE-71R」という製品名にしたとのことだった。
タイヤ踏面挙動の計測・予測・可視化技術をフル活用
RE-71Rの概要については、ブリヂストン PSタイヤ開発第1部長 渡辺信幸氏から技術説明が行われた。製品開発目標の1つである、“圧倒的グリップ”の達成に向けて行ったのが、ゴムのμ(摩擦係数、ミュー)の引き上げと、パターン剛性・形状最適化の2つ。そのために用いられたのがタイヤ踏面挙動の計測・予測・可視化技術「ULTIMAT EYE(アルティメット アイ)」になる。
●最高速度400km/hでのタイヤ踏面挙動確認可能な「アルティメット アイ」施設公開
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140509_647501.html
アルティメット アイについては、上の記事を確認していただきたいが、簡単に書くとタイヤのトレッドパターン面で何が起きているか可視化する技術となる。これまではトレッドパターン面で何が起きているかは、テストドラムを回した際の平均的な値しか分からなかったが、テストドラムとタイヤの回転角を同期させた計測値を得ることで、周方向の線での計測から点での計測ができるようになった。
このアルティメット アイを使うことで、トレッドパターン面の粘着(グリップ)・滑り(グリップロス)領域を把握。新トレッドパターン、新コンパウンド、新プロファイル(タイヤ形状)によって性能向上を果たした。
新コンパウンドとしては、モータースポーツタイヤ開発で培った「ハイグリップポリマー」を採用。補強材の最適化も施すことで「路面に吸い付くような高いグリップ力を実現」したという。従来より柔らかいコンパウンドとなっており、より路面の凹凸に密着するようになっている。グリップが向上したため、タイヤライフは低下となるが、開発者の渡辺氏によるとタイヤのライフに一番影響するグリップロス領域が減るため、走り方によってはタイヤライフは同程度か従来以上になる可能性もあるという。
また、圧倒的なドライグリップ性能を求めたタイヤだが、ストリートラジアルタイヤである以上ウェット性能にも配慮。角度の異なるラグ溝を交互に配置した「セブングルーブ」、タイヤ中央部の2本のセンターリブなどで排水性を確保。コンパウンドも接地性の高いものとなっているので、ウェットグリップはRE-11Aより向上している。夏タイヤの場合、ラベリング制度の施行によって転がり抵抗性能およびウェットグリップ性能を表示するようなっており、RE-71Rは17サイズにおいて、転がり抵抗性能「C」、ウェットグリップ「b」を達成している。
非対称パターン・非対称形状から、対称パターン・対称形状へと進化したRE-71R
さまざまな技術が投入されたRE-71Rだが、前作RE-11/RE-11Aとの変更点で一番大きなものは、タイヤのトレッドパターンが非対称パターンから対称パターンへと、非対称形状から対称形状になっていること。回転方向指定はあるものの、これまでのブリヂストンの技術トレンドとは異なるタイヤとして登場した。
非対称パターンはイン側とアウト側のパターンを変更することで、直進時とコーナリング時の最適設計を図る技術。サスペンションのキャンバー角などによりタイヤは直進時とコーナリング時で路面に当たる圧力が異なってくる。直進時は主にイン側の圧力が高く、コーナリング時はアウト側の(左コーナーの時は右側タイヤのアウト側)圧力が高くなる。そのため、イン側のパターンは直進安定性の高いものに、アウト側のパターンは荷重対応性の高いものにすることで、直進安定性とコーナリング性能の両立が実現できるわけだ。
ブリヂストンは、この非対称パターンを積極的に新世代タイヤに採り入れており、プレミアムタイヤ「REGNO GR-XT」、低燃費タイヤ「ECOPIA PZ-X系」、スタッドレスタイヤ「BLIZZAK VRX」、そしてRE-11系など、いずれも非対称パターンとなっている。
今回のRE-71Rについても、開発段階では非対称パターンと対称パターンをテスト。開発ドライバーの山野哲也氏によると、いずれにも長所・短所があり、その結果対称パターンを選ぶことになったという。ブリヂストンのテストコースであるプルービンググラウンドを走り込んだ結果、非対称パターンは低速コーナーが速く、対称パターンは中・高速コーナーで速いという。
