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トヨタ、手動化により約3秒で収納できる「助手席回転チルトシート車」説明会

狭いスペースでも短時間で乗降可能。ベース車同等の乗り心地を追及

2015年10月7日開催

電動リフトアップシートの悩みを改善した「助手席回転チルトシート車」

 トヨタ自動車は、「シエンタ」「ポルテ」「スぺイド」の福祉車両に設定され、12月下旬から発売される「助手席回転チルトシート車」を、「第42回 国際福祉機器展」(東京ビッグサイト:10月7日~9日)に出展した。

 今回、トヨタは「助手席回転チルトシート」の開発背景と現行リフトアップシートからの改善点に関する説明会を実施。開発を担当したトヨタ自動車 製品企画本部 主査の中川茂氏が出席して、福祉車両のコンセプトや開発の狙いを話した。

手動で操作する「助手席回転チルトシート」は、電動のリフトアップシートに比べて短時間でのシート収納が可能
トヨタ自動車 製品企画本部 主査 中川茂氏。「私はこの仕事しかないと思い6年前に福祉車両の企画に戻ってきた」と自己紹介

 トヨタが福祉車両に掲げたコンセプト「普通のクルマ化」に関して、中川氏は「少子高齢化が進み、医療も介護も在宅化することを国が政策として進めているが、在宅高齢者にありがちな問題として、閉じこもり、廃用症候群、寝たきりなどがある」と指摘。加えて「閉じこもりなどを防ぐための移動手段として、介護をする健常者が福祉車両を購入しても、残念なことに要介護となった方は日本人では一般的に5年程度で他界されている」と現状を話した。

 続けて、中川氏は「使いづらい福祉車両を、その後も使い続けるには不便で具合がわるいことから、福祉車両の購入をあきらめてしまう方もおられる。そこを改善して介護される方が他界されてしまった場合でも、その後も介護をされていた健常者が普通にクルマを使っていただけるようにするのが“普通のクルマ化”である」とその考えを示した。

ウェルキャブの歴史から社会的な問題、福祉車両に関する懸念などを解説したスライド

雨の日にも使える福祉車両にするための助手席回転チルトシート

 今回開発された「助手席回転チルトシート」は、シート自体を上下させずに、「シートチルト」によりシート先端を下げて足が地面につくようにされたもの。また、シートを低い位置に下げてから立ち上がる必要のあるリフトアップシートよりも腰が高い位置にあることで、足腰への負担も30%程度軽減されるのだという。

プレゼンテーションで、福祉車両に大切なことは健常者も日常的に使える「普通のクルマ化」であると強調した
従来からの電動チルトアップシート

 また、従来からある電動リフトアップシートは、シートを持ち上げて車室内に収納するまでに約40秒かかるが、今回開発された「助手席回転チルトシート」では手動で操作でき、収納するのに約3秒。足が不自由なお年寄りを車外に立たせたまま40秒待たせることを考えると、この差は大きい。さらにシンプルな手動タイプとしたことで、ベース車両との差額も抑えている。

 中川氏は「リフトアップシート車はドアを開いたところにシートが出てくるので、駐車場などでは隣の車両と110cmほど離れていないと乗り降りがしづらい。また、雨の日はクルマから降りた後にシートは濡れるし、シートが格納されるまでの間、立ったまま待っているしかなかったが、その点を改善するのが助手席回転チルトシートである」と解説した。

3秒程度で収納可能な助手席回転チルトシート。これなら雨の日でも濡れることは少なくて済む

健常者も使いやすい福祉車両を目指す「普通のクルマ化」

 さらに「助手席回転チルトシート」の開発で取り組んだこととして、中川氏は「長時間乗車の快適性改善」と「健常者の乗降性改善」を、現行型プリウスのリフトアップシートとの比較を例として挙げた。

 中川氏は「プリウスのベース車はシートの座面角が水平に対し17°であるが、リフトアップシート車は9°。このことにより腿下がシートから浮き、尻下にかかる体重で圧力がかかって長時間乗車時にはしびれやすくなる。この点もシンプルな構造の回転チルトシートなら対応が可能」と説明。

 加えて、「リフトアップシートでは、シート座面もプリウスのベース車に対して4.1cm高くせざるを得なかったが、回転チルトシートならわずか0.9cmの差。これならヘッドクリアランスも確保でき、健常者の乗降時にルーフに頭を打ち付けることもない」と解説した。

ベース車はシートの座面角が水平に対し17°、モーターなどを積載する従来のリフトアップシート車は9°。新開発の回転チルトシートはベース車同等の座面角が水平に対し17°を実現
モーターなどの複雑な機構を省くことにより座面の上昇を抑えた
ベース車同等の使い勝手を用意することで、介護に使わないシーンにおいても、普通のクルマのように利用することができる

介護を受ける側はもちろん、介護する側、介護の必要がなくなった健常者も使い続けられるクルマを目指した

 今回開発された「助手席回転チルトシート」は、「ノア」や「アルファード」などのシート座面が高い車両では、いくらシートをチルトさせても足が地面に届かないので、これらの車両については従来どおり電動のリフトアップシートの採用を続けるとのこと。

「助手席回転チルトシート」では、手動化により低コスト化を実現しているが、中川氏は「(福祉車両の)数が増えて量産効果が出れば価格は抑えられる。なので、数を増やすためには家庭で本当に使いやすいクルマにすることが大切」との考えを示し、「福祉車両が健常者に使いづらいものではなくなることで、親孝行をあきらめる方が減ることを願っている」とコメントした。

ブースではそのほか、スロープ車やデイサービス施設などでお馴染みの車両も展示されていた

(酒井 利)