レビュー
ブリヂストン、POTENZA史上最速のストリートラジアル「RE-71R」説明&試乗会(後編)
橋本洋平が筑波でタイムアタック。「86」で約1.4秒速い1分6秒736を記録
(2014/12/17 00:19)
筑波サーキット コース2000で開催されたPOTENZA(ポテンザ)史上最速のストリートラジアルという「RE-71R」。技術解説については前編をご覧いただくとして、後編ではCar Watch誌上で「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記を連載している橋本洋平氏によるサーキットインプレッションをお届けする。
2014年のシーズンを通して「86」で戦ってきた橋本氏は、RE-71Rでのサーキット走行についてどのような印象を持ったのだろう。
今から28年前の1986年。ブリヂストン「POTENZA RE71」は、日本のタイヤメーカーとして初めてポルシェに新車装着された。それもアノ959である。当時は運転免許も取得できないガキだった僕ではあるが、そのニュースだけは今でも頭の片隅に残っている。そういえばプラモデルに付属していたタイヤがRE71だったことにえらく感動した。それくらいポルシェに認められたタイヤは誇らしかった。きっとアラフォー以上のクルマ好きなら、この思い、分かっていただけますよね?
2015年2月2日、遂にその名を受け継ぐ情熱の塊のようなスポーツラジアルタイヤ「POTENZA RE-71R」が発進する。その詳細な内容は前編をご覧いただきたいが、僕にとって最も興味深いポイントは、非対称パターン・非対称形状に別れを告げ、対称パターン・対称形状となったことだった。
実は前身となるRE-11Aに対し、僕はどこか疑問に思うところがあったからだ。一般公道を走る上では適度な“いなし”があり、ワンダリングが少なく直進安定性に優れる一方で、いざサーキットへ出向きスポーツ走行をしようと思うと、インフォメーション性に乏しく、さらに応答性が優れていないポイントがあると見ていたからだ。また、ステルスパターンと呼ばれたギザギザの溝は、限界走行を続けた場合に偏摩耗しやすいところも気になっていた。
実は僕がGAZOO Racing 86/BRZ Raceで開幕当初に使っていたRE-11A 2.0~3.0は、それと同様のパターンを使いながらも、非対称形状をやめた上で構造的な剛性アップを図り、さらにソフトなコンパウンドを採用していた。おかげでインフォメーションも応答もかなり高まり、一定した走りを展開。その時、やはりサーキットまで想定するようなタイヤなら、非対称形状は適さないと確信した。パターンについては同様だったため、ステルスパターン外側がかなりのダメージを受けていた。
3ラップのタイムアタックから見えてきたもの
今回はそんなRE-11AとRE-71Rを比較走行する。ともに走行前は新品を準備し、ガチンコ勝負を行うことが許された。舞台となるのは筑波サーキット・コース2000。タイムアタックのメッカであるこの場所を選んでくるあたりは、ブリヂストンの自信がうかがえる。単純にここで何秒出るのか? そこを取り上げてほしいということだろう。
テスト車両はクスコが用意したトヨタ 86。ZERO Aと呼ばれる車高調整式サスペンションキットが組み込まれている。スプリングレートは前後5kg。車高ダウン量は前後共に30mm。ブレーキはエンドレス製のMX72をチョイス。いわゆるライトチューニング仕様というやつだ。それ以外はノーマルであり、LSDは純正トルセン式が採用されている。
まずはRE-11Aに乗る。許されたラップは計測3周のみ。よってコースインから全開で走る。そこでまず感じたことは、走り始めからグリップが安定していることだった。蹴り出した瞬間からすぐにグリップが得られること、これはまだまだ好印象だ。だが、前述した通りステアリングのニュートラル付近において、フィーリングの甘さが気になる。また、縦方向のグリップに対して、横方向のグリップが少ないようなバランスのわるさが目立った。コーナーへアプローチした瞬間にリアのグリップが失われる、そんな感覚なのだ。タイムを出すにはオーバーステアをいかに出さずに乗るか、そこがポイントとなる感じ。真っ直ぐ突っ込んで一気に向きを変えて真っ直ぐ立ち上がる、そんな走り方が適しているタイヤだ。ちなみにベストタイムは1周目に記録した1分8秒118だった。
そして本題のRE-71Rだ。先ほど試乗していたクスコの86がメカニックの手によって瞬時にタイヤ交換が済まされ、続けざまでのアタックとなる。条件としては不利なはずのRE-71Rだが、果たしてどうか? 先ほどと同様、コースインから全開で走り始める。ピットロードエンドの40km/h制限が終わった地点からフルスロットルだ。
すると、先ほどとは違い、リアタイヤはわずかに横滑りしながらコースインした。直後の1コーナーもややグリップ感に欠けている。温まりに関してはRE-11Aのほうが上か!? だが、そんなフィーリングはすぐに終わり、1ヘアピンへ突入した時にはシッカリとしたグリップ感が得られていた。ニュートラル付近は見事な反応を見せ、旋回中はパワステの制御が変更されたのかと思うくらい確実な剛性感がある。微操舵域から切り込み応答まで頼りがいあるフィーリングとグリップが際立つ。これはイケそうだ。また、縦と横のグリップバランスもよく、縦だの横だの意識しないでコーナーに突っ込んで行ける感覚がいい。
一番に違ったところはリアのグリップ感だった。低速ターンだろうが高速コーナーだろうが、いつまでも路面を掴んでくれる感覚に溢れている。だから安心してコーナーに突っ込めるのだ。これならビギナーだろうが、エキスパートだろうが、程よく汗をかけるはず。ヒヤリとした動きがあるRE-11Aに乗った後は、この安心感がかなり嬉しく感じるのだ。
結果として刻んだベストタイムは2周目に記録した1分6秒736。1周目はRE-11Aとあまりに違う感覚だったため、突っ込み過ぎて失敗。それでも1分6秒785。もしも1周目からベストな走りが出来ていれば、きっともう少しタイムアップできたと思う。
わずか2kmのコースでおよそ1.4秒のタイムアップ。これぞRE-71Rの実力だ。
とはいえ、何もタイムだけが素晴らしかったのではないところがRE-71Rの魅力だと感じる。ステアリングを切り始めた瞬間から誰もが恩恵を受けることができる剛性感。縦横のグリップ感に変化が少なく、誰でも扱いやすいであろうコントロール性。そして低速から高速まで一定したグリップを得られる安心感。ハイグリップラジアルに求められるすべてが凝縮された造り、これぞRE-71Rの魅力ではないだろうか。
どの領域も妥協しない造り込みはハンパではなかったと聞く。開発ドライバーの山野哲也さんは「新たな解析技術が盛り込まれてはいますが、その一方でいつも以上に人間によるトライ&エラーの繰り返しが行われて磨かれたタイヤなんです」と語っていた。今回はセンターグルーブの幅や縦溝の配置パターンを数多くテストし、非対称パターンについてもトライしたという。だが、低速ターンはよくても高速コーナーでリアグリップを失う現象があり、最終的に現在の対称パターン、対称形状に行き着いたらしい。
トレッドパターンで何が起きているかを計測、予測、可視化できるアルティメット アイが採用されようとも、最後はとことんまで開発陣が挑戦し思いをのせたRE-71R。その姿勢はかつてポルシェに採用してもらうために日夜トライを続けた世界に通じている。だからこそ伝説ともいえるRE-71の名を復活させたのだろう。
甦るRE-71R……。それは無敵の記号として世界に認められていくに違いない。