そもそも非対称パターンはコーナリングパフォーマンスを引き上げるものだが、なぜ非対称パターンは中・高速コーナーで遅くなるのだろう。山野氏によると、「たとえば左コーナーの場合、右側前輪のアウト側に高い荷重がかかりますが、ここでの非対称パターンの性能は高いものがあります。ただ、クルマは4輪で走っているものであり、コーナリング時には左側後輪も仕事をしています。このとき左側後輪はイン側のパターンが使われており、非対称パターンでは接地能力が低下しています。これが中・高速コーナーでのコーナリング能力の低下につながります」とのことだ。
とくに中・高速コーナーではタイヤのグリップが残っていないと、恐怖感が先立ち、高いスピードを維持してコーナリングができない。非対称パターンは、非対称であるが故にタイヤのグリップ感の変化も強く、高速コーナリングではそれがデメリットになるという。逆に低速コーナリングはメリットがあり、高い速度域での性能を求められない一般タイヤではメリットが活きてくるものと思われる。
対称パターンの採用により、イン側とアウト側でタイヤの形状を変える非対称形状も非採用となった。非対称形状は、イン側とアウト側のサイドウォール部の剛性を変えることで狙った特性を得るもので、RE-11系ではアウト側の剛性を高めることでコーナリング時のタイヤの倒れ込みを抑制、ECOPIAなどではイン側の剛性を高めることで、タイヤの直進性の向上と外乱入力の抑制を図っている。
RE-11系は外支えの非対称形状、ECOPIA系では内支えの非対称形状となっており狙っている方向性は違うものの、個人的には同様な印象を感じていた。それはタイヤの“いなし感”ともいうべきもので、タイヤ自体にしなやかさを感じてしまうもの。一般的にはよい方向で用いられる言葉だが、サーキットを攻めるようなタイヤにおいては、タイヤが反応してくれない(もしくは反応が遅れる)ため、コーナリングのきっかけが掴みにくいものだった。
たとえば、直線を高速で走りコーナリング直前でブレーキ、ブレーキ荷重によってタイヤの圧が高まり、次の瞬間返ってくる反力でコーナリングに持ち込もうとしても反力が返ってこないためコーナリングのきっかけが掴めない。縁石にチョンノリしてタイヤからの反力を使おうとしても、縁石をするりと乗り越えていってしまう性能をRE-11は持っていた。
コンフォートタイヤであれば美徳となる性能だが、タイヤを積極的に使ってタイムを出しに行きたいユーザーにとっては、“打っても響かない”タイヤになっていた。RE-71Rでは対称形状となったことにより、この辺りの特性もよりサーキット走行に向いたタイヤに変わっているだろう。
そのほか、渡辺氏によるとタイヤの摩擦円が大きくなり、摩擦円のピークがフラットになっていることも特長だという。摩擦円はタイヤのグリップ限界を示したもので、縦軸は前後方向の力、横軸は横方向の力(コーナリングフォース)取ったものだ。この摩擦円そのものの面積(グリップする範囲)がRE-11Aに比べて広くなっているのはもちろん、RE-71Rではブレーキ操作からアクセル操作に移行する部分がフラットになっている。これは限界域でのグリップ変化が小さいことを示しており、従来より“踏めるタイヤ”になっていることを示している。
山野選手の比較ドライブ結果も紹介されたが、筑波サーキット コース2000の第2ヘアピンではステアリング切れ角が減少し、最終コーナーでは最大Gが11.8%向上している。ラップタイムはR34 GT-Rでは最速・平均で1.5%短縮、FT-86では最速で1.4%、平均で1.0%短縮したとのことだ。
渡辺氏の技術説明を聞いている限り、RE-71Rは非常に素直に開発され、素直に性能向上が図られたタイヤのように思える。後編では、橋本洋平氏によるサーキット走行インプレッションをお届けするので、開発意図がどう現れているのか楽しみにしていただきたい。
なお、RE-71Rを特徴付ける7のような形をした「セブングルーブ」だが、「RE-71Rだから“セブングルーブ”なのか?」と聞いてみたところ、「たまたま」とのこと。7の文字が途切れ途切れに見えるのも、「剛性を確保するため、あのデザインになっている」とあくまで性能優先でデザインしたと語ってくれた。