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川崎汽船、次世代環境対応フラグシップ「DRIVE GREEN HIGHWAY」見学会
乗用車約7500台を積載できる世界最大級の自動車専用船
(2016/2/16 00:00)
- 2016年2月13日 開催
川崎汽船は2月13日、横浜港大さん橋(神奈川県横浜市中区)において、次世代環境対応フラグシップ「DRIVE GREEN HIGHWAY」のお披露目式および見学会を実施した。
お披露目式には主催者として川崎汽船 取締役会長 朝倉次郎氏、川崎汽船 代表取締役会長 専務執行役員 青木宏道氏、来賓として国土交通省 国土交通副大臣 土井亨氏、横浜市副市長 鈴木信也氏、一般財団法人日本海事協会 代表理事副会長 中村靖氏、DRIVE GREEN HIGHWAY船長 天澤健治氏らが出席した。
主催者として挨拶を行なった川崎汽船の朝倉氏は「港町横浜の大桟橋という晴れ舞台にて今回のイベントを開催できることを大変光栄に存じます」と前置き。同社グループについて総合海運会社として石炭などをバラ積みするドライバルク船、原油タンカー、LNG船、コンテナ船、自動車船、石油掘削船、貨客フェリーなど、現在約580隻運航しており、「本日、ご覧いただきますDRIVE GREEN HIGHWAYは全長が200m、総トン数は7万6000トン、積み荷は乗用車で約7500台を積載できる世界最大級の自動車専用船でございます。2月9日にジャパン マリンユナイテッド有明事業所にて竣工したばかりの、ピカピカの新造船でございます」と紹介した。その上で、安全な海上輸送サービスおよび積極的な環境保全の取り組みに全力を尽くしており、2015年3月には2050年までにCO2排出量の半減などを目標とするロードマップ“環境ビジョン2050”を策定。このDRIVE GREEN HIGHWAYは「最新の各種環境対応装置を搭載し、弊社の環境保全の取り組みを具体的なカタチにした、特別仕様の船」であり、「弊社が誇ります世界最先端の環境対応フラグシップ」であると強調した。「最新鋭の環境対応設備を結集したこの船は初荷として自動車に加え、日本製の新幹線をイギリス向けに輸送いたしますが、その航海におきまして従来型の船に対してCO2は25%から30%の削減、窒素酸化物につきましては50%以上、硫黄酸化物は90%から試運転ではほぼ100%削減できたという実績がございます。未来の自動車、未来の貨物を、未来の船が運ぶ。そんな想いで川崎汽船とジャパン マリンユナイテッド社はじめ関係者の皆様の英知を集約して作り上げたまさに世界最先端のエコシップでございます」と締めくくった。
続いて国土交通副大臣 土井氏が挨拶。「川崎汽船様が昨年3月に公表された“環境ビジョン2050”に基づき、世界最先端の環境技術によって本船を建造されたことは、我が国の海運会社の環境保護に対する積極的な取り組み姿勢や、我が国の海事クラスターの総合力と高い技術力を国内外に広く示す大変意義のあることだと考えております。また、今回のようなお披露目式は次世代の海事産業を担う子供達をはじめ多くの方が最新の船に間近で接し、海事産業や海について理解を深めることの出来る貴重な機会であると考えております」と、歓迎。国土交通省としても「本船に搭載されている複合低環境負荷システムの開発支援をしてきたところでありますが、引き続き予算や税制を含む各施策を総動員し我が国の海事クラスターの国際競争力の強化に取り組んでまいります」「自動車や鉄道車両といった信頼性や環境性能に優れた日本を代表する工業製品が、世界最先端のエコシップで運ばれることを想像いたしますと、これほど誇らしいことはございません」と、コメントした。
お披露目式の会場となった大桟橋を要する横浜市副市長 鈴木氏は「横浜市は“環境未来都市”ということで国から指定をいただき、さまざまな省エネ、温暖化対策をはじめ、これからの未来の成長へ向けたさまざま取り組みを進めておりますけれども、港についても省エネ、あるいはエコ等に配慮いたしました“エコポート”、また港のスマート化といった事を進めているところでございます」とし、同船が「質も含めて環境対策で同じ方向を向いている」と話した。また、「横浜から輸出されるさまざまな商品の中で、完成自動車が第1位を占めております」とし、「岸壁の整備や改良、インセンティブの整備や拡充を通して、今まで以上にご利用していただきやすい環境作りを積極的に進めてきたい」とコメントした。
横浜市副市長 鈴木氏からDRIVE GREEN HIGHWAY船長 天澤氏に初入港記念盾の贈呈、川崎汽船 常務執行役員 有坂俊一氏によるDRIVE GREEN HIGHWAYの説明が行なわれ、お披露目式は終了。その後、会場を岸壁へ移しテープカットおよび船内見学会が実施された。
DRIVE GREEN HIGHWAY
同船は2015年から2017年にかけて竣工予定の“7500台積み大型自動車運搬船”10隻のフラグシップとなるモデルで二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)の排出低減装置をはじめ、船内照明電力用の太陽光パネルなどを搭載しているのが特長だ。
主要目
船名:DRIVE GREEN HIGHWAY
船種:自動車運搬船
建造造船所:ジャパン マリンユナイテッド有明事業所
竣工日:2016年2月9日
積載代数:7500台(乗用車換算)
寸法:長さ200m、幅37.5m、高さ38.23m
総トン数:約7万6000t
積荷重量トン数:約2万t
主機出力:1万3000kW×102.6rpm
速さ:約20ノット(約37km/h)
推進装置:2サイクルディーゼル機関+プロペラ1基
発電装置:4サイクルディーゼル機関3台+太陽光発電パネル
最大乗員:31名
排出ガス低減のキモとなるのは「SOxスクラバー(大型排気ガス浄化装置)」と「NOx生成抑制装置付エンジン」の2つ。
SOxスクラバーはエンジンの排気ガスに水(海水または清水)を掛けることによってSOxを除去する装置。清水処理を行なった場合は、従来から利用されている硫黄分含有率3.5%のC重油使用時の排気ガスを、硫黄分含有率0.1%の低硫黄燃料使用時並みに浄化することが可能となる。現在、SOxは排出規制海域(ECA:Emission Control Area)をはじめとして規制が強化されつつあり、対応には通常、高価な低硫黄燃料を使用する必要があるが、この装置を使用すれば安価な従来燃料が使用できるメリットがある。装置は高さ12.5m、直径4m程度の円柱形で煙突下部に設置される。なお、洗浄水は苛性ソーダ(NaOH)によって中和処理を行ない排出、スラッジはISOタンクコンテナなどに貯蔵される。
NOx生成抑制装置付エンジンは、燃料油に水を添加する「水エマルジョン燃料装置」と、排気ガス循環装置いわゆる「EGR」を組み合わせたもので、NOxやCO2の排出量を大幅に低減する。
また、最大で一般家庭300軒分に相当する電力を発電する太陽光発電パネル(計912枚)を設置することで貨物スペースや居住区の照明をまかなっているほか、低摩擦船底塗料、高効率プロペラ、風圧抵抗低減デザイン、ポンプおよびファンのインバータ化などにより省エネ化を実現。実にSOxは90%以上、NOxは50%以上、CO2は25%以上と、大幅な削減率を達成している。
船体面では従来船が6000台積みだったのに対し、7500台積みと1500台分のキャパシティアップを実現している。全長は接岸するバースの制限などにより200mと変えることができず、海面高は名古屋港ブリッジの下を通過するために38m以下に抑える必要があるため、これも大型化が出来ない。全幅に関してもパナマ運河の通行制限があるため従来は32.2mとしていたが、同運河の拡張工事により37.5mまで広げることが可能になった。
船内の貨物デッキは1~12デッキ、最上部のガレージデッキと計13層に分かれており、総床面積は6万7000m2と東京ドーム(1万3000m2)のおよそ5つ分。このうち4,6、8の3デッキは積載物に応じて高さの変更が可能な「リフタブルカーデッキ」となっている。船尾のスターンランプから直接アクセスが可能なメインデッキ(5デッキ)に関しては、最大高5.8mを確保することが可能なほか、フロア強度が通常の1.5倍まで高められている。これにより鉄道車両や大型の建築車両などの積載を実現可能とするなど、汎用性が高められているという
6000台積みの従来船よりも船体が大型化しているが燃料消費量はほぼ変わらず、結果として積載車両1台あたりの燃料消費率が向上していることになる。
同船は横浜港を出航後、山口県の徳山下松港でイギリス向け高速鉄道を積み込み、東播磨港(兵庫県)、横浜、常陸那珂港(茨城県)、豊橋港(愛知県)、名古屋港(愛知県)を経由して3月4日に日本を出港。スエズ運河を通過して欧州へ向かいスペイン、イギリス、ベルギー、スエーデン、オランダと寄港し4月12日にイギリスに到着する予定。年間の航行距離はおおよそ10万マイル(年6回ヨーロッパ航海した場合)という